記念日
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記念日を作ろうと言い出したのはクラウドの方だった。 自分の生誕について、明確な日付が分からないと言ったセフィロスに、せめて何か「特別な日」があれば良い――――そう感じたクラウドの思い付きで、それは決定した。 「じゃあ俺達が出会った日を記念日にしよう」 そう言うクラウドに、セフィロスは苦笑する。 「またそれは女みたいに細かいことを言うな、お前は。一年は簡単にやってくるものでは無いぞ」 実際、様々な任務を負っていたセフィロスにとって時間の流れは早かった。 が、ソルジャーという立場上、どんなに強いとはいえ命の保障は無い。 そういう意味合いも含めて放たれた言葉に、クラウドは「分かってる」と嬉々として言った。 「だから、一ヶ月に一度にしようよ」 「おいおい、それでは毎月大忙しだろう」 柔らかい反論にクラウドは屈せずに、 「その方が一年待たずに記念が重ねられるよ。良いだろう、セフィロス?」 と言ってのけた。 相変わらず緊張感の無い目前の一般兵に、セフィロスは何も言えなかった。 だが、不思議と悪い気はしない。 何も恐れず自分を慕い、欲求してくる目に、結局はセフィロスが折れることになった。 「好きにしろ」 「俺の勝ちだね、セフィロス」 嬉しそうにクラウドは笑った。
二人の出会いから丁度一ヶ月経ったその日、セフィロスは大規模な任務をやっと終了させたところだった。連日に渡る任務で、セフィロスは心身共に疲労を隠しきれない状態だったが、数日前にクラウドと交わした約束を破るわけにはいかなかった。 セフィロスの部屋で待ってるよ、とそう言ったクラウドは、いつもより幾分か嬉しそうに見えた。しかしその理由がセフィロスには分からず、取り敢えずは約束だけ受けたという感じであった。 「お疲れ様です」 廊下ですれ違う一般兵は、セフィロスの姿を見て少し緊張気味にそう声をかけてくる。 「ああ」 そう適当に答えながら、セフィロスはクラウドの事を思い返した。 ――――少し、ほんの少し前まで、クラウドもあの中にいたのだ、と。 憧れの目でセフィロスを見て、声をかけるだけでも緊張を隠し切れない、そんな一般兵。 「まったく…変われば変わるものだな」 今ではセフィロスに意見までしてくるクラウドの、少し馴れた感じの笑顔を思い出してセフィロスは溜め息を吐いた。
ガチャリ、と音がして、クラウドは顔を上げた。 「セフィロス?」 瞬時にそう声をかけ、小走りで駆け寄る。 「ああ、遅くなった」 その言葉に、クラウドは「良いんだ」と答える。クラウドの前でさえ滅多に表れないセフィロスの笑顔は、やはりその時も見ることが叶わなかった。少し残念そうにその事を考えながら、 「今日が何の日か覚えてる?」 とクラウドはおずおずと聞いた。 適当に服を脱ぎ始めたセフィロスは、その言葉に「いや?」とだけ答えてソファに腰を下ろす。いつも通りのその言動に特別なものは何一つ感じられない。 クラウドは、やっぱりな、と呟きながらセフィロスの隣を陣取った。 「何で覚えて無いんだ?――そりゃセフィロスは俺なんかの何十倍も大変だって分かってるけど…」 妙に残念がるその姿に、セフィロスは疑問を感じる。 今迄、任務の為に会わないことはいくらでもあった。ソルジャーを目指しているクラウドにとっても、それは己の我侭を通せる所ではない事くらい百も承知だ。 いつもならば任務終了のその日は会わない。疲れているだろうから、とクラウドから言い出した「暗黙の了解」がそれで、その約束は破られたことが無かった。 しかし、今日だけは違う。 そんなことを口にする筈の無いクラウドの方から、そう言い出したのだ。 それ程、意味のある事なのか――――そう思い、セフィロスは「今日は何かあるんだっか」と聞く。 クラウドは一言、 「記念日だよ」 と言った。 「―――ああ、そうか」 そういえばそんな事をクラウドが騒いでいたな、と思う。さして気にも留めていなかった事だが、クラウドの落胆の理由がようやく分かり、セフィロスは納得をする。 「で、記念日というのは何をするものだ?」 今迄そんな出来事とも縁が無かったセフィロスは、大真面目にそんな事を言う。 「何って…その。祝うんだよ、おめでとう、って」 返って面食らってしまったクラウドは、そんなふうに「記念日」を説明した。 「そんな事なのか?」 それでは大して普段と変わらんな、と続けながらセフィロスは葉巻に手を出そうとする。 「あ…の、セフィロス!」 珍しく緊張した声を出すクラウドに、セフィロスはその手を止めた。 「これ…」 そう言ってどこからか現れたのは、チェーン式のアクセサリだった。 それは見た目にも高そうでは無かったが、丁寧に綺麗な唐草模様が施されている。