Last Chapter

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ソルジャーに与えられた部屋の一つ。

そこは詰め込み状態の兵舎とは違って少しゆとりがあった。

窓は広く設計されていて、全開にすれば心地よい空気が流れ込む。

夜。

その沈んだ空気を吸い込み、星が散った空を眺めながらクラウドはふと漏らした。

「ザックス――――星が綺麗だね」

「ああ……」

部屋はザックスのもので、こうして時折その部屋で、熱を帯びた体を重ね合わせ、何もかもを忘れて一時の愛情に溺れる。

まだ熱の冷めない体を冷ますかのように、窓から流れ込んでくる空気は二人にそよいでいた。

事の終わりにそんなふうに窓の外を覗き、それきり顔をこちらに向けないクラウドを見ながら、ザックスは声をかける。

「なあ、クラウド」

「ん?」

「俺の事、好きか?」

その言葉に振り返ったクラウドは、躊躇いもなくにっこりと笑うと、

「好きだよ」

とだけ答えた。

その表情を見つめながら、ザックスは暫く黙り込んでいたが、そうした後にふと口の端を上げた。

本当に、口の端だけに笑みをたたえ……。

「そうか――――――安心した」

そう、ゆっくりと、呟く。

 

 

こんなふうに無意味のような日々が続く。

 

身体は不本意に熱く、

心は死んだように冷たく。

 

答えも出せず――――――――。

 

 

 

いつも通りにセフィロスの家へと真っ直ぐ足を運んだクラウドは、慣れた手つきでそのドアを開くと、「ただいま」と声を出しながらその空間に足を踏み入れた。

それはもう日課で、兵舎にはほぼ戻らないような生活が続いている。そうなってもうどれくらいが経ったかは良く覚えていない。

ただ、本当にそれが当然かのように板についていたというのは確かだった。

「セフィロス…?」

返事の無い部屋の中は既に暗い。その暗がりの中を明かりも付けずに進むと、奥の方に位置した寝室に目をやる。

そこにはもう既に寝に入っているセフィロスの姿があり、クラウドはそれを見ながら弱々しく笑いを浮かべるしかなかった。

いつからだったろうか。こうなってしまったのは。

同じ屋根の下で生活をするようになり、それはとても幸せなもののはずだった。それなのに、最近では様子が一変し、同じ空間にいても大した会話も無く、触れ合うことすらない。

ただ帰ってくる場所が同じというだけで、今では何の為に一緒にいるのかすら分からなくなっていた。

クラウドは適当に服を脱ぎ捨てると、セフィロスの眠るそのベットの中にそっと身を滑り込ませた。

そうして僅かなセフィロスの温もりを感じながらも、そっと考える。

例えば今こうして身をすり寄せている、身体。さっきまで他の人の温もりを存分に味わった身体で、今やセフィロスとは望めない愛情すらも深く受け入れた身体である。

今この瞬間にある温もりが、本当はいつでも欲しかった。

それでもそれは叶わなくて、寂しくて、だから裏切ったのだ。

最初は単なる一回きりの寂しさを埋める関係だった。それでもそれは尾を付けて続いている。

だから今もずっと、セフィロスを裏切り続けている――――――――。

そう思いながら、クラウドは目を閉じた。

閉じた瞼の中で思い起こされたのは、いつだったかのザックスの言葉だった。

 

 

 

段々と様子がおかしくなっていくセフィロスに、クラウドは戸惑いを隠せずにいた。

最初はあんなに優しく微笑んでくれて、幸せいっぱいというくらいの生活だったのに、何故かセフィロスはそんな生活から遠ざかるようにクラウドへの態度を変えていった。

身体を合わせることもなければ、抱きしめあうことすら無い。

それどころか話もしなくなった。

そう考えても変である。

そんな事に頭を悩ませていたクラウドにとって、かねてから優しく接してくれていたザックスは心の拠り所となった。

ザックスはクラウドには甘い部分があって、それはクラウドも知っていることである。勿論その理由に、ちゃんとした恋愛感情があることも知っていた。そういった気持ちはセフィロスと出会う前から知っていたが、けれどクラウドは結局、セフィロスの方を選んだ。

