訓練生のシミュレーション室があるように、ソルジャーにもシミュレーション室があるらしい。それはソルジャー専用で、シミュレーションとはいっても訓練生のそれとは比にならぬ内容で、だからその設備は全く違う。どう違うかといえば、外での実践を知っているだけにソルジャー専用のシミュレーション室にはこれといった道具が無いのである。だからいかにも簡素な空間といった感じ。

そこに案内されたクラウドは、セフィロスから渡された長く綺麗な本物の剣を手にしていた。自分の剣を持たないクラウドにセフィロスが貸してくれた剣なのだが、正宗とは違うとはいえさすがにそれもズッシリと重みがあり、刃先などは良く切れるように光っている。

「良し、では此処でやるとするか」

そうしてセフィロスは、中央から少しズレた場所で立ち止まりクラウドを振り返った。

セフィロスの後についていたクラウドは、セフィロスが立ち止まったそこから約3メートル離れた場所でピタリと動きを止めると、

「此処だね」

そう言って剣を構える。

とうとうこれからセフィロスと―――――――勿論、死を思わせるような真面目なものではないが、そんな緊張感はクラウドの中にピリリと走っていた。

が、緊張感ずくしのクラウドの目前でセフィロスは、こともあろうか愛刀の正宗をすっと床に置いたりする。しかもその上、腕などを組みだした次第…これは一体どういう意味か。

ヤル気など、やはり無いのだろうか。

「何だよ。何で剣置くの」

思わずクラウドはそう文句を言う。折角自分が緊張感まで走らせて真面目に対峙しているというのに、まるでヤル気がないようなその態度は、やはり少しカチンとくる。

そんなふうに言うクラウドに、セフィロスはふっと笑いを漏らすと、今までのぼんやりした雰囲気を一転させて「英雄の顔」になった。

そして。

「―――――――剣がなくとも、俺は平気だ」

「え…」

「クラウド、俺は断言できる。お前と対峙する上で俺は剣無しでも楽勝だとな」

「なっ…そんな!」

その言葉はまるでこう言っているようだった。

“俺に敵うはずがない”、と。

しかしそれは実際本当の話であり、クラウドもそれは重々承知であった。ただ、こうして対峙するに当って剣を構えるというのは礼儀であり、どれほど力量の格差があろうと形式的には馬鹿にしてほしくない部分でもある。しかもさっきは「正宗で相手をしてやる」と言っていたのに。

それをそんなふうにするだなんて、クラウドにとっては、こうして対峙していることすら単なる情けだというふうにしか思えなかった。

だから、何だか腹立たしい。

「何だよセフィロス!それって俺のことすっごい馬鹿にしてるだろ…っ」

「ああ、そうだ」

「そうだ、って……」

あっさりと肯定されてしまった事に、クラウドは呆気にとられた。

英雄の顔をしたセフィロスは、腕を組み不敵な笑みを漏らしながら低く笑う。

「良いかクラウド。所詮お前は俺には敵わない。敵うはずが無い。俺はそれを理解した上でお前と対峙しているのだ」

「じゃあセフィロスは本気でやってくれないのかよっ」

「当然だ。何故なら俺が本気を出せば―――――お前は確実に、死ぬ」

「……」

尤もだ、そう思ってクラウドは口を閉ざした。

それを望んでいても、実際そうされたら確実に自分は死ぬだろう。それは嘘じゃなくて本当の話である。

ただこうしてセフィロスほどの人とシミュレーションとはいえ対峙できることは、クラウドにとって大きな収穫だというだけであって。

「残念ながら俺はお前には死んで欲しくないのでな、だから本気は出さない。但し、それは攻撃に於いてだ。防御の点に於いては本気を出そう」

「防御…じゃあ俺は、セフィロスに向かってって良いんだね。本気で」

「ああ。来い」

満足そうにそう頷いたセフィロスを見て、クラウドはやっと納得をした。本気を出さない、それはセフィロスからの攻撃の点においてであり、セフィロスからの攻撃はほぼ無いと見て良い。剣を床に置いている時点でそれは判断できる。だからクラウドがそれなりの攻撃をしかければ、セフィロスはそれに対する防御に於いては本気を出すという具合。

