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ILLUMINATI --------------------------------------------- 後編
消灯時間を過ぎて、暗い部屋の中でムクリと起き上がったクラウドは、ベットの中から静かに這い出た。 そして足音を立てないようにして、そっとドアまでを辿る。 部屋の中はシンと静まっていて、ちょっとした事だけで音が立つ状態だった。 一歩、一歩…歩いていく。目的地はもう既に決まっていた。 「―――――どこ、行くんだ?」 あと一歩でドアというときになって、そんな声が聞こえてクラウドは歩を止めた。 「……」 振り返りはしなかったが、それでもイリドが起きているのはもう既に声で分かる。 そして、その声があまりにも静かで抑揚が無いのも分かる。 イリドはそんな人間ではない。いつも明るくクラウドの背を押すような人間だったから、それはある意味では責める口調だったのかもしれない。 けれどクラウドは、そんなイリドには応えることができなかった。 「お前最近、変だ。どうしたんだよ」 「……」 確かに変だったかもしれない。 訓練にはしっかり出ているし、ちゃんとこなしている。けれど、それは表面上でしかない。夜にはこうしてどこかに出かけてしまう。しかもそれは勿論、神羅の規定として許されないことだった。 クラウドはイリドの眼の届かないところで、ふっと笑みをこぼした。こんな嫌な笑み方さえ、いつの間に板についたのだろうかと思う。 「どうも…しない。少し…おかしくなっただけさ」 そんなクラウドの言葉に、イリドの静かな言葉は続く。 「最近のお前見てると不安だよ…。何かに憑かれたみたいで」 クラウドは笑いたいのを必死に堪えた。憑かれている、とはまた何ともいえない表現である。しかし言ってみればそうなのかもしれないと思った。 でも、囚われたのは多分、当然の話なのだと思う。この状況で、こんなふうに溺れないほうがどうかしている。 しかしその事情すら知らないイリドは、それを攻めるふうにこんなことを言う。 「出会った頃と変わったよな。何か……」 「……」 「お前、段々…離れてくよ。遠く、なったよ―――――――――」 その言葉に、クラウドは密かに笑んでいた口元を、すっと元に戻した。それはあまりにも浸透する言葉で、イリドに応えられないながらも痛みを感じたから。 遠く――――…そうかもしれない。 こんなふうに心配してくれる誰かがいて、それでも自分はそれに応えられない。応えられないというより、違うものを選んでいくのだ。そういう人の望まない、違う場所を。 初めて出会った時は、希望に満ちていた。 そうして二人で笑った。 今出す答えはきっと、そういった過去や、それを共にしたイリドを裏切ることになってしまうのだろう―――――…それは、分かっている。 けれど。 「うん……ごめん」 結局そんな言葉を返すと、クラウドはドアを開けて、部屋から去っていった。 バタン、と閉まるドアは、もう既に忍び足の理由さえ無く大きな音を立てる。 隔てる壁は、重く大きく、そうして閉じられていくのだろう。 きっとこれからも。 何度も、何度も…。
部屋を出たクラウドが向かう場所は、もう決まっていた。 少し先に行くと見える、立入禁止領域。 そこまで息を切らせて全速で走ると、そこに佇む姿を確認して、顔をほころばせる。 ああ、いてくれた。今日もいてくれたんだ。…そう思うと、嬉しくて仕方ない。 クラウドの足音に気付いたその影は、ふっと振り返り、そうして笑った。その口元からはいつかのように煙が立ち上がっている。 微笑が、交差して――――…。 「クラウド」 そう名前を呼ばれ、クラウドは迷うことなくその影に近付く。 それから、全ての力でもって、その人にしがみついた。 そして、一番大切な言葉を口にする。 「会いたかった」 たったそれだけが真実だった。 それしか、心には存在していなかった。
思えばそれは、『幸福』という名の『崩壊』の始まりだった。
