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In The Lightning ---------------------------------------------
その時期、神羅では順次に夏期休暇が巡っていた。 勿論その対象の一人だったけれど、クラウドはその休暇に帰省はしなかった。それは帰れないというのもあったし、なによりクラウドの誕生日を、跨いでいたからである。本来なら自宅でゆっくりしたいと思うのが当たり前だったかもしれないけれど、クラウドの場合はちょっと違っていた。 例えばそれは、神羅に誰か自分を祝ってくれる大切な人がいたりなんかした場合、である。 正にそのままで、クラウドはその日が本当に楽しみだった。 特別に何かするわけでもないんだろうなあと思っていたクラウドだったけれど、それは相手の一言でとても待ち遠しい日に変化する。 『誕生日なんだろう?一緒にどこか行くか』 別にどこか行きたいところがあるわけじゃないし、誕生日だからってそれがそんなに大切だなんて思ってもいなかった。ただ、一緒に過ごしてくれるんだ、という事だけが、クラウドの中で大切なことだったのである。 相手には、休みは無かった。 クラウドは夏期休暇中に勝手に神羅に残るのだからそれはそれで良いとしても、相手はその期間も特別な休みでは無い。それはその人の立場がそういうものだったからかもしれない。けれど、その人はその日に休んでくれるとクラウドに言ってくれたのだ。 だからそれは仕事の片手間というわけではなくて、本当に本当に、二人でゆっくりと過ごせる一日だったのである。
その当日、とても暑い日だった。 その暑さで目を覚ましたクラウドは、近くにあった冷房のスイッチを眠たげな目をこすりながらONにした。すっと涼しい風がなびいてきて、クラウドはもう一度ベットにごろんと転がる。 夏期休暇はもう三日ほど前から始まっていて、三日前からもうずっとこんな調子だった。いつも休み無く鍛えているものだから、こうして久々に何もしない日々があると妙にぐったりとしてしまう。だから動くのもかったるい。けれど、その日は待ちに待った自分の誕生日で、それを考えると何だか心だけは軽かった。 「おい、クラウド」 ふとそんな声がして、クラウドはそのままの体勢で顔だけをその声の方に向ける。 「おはよ」 相手の存在を確認してから、そんなふうに声をかけて、クラウドは少し笑顔になった。何だか妙に嬉しい。 しかしそんなクラウドの顔を見ながら、相手はあまり芳しくない表情になった。あれ、と思いながらクラウドは急いで起き上がる。 何かいけないことでもしたかな。そんなふうに思いながら。 でもそれは、クラウドの見当違いだった。 「クラウド、残念な事になった」 「え、残念な事?」 急にそんなふうに言われて、クラウドは何のことだか分からずに首をかしげる。そんなクラウドの隣に腰を下ろして、その人は残念というわりには淡々とこう説明した。 「今日は休みをとったんだが、急に用事が入った。というか、ほぼミッションに近いけどな」 「えええ〜っ!!!」 その言葉を聞いた途端に、クラウドは顔面蒼白になってそう叫んだ。やっぱりな、という顔をしてクラウドを見る相手は、相当落ち着いている。 「何で何で何で!?そんなのってアリ!?」 「ああ、大有りだ、大有り」 「そ、そんなあ…」 ぽかんと開けた口が塞がらないのは言うまでもなくて、クラウドは落ち込むというより唖然としてしまった。何せ楽しみにしていたのだから。 その時ほど神羅カンパニーを憎んだ事は無い。 それでも仕方無いことだからなあと思いながらクラウドは相手を見て、ちょっとつまらなそうな顔でこう聞いてみた。 「で、どこ行くの?」 「ああ、確かジュノンエリアの魔晄炉が何だとかで」 「ええ〜!あんな所まで行くの!?」 やけに遠いじゃないか、とクラウドは非難したかったが、目の前の相手にそう言ったところで意味なんか無い。だから仕方なく、ぶっきらぼうに、いってらっしゃい、なんて言う。 それが可笑しかったのか、笑い声が聞こえてくる。 「何笑ってんだよ、セフィロス!」 「え?ああ、すまん。だってお前、いかにも…分かりやすいというか…」 「すいませんねっ!分かりやすくって!」 ムスッとしてそう言うと、クラウドはぷい、と顔を背ける。どうせからかって遊んでるのだ。いつもそんな具合だから慣れてしまってはいたけれど、何だかいかにも子供扱いされてるようで嫌な感じもする。 そんなクラウドの背中を見ながらセフィロスはその近くまで行くと、ツンツンした金髪をくしゃり、と撫でた。 「すまないな」 そう背中越しに落ち着いた声で言われて、クラウドは少しドキッとする。まさかセフィロスが謝ったりするなんて思わなかったからだ。ちょっと驚きつつも嬉しくなんかなったりして、でも此処で許すなんて駄目だとグッと力を込める。 結果、こんなふうにクラウドの口は動いた。 「…今日、雷でも落ちるんじゃない?」 それは皮肉とか嫌味みたいな言葉だったはずなのに、セフィロスは何ともなしに、 「そりゃありうるな」 などと返しただけだった。 …やっぱりセフィロスは一枚上手だった。