まあまあ悪くない。とにかく攻撃が繰り出せないということはないのだから。

そう思い、クラウドは改めて剣を構えた。

そうして、頃合を見計らって一歩を踏み出す。

最初の一歩は最初の攻撃のための大事な一歩であり、これはかなり重要である。セフィロスに向かっていくその一歩の間、クラウドは数時間前のシミュレーションの事を思い出していた。

最初の一撃は、相手の力量を測るための小さな一撃――――――そんな事を言っていた教官。けれどそれはやはり、クラウドには納得できかねる配分だった。

だから最初の一撃も、精一杯の力で切り込む。

ザッ…!

そう空を切る音が響いて、セフィロスがその攻撃をかわしたことを知る。

「上手くないやり方だな、クラウド」

そう笑んで言うセフィロスを視界に入れながら、クラウドは舌打ちをして二度目の攻撃をしかけた。

ザザッ!

「また…っ!」

二度目の攻撃もまた、セフィロスはすんなりと交わしてしまう。ヒラリと舞うようにすっと身を交わすセフィロスは、まるでクラウドの剣を読んでいるかのようでもある。

確かに二人の間にはスピードの差もあるわけで、いくらセフィロスが剣を持っていないとはいっても交わされるのは当然のように思える。しかしだからといってかすりもしないというのは、やはり腹立たしい。

真横あたりをセフィロスの銀髪がすっと過ぎったとき、耳元で何かが囁かれた。

「…俺が勝ったら、やらせろよ…」

「なっ…!」

何言ってるんだ、こんな時に―――!

かあっとなったクラウドは、非常識!、などと叫びながら攻撃を繰り出す。一振り、二振り、三振り……縦横無尽に繰り出してもセフィロスの残像を斬るだけで、どうにも実像を捉えることは難しい。

セフィロスはスイスイと姿を消しては現し、そうする上で笑みまで漏らし、報酬が無ければ戦いなどするか、などと言う。

なるほど、道理でこんな戦いを了承したわけである。というか自分から切り出したんだったか。

ただただ繰り出すだけのクラウドの剣は、ビュン、と空を切っては無意味に手元に戻ってくる。手応えが全く無い…訓練生同士のシミュレーションだったら確実に手応えがあるというのに、それくらいの力量はクラウドも持ちえているのに――――――それはやはりセフィロスが相手だからだろうか。攻撃をしない防御だけの戦い方とはいっても、訓練生のそれとは確実に違う。

「…クラウド、少しは配分を考えた方が良い。ほら、お前はもう息が上がっているだろう」

しっかりした声でそう指摘され、クラウドははっとした。

確かにそうだ、気が付けば自分は疲れている。いつの間にか肩で息をしているその事に気付いたクラウドは、そう指摘したセフィロスが「配分」の事について口にしたのが悔しくて、唇をかみ締めた。

ヒュン、そう剣を繰り出しながら、クラウドは叫ぶ。

「セフィロスまで配分配分って…そんなの俺は嫌だ!!」

「ほうほう、それはまた…忠告に躍起になるとはどうしたことか…?」

「俺は!戦うのに全力出さないで相手窺うなんて嫌だ!いつだって全力じゃなきゃ俺は嫌なの!」

そう言いながらブンッ、と大振りに剣を振るクラウドに、セフィロスは「そうか」と呟いた。そして何を思ったか、クラウドの剣を避けながら後ろに飛び去ると、床に置いてあった正宗にさっと手を伸ばしそれを持ち上げた。

