首筋から感じられる熱。

まさかこんなふうになるとは思ってもみなかったものの、それは酷く求めていたもののような気もする。

這わされる舌にビクリと身体を震わせながら、クラウドは閉じ気味の瞼の中からセフィロスを見ていた。その姿は変わらなく綺麗で、数年前もそうだったようにクラウドの眼に焼きつく。

男としても魅力を感じたその身体が、今はどういう訳か自分の前に曝け出され、さらには熱を帯びて重ねられている。しっかりした体躯は、成熟したクラウドのそれでも叶わないほどで、多分力の差は歴然だったろう。

けれど、特に抵抗の意も見せないクラウドにとってそれは、性的喜悦をもたらすものの象徴でしかなかった。

「…あっ…っ」

胸の突起を弄られ、思わず声が漏れる。その指が、舌がセフィロスのものだと思うとそれは尚更の興奮を呼ぶ。

「素直なんだな」

そう耳元で囁く声がして、クラウドは目を固く瞑った。一瞬にして羞恥心が湧き上がる。けれども何も言い返せずに、ただそれを受け入れるしかない。

言い返す言葉など何一つ思いつかないからである。

「こっちはもっと素直か?」

そう言いながらセフィロスの片手は腰から下を弄り始めた。少しばかり昂ぶりを見せていたそこを握り込むと、嬲るような手つきでもって動かし始める。

さすがに男としての快感を与えられ始めると、クラウドも正気でいられなくなった。

少し離れてしまったセフィロスの髪を探ると、それに指を絡める。そうして絡めたままの指でセフィロスの頬をなぞるようにすると、それに力を込めた。

ぐっと、引き寄せる。

「どうした」

「…も…一度…」

要点を告げないクラウドだったが、相手は理解をした様子だった。そうして誘われた顔を寄せて、クラウドの言うようにもう一度、口付けを交わす。

忙しなく動かされている半身のせいか、クラウドの口からは少し荒めの息遣いが漏れていて、それはそっとセフィロスの耳に流れ込んだ。

不思議としか言い様が無い。

憎むべき相手と身体を重ねて、その熱さえ愛しいと思いながら求めている。

セフィロスの誘導するような言葉が、思い返された。

“神羅時代、お前は俺をどういう目で見てた?”

憧れか、それとも羨望か。―――――――それとも…もっと、別な何かなのか。

隠していただけだったというのだろうか。

憎いと言いながら、心の奥底に沈んだままだったその心を。

そうして発散できる場所を探していたのだろうか。その迷いさえ、この男を倒せば無くなるのだから、と。

もしもそうだとしたら、何て馬鹿らしいんだろうとクラウドは思う。

セフィロスの愛撫に悶えながら、そう思う。

「はっ…ああっ、セフィロス…っ」

長らく弄られたそこに限界を感じて、クラウドはセフィロスの身体を力の限りに手繰り寄せた。

「限界か…クラウド」

優しく響く声に、クラウドは目を閉じたままに欲求を伝える。

もう既に相手を欲し、疼く身体を露にしながら。

そっと。

「セフィロス…入れて…」

 

 

 

本当は―――――――ずっと、こうしたかったのかもしれない。

 

 

 

事が終わった後、窓から流れ込む空気は随分と冷たくなっていた。

それでも火照った身体を冷ますのには丁度良い気もして、薄いシーツ一つで身を包めながらクラウドは夜風を浴びていた。

「飲め」

ふとそう言われて視線を移すと、そう言ったセフィロスの手には温かい飲み物があった。それを、有難う、などと言いながら受け取ると、随分と熱いらしくて湯気を立てているそれを冷ますように、クラウドはふうと息を吹きかける。

そうするクラウドの隣にセフィロスは腰を下ろし、自分もまたクラウドと同じ仕草を始めた。しかしさすがにクラウドほど執拗にするわけでもなく、直ぐにそれを流し込み始める。

一口飲んだ後、セフィロスは静かな声でこんなふうに言った。

「…すまなかった」

驚いたのはクラウドの方である。まさか謝罪されるなどとは思わなかった。

「何で謝ったりするんだよ」

「強要したことになるだろう」

「……そうかもしれないけど」

そうかもしれないけれど、クラウドがそれに抵抗しなかったのも事実に変わりない。それは結局、セフィロスの誘いを肯定し、受け止めたことになる。

それについてクラウドは、自分自身釈然としない思いでいた。きっとセフィロスも、自分をそういった目で見ただろうと、そう思っていた。

しかし、セフィロスは全く別のことを口にする。

気持ちは―――――あの行為そのままに受け取られているかと思っていたが、そうでは無かったのだ。

「良いんだ、別に。…後悔はしてないから」

セフィロスもそうだろう、と同意を求めると、相手はそれに少し笑いを漏らした。それから、そうだな、という言葉が続く。

しかし、そうしてセフィロスが優しい雰囲気を見せてくれたのはそこまでだった。

早々にカップの中身を飲み終えると、それを床にコトリ、と置く。

そうした後はもう、セフィロスの表情は真面目そのものに変化していた。

それは、先ほどまでクラウドを抱いていたその体や、限りなく近付いたような気がした心が、とても遠くなる一瞬だった。

「――――――それでもお前は俺を追う。そして俺はお前を殺す」

「…セ、フィロス…何で…?」

クラウドは目を見開く。

確かにそれは分かっていて、事実は変わりようが無かった。それでも今そんなことは口にされたくない。今まで自分の中に燻っていたらしい気持ちが曝け出された今、それを拒否するような現実は欲しくないとさえ思っているのに。

