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一対の法則 ------------------------------
「クラウド、手を繋いでも良いか?」 「え?」 クラウドはびっくりしたように口を開けると、返答に困ったようにしている。 それも当然のリアクションだな、そう思いながらも俺はもう一度同じ言葉を繰り返した。 「珍しいな…セフィロスがそんな事を言うなんて」 雨でも降るんじゃないか、などと憎まれ口を叩きながらも、結局クラウドは最後には笑ってそれに対して了承などをする。 だから俺は低い位置にあるクラウドの手をそっと握ると、指の隙間に指を埋め込むようにした。 たったそれだけのことで、何故か俺は満たされた。
手を繋ぐというのは、一般的に付き合っている者同士が良くする行為だが、俺はそういうものが好きではなかった。そういうものは目にみえる…つまり外界に触れる行為なのだし、結果的にそれが意図するのは他者への認識をさせるようなものだと思っていたからだ。まあ強いて言えば、自己満足というやつだ。 しかしこんな俺でも、たまにそんな衝動が起こるようになった。 これは本当に不思議なことだ。 クラウドと一緒にやってきてこの方、そういう甘ったるい事はしようと思ったことが無かったというのに、こういうものは突然やってくるものなのかもしれない。 クラウドはといえば今までの俺の態度に慣れ切っているせいか、そういうものを求めないようになっていた。まあ夜は別だが。 しかし最近の俺のこの衝動には、さすがのクラウドも戸惑う部分があるらしい。いつも結局了承をするものの、毎回驚いたような顔をする。それに自分からはそういう事をしようとはしない。そういう部分がいわゆる「慣れ」なのだろうと思う。 とにかく俺は時々起こるそうした衝動が、最初は良く分からなかった。 そういう衝動はふとした瞬間に起こる。 例えばクラウドが他愛も無い会話の中で笑ったり、ふざけて俺をからかう時など、本当にふとした瞬間の衝動だ。その何でもない空間でどうして突発的にそんなふうにしたいと思うのだか分からなかったものの、とにかく思うままにそれを実行すると、俺は必ず満たされた。 抱き合うでもなく、抱きしめあうでもない、本当に些細な事なのに、たったそれだけの手を繋ぐという行動で俺は満たされたのだ。 おかしなものだと思う。 俺がそんなふうに考えていると、先ほどからずっと隣で勉強などしていたクラウドがふと立ち上がった。この勉強というのは何でもテスト用なのだとかいうが、何故かクラウドは一人でやるよりも俺のところでやる方が落ち着くなどといって部屋に上がりこんできていた。 「セフィロス、マグカップくれよ」 クラウドはふと俺にそんな事を言うと、俺専用マグカップを指差す。 どうやら自分のついでで淹れてくれるらしい。 「ああ」 俺は言われた通りにそれを渡すと、クラウドはそれが当然かのように受け取り、キッチンの方に歩いていった。 少しするとコポコポと音がして、匂いが漂ってくる。どうやら今回は紅茶らしい。しかもこの匂いでいくと、俺の好みに合わせてくれているのが分かる。最近クラウドは段々と俺の好みを理解してそれに合わせてくるようになったが、こういったものもその一部だろう。 俺の好きなものを果たしてクラウドもまた好きになったかどうかは分からないとはいえ、だ。 暫くするとクラウドは紅茶入りのマグカップを手に戻ってきた。それからごく自然に俺にそれを渡す。 「はい」 「ああ、悪いな」 別にうんともすんとも言わず、クラウドはただ笑う。 それを見て、俺はまたあの衝動にかられた。 それは抱きしめるだとかそういうものではなくて、もっと単純な…。 「クラウド」 俺はマグカップを近くに置くと、クラウドの手を取った。クラウドの手の平は今までマグカップの表面を持っていたせいか、いつもより暖かい。それがじんわりと伝わって、俺の手の平もまた温かくなった。 「どうしたの?また手繋ぎたくなった?」 不思議そうな、それでいて可笑しそうな顔をしてそう言うクラウドに、俺はそのまま頷くのもできずに「何となく」などと曖昧な言葉を返す。 「変なの。最近のセフィロス、何か優しいよね」 「優しい?」 それは驚いた。優しいだなんて今までクラウドに言われた覚えはない。 しかしクラウドは「そうだよ」などと言いながら俺の隣に腰を下ろしてくる。 「手なんか繋ぎたがっちゃってさ、何だか変な感じ。でも悪く無いよ」 「そうか?」 確かに以前だったら自分も気味が悪かったろうが…しかしクラウドが「悪くない」というように、俺もそれだけで満足ができる。何が満たされるのか、また何が満たされていなかったのか、それはあまり考えたことがないのだが。 「前だったら絶対嫌がってただろー、セフィロス、こういうの。なになに、最近寂しくなっちゃったの?」 何らやニヤニヤしながら、クラウドはそんなふうに言ってきた。 「寂しい?まさかそんな事があるはずないだろう」 「またまた〜そんな事言っちゃって!」 どうもクラウドは俺をおちょくるのが好きらしい。ニタニタ笑いながらそう言って、突然手をぱっと離したりする。 それから、 「どう?」 そんなふうに聞く。 どうと聞かれても困るが、何となく急激に涼しくなったような感じがする。