我武者羅!

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戦いには配分が必要だ、そう教官は言う。

その配分というのは、力の配分のことであり、ひいては体力の配分のことでもある。

最初の一撃は相手を見定める為の小さな攻撃。

その次の一撃は相手の攻撃を受けた上での中間攻撃。

相手の防御、攻撃の度合いを見定めた最終の攻撃は、目に見えない力があることを念頭において八割の力で攻撃しろという。

「相手との力が互角な場合、この配分がものを言う。良いか、力を出し切ってしまったらそれが最後と思え」

脳有る鷹は爪を隠すと言うだろう、そう付け加えて教官は配分がいかに大切かを説く。教官の話に耳を傾ける訓練生はおおよそ50人、その誰もが頭の中で、配分を考えた戦闘シミュレーションをしていた。

ただし、確実に一人だけは違っていた。

―――――――――違うよ、それは。

「……」

退屈に近いその有り難い話を聞いていたクラウドは、納得しているだろう周囲の仲間を見やって心の中でそう呟く。

クラウドにとってその教えは、有り難くても納得がいかない。

例え自分が戦闘経験浅い身であっても目前の教官が滅法強いとしても、それでもその教えはやはり頂けないのである。それが何故かといえは、そういう考えがクラウドの中のご法度に近い考え方だったからだろう。そのご法度に近い考え方とは何も戦闘に関してというわけではない、そうあらゆる物事の考え方としてタブーなのである。

だからこそ尚更納得などできない。

「一斉シミュレーションを行なう。移動するように」

納得いかないままにそう言葉が響くと、クラウドの周囲はザッと勢い良く立ち上がった。今聞き学んだ戦闘配分についてを実践しようと、周囲はすっかりヤル気なのである。それを横目でチラリと見遣ったクラウドは、誰にも気付かれぬように小さく嘆息すると、周囲から大幅に遅れて立ちあがった。

勿論ヤル気は無かった。

 

シミュレーションは二人一組。

移動したその教室のようなシミュレーション室でおおよそ50人が、ランダムに相手を組まれ、その選ばれた相手と対峙していた。

武器は実際に使われる剣ではなく、それと同等の作り物である。このシミュレーションではどんなに力を尽くして戦っても実際に人を殺めることはできない。此処でそのようなことが起こってしまえばそれは単なる共食いでしかなく、単に要員を減らすこととなってしまう。大切な神羅の兵士であるからと、そういう配慮がそこには込められている。

が、それもいわば「甘さ」だった。

何しろ此処で行ったシミュレーションを実際の戦いに生かそうとすれば、絶対に誤差が出てくる。その誤差とは、実際の剣を使う場合と作り物の剣を使う場合での重みの相違のことだ。それは剣そのものの重さでもあるし、戦闘に於いての緊張感というプレッシャーの重みでもある。

戦闘のエキスパートを育成する上で、そういうギリギリの何かが欠けている…クラウドはそう思う。もしこのようなシミュレーションをするならば、それは実際の戦闘を想定して絶対的な緊張感が必要だというのに。

「クラウド、はいよ」

シミュレーション用の剣を持ってきた相手が、クラウドにそれを寄越す。クラウドはそれを無言で受け取り、そしてその重みを確かめた。まずまず重量はあるものの、やはりどこか違う。

つう、と刃先に指を当ててみたが、血などは全く出る様子がない。

「全く…」

クラウドは呆れながらそう息をつくと、一緒にシミュレーションをする相手を振り返った。

「じゃ、いこうかな」

身構えてそう漏らしたクラウドに、相手は「はあ?」と素っ頓狂な声を出して顔を顰めた。

「まだ号令かかってないぜ、クラウド」

「そんなの関係ないね。敵が出てきたとき、誰か号令かけてくれるわけ?そんなの待ってたら死んじゃうよ」

そう言って笑ったクラウドは、チャキ、と剣を構え、そして早々に動き出した。相手が「わ!馬鹿!やめろ」とか何とか言いながら剣も構えずに逃げの体勢に入っていることもお構いナシで。

