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一体どこに息が詰っているんだ!? そう文句を言う為にセフィロスの元にやってきたクラウドは、その部屋の中で思わず呆気に取られた。 その部屋はセフィロスの仕事の部屋でソルジャーの兵舎の隅に位置している。とはいえそこにセフィロスがいるのは稀だと知っていたクラウドは、もしかしたらいないかもしれないと思いつつも怒りにまかせて自宅よりも近いその場にまず最初にやってきたのだ。 どうやらそのクラウドの願いならぬ怒りは無事セフィロスに届いたらしく、本人は珍しくその部屋に腰を据えていたりする。 がしかし。 その部屋で仕事に励んでいると思いきや、セフィロスは全然違うことをしていた。 だからクラウドは、思わず閉口する。 「クラウドか。どうしたんだ、一体?」 いきなりノックもなしにドアを開けられてそこに眼をやっていたセフィロスは、それがクラウドだと知ってそんな言葉をかけてくる。 しかし当のクラウドときたら、固まっていてすぐには言葉を発することはできなかった。 何故って。 「…何してんの、セフィロス…」 「ん?見て分からないか。観光ガイドを見ているんだが」 「か、観光…」 それを聞いた瞬間に、クラウドは気が遠くなるような気がした。 観光ガイド――――――――しかもその本には、ジュノンの歩き方、だとかなんだとか書かれている。というかジュノンに歩き方も何も無いだろうという気がしたクラウドだったが、それよりも何よりも、もう既に優勝を貰ったも同然のそのセフィロスの姿には驚きを隠せなかった。人はこういうのを確信犯と呼ぶ。…多分。 しかしセフィロスの方はといえば、クラウドがその我慢大会の詳細を知っているとは露知らずな状態なので、ふんふん、などと鼻歌まで歌っている始末。勿論、クラウドの怒りの原因など気付いてもいない。 ―――――――そんな楽しそうにしやがって…このやろう…!! 唐突に怒りがヒートしたクラウドは、つかつかつかとセフィロスの元まで歩いていくと、楽しそうに見ているその観光ガイド“ジュノンの歩き方”をザッと取り払った。そして、思い切りセフィロスに向かってこう言う。 「俺に対してすっごく失礼だろ、そんな楽しそうにして!!」 そう言ったクラウドにセフィロスは眼を見張って黙っていたが、その後にクラウドがザックスから事の詳細を聞いたことをつらつらと並べ立てると、ようやく何かを納得したように腕などを組んで「うむ」などと言い出した。 しかしそれすらもクラウドにとっては怒り、である。 何が「うむ」だ、何が!――――――そう心の中で叫ぶ。 しかしそんなお怒りのクラウドに対してセフィロスは段々と笑みを浮かべてきた。それはやがて、ニヤリ、というような笑いに変わる。 「何だよ、そのニヤリって」 クラウドがムスッとしてそう言うと、 「羨ましいんだろう、クラウド?」 そんなことをセフィロスは言った。 その的外れな言葉に更に怒りを爆発させたクラウドは、違うよ!と叫んで本音をばら撒く。本来ならそこまでの本音を曝け出すのは恥ずかしいと思うが、その時は爆発していた為にそんなことは考えられなかった。 そして、クラウドの本音はセフィロスに漏れなく伝わっていく。 「セフィロスは俺と一緒にいるよりジュノンの高級ホテルに有給使って泊まる方が楽しみなんだろ!?酷いよ!そんなに俺といると息が詰るの?それともつまんないの?じゃなきゃそんな息抜きなんか必要ないだろ!」 そもそもセフィロスなんかそんな事しなくても泊まれる立場じゃん、とか、そこまでして息抜きしたいならハッキリ言ってよ、とか、果てには、セフィロスは俺の事なんか本当は嫌いなんだ、という所までクラウドの暴言は発展した。 セフィロスはその暴言の数々をにんまりしながら黙って聞いていたが、その最後の言葉にはピクリと反応を示す。つまり、本当は好きじゃないんだ、という部分である。 それを聞いて反応を示したセフィロスは徐々に表情を険しくさせると、 「お前、さすがにそれは言いすぎだ」 などと制裁の言葉を発した。 しかしそれでもクラウドがまだ暴言を吐き続けたのでセフィロスはとうとう立ち上がり、クラウドの肩をグイと掴む。