|
外に出て、雨の降る空と天井との境界線に立つ。 そういえば傘も持たずにきたけどどうするのだろう、とそんな事を思いながらセフィロスを見上げるクラウドに、相手は無言で何かリアクションをし始めた。 手を翳して、何やらブツブツと呟いている。最初はそれが何だか分からなかったクラウドだったけれど、ああ、なるほどと直ぐに答えは分かった。 ウィン、と音がして、その途端に二人の周りに綺麗なベールがかかる。それは大きな円状になっていて、なるほど雨除けにも最適である。 「これでどうだ?」 「うん、悪くないよ。…でもこの使い方って間違ってるよね…」 「あるものは使わなきゃ損だろう?俺だって、こんなもの使ったのは久々だ」 そう言ってセフィロスは黄色く輝くマテリアを見つめた。 バリアのマテリアである。 セフィロスとしてはこのマテリアはあまり意味が無く、持っているとはいえ今では使う事も無い。こんな使い道もあったか、なんて今になって頷いたりする程度である。 マテリアの勉強をしていたクラウドとしては、それが何だか可笑しく思えた。 バリアマテリアで今セフィロスが使ったのは“バリア”そのもので、それは本来なら物理攻撃を反射する作用だということを知っていたから。 雨って物理攻撃に入るのかなあ、と首を傾げながらも、ちゃんと傘代わりをしてくれているそのベールの中でクラウドは少し笑った。 「ねえ、それでさ。どこ行くの?」 隣のセフィロスを見上げてそう聞いてみると、 「どこへでも」 などと答えが返ってくる。 何だか納得いかなかったけれど、雨の中、バリア内で二人でいる状態を考えると、確かにどこへでも行けるような気がした。少し残念なのはバリアが透明なことだった。どうせならちょっとくらい濁った色なら良かったのだ。 そうしたら、どんなに寄り添っても誰にも見えないのに。
結局どこに行くという目的も無いまま適当に歩いたりする。 それでも何だか近くにいるのが嬉しい。雨は、まるで避けるかのように二人の目の前で流れ落ちていく。何だか不思議な気分だった。 ミッドガルの店などを見ながらあれこれ言って、アクセサリ屋などに入ってみる。店の中は雨のせいか閑散としていて貸しきり状態だった。 理路整然と並んでいるアクセサリを眺めながら、ふうん、などとクラウドは唸る。何がって値段である。妙に高い。とてもじゃないけれどクラウドには手が出ない値段がずらりと連なっていて、何だか見ているのもいけないような気分になってしまう。 「気になるか?」 「いいや、全然。だって手、出ないし」 その言葉に、セフィロスはふっと笑ったりなんかする。セフィロスにとってはそれは十分手が出る値段で、大した出費じゃない。それに気付いたのか、クラウドはぶすっとした顔をしてみせた。 「高給取りだからってさ…」 「何だ、文句あるか?」 それだけの仕事はやってるつもりだけどな、と余裕の笑みなんかを浮かべてくる。 「可愛くないっ」 「俺が可愛いかったら気味が悪いだろうが」 …最もだった。 結局そのアクセサリ屋もそこそこに見ただけで終わってしまう。途中は食事なんかもしたけれど、それはそれですぐ終わってしまった。 何だかんだいって、やはり雨の日は家に限るじゃないか、とクラウドは内心思っていたが、それは口に出さなかった。それでもセフィロスと一緒にいれるのは嬉しいし、このバリアが何と言ってもいい感じだった。店に入るとそのバリアを解いてしまうので、何だかちょっとつまらない気がしてしまう。その度にセフィロスはバリアを貼りなおしていて、それは少し悪いなあと思うけれど、何と言ってもその中に一緒にいる間は幸せだった。 だから本当は、何もせずにこうして歩いている時が一番いいのかもしれない。
二人で歩く。 雨の中を歩く。 背の差で見上げることになるけれど、それでもそれは苦にならない。 隣を振り向くと、セフィロスがいる。 それに気付くと、いつもセフィロスはこちらを見返してきた。 その度に微笑んでくれる。 だからクラウドも微笑み返す。 たったそれだけだった。 それだけだったけれど、とてもとても気持ちが伝わる。 すごく嬉しいと思う。 できればこのままバリアの中で生活したいなあなんて思う。 勿論、ムリに決まってるけど。 暫くして雨と雷が止んで、俄かミッドガルに人が増えた。そういう雨のあけた後だったせいか、遠くに虹がほんわりと浮かんでいる。それを見て、クラウドは「見てみて!」とセフィロスの裾をつかんだ。 もう既にバリアは消えていて、周りには人が沢山いる。それでも興奮してそうすると、セフィロスは「ああ、虹か」とクラウドの手を握ってきた。 思わず手を引っ込めてしまったのはクラウドの方だった。 ドキドキする。 「な、何だよ!いきなり…驚くじゃんか」 周りをキョロキョロすると、やはり人が沢山いる。さっきまでとは大違いである。そんな中でまさかセフィロスの方からそんなアクションがされるとは思ってもみなくて、ついそんな事をしてしまう。だけどよくよく考えてみると、勿体無かったかもしれない。 「何だ、嫌なのか?」 「い、嫌って…そんな訳ないけど、人がさ…」 またクラウドは辺りを見回す。そんなクラウドの様子を見て、セフィロスは痺れを切らしたのか、出かけにしたのと同じように強引に手を引っ張った。