Rankz ls ”homesick”

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時々、何もかも投げ出して、全てを捨てて、真っ白に戻りたいと思う。

それは出来上がった環境に息がつまりそうになって、そこに自分が囚われているかのように感じて、そこから逃げ出したくて――――――。

とてもとても大切なもの。守りたいもの。

煩雑なもの。自分を取り囲む灰色の壁。

その全てを失ってでも、一瞬でも返りたいと願う。

それが実行できたのはきっと、そう思う心と同じくらい、その環境も大きかったからなんだろう。

 

連続した日々の中の一日。

それがその日だった。何ともない日。ただ普通に過ごそうと思えば過ごせる日なのに、、ふっと襲った感覚にクラウドの目は宙を彷徨った。

「どうした?」

そっとそう言われて振り返る。そこには不思議そうなセフィロスの顔があって、それはとてもクラウドの心を安心させた。

「ううん、何でもない」

そう言って笑ったものの、何だかクラウドの心は落ち着かない。

セフィロスの顔を見て安心したというのに、である。それは実際とても矛盾した感覚だったが、どうにも拭うことは叶わなかった。

つい何時間か前からこのセフィロスの部屋にいて、二人はいつものように他愛無い会話をしていた。それは本当に何でもない話で、訓練の話やミッションの事や、もっと軽い食べ物の話だったりで、とてもクラウドを妙な感覚にさせるものではなかった。

「何か悩みでもあるのか?」

そう聞かれて、クラウドは答えにつまる。別に悩みというわけじゃないだろう。違うけれど、セフィロスにしてみればそう見えるのだろうか、どうも心配そうな顔をしている。

「本当に何でもないんだ」

そう言って、もう一度笑う。

「そうか。良かった」

ふっと息を吐くような笑いを見せてそう言ったセフィロスは、本当に安心したような顔をしていた。それを見ると、何だか悪いという気がしないでもない。

何でもない―――――という訳では勿論ないのだから。

しかしクラウド自身にもその感覚の意味など理解できていなかった。

ただ――――――ただ何となく、ふと思ったのだ。

念願だった神羅に入り、隣にはセフィロスがいてくれて、一見すれば申し分のない環境。成績もそこそこ良く、さして問題もない。

何一つ不自由もなく、申し分のない生活。

それは満足こそすれ、不満など感じるはずの無いものだった。

けれど、ふっと、それらが全部無かったらどんなに楽だろうか―――――何となく、そう思ったのだ。

それは例えば、まだ何も知らなかった頃。

それは今思うと、とても楽だったと思う。何かが自由だったと思う。

今のように全て欲しいものが手に入るわけでもなく、知りたいことすら知れなかったというのに、何故かそう思う。

だからふと、故郷ニブルヘイムを思い出したのだ。

何となく、帰りたいと思ったのはそのせいかもしれない。

けれど、それは勿論無理な話だった。神羅は生活全てを面倒見てくれるシステムだし、年に何回かある帰省のチャンスも時期ではない。それに、その時期に帰ったとしてもそれは何だか違うような気がした。そういうふうに、行事に則って帰りたいという訳ではないのだ。

何となく―――――――――そう、今、帰りたい。

一時的ではなく、逃げる訳でなく、真っ白な状態に戻るために。

そんなふうに思考を彷徨っていたクラウドの耳に、またふっと声が聞こえた。どうやらセフィロスがまた、心配げにしていたらしい。

「ごめん…折角一緒にいるのに」

そう言って慌ててクラウドは謝ったが、今度はセフィロスもすぐには安堵の表情を向けはしなかった。

「どうしたんだ、クラウド。本当に何も悩みは無いのか?」

「うん…悩みっていうか……」

悩みなのだろうか、と思う。悩みというよりも、もっと大きな感覚のような気もするし、魔が差すという言葉のような刹那的なもののような気もする。

良く、分からない。

クラウドは少ししてから全く違う言葉をセフィロスに返した。

「あのさ…セフィロスは今の生活に満足してる?」

「どうしたんだ、突然?」

セフィロスは驚いたような顔をする。それは、クラウドが満足していないのだろうかという危惧を表しているようにも見えた。

「あ、いや…違くて。何となく、聞いてみたかったんだ」

「…そうか…」

少し訝しんだ様子でそう答えたセフィロスは、少しした後にこう答える。それは勿論本心だった。

「お前がいればな」

クラウドの口は“ありがとう”の言葉を言おうと僅かに開いたが、何故かそれは音にならなかった。視界には、馴染み深いはずの部屋が、鮮明に映し出されていた。

 

 

 

起床予定の時間を大幅に過ぎて、クラウドはやっと身を起こした。

窓からは朝日が差し込み、一日の始まりを告げている。

けれど、いつものように準備を進める気には到底なれなかった。

暫く部屋を眺めていたクラウドは、それらを目に焼き付けた後に、ふっとベットの下をゴソゴソと探り始める。

「確か此処に―――――…」

ベットの下には、神羅にやってきたばかりの頃の荷物が押し込まれるように入っていた。与えられている部屋はさして広くはないから、こういうものはすぐに仕舞っていたのだ。

これを取り出すのはもう何ヶ月ぶりだろうか…一年は経っているかもしれない。そんな事を思いながらクラウドは大きなバックを取り出した。

「懐かしいな…」

開けると、中にはその頃のままの荷物が入っていた。それを見つめていたクラウドは、暫くした後に、それをそっと閉じると、さっと肩にかけた。

―――――――行こう。

何故そう思ったのか不思議だったが「行くこと」が正しいことのような気がしていた。その心の中では。

けれど行くあてがあるかというと、そういうわけではない。この突発的な感情の意味など分かるはずもなかった。

神羅を抜け、出てはいけない領域にまで足を踏み出す。

普段規則が敷かれている神羅の中で、これはしてはいけない事の一つだった。何故、生活全般の面倒を見てくれるのか…それは一種の取引のようなものである。その代わり、神羅に尽くせ、とそういう取引。

