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幸福の木 -----------------------------------------------------
俺は最近、幸福の木というやつを買った。 何だか簡素で小さな木なんだけど、お店の人の言う事にはこれをちゃんと育てると幸福になれるんだっていうんだ。 まさかそんな事あるわけないよな…とか思いつつ購入。 兵舎の俺の部屋に置くのもなんだから、俺は勝手にセフィロスの部屋にそれを置くことに決めたんだ。 セフィロスはそれに文句は言わなかったけど、さも不思議そうな顔をしてた。何だこれは、って顔に書いてあったから、俺は取り合えず「これで幸福になれるんだよ」と説明しておいたんだけど、「は?」って顔、された。 ……当然か…。 とにかく俺はその幸福の木を眺めるのが大好きだったんだ。 なんて言ったってセフィロスと一緒に眺められるんだ。 ちょっと細長い葉っぱはスマートでシャープで、この部屋にぴったりだったから。
「“幸福の木”…」 ムムム…そう唸りながらセフィロスは幸福の木を眺めている。 今日は少し時間があったから寄っただけですぐに帰ろうと思ってたのに、そのセフィロスの異様な姿に、俺は帰るに帰れない感じがしていた。 セフィロスは俺がいるっていうのに、幸福の木をじっと睨み付けながら唸ってる。しかも何だかブツブツ呟いている。 初めて見たからまだ微笑ましい感じもするけど、もし一人しかいない部屋の中でもコレと同じ事をしてたら……うっ、あんまり考えたくないな…。 まあ、良いか。 俺はちょっと様子を窺った後でセフィロスに話しかける。 「セフィロス…。あの、どうしたの?」 そんなに気に入ったんだろうか。いや、でもそんなふうには思えない。だってセフィロスはそんなふうにモノに拘ったりはしない方だから。それはもう何となく分かってる。 俺の問いに、セフィロスは背中を向けた状態のままで、 「幸福の木…意味深だ」 と、そんなことを言った。 「意味深?……あの、何が?」 「何がってクラウド。お前、これは幸福の木なんだろう?」 「うん」 「幸福になれるんだろう?」 「うん」 「何故だ?」 「―――――は?」 俺は思わず固まりつつそう声を上げた。 何故、って…そんな事聞かれても俺も困ってしまう。だって俺だって半信半疑で買ってきただけだし、実際にそんなふうに幸福になれるかどうかなんて分かったもんじゃない。 …っていうか。 普通、そんなトコに疑問持つか…!? そう思ったけど、取り敢えずは何か答えておかなくちゃなと思い、俺はちょっと考えてこう答えてみた。 「それはつまり…だから。この木は、幸福を願ってくれてるんだよ」 「!…何と。木にもそんな高度な技があったとは」 「え。あの、それはちょっと違…っ…」 「なるほど、なるほど。なかなか見所のある木だ」 「え〜…と、あの……」 俺ははっきり言ってどうして良いか分からなくなった。セフィロスはすっかり俺の言葉そのままを鵜呑みにした感じで、幸福の木に向かって「そうか」とか「そうだな」とか話しかけてる。 っていうか俺が言ったのはもっと大まかな意味であって、幸福の木自体に意思があるとかそういう問題じゃないんだけど……そう思いつつも、まあ、それはそれで良いかと思う。 セフィロスもどうやら関心を持ってくれたみたいだし、きっと大切にしてくれるだろう。 俺は取り敢えずはそうして納得をすると、セフィロスにちゃんと世話をするように頼んだ。多分もう世話自体はしてくれてるとは思うけど、念の為、だ。 そんな俺の言葉に、セフィロスはごく真面目に「ああ」と深く頷いたのだった。
幸福の木は、俺がセフィロスの部屋に行くたびに、ほんのちょっとづつ成長していた。ちょっと目には分からない程度だったけれど、セフィロスの観察結果によれば、それでもちゃんと成長しているらしい。 「それでクラウド。この木なんだが、いつくらいになれば幸福にしてくれるのだろうか」 ふっと投げられた言葉に、俺はあんぐり口を開けてセフィロスを見遣る。 「さ、さあ…。多分、枯れた時じゃないの?」 俺は適当にそんな事を返す。幸福の木なんだから枯れたらヤバイよな、と俺は心の中で思っていたけど、セフィロスはこれまた俺の言葉を鵜呑みにして驚いた顔をした。 「何、枯れた時だと!?…ふむ、では枯らさなくては幸福にはなれないという事か」 真剣に悩むその顔を見ながら、俺は思わず吹き出しそうになるのを必死に抑える。だってどう考えてもオカシイ。 言葉からすると、どうもセフィロスは“幸福になる”事に拘ってるみたいだ。だけど俺はふと疑問になる。セフィロスの考えてる“幸せ”って一体どんなものなんだろう? そういえばそんなことは聞いた事が無かったな、と思う。 俺はそこの辺りが気になって、取り敢えずは聞いてみることにした。 