それから、やっぱりズルズルとクラウドを引きずる。 そのまま店と店の間まで連れ込むと、その路地裏でガッツリとクラウドを抱きすくめた。 「うわっ」 びっくりして思わず声が出る。 まさかセフィロスがこんなふうにするなんて考えてもみなかった。 意外と情熱家?、なんて思いながらもそのままにされていると、唐突にキスなんかをされる。それがまた何ともディープなキスだった。 「んん〜っ」 手をジタバタさせて抗議してみるけれど、さすがにセフィロスの力は強い。何だかもう良く分からない中で、クラウドはとにかく目を閉じた。どうせセフィロスの手からは逃れられないのだから、どうせならキスに酔ってやれと思う。 ほぼ垂直に傾けられたセフィロスの顔。 深くすっぽりと口を覆うようなキスは、口の奥深くまでを探ってくる。あんまりにも長く、しかも舌を追い掛け回すようにするものだから、開いた口端から唾液が流れ落ちそうになった。それを吸うようにカバーしてくれるセフィロスの唇は、何だかいつもより熱っぽい気がした。 「ん、んっ…」 やっと口端が離れたと思ったら、今度は一度離しては唇を手繰り寄せるようなキスに変わった。 …とにかく長い。 ようやく離された時には、クラウドの口は疲れ切っていた。そうする間にまたギュッと抱きすくめられる。何だか良く分からないけれど、今日のセフィロスはいつもと違うのだけは確かだった。 でもやっぱり嬉しいと思ってしまうクラウドがいたりする。 「…ねえ、何か今日…激しくない?」 何となくそう聞いてみた。 「お前が好きだからだ」 「ぶっ」 「…何笑ってるんだ」 「い、いやだって…何かその、妙に情熱的というか何というか」 「変か?」 「うん、変」 「…はっきり言い過ぎだ」 「ごめん、俺、嘘付けないんだ」 「……」 はあ、と溜息をつくセフィロスはやっとクラウドから手を離す。 それにクラウドはへへ、と笑って、今度は自分から抱きついた。何だか自分に押されてるセフィロスも面白い。いつもならクールさの方が勝っているだけに、そんなセフィロスを見ると、とてもとても愛しく思える。 最初は好きだっただけで、後ろをくっついているだけだった。 それでも今では何だか対等にすら思える。 確かに力や立場の差は随分とあるけれど、二人だけの空間では何かが変わってきたようにも思えた。 セフィロスにがっちりと抱きつきながら、クラウドは「やっぱ今日は出てきて良かったね」とそんな事を口にした。きっと部屋にいたら、こんなふうにはならなかったような、そんな気がする。 外で、とても広くて、大勢の中の二人だからこんなふうにいられるのかもしれない。 「だから言ったじゃないか」 「はい、反省してます」 「…アホ」 「何だよ、アホって!失礼しちゃうなあ!」 ぶすっとするクラウドに、セフィロスは笑った。 何だかとてもとても幸せだった。
ポツリ。
「あれ?」 「…また降ってきたか」 いつの間にか、また雨が降ってきていた。それはさっきとは違って小雨である。けれどこのままいたら、やはり濡れてしまうことは間違い無い。 クラウドはセフィロスがまたバリアをはるんだろうと思っていたので、またあの雰囲気になれるのかなあと思って少し嬉しくなる。 しかし、今度はセフィロスは何もアクションをしなかった。路地裏で、ただ抱き合ったままで立ち尽くしている。おかしいな、と思ったのはクラウドだけで、セフィロスはただクラウドを見つめていた。 雨はしとしとと降ってくる。 「セフィロス、バリアは?」 何となく悪いなと思いつつもそう聞いてみる。けれどセフィロスは無言だった。とにかくバリアは貼らないらしいことが分かって、クラウドは何となく不安になった。 このままだと塗れちゃうのに、どうするんだろう、と。 雨が、二人の上に降っていた。路地裏とはいえ、そこには屋根はない。 その雨は二人を徐々に濡らしていく。肩に髪に、全身に。 「セフィロス?」 そう聞いてみるけれど答えは無くて、ただただ雨が二人の上に降り注いでいた。 無言のままにこうして見つめられると、何だかどうしていいか分からなくなってしまう。いつもみたいに少し笑ってくれさえすれば、それだけでホッとできるというのに。 一体どうしたんだろう。 やはりいつもと違う、と思う。 思わずクラウドはうつむいてしまう。
「クラウド」 やっとセフィロスがそう声を出した時、雨はもう随分と二人を濡らしていて、髪はしんなりとしていた。 ふとセフィロスの顔に目を向けたクラウドは、はっとするように息を呑んだ。
だってそれは、とても綺麗だったのだ。
セフィロスの背後、詳しくはその上に、ピカリと光った雷。 いつの間にかまた天候が崩れていたらしい。 その光の中で、雨に濡れたセフィロスが自分を見つめていた。 それは、あまりに綺麗で目が離せない。
しんなりとした髪も、雫が流れ落ちる頬も、熱を宿したその瞳も。
こんな日だったから、こんなにも綺麗に見えるのだろうか。 それとも、気持ちがそう見せるのだろうか。 どちらかは良く分からないけれど、それは今まで見てきた何よりもクラウドを惹き付けた。 そしてその綺麗な唇は告げる。
「愛してる」
その声は雨の音にかき消されたけれど、クラウドの心の中でしっかりと響く。
やっぱり家を出てきて良かった。 そんなふうにクラウドは思った。
END
|