それはセフィロスに強い憧れを抱いていて、クラウドの気持ち自体がそう向いていたからである。

そういう状況になり、ザックスはクラウドに対しての態度を変えるかとも思っていたが、そうではなかった。

今までと変わらないふうに、クラウドに接してくれる。それは救いでもあった。

ただ、セフィロスに対しての感情だけはどこか歪んでしまったような部分があり、セフィロスの事になると時折、ザックスは言葉を吐き捨てるようにすることがあった。

「セフィロスが話さなくなったって?」

驚くというより怒ったようなふうに、クラウドの話を受けてザックスはそう言った。

「うん…。話さないどころか、目も合わそうとしないんだ…」

「ふーん…」

意気消沈するクラウドの前で、でも変だな、とザックスは一人呟く。それから、

「ちょっと前までは凄い惚れようだったのにな」

と続けた。

それは事実で、以前のセフィロスは本当に優しい姿しかクラウドに見せなかった。クラウドからセフィロスに近付いたのは事実だったけれど、それと分からないくらいに、静かながらも揺ぎ無い想いをぶつけてくれていたのだ。

「案外もう飽きたとか…な」

ふっと笑ってそう言うザックスに、クラウドは静かに反論する。

「セフィロスはそんな人じゃないよ」

「さあ、どうだか!」

吐き捨てるようにザックスはそう返すと、真面目な顔つきになってからクラウドの肩を掴んだ。そして、良く聞けよ、と言い聞かすように言葉を続ける。

「実際に今、お前にそんな顔をさせてるのは誰だ?お前を悲しませてるじゃないかよ。どんな理由で無視してるかは知らないけどな、“そんな人間”なんだよ!」

その言葉には熱がこもっていた。確かに今までずっとクラウドを見てきたザックスのこと、それに過剰な感情がこもらないはずはない。

だからやめとけって言ったんだ、そう零してザックスはクラウドの肩から手を離す。

「……」

クラウドは何も返せないままに、考え込んだ。

確かにザックスは“忠告”をしていた。セフィロスの元を選ぼうとするクラウドを引き止めて、言ったのだ。

“あんな奴、やめとけよ!”

元々セフィロスとザックスは面識があり、時折任務も一緒に遂行していたようである。クラウドよりかは遥かにセフィロスという人間を知っていたザックスは、仕事上でのセフィロスの怖さも良く理解していた。しかしその反面、その実とても優しさのある人間であることも熟知していたのだ。

それでも恋愛としてセフィロスという人間と付き合うには、寂しさが付きまとうことは何となく予測していた。

だからそれは、セフィロスを蔑ろにする意味ではなく、クラウドのためを思っての言葉だった。

しかし――――――クラウドの耳にそんな言葉が入るはずも無かったのである。

目前の憧れの人に、強く魅かれて。

そしてその相手が自分を受け入れてくれることが分かって。

そんな言葉よりも、セフィロスの想いの方が、ずっとずっと大きかったのだ。

思えば、あの時からこうなることは分かっていたのかもしれない。そんなふうに思い、クラウドは俯いた。

「なあ、クラウド」

そんなクラウドの様子を目にしながら、ザックスはゆっくり言葉を放つ。

それはとても、クラウドを惑わせる言葉だった。

「セフィロスはお前の想いを手にした途端コレで―――――でも俺はお前に背を向けられていてもずっと好きだった。分かるだろう?…俺は今だってお前が好きだ、クラウド」

クラウドは俯いていた顔をゆっくりザックスの方に向けたが、返答はできなかった。

言葉が、重すぎる。

ザックスの言葉は続いた。

「―――――なあ。お前はどっちが幸せだと思う?」

 

「愛をくれない愛する人との“未来”。友達としての“好き”しか持たなくても自分を愛してくれる人との“未来”―――――――どっちを、選ぶ?」

 

クラウドはその言葉に、何も返せないままにザックスを見つめていた。

 

 

 

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