ソルジャーになるまでの間が一番キツイものであること、それは周知の事実でもあった。

いつも同じ景色、いつも同じ色、そればかりを見て過ごす。その生活の向こう側には、神羅に入る前までには確かに知っていた景色や色が広がっているのだ。

それは、いつしか失っていたもの。大切だったもの。

けれど今の生活の中には無い色だった。

 

 

 

なけなしの金でミッドガルを囲む列車に乗り込む。

この列車は機械で色々と判別されるのでかなり危険であることを知っている。だからほんの少しの距離だけを乗り、すぐに降車する。ある程度まで行けば、最初にミッドガルに訪れた頃の記憶を頼りに、逆に辿っていくことができる。

どこからかスラムに降りられるはずだ―――――そう思ってクラウドは降車した後にキョロキョロと周囲を見回した。周囲はまだミッドガルの綺麗なところしか見えない。

道行く人々は誰もクラウドを振り返ることなく歩き去っていく。それをチラチラ見ながらクラウドはさっと歩いていった。どこかで聞かなくては―――――。

そう思うが、神羅の服の上に上着を軽く羽織り、肩から大きなバックを下げているクラウドはいかにも場違いで、何だか相手にしてもらえるような感じではない。

誰か―――――――そう思って周囲を見遣る。

流れる人の群れが、何だかとても無機質に目の中で蠢いていた。

「君」

ふっと声をかけられて振り向いてみる。すると、当然ながらそこには見ず知らずの人が立っていた。歳はもうかなりいっているようだ。白髪に皺が刻まれた顔。そんなに悪い人間ではなさそうである。

「どうした、道が分からないのかい?」

そう聞かれて、クラウドは素直に首を縦に振った。

「どこに行きたいんだい?」

「スラム」

「…スラムに行きたいのかい?」

クラウドはもう一度頷いてみせる。スラムに行きたいというより、その先の「外」に出たいのだ。しかしそれは告げずにいると、その人は「じゃあ」とクラウドの手をとった。

一瞬、ビクリとして手を引っ込めてしまったが、その人があまりに柔らかく笑うので、クラウドはそっと手を戻し、その人の手を握った。

「おいで」

そう響く声も優しく、何だか思い出されるものがある。

けれどそれを振り切るように首を振ると、クラウドはゆっくりと歩き出した。

そうして手を握り、笑う人を知っていたけれど―――――。

 

 

 

今の生活に満足してる――――――?

そう言ったクラウドを思い出して、セフィロスは目を伏せた。

何故あんなことをいきなり言い出したのだろうか。悩みがあるのかと聞けば「何でもない」と言われるだけで、結局何を思っているのか分からない。しかしそうした事を考えていて、ふっとある可能性にセフィロスは辿り着いた。

もしかすると二人の時間に何か不満でもあったのだろうか。

そうだとしたら何とかその思いを解消してやりたいと思う。しかしクラウドはきっとそれを口に出すことはしないだろう。

それとも――――――…一般的な悩みだろうか。

兵士という何でもない仕事。今の神羅にとってみれば一般兵というのは確かにそのものずばり何ということもない。これが戦争中であれば、命であるとか、考えるべきこともあるだろうが、クラウドは違うのである。

しかし、クラウドの置かれているこの時期というのは、色々と悩んだりするらしいと聞いたことがあった。勿論普通の人間と違う道を進んできたセフィロスにとっては、それも少し分かりかねる感覚である。が、もしそうならそれもやはり力になりたいと思う。

しかし、その本人が口を閉ざすのであれば、それさえもできない。

「セフィロス」

呼ばれてセフィロスは振り返った。するとそこには、珍しくザックスとは違う男が立っている。そういえば少し前からメンバーが変わったのだった。いつもザックスと組んで仕事をしていたセフィロスだったが、それは特に決まっているわけではなく、基本的にはランダム選択される。

ザックスとは違って真面目一徹のような男が、今セフィロスと共に行動している男だった。お互い喋ることが少ないので、大体仕事の話しかしない。

「指示が出ました。今日はスラムだそうです」

「そうか」

短く答えたセフィロスは、立ち上がって息をついた。スラムといえば大体は退屈な仕事である。一応は治安維持部門下のソルジャーなのだから、やはり「治安」の「維持」という仕事があるが、これは簡単にいえば監視だった。

神羅に忠実であれば良し。

そうでなければ排除。

何がどう治安維持かも良く分からないが、つまりはそういうことなのだ。神羅にとっての治安維持、とでもいおうか。

とにかく今日の仕事は退屈か―――――そう思いながらセフィロスは一言こう告げた。

「車を出してくれるか」

男は「はい」と返事をすると、いくつか駐車しているトラック大の車に乗り込んだ。元々指示待ちで、どこかに行くだろうということは分かっていた。だからこそ今まで、こんな埃臭い駐車場などにいたのだ。

とにかく車に乗り込むと、

セフィロスは隣で運転をする男をチラと見遣った。確かこの男もかつては一般兵だったな、そう思いながら。誰しもが悩みを抱えるという時期をこの男も体験したのだろうか。

だとしたら何かヒントがあるのかもしれない。

何故かそんなことを思い、セフィロスはふっとその男に話しかけた。ほぼ仕事の話しかしない二人にとっては、それは本当に珍しいことであった。

「お前、今の生活に満足してるか?」

あの日クラウドが言った言葉をそのまま投げかけてみると、男は、少し不思議そうな顔をした後にこんなふうに返した。

 

 

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