「セフィロスにとっての“幸せ”って何?」 俺としてはやっぱり、何となく期待してる言葉があった。それは勿論…まあ、そういう事だったけど、多分セフィロスはそんなことは考えて無いんだろう。 何となくそう思う。 だからセフィロスの出す答えには、すごく興味があった。 俺の質問に対してセフィロスは少し戸惑ったような顔をする。もしかしてちょっと言い難い事なのかなと思って、俺はやっぱり期待した。もし俺が期待してるような言葉だったら、やっぱり本人を前にしては言いにくいよな、そんなふうに思って。 「それはな、クラウド」 そう切り出された瞬間、ちょっとドキドキする。はっきり口に出して言ってくれるんだろうか。何だか緊張している俺がいる。 「この木が枯れた時に叶うものであって、秘密だ」 「―――――は…?」 …何だそれは? っていうか、じゃあ本当にこの木が枯れないと駄目って事なのか? 俺はちょっといじけて見せたが、効果0、全く意味無しだったのはいうまでも無い。…ちょっと、空しい…。 まあとにかくセフィロスは何だか壮大な願いを持ってるらしいということが分かった。しかもそれは幸福の木が枯れないと教えてくれなそうだ、ってことも。 何となく秘密があるみたいで嫌だけど、きっと悪いことじゃないなと思う。だから俺はそれ以上は何も勘ぐったりしないことにした。
とにかくその幸福の木は、俺とセフィロスの間にいつも、ちょこんと置いてあった。 ちょっと細長い葉っぱはスマートでシャープ。 俺たちがどんな会話をしてようと、ちょっと他人には見せられないようなシーンの最中でも、その木は隣にちょこんとあった。 幸福になるらしい、幸福の木。 セフィロスはどうやらその木が好きだった。 そして俺は、セフィロスが気に入ってくれたその木が大好きだった。
その幸福の木が俺たちの目の前からとうとう姿を消したのは、台風に近い突風の吹いた夜だった。 窓際に置いてあった幸福の木は、不注意で開けっ放しになっていた窓から入った風で、飛ばされてしまったのだ。 それを知った時、俺はちょっとショックだった。折角二人で育ててきた木だったのに。折角セフィロスが気に入ってくれた木だったのに。 いつもそこに、ちょこんとあったから、何だかそれが普通になってたんだろう。だからそれが消えた夜、何だか俺はすごく寂しくて悲しかった。 だけど意外なことに、セフィロスはそれに対して悲しそうな顔一つしなかった。あんなに気に入ってたのに、悲しくないんだろうか。 「無くなっちゃったね」 俺がさも残念そうに言う隣で、セフィロスは「ああ、そうだな」と答える。 「…セフィロス、ショックとか無いの?あんなに気に入ってたのに」 俺はセフィロスのその態度が少し気に食わなかった。あれほど気に入っていたのに、無くなったらそれはそれでOKみたいな態度、俺はちょっと同意できない。 でもそんな俺の心なんかどうでも良いみたいに、セフィロスはてんで関係ないことを言った。 「幸福の木はやはり枯れないと効果が無いのだろうか」 無くなるのとは訳が違うしな、とか言いながらセフィロスは首を傾げている。 どうやらそれは、いつだか俺が言った偽情報のことらしい。というのも、幸福の木が枯れたときに幸福になるんだ、というアレである。 まだ気にしてたのか―――――。 「どうやら俺は木にはなれなかったらしい」 「え?」 何だ、それ? 俺は意味が分からなくて首を傾げる。そんな俺にセフィロスは真面目な顔をしてこう答えた。 「それが俺が幸福になれる方法かと思ったんだが」 「へ?」 木になる事?…そんな無茶なっ! っていうより先に、何で木なんだろう? まだハテナマークを頭上で点滅させてる俺を、セフィロスはチラリと見遣る。そして、コホン、とワザとらしい咳払い。 「“幸福の木”だ」 そう言われてから俺はちょっと考え込んだ。そして、ようやくセフィロスの言おうとしていることが分かって、ちょっとばかり照れてしまった。 ああ、何だ。 幸福の木になるって、そういう事か、って。 だって幸福の木は、幸福にしてくれる木なんだ。幸福の木は、俺たちを幸福にする。そしてセフィロスはそれになったら幸せだな、っていう。 ちょっと細長い葉っぱはスマートでシャープ。 ちょっと切れ長な眼は俺を見てる。 でも俺は思うんだ。もうとっくに“幸福の木”なんだ、って。 幸福の木はどこかに姿を消してしまったけど、俺の近くには、もっともっと素敵な幸福の木がある。そしてきっと、その人の側にも、素敵な幸福の木がある…と思いたい。 俺は少し迷った挙句に、背伸びをしてセフィロスにキスをした。 「これからも育ててこうね、“幸福の木”」 そう一言告げた後、セフィロスは優しく笑った。
いつまでもいつまでも、枯れませんように。
END
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