そしてクラウドが相手の身体に剣をズシャッと当てようとしたその瞬間、その部屋には死ぬほど大きな怒鳴り声が響いた。そのおかげでクラウドは、当てるはずだった剣をスカッと外してしまったほどだ。

「いい加減にしろ、クラウド・ストライフ―――――――っっっ!!!!」

―――――――それは、教官のお叱りの叫びだった。

 

 

 

シミュレーションから数時間、ずっと説教だけをされたクラウドは、すっかりムッツリとしていた。教官と二人きりでシミュレーション室の脇にある道具部屋に篭り、ガミガミガミガミと叱られる。

いつもお前はそうだ、とか、何で規律を乱すんだ、とか、大体その説教パターンは一緒だった。何を隠そうクラウドはそうしてもう何度も説教をされていて、はっきり言えば教官との説教タイムも慣れっこである。最初はそれこそ「だって俺は」と反論もしたものだが、最近ではそれがいかに無意味かということを 悟ってそれさえもしない。

だから黙って教官に怒られながらも、クラウドは心の中だけで反論をするようになっていた。

そんな退屈な説教タイムの間、他の訓練生はシミュレーション室で例のシミュレーションを続行していたようだが、ソレも何だかクラウドにとっては馬鹿らしかった。規則正しく響く剣の音は、カン、カン、カン、と三度続き、回を追うごとに強くなっていく。

それはいかにも「配分」を意識している音だった。

――――――――馬鹿みたい…。

そう思う他無い。

とにかくそんな時間を終えたクラウドは、ムッツリな表情を残したまま勤務時間を終了し、アフターをセフィロスの部屋で過ごしていた。

大体訓練という名の勤務が終わると、クラウドは此処にやってくる。

そして例の如く……こういう会話を始めるのだ。

「大体さ、オカシイんだよね。シミュレーションとかいって全然意味ないんだもん。それなのにヤル気なんかになっちゃって何の習得もできやしないってのに、絶対変だよ。オカシイよ。でしょ、セフィロス?」

「ふーん…」

和やかなセフィロスの部屋で、弾丸のようにそう愚痴を振りまくクラウド。その横で大体セフィロスは興味なさそうに雑誌などをパラパラしていた。

「ちょっとセフィロス、聞いてる?」

あんまりにもセフィロスがどうでも良さそうな声を出すものだからクラウドはそうして確認などをする。ついでにセフィロスの見ている雑誌を覗き込んでみると、そこには…。

「……」

―――――――――“最高の夜の為に!ラブ・シチュエーションBEST10”。

……何の参考になるんだ、何の!

「もうっ!こんなの読んでる場合じゃないだろ、セフィロス!!」

グワッと雑誌を取り上げたクラウドに、セフィロスは「あ。」とか何とか言っている。更には今が良いところだったのに、などとブツブツ文句まで言う。

「俺は真面目に言ってるんだから少しは聞いてよ。いっつもこうなんだから!」

そのクラウドの言葉は尤もだった。

クラウドはこうして良くセフィロスの元にやってきては愚痴を言っていたものだが、セフィロスときたら大体こうして雑誌を読んでいたりテレビを見ていたり、あろうことか隣でコクコクしながら眠ってしまう時まであって、さっぱりクラウドの言うことを聞いていない様子なのである。勿論クラウドとて完璧に慰めて欲しいとかそういう訳ではないから、単に話を聞いてくれればそれで良い。たったそれだけなのに、どうも駄目なのだ。

これがあの神羅の英雄か、と疑う時すらあるのは言うまでもない。

「……クラウド、そんなことより実践だ」

雑誌を取り上げられてからブツブツ言っていたセフィロスは、少ししてからそんなふうに言葉を放った。その顔はいかにも真面目であり、まるで先ほどまでの態度と違う。

「え?」

「そんな愚痴を言う暇があったら実践をすべきだ」

もう一度そう言われてクラウドは、言葉を返せなくなった。

それは―――――セフィロスの言う言葉が、自分の気持ちと一致していたからである。

先ほどまでまるで自分の話を聞いていないと思っていたセフィロスだが、どうやらそれは違ったようである。雑誌などを見つつもしっかり聞いていたらしい。

クラウドは、シミュレーションなどをするよりも実践をすべきだという自分の考えが正しかったことを知り、何だか感動すら覚える。何しろ一緒に訓練を進めている訓練生はそんなことをまるで考えてないらしく、教官の言葉に従うだけなのだ。