それでも、無情にセフィロスの声は響いた。

「クラウド。もし目が覚めて…違う景色だったら、今起きた全ては一時の夢だったと、そう思え」

「…セフィロス…」

まるで縋るようにクラウドは情けない声音でその名を呼ぶ。そんなクラウドに、せめてもの言葉が投げかけられた。

それは、少し甘く、けれどどこか悲しい響きを帯びて。

「それでもあの気持ちは変わらない。嘘ではない」

向けられた視線は、とても強い色でクラウドを捉えていた。

 

 

セフィロス

 

その気持ちを俺に植え付けて……

 

セフィロスは逃げる気なのか?

 

憎しみとの葛藤の渦に俺を叩き落して、

 

逃げる気なのか―――――――?

 

 

生まれてしまった気持ちすら、ないがしろにして。

 

 

 

飛び散る岩の破片の中で、クラウドの蒼い瞳は真っ直ぐに相手に向けられていた。

今や亡骸になったその姿からは、かつての栄光の欠片すら感じられない。

あんなに大きいと思っていた存在が、たった一つの躯になる。

悩み苦しんだ、自分の手によって―――――。

「そう…一時の夢だったよな、セフィロス」

そう呟きながら、クラウドは冷めた目でその亡骸を見下した。

「俺達は所詮、敵同士だったって事だ」

例え一時、それとは全く違った感情の元に重ねあった体を持っていても、結果は変わりはしなかった。

分かっていたことだったとはいえ、そこに甘い感傷など一切ありはしなかった。

セフィロスは、憎しみを与える言動しかクラウドには与えなかったのだから。

それは葛藤を持ち続けたクラウドにとっては、一時の夢といったその出来事やその後の感情を全て否定するものでしかなかったのである。

二度と開かれないだろう目を、瞑り続けるその姿を見据えながら、クラウドは思っていた。

もしも―――――。

もしもあの時、あれが一時の夢で終わらなかったとしたら。

結果はともあれ、何かは変わっていただろう。

嘘じゃないと言ったあの気持ちがそこに在り続けたのなら。

「それでもアンタは、敵対することを選んだんだ」

クラウドの呟きは、崩れ落ちていく大地の轟音にかき消された。

それはクラウドの気付かないところで、少しだけ切なさを帯びて――――。

 

 

 

その気持ちの存続よりも、抹消を選んだんだ――――――。

 

 

 

…目が、覚めて…

 

…違う景色だったなら…

 

 

 

ふと目が覚めると、そこは見慣れない景色だった。

土の感触からするにそれは、どこかの道端であるらしい。己の身体などに目をやりながらも上体を起こすと、クラウドは取り合えず周囲を見回した。

そこには生い茂る草と、背の高い木々が延々と続いている。

「…此処は…?」

見たことがない景色のような気がする。が、遥か遠くに街のようなものが見えるとなると、戦いの途中で一人はぐれてしまったのかもしれない。

しかし、その戦いという感覚に、妙な違和感があった。

「…何だ、戦いって…?」

ふと背中に目をやる。どうやら身一つで自分はいるらしかった。いつも背に剣があったような気がしたが、それは気のせいだったろうか。

――――――何だろう、この感覚…?

「…“セフィロス”……?」

ふと頭に何かが浮かんだ。

セフィロスという名前。

しかし、どうも覚えが無い。覚えが無いのに、その名前が妙に引っかかる。

その時、ふと誰かが言った言葉を思い出した。

 

“目が覚めて違う景色だったら、今迄の全ては一時の夢だったと、そう思え”

 

「……夢…?」

クラウドは頭を左右に振りながら、目を瞑った。

「夢、なんだな。全て…」

その言葉は、クラウドの心の中で曖昧に揺れているその人物へと向けられて放たれた。勿論、相手はその場になどいなかったけれど。

“セフィロス”という人――――その人に、向けて。

 

 

 

夢なんだな。

“セフィロス”。

 

例え今この目に、涙が溢れてるとしても、

 

夢、なんだな――――――――。

 

 

 

クラウドは、ふと口に残る苦味を感じて、そっと唇を指でなぞった。

それは、現実という名の果実の苦味だった。

 

 

 

END

  

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