それは恐ろしいほどの力で、思わずクラウドに言葉を飲み込ませた。 一瞬にして静かになったその部屋の中で、視線だけがぶつかる。 その中で、セフィロスは静かにこう言う。それはクラウドにとっては衝撃的な言葉で。 「俺はいつでもジュノンに行ける身だ。はっきり行ってこんなものは必要ない」 「え…」 じゃあ何でそんな特典をわざわざつけたのだろう――――――。 そう思うクラウドに、セフィロスは「それに」と言葉を続ける。 「有給なんてものは俺の場合、申請すればそれなりに貰える。職権乱用だがな。…つまりこんな陳腐な特典は俺にとっては意味がない。簡単に手に入るものだ」 「じゃあ何で…?」 先程心の中で思った言葉を、クラウドはそう口に出して聞いてみる。そう問う先にある瞳は、とても強かった。肩を掴むその手の力同様に。 そしてセフィロスの口から齎された事実は、クラウドに後悔をさせる。 「お前、寒い間にどこかに行きたいと言っていたじゃないか。だからだ。だからこれを特典につけたんだ。お前の場合、俺が強行したとしてもこのホテルには泊まれないし有給とて自由にはならない。だがこうして特典として誰でも使えるものであればお前でも有効なんだ。分かるか?」 「え…あ、はい…」 思わず敬語になったクラウドは、一気に「どうしよう」という気持ちを膨らませた。 だってセフィロスは、自分の為にそれを特典として付けたというのだ。そうしようと思った原因もクラウドで、しかもその特典はクラウドの為に勝ち取るものだと、そう言うのだ。セフィロスはその我慢大会で自分が確実に優勝を得られると知っているからこそそこでそれを実現させたわけである。それこそ職権乱用だったが、それでもその理由を考えるとクラウドには何も言えない。 まさかそんな事とは思わなかった――――――そう思ったけれど、暴言を吐いてしまった今ではもう遅かった。 今更訂正なんてできるはずもなくて。 「お、俺…」 がっちりと掴まれた肩が段々と重く感じられる中、クラウドはそんなふうにどもる。何か言おうと思ってもそれはできない。例え言ったとしても全てが言い訳になってしまいそうな気がする。 とはいえ、実際そんなセフィロスの計画をクラウドが知る由など無かったのだから、それほど落ち込む必要性なんてどこにも無かった。だけどクラウドは、焦りの中にあってそういうことにすら気付いてはいなかった。 セフィロスはそんなふうにどもるクラウドをじっと見詰めたまま無言でいたが、暫くすると、じゃあ、と言葉を口にする。 「じゃあ、この話は無かったことにしよう」 「えっ」 思わず短い声を上げたクラウドに、セフィロスは特別救いの言葉も表情も作らずに、ただ淡々とその計画を白紙に戻すことを語った。そもそもこれはプラスアルファの特典で元はといえばセフィロスが強行してつけたものなのだから、無かったとしたらそれはそれで良いのだ、とセフィロスは言う。確かにその通りだ。中にはその特典を密かに欲しがっている者もいるから、そういえば彼らに二次的な特典として与えるのも良いか、などとも言い出す。 それを側で聞いていたクラウドは、何だか泣き出しそうな気分になってしまった。 確かに疑ったのは悪かったし、あんなに叫ぶことだって無かったかもしれないけど…でも、そこまで言わなくたって良いのに。 「それなりの費用を得ていたからな、それも上に返すとするか」 「……」 最早セフィロスの顔すら見られない状態のクラウドは、ただ俯いてそれらの言葉の降りかかってくるのをグッと堪えた。 しかしそうするのにも限界というのはやってきて、延々と続いていくセフィロスの言葉にとうとうクラウドは行動を起こす。 それはまず、肩を掴んでいたセフィロスの手を振り払うという行動だった。 「分かったよ」 クラウドはまだ泣き出しそうな顔をしながらもそう一言ポツリと言うと、セフィロスの顔を見ないままに「じゃあね」などと言う。これ以上聞いていたら本当に悔しくて泣き出してしまいそうだったから、だからもうこの場を去りたかった。例えこの場を去った後でセフィロスと気まずいままだとしても、それでも今は此処を離れたい。 そう思っていたクラウドのその行動を、セフィロスは一切止めることをしない。 「風邪をひくなよ」 クラウドの去り際にそう言ったセフィロスは、わざとなのだか、観光ガイドをバン、と床に投げつけたりした。 その音は去っていくクラウドの耳にハッキリと聞こえていた。