セフィロスの言葉に思わず嬉しくなってしまったクラウドは、そうだよね、などと言って笑顔になる。分かってくれる人がいて良かった、そう思いながら。

―――――――が。

「さ。実践だ、クラウド。そうと分ったらベットに急ぐぞ」

「――――――は?」

何故にベット?

思わずクラウドは目が点になる。

しかしセフィロスは、当然だといわんばかりにこう言った。

「実践するんだろう、ラブ・シチュエーションを?」

「……」

「やはりBEST1を実践すべきだな。あれは意外と簡単そうだったぞ。他にも薔薇風呂なんかがあったが、それはな……。――――――ん、どうした?」

「……あ〜の〜ね〜!!!」

―――――――クラウドの怒りがマックスになったのは言うまでもない。

まさか実践をすべきだという言葉が、例の雑誌のラブ・シチュエーションの実践だとは思ってもみなかったクラウドは、すっかり勘違いして感動すらしてしまった自分が情けなくなった。しかも「そうだよね」なんて言葉まで放ってしまったのは本当に不覚である。

もう怒った、そう言って立ち上がったクラウドは、セフィロスを見おろしてこう言い放つ。

「俺は真面目な話をしてんの!それなのに何でこうなんだよ。どうして皆そう分らず屋なんだよ!」

同僚もそうだし、教官もそう。ひいてはセフィロスまでもが分らず屋だなんて本当に腹立たしい。誰一人としてクラウドに共感してくれる人がいないというのは、これはどうにも許せなかった。たった一人くらいは真面目に話を聞いてくれるものかと思いきや、それさえもない。これはもうクラウドにとってはやりきれない事実であった。

そうしてクラウドが真面目に怒りを爆発させている姿を、セフィロスはじーっと見ている。クラウドの怒りが確実に効いているという感じではないが、全く効いていないという感じでもない。

そんな様子のセフィロスが口を開いたとき、その口から出た言葉は少しクラウドを驚かせた。

「本当の戦いをしたいなら、俺とやってみるか?」

「え…?」

「お前は本当の戦いでなくては意味が無いというのだろう。神羅のアホなシミュレーションよりかは俺とやりあう方がまだマトモだと思う。…なんなら相手をしようか?」

「セフィロスと…」

それは確かに、クラウドにとっては願ってもみないチャンスだった。あんなミュレーションをするよりかは確実に実力アップが図れるだろう。

けれど良く考えてみればそれは、あまりにも危険な話である。

例えシミュレーションと同じ意味合いの戦いをするとはいっても、相手がセフィロスである場合それは少し違ってくる。今までの訓練生相手というのとは全く違うのだ。いくらクラウドにとって願ってもみないチャンスとはいっても、100%の力を出したところでビクともしないだろうと思われる…それがセフィロスである。だからある意味ではシミュレーションにならないかもしれない。

「正宗で相手してやろうか?」

追い討ちをかけるようにそう言ったセフィロスに、クラウドはゴクリと唾を飲み込む。

正宗、それはつまり本物の剣で、ということである。あのシミュレーションなんかとは違う。

セフィロスはそんな恐ろしい言葉を放っているわりにはどうもぼんやりしていて、あまり緊張感は無い。しかしそう言われたクラウドの方は言葉の重みだけに緊張感を走らせていた。

――――――――そうして、クラウドが出した答えは。

「…うん、お願いします!」

クラウドはグッと拳を握ると、強くそう言ったのだった。

それでもやはりセフィロスは、どこかぼんやりしていて緊張感の欠片も無かったが。

 

 

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