銀細工のアクセサリは、少し重みのある音を立てて、セフィロスの手の中に滑り落ちた。 「……」 何も言わずそれを見詰めるセフィロスに、クラウドは慌てに慌て、切羽詰った声を出す。「あのっ…これ、そのっ…値打ちは無いけど、セフィロスが付けてたら格好良いなって思って…それで俺」 その声を聞きながら、セフィロスはそのアクセサリをいじり始めた。 唐草模様の大型のチェーンに、中央にはプレートが付いている。そのプレートには、何か文字が刻まれていた。 「?」 目を凝らしてそれを見ると、そこには“セフィロス”の文字が刻まれていた。 「これは…?」 「あの――ほら、神羅の配給するものには、どっかしら“神羅”とか“コードナンバー”が入ってるだろう?」 確かに神羅に属する者には、認証コードというのがあった。デジタル管理をする此処では、名前よりも余程効率が良いというのが理由らしいが、クラウドはそれがあまり好きでは無かった。 「でも、それは名前じゃないから。セフィロスはセフィロスだから、名前を入れたくて」 彫り師はクラウドが注文した“セフィロス”の名に驚いていた。英雄だから、憧れからその名を彫る者も稀にいるらしいが、まさか本人に渡されるとは思ってもみなかっただろう。 「そうか…」 少し緩やかになった表情でそう言ったセフィロスだったが、直ぐに元の表情に戻ると、クラウドを冷ややかに見詰めて言った。 「…時にお前、どこでこれを?」 説明の後にそう言われ、クラウドはギクッとした。 「あー…ええっと…その…町で…」 「任務以外は外出禁止のはずだぞ」 「は、はい!あ、あの…」 思わず敬語に戻りながら、クラウドはチラリとセフィロスの顔を見た。 「ゔっ…」 確実に怒っている顔だ。 「クラウド…お前また…サボったな?」 そうゆっくり聞くセフィロスは、さすがに怖い。訓練などの比にならない、とクラウドは思う。何と言ってもセフィロスは、ソルジャーの第一人者なのだ。 「は、はい…すみませんでした…」 「お前はどうしてそう真面目に訓練を受けないんだ!どうなっても知らんぞ!」 まるで父親という存在に怒られているみたいだ、とクラウドは思う。 実はこうして度々怒られていたクラウドは、いつのまにか普段のお叱りなど何ともなくなっていた。何せ一番怖いのは、目前のこの人なのだから。 しかし、今回ばかりは少し悔しかった。 クラウドはどうしてもセフィロスに何かを渡したかった。それも、ちゃんと形として残るものが良かった。 「ごめんなさい」 それでも素直にそう謝ると、呆れて溜め息をついていたものの、セフィロスも何となく落ち着いたようだった。 「まあ、良い。もう二度とやるな」 そう忠告しつつも、どうせまたサボるのだから、その時はもっとたっぷり叱ってやろうとセフィロスは思っていた。 「しかし…参ったな」 少しして、ソファの背にもたれかかりながらセフィロスは呟いた。 クラウドの非に対して叱った事は正当な事だとして、自分もプライベートな部分では随分と勝手なのかもしれないと思う。 例えば、今日の事を忘れていたのは、セフィロスの非だった。セフィロスにとっては大した意味も無かったが、クラウドにしてみれば、このアクセサリを仕入れる為に神羅領域から抜け出したり、セフィロスに強く約束を取り付けたりと、それは大事な出来事だったに違いない。 まだ、しゅんとしているクラウドに、セフィロスは言う。 「すまない。俺は今日の事などすっかり忘れていて…お前に返すものも何も無い」 意外な言葉を聞いて、クラウドは驚いた。未だかつて、セフィロスの口から謝罪の言葉など聞いたことが無かった。 それは英雄と呼ばれるセフィロスと、一般兵でしかないクラウドが対等な事を証明しているかのようで、クラウドは嬉しくなった。 「良いよ、そんなの。俺が勝手にやったことだから」 そう言うと、クラウドはセフィロスに抱きついた。 「…言っておくが、疲れてるんだぞ」 「知ってます」 ワザとらしく敬語を使うクラウドに、セフィロスは溜め息を吐いて「まったく…」と毒づく。 しかしそれが嫌なものではないことを、クラウドは知っていた。 「…こんな事で良いのか、お前は?」 相変わらず自分に張り付いたまま離れないクラウドの髪に触れ、今迄とはうってかわった雰囲気でセフィロスはそう言った。 「良いよ、何でも」 そう言うクラウドに、セフィロスは貴重な笑顔を見せる。 「本当に仕方ない奴だな…」 任務の疲れなど忘れ、セフィロスはそう言ってクラウドをベッドへ誘った。 それは二人の初の“記念日”だった。
後日、訓練の最中にセフィロスを見かけたクラウドは、セフィロスのその腕に光る物体を確認し、さすがに少し照れてしまった。
END
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