蜘蛛の涙

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もし運命というものが本当に存在するなら、この輝きの行く末もまた、決まっていたのだろうか。

出逢った時から―――――別れなど覚悟している。

離れたくないと思う心のどこかで、多分いつもそれを感じているのだ。それでもまるでそれに抵抗するかのように言葉を交わす。数々の言葉を交わし、お互いを知らせ、そして最後に―――――。

ずっと共にいよう、そう、囁く。

それが可能かどうか、それすら心のどこかでは知っているはずなのに。

「ねえずっと一緒にいようね」

最早それは口癖みたいなものだった。

ずっとという言葉は実はとても難しいが、言葉として用いるにはあまりにも簡単である。その上とても感情を含むので、とても便利である。

「ああ」

この切りかえしも最早口癖だった。

本当にそう思っているか否かの問題ではなく、ただ気持ちに応えるための言葉。

「でもさ俺にはちょっと想像つかないな」

そんな言葉を言っておいて、クラウドはちょっと可笑しそうに笑った。

昼下がりの喫茶店。

涼しげな空気が流れる店内。

本当は外出などできないのに、小用だと言って外に出るセフィロスにくっ付いていくと、こういう事も可能になる。

会話はいつも他愛ないことだったが、少しでも未来の話を含むと、大概今のような会話が発生する。

珈琲カップの中の揺らめきを見つめながら、クラウドは自分の言葉の続きを嬉しそうに口にする。

「セフィロスがおじさんになって行くのって何か想像できない感じ。その内、おじいちゃんになったりするのかな…変なの」

「…そういう事か」

苦笑するようにセフィロスはそう切り返す。

「俺にも想像つかん」

「だよね」

「だがお前の未来は少し想像がつくな」

ふっと笑ってそう言ったセフィロスに、クラウドは驚いたような顔を見せる。その顔が可笑しくてセフィロスは更なる笑いを必死でかみ殺した。

「何だよ、笑うことないだろ」

「いや、すまん。つい」

少し拗ねたようにするクラウドは、それでも直ぐに表情を戻すと、今度は気になって仕方ないというふうに身を乗り出した。

「ねえ俺の未来ってどんなんだって思う?想像できるんだろ?」

やっぱり一緒にいるのかな、そんな事を口にして、クラウドはやはり嬉しそうだった。

けれど。

セフィロスは少し真顔に戻って、そのクラウドを見つめているだけだった。

もし―――――――どんな状況が訪れるとしても。

絶対に不可能な事がある、と思う。

それは…“共にいること”である。

お互いを一番の存在として側にいること、それは不可能なのだ。

勿論、生活の上でそれが不可能であるはずは無いし、悪いとも思わない。ただ、願いとしてそれは無理なのである。

側にいたい、ずっと側に―――――――そう思うのに、セフィロスの心はどこか違うものをも願っていた。お前が幸せならそれで良い、そんな奇麗事を言うつもりは無いが、できればクラウドには真っ当な道というのを歩んで欲しいと思ったのだ。此処でいう真っ当とは別に保証付きエリートコースなどというものではないし、失敗も勿論すべきと思う。

遠い未来…クラウドが独りきりになってしまわぬように、ただそう思うだけのこと。

ただそれだけの…ことだ。

「さあ…どうだろう」

結局ははぐらかすふうにそう言うと、セフィロスはその話題を打ち切るが如く立ち上がった。しかしクラウドは少し不満顔でそれを続けようとする。

「何だよ、教えてくれないのか?」

「良いだろう、別に」

ふっと笑って宥めてやる。

笑うことでシリアスは緩和できるものだ。一瞬笑えなくなるくらいの所まで考えてしまったものの、それすらこの一つの微笑みでかき消すことができる。

「ちぇっ」

何だかんだと言ってそのままその会話の続行を諦めたクラウドは、立ち上がったセフィロスに続いて己も立ち上がった。

そうして未来の話は途切れたのだった。

 

 

 

お前が孤独な未来を送らなければ、それで良い。

隣に自分が在ることは叶わぬから。

そう思っているのに、それは本当なのに、それでもその願い、希望すら口に出すのを躊躇われたのは何故だったろうか。

それは多分――――本当は側に在りたいと思っていたから。

 

その未来、孤独にならぬように

その側に在るのが自分であれば良いと―――――

そう、思っている。

 

けれど、相手を思う気持ちは

その側に在るだろう人を、他人であれと望んでいた。

その、葛藤。

 

 

 

重役会議の席。

昨今のミッション状況の説明をしろと言われセフィロスはその場に同席していた。

重役会議とはいっても、普段のそれとは違い、治安維持部門単独の会議である。昨今の治安体制やら何やらを話し合い、その考察や結果は、本の重役会議に提出され、社長、副社長以下各統括の間で吟味される。とはいえ、それは治安維持部門の統括がハイデッカーであることからも期待できないものではあったが。

だからこの席は大概気が重い。

更にはもっと気の重いことを押し付けられたりする。

例えばそれは会議後のちょっとした無駄話の間に。

「セフィロス。まさかお前、付属品など作っていないだろうな」

これはもうありきたりな無駄話の一つで、もう何度も聞いてきた言葉である。

付属品というのはいわゆる、恋人のことで。

「…俗な話をこの席でするつもりか」

呆れ果てた顔でそう言うと、そう聞いてきたハイデッカーは特有のガハハ笑いを飛ばした。

「俗?俗といえば俗だな。しかしお前の力がそういう付属品のせいで落ちるのはどうかと思うからな、これはいわば親切だ。心配してやってるんだ」

「いらぬ心配だ」

すっとそう答えたのに対しハイデッカーはつまらなさそうに顔をしかめた。

「お前は神羅の為に戦うんだ。そして俺の為にな。他の奴の名の下に動くことは許されん」

「……」

お前の無能さをそれほど暴露したいのか、そう言いたかったが苦笑する気すら失ってしまう。

「それは社長も然りだぞ」

「……」

二言目には権力の誇示をする。

呆れるしかない。

―――――――――けれど、それは事実である。

そういうふうにできている。そういうふうに位置づけされてきた。最早個人ではなくなっているのだ、この神羅が生活になってからは。特にセフィロスは物心付いた時からこの会社の一員だったのだ。そしてあの戦争がいけなかった。

あの戦争さえ無ければこの名が世界に轟くのも無かったろうに――――――。

しかし。

“戦争のニュースでセフィロスを知ったんだ。本当のセフィロスを”

「……」

―――――――――クラウドは言っていた。

確かにあの戦争での功績はメディアにより大きく取り上げられた。そして実際に多くの若者の憧れを集中させたのだ。

クラウドもまたその一人で……だからそれは出逢いの契機であることに間違いはない。

それを考えると一概に否定すらできなくて。

「お前には期待している」

最後にそう捨て台詞を吐いて、ガハハと笑ったハイデッカーを、セフィロスは何も言わず見つめていた。

あれが上司であるという事実と、それを囲うこの神羅と――――全て、間違っている。

そう思う心を常に隠しながら此処にいたが、それもそろそろ馬鹿らしいなと思う。けれどその次にクラウドの顔が浮かんだ。そして、先日の言葉が浮かぶ。

“ずっと一緒にいよう”

笑顔が浮かぶ。その笑顔の隣に誰か知らぬ人間の影が見える。

ずっと一緒に――――――この神羅にいながら?

これからも期待しているという、上司である人間の意志でしか行動を許さないという…この神羅にいながら、これからも一緒に?

―――――――無理だ。

「俺は、無理だ」

ボソリとそう呟くセフィロスの周りには、もう既に誰の姿も無かった。

 

 

 

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