それは温度の問題だが、とにかくその後にまたすぐ衝動が襲ってきた。俺はその衝動そのままにクラウドの手を捕らえると、今度はちゃんと指の隙間に指を埋め込んだ。こうすると滅多に取れない。 クラウドは「ズルだ!」などとぬかしながら膨れていたが、少しするとやはり俺に向かって笑いかけた。 「ねーセフィロス。今、ちょっと幸せ?」 「は?」 「手繋いでる時、ちょっと幸せ?」 「…んんむ」 そんな言葉を口に出すのも恥ずかしくて、俺はそうとは言えずに唸る。けれど大体俺が直ぐに反論しないときというのは肯定してるのと一緒の時で、それはもうクラウドも知っている。それが分かっているからクラウドは俺が特に何を言わずとも、いちいち心配したりなどという事はしないようだ。 全く…最近は全て見抜かれているような気がする。 「でもさ」 どこの会話からその“でも”が繋がっているのかどうか不明だが、そんなふうにクラウドはせつせつと語り出した。 「こうしてると、何となく安心だなあって気がする。何でだろう。…俺、前はこんなふうにできないと思ってたからかなあ。だから俺から手繋ごうとなんて思わなかったけど」 「できないと思ってた?」 うん、などと頷いてクラウドは空いている手の方で紅茶を一口飲んだりする。少々不自由そうだったが、それでも俺は片方の手を離したりしなかった。 「そういうのって必要ないんだと思ってた。俺にとってじゃなくて、セフィロスにとってって意味だよ。ほら、夜とかはさ…何だかまた別物だろ?それは何となく日常と離れたトコで二人だけの世界って感じだけど、手とか繋ぐのって一番簡単な確認方法って感じ。一応いつでもできるしさ、繋がってるんだなあって思えるし」 「…そういうものか。あまり意味など考えなかったが」 どうやらクラウドもかつてはこんなことをしたいと思ったことがあるようだ。だが俺よりその衝動の理由はしっかりしている。 一番簡単な確認方法とは良く言ったものだ。確かにこういったものは、世間的に何も咎められないし今では普通だしな。 「だってさ、俺とザックスが手を繋いでたら何か変でしょ?」 「変だな、すっごく変だ、あからさまに変だ」 俺はつい反応してそう連呼した。 その隣でクラウドはぷっと吹き出しつつ、ほら意味あるだろ、などと言って俺を唸らせる。 「この人は俺のもんです、って言ってるのと同じ感じだよね。他の人と繋いでたらヤキモチ焼いちゃうって事は、手を繋ぐって事には気持ちがあるって証拠だと思うんだけど」 「まあそうか。そうだな、そうかもしれん」 俺はふと繋いでいる手を見て、少し考えた。 確かにクラウドの言う通り、此処には気持ちがある気がする。しかし以前こんなことはしたくないと思っていた俺にもまた、気持ちはあったはずだ。それが今になってこうした衝動を受けるようになったのは何だか変なものだと思う。 そのままいうと、今の俺はクラウドに気持ちを伝えたいだとかそういう意味になってしまう気がするが、そういう気はあまりしない。何故ならそれはもう分かりきっている事だからだ。 そんな事を真面目に考えていた俺の隣でクラウドは、思い出したようにこんなことを言った。 「そういえば俺、聞いたことあるんだけどさ。右手って力とか攻撃とかの意味があるんだって。左手はその逆で弱いとかそういう意味があるって。ええと…」 クラウドは俺と繋いでいる手を見遣る。 今、俺の左手とクラウドの右手が繋がれている。 「って事は俺の方が強いのかな??」 「では俺の方が弱いのか??」 俺とクラウドはその手をじっと見つめながらそんな事を言い合うと、お互いに首を傾げた。とはいえ、俺はそれもまた一理かもしれないと思っていた。何しろクラウドはどこか逞しいところがある、こんなふうに俺に説明などするあたりもそれだ。 「でもさ」 二度目の“でも”を言った後、クラウドはにっこり笑ってこう言う。 「セフィロスの左手と俺の右手で、一対になってる。ってことは、こうしてる間、俺とセフィロスは一人かもしれないよ?」 笑ったクラウドと、繋いだ手に、俺はつい微笑みを漏らした。 では俺の衝動はもしかすると、一つになりたいという衝動なのかもしれない。 繋いだ手の先のクラウドが、それを俺に教える。 繋いだ手は暖かくて、もし俺の手が冷たくてもきっとそれをも暖めてしまうのだろう。不思議なことだが、そこに生まれる暖かさは俺を安心させる。クラウドと一つであるという暖かさが、俺を安心させる。 それはクラウド曰く、一番簡単な確認方法。 「じゃあさ〜俺とセフィロスは一つって事で!あれ、やって!」 クラウドは突然声音をかえると、そう言って広げたままのノートを指差した。それは勿論、クラウドがさっきまでやっていたテスト用勉強だ。 「やって、って…おい!」 「だ〜って!俺とセフィロスは一つだろ?俺に足りない分はセフィロスが補うってことで、俺が分からない勉強はセフィロス担当!よろしく」 「おいおい!」 ニタニタ笑ったクラウドは俺の手をギュッと握ると、満足そうに俺の好みに合わせた紅茶を飲んだ。 俺はそれを見て呆れつつも、結局最後には笑っていた。
俺は指の隙間に指を埋め込むようにして、クラウドの手をギュッと握る。 たったそれだけのことで、何故か俺は満たされている。
END
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