そんなことがあった翌日、クラウドはやはり廊下でザックスと遭遇し、未だに我慢大会のことを口にするザックスに曖昧な笑顔を浮かべていた。 どうやらザックスはまだ例の特典達を狙っているらしく、しきりと「セフィロスの奴、風邪でもひかないかなあ」なんて呟いている。 クラウドはそんなザックスに、それは無理だと思うよ、などと言ってザックスを一層切なくさせたものだが、ある特典に関してはこんなことを言った。 「でもザックス。もしセフィロスが優勝しても、ジュノンのホテルには泊まれるかもしれないよ。有給使って」 「へ?何でだよ?」 「…ううん、別に。何か、そう思っただけ」 「何だそりゃ?」 訳わからないけど慰めてくれてアリガトウ、などと笑ったザックスには、クラウドのその言葉の真意などさっぱり検討もついていない。何しろクラウドに我慢大会の内容を教えたのはザックスなのだから、もしクラウドがほぼ確定的にそれを伝えたとしてもザックスには到底信じることはできないだろう。 だからそれで良いや、そう思っていたクラウドは、ザックスに言ったその言葉の続きを心の中でひっそりと呟いた。 だってあの特典はもう、必要なくなったんだから、と。 しかし…しかし、である。 その時ザックスが、ふとこんなことを言い出した。 「しかしセフィロスの気紛れでその特典が回ってきたとしてもさ。俺、独りで行くのは何だかつまらない気がするんだよな、それ。かといって連れていく奴もいないしさ、ペアっていうのはどうも嫌らしいよな」 「え。ペア??」 何だそれは? 確かついこの間のセフィロスとの話の中では、そんなことにはなっていなかったはずだ。だってセフィロスはクラウドの為にそれを取ろうと思っていて、自分の分はきっと職権でいこうと思っていたのだろうから。 そんなふうに首をかしげたクラウドに、ザックスは「それがさ」と説明などをし始める。 「この前また特典が増えたんだよな。それがそのペアってやつ。最初は独り分だったんだけどさ、何だかペアになったんだよ。そのジュノンのホテルの特典」 「え…な、何で!?」 「さあ、な。まあ、セフィロスのことだから気紛れじゃないのか?けどさー、そんなもんペアにされたって誰と行くんだよ、なあ?」 そんなことを愚痴ったザックスは、突如顔をパッと明るくさせて、そうだ、お前一緒にいかない?なんていい出す。それは勿論ザックスがそれを取った場合の話だから現実味の点においては何だか微妙である。しかしそんな微妙で曖昧なものであったとしてもクラウドは容易に「いいよ」なんて言えなかった。 だって―――――何でペア?? セフィロスがその特典をペアにしたのは、時間の経緯からしてもクラウドと論争になったあの日以降の話だ。となると、その特典が付加されたキッカケとなりえるのは正にそこじゃないだろうか。 でも、かといってあの論争の後で特典をペアにしたというのは訳が分からない。クラウドへのあてつけみたいな物なのだろうか、勿論そんなことをされてはクラウドは立ち直れないけれど。 「もしかしてセフィロスの奴、誰かと一緒に行きたくなったんじゃ…」 深みにハマっているクラウドの隣で、よりにもよってそんなことをザックスが口にする。 「まさか、そんなこと無いよ」 思わず意気消沈してしまったクラウドは、覇気も欠片もない声音でそう言うと、そんな事ない、ともう一度繰り返したりする。 何しろもうわかっているのだ、それが確定されていることなんて。 セフィロスは「誰かと一緒にいきたくなった」のではなくて「誰かと一緒にいくことをやめた」のだから―――――それはクラウドだけが知っている事実だったけれど。 暫くその言葉の中で黙っていたクラウドだったが、ザックスと離れる瞬間にはこんなことを言った。 それは、少し痛いながらも、笑顔で。 「ザックス。その特典、貰えると良いね」
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