しかし、世の中には不思議な事が起こるもので、それは本当の話になった。 ゴロゴロゴロ、と急激に雷が鳴り出したのである。 そんな馬鹿な、と思ったけれど、それはどうやら本当の話だった。
丁度セフィロスが支度を終えて出かけようとした時にそんな事が起こり、二人は固まった。クラウドは信じられなくて思わず窓まで駆けると、ガラス越しに外を見遣る。べったり、と手を付きながらまじまじと外を見てみるけれど、どう考えても嘘じゃない。 雨が降っていて、雷が鳴っている。 「……嘘みたいだ」 「…お前の仕業じゃないのか?」 「……あのねえ。いくら俺でもそんな神業はできないと思うんですけど」 「そうか?」 すっかり行く気が失せたのか、セフィロスは部屋の中まで戻ってくると、窓にへばりついているクラウドの背後に佇んだ。背後に気配を感じながらもその風景がまだ信じられなくて、クラウドはそのままの状態でセフィロスに話しかける。 「今日の任務って、延期かな」 「そうだろうな」 そう答えながら、セフィロスはふと後ろからクラウドを包み込んだ。背の差がかなりあるせいか、頭の上の方から静かな息遣いが聞こえる。それに雨の音が混じっていた。 クラウドの顔の両端からはセフィロスの銀の髪がサラリと流れてきて、それは何だかちょっとクラウドをドキッとさせる。さっきまではあんなにどうでも良さそうだったクラウドの誕生日が、今この雷によってセフィロスの心の中で大切なものに変わったかのようで、クラウドはその天候に少し感謝した。 とはいっても、天気が悪いのはあまり良い気分ではなかったけれど。 そんな中でピピピピピ、と携帯の音が鳴る。 その音がした瞬間に、素早くセフィロスはクラウドから手を離した。きっと神羅からの連絡だろう。 その時、クラウドは神羅カンパニーをやっぱり恨んだ。 隣の部屋で簡単なやりとりの声が聞こえて、それを何気なく耳にしていたクラウドは、今日の任務がやはり延期になった事を知った。これで今日はゆっくり一緒にいられるけれど、セフィロスにとってはそれは単なる延期であって無くなったわけではない。そもそも今日も休日というわけではなかったので、そういう部分を考えるとソルジャーは大変だなあ、などとほぼ他人事のようにクラウドは思っていた。 「ねえ、延期?」 声が聞こえなくなってから一応そんなふうに声をかけると、セフィロスは、ああそうみたいだな、と素っ気無く答えてくる。それからやっと姿を現すと、クラウドの隣で窓ガラスに背を付けながら「良かったな」と言った。 「何だか他人事みたいな言い方…」 思わずそんな責めるふうに呟くと、セフィロスはクラウドを見下ろす形で視線を投げながら少しだけ笑った。どういう意味で笑ったのかはさっぱり分からない。 とにかく分かっているのは、今日は予定通り二人でいられるということだった。 「クラウド、お前どこ行きたい?」 「はあ?どこ行くって…。だって雨降ってるし雷鳴ってるよ」 突拍子もないセフィロスの言葉にクラウドは驚いてしまう。確かにセフィロスはどこかに行くか、と言っていたわけだし、本当に予定通りの行動をとるとしたら、どこかに行くことになる。でも、それはどう考えても無理に決まっていた。大体、こんな天候だから任務だって延期になったというのに。 しかしセフィロスは、だから何だというように話を進めてきた。 「俺の部屋なんていつでもいれるだろう?折角お前の誕生日なんだ、普通もないだろう」 「そりゃ…嬉しいけど、でも…」 窓の外では当然のように雷が鳴っている。はっきり言って光っている。どう考えても誰も外には出たくない。 うだうだとしているクラウドを見て、セフィロスは強引にその手を引っ張った。そしてそのままの格好でズルズルと玄関先まで引きずっていくと、ギイ、とドアの開ける。 途端に生ぬるい風が身体に纏わりついて、クラウドは思わず「うわ」と声を上げた。 「さて、行くか」 最初は任務に行く為に着たその服のまま、セフィロスは何でもなさそうにそう言う。 はっきり言ってクラウドはゲッソリした。 まさか真面目にこの雨と雷の中を出かけるつもりなんだろうか。とにかくクラウドは、家用の薄着のまま外にほっぽり出されたわけで、外に行く準備も何も出来ていない状態だった。 「ちょっと待った!俺、着替えても良い?」 「いや、駄目」 「ええっ!ど、どうして!?」 「だってお前が着替えるとなると、どうせ神羅のだろう?つまらん」 「ううっ……」 たまには俺の眼を楽しませろ、とワケの分からない事を言うセフィロスに、まあ、とクラウドはこれまたワケの分からない返事を返す。 どうやらセフィロスは普段着のクラウドがお好みのようである。確かにいつも見ている格好ではつまらない。 「そうだ。ちょっと待ってろ」 何か思い出したようにセフィロスはそう言って家の中に戻り、三分もたたない内にまた戻ってくる。 それから、雨がしとしと降っている空を見上げながら、行くぞ、と言った。 隣のクラウドは、何だか気が重くなっていた。
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