毎晩のように会い、 毎晩のように唇を重ね、 毎晩のように抱き合う。
そこにあるのは、現実の中の唯一の“想い”。 そこにあるのは、現実の中の唯一の“意味”。 そこにあるのは、現実の中の唯一の“場所”。
そこは――――――、一番確かな場所で、一番現実に近い非現実だった。
そこには、ただ、二人だけの空間が存在していた。
いつものように身体を重ねた後、やはりぐったりとしながらクラウドはセフィロスを見つめていた。 初めてセフィロスとそうした時に、セフィロスは何の感慨も無いと言い、そうする意味すら無いかのような言葉を口にした。その言葉に対する否定は未だにされてはいなかったが、クラウドの中ではそれはもう解決をしている。 会いたい、そう言ってくれること。 それが既に、クラウドの疑念を払拭していたからである。 二人きりの空間は幸せで、それはとても大切だった。未だにセフィロスという存在は、クラウドだけでなく誰にとっても不変の存在であって、その中でクラウドだけがその心に触れた。それは事実で、その事実がクラウドに安心をさせていたのだ。 誰でもなく、自分が側にいること。 それは何にも変えがたい、優越。 クラウドの視線に気付いたセフィロスは、ふっと笑った後に改めてベットに腰掛けた。 「お前は恵まれているな、クラウド」 「俺が?何で?」 唐突にそんな事を言われ、クラウドは驚いたように声を上げる。 「手に触れて分かる父と母が存在し―――――そして、故郷がある」 セフィロスの声は穏やかだった。 穏やかだからこそ、その言葉は何だか切ない感を運んでくる。 そういえば故郷の話をしたことがあったが、その時セフィロスは真面目に聞いてくれたのにどこか空ろな目をしていた記憶があった。 「セフィロス――――…故郷は?」 何だか胸が締め付けられる気になって、クラウドはそんなふうに聞いてみる。自分の故郷の話をしておいて、セフィロスの故郷については聞いていなかったのを思い出したからだ。 セフィロスの答えは、やはり穏やかな声をもって告げられる。 「分からない。父も母も、顔を知らない」 「…なっ――――…」 思わず言葉が詰まる。 まさか、そんな事だったとは知らなかった。セフィロスは英雄と呼ばれ、その力故にその表面しか取沙汰されない。だから今までそういったプライベートまでに気が向かなかった。 この強く綺麗な人の背後に、そんな影があるとは思いもしなかった。 「あ、ごめん…なんか俺、不躾に―――」 少ししてそう謝りの言葉を入れたが、セフィロスは意に介さないように、 「気にするな」 と言っただけだった。 けれど、その言葉や真実は、クラウドの中で大きく反響していて、それを拭うことは到底できなかった。 目前で緩やかに服を着込むセフィロスを見ながら、クラウドは考える。 何故、今までそれに気付かなかったのだろうか―――――と。 故郷や両親の話などは、聞かなければ分かるはずも無い話である。だからそれは仕方なかっただろう。けれど、その人がそういった影を持ちながら生きる、その上で見せるもの。 そこには、いつもあったはずなのだ。何かしらの声が。 クラウドは思い出していた。 今目に映るセフィロスは、いつもと変わらない。最初に会ったときとも変わらない。 けれど――― いつも見つめていたその瞳は、 帰る場所のないその瞳は、
その瞳は、
空ろで、 寂しげだった――――――……
………何故だろう。こうして肉体的な快楽を得たところで何の感慨も無い ………お前に、救いを求めていたのかもしれない ………お前は笑うかもしれないが――――私は、お前のようになりたかった
そんなふうに言ったセフィロスも、そうだったのではないだろうか。 いつも何かを求めていた。 何かが変わるかもしれない、そうクラウドに言ったように、求めていたのだ。 それは、「故郷」のようにいつも不変で確かなもの。 そして、心に根付くものだったんじゃないだろうか。
「確かなもの」を、求めていた―――――……
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