「正宗?」

クラウドの眼にもそれははっきりと映る。

そしてその次には、正宗をゆっくりと構えるセフィロスが映し出された。

「…お前の意志は良く分かった。ならば俺も剣をもって防御しよう」

「剣…」

防御というからには、剣を持ったとしても今まで通り攻撃はしないということだろう。どうしてそういうふうになったかは分からないが、とにかくクラウドは今まで通り剣を振り攻撃をすれば良いのである。

それを思ってクラウドは、正宗を手にしたセフィロスに向かっていった。セフィロスはその場を微動だにせず、ただ正宗だけを構えている状態。いつもだったらば攻撃の為に身体に対して真横に、そして地面に対して平行に正宗を構えるセフィロスが、その時は自分の身の前にすっと横一線で構えていた。

縦に振り下ろせば、素直にその真横の剣に防御される。ならば横に斬るか―――セフィロスは長身だから剣を構えている位置がクラウドの剣の位置よりも高い。だから地面から構えられた剣までの間を、横または振り上げる形で攻撃すれば、あるいはいけるのではないか……そんな事を考えながらクラウドはグッと一撃を繰り出す。

迷った末、振り上げる形を取ると、剣は地面間近から天井に向けての軌跡を描いた。

しかし。

「甘い!何故もっと詰め寄らない?下から切り込むならもっと屈め。その上で最後の一歩を踏み出して攻撃だ」

クラウドの一撃を剣で止めたセフィロスは、止めた剣をグイと押しやって跳ね返すと、幾分強い声でそうクラウドに言った。

「何だよっ」

突然のことに驚いたクラウドは、思わずそう口に出す。先ほどまで交わすだけでまるで遊んでいるようにしか見えなかったセフィロスが、何故だかそうして教官のようなことを言い出してくる。まあ教官から比べるとセフィロスの方がかなり荒いが。

「自分の剣の動きばかりを追うな。相手の動きを見ろ。じゃなければ殺られるぞ」

「動きったって…セフィロス、動いてないじゃん!!」

「それはお前が俺をこの場から動かすだけの攻撃をしていないという事だ。動きとは予測。俺が次にどう動くかという事を念頭に置くことこそ動きを読むという事だ。一回の攻撃で全てが終わると思うから相手の次の動きが読めないんだ」

「この…やろー…」

カン、カン、カン、と剣のぶつかりあう音が響く中、セフィロスは淡々と戦い方についてを述べる。クラウドはそれを聞きながらも実行に移すということがなかなか出来ず、今まで通りの攻撃を繰り出すだけだった。悔しいとは思うが、ただ、何となく配分がどうのと言われたときよりかは幾分分りやすい気がした。というより納得はできる気がする。

「一撃必殺の技とは動きを捨てた攻撃でもある。つまりはそれで決めなければ全てが無だ。今のお前は一撃必殺というほどの技を持ちえていない、しかしそれは逆にいえば動きの読みが完璧であれば交わすことも攻撃することも可能ということだ」

「読み…」

セフィロスの動きはといえば、クラウドの剣を交わすだけの小さな振りだけである。しかしそれは目に見えている動きであって、セフィロスが言う動きとはその先の対処であるという。だからクラウドの剣を交わしたその後にセフィロスがどう剣を動かすか、それを読めというわけである。しかしそれにしても連続して剣を繰り出している自分の方がいっぱいいっぱいで、それを避けるセフィロスの方に意識をしてしまったら今度は自分の振りがしっかり的を得ているかどうかが不安定になってしまう。

カン、カン、カン――――――

このままではいつまで経っても終わらない気がする。

と、その時…ふとセフィロスの口が笑った。そしてその口が、こともあろうにこんな事を言う。

「――――――愛してるぞ、クラウド」

「へ!?」

何なんだ、いきなり!?

そう思って一瞬クラウドの剣の動きが歪んだ。今まで規則通りに左右を往復していた剣が、その規則から外れた動きをしてしまったのである。

 

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