冬の我慢

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「ううっ、さぶ…っ」

「おい、大丈夫か?」

冷たい風が頬を撫でる中、クラウドはそう問われて「大丈夫だよ」などと笑顔で返す。

季節は冬。

もうすぐ雪でも降るのではないかと思うくらいの気温で、どれだけ着込んでも寒さが残るような感じがする。

まあ仕方無いか――――だって冬だし。

夏生まれのクラウドはどうも寒さが苦手で、毎年この季節になるとなんだか落ち着かない。夏はTシャツ一枚でも過ごせるくらいの気楽さだし季節的にも好きだけれど、この冬というのはあんまり好きではなかった。

寒いのもそうだけれど、何しろ何だか…ちょっとだけ、寂しい感じがするから。

「セフィロスは寒くないの?」

ふと隣を見遣ると、いつもと全く同じ格好をセフィロスがいる。夏でも冬でも同じような格好をしているものだから、クラウドは首を傾げてそんなことを聞いてみた。

何しろこの気温の中でセフィロスときたら、胸など肌蹴させているのだ。どう考えても尋常じゃない。

しかしそんなクラウドの疑問など何でもないように…というよりむしろ、クラウドのその疑問こそ疑問であるかのように、セフィロスは当然のようにこう口にする。

「別に」

「べ、別に…って。だって俺、ダウンジャケット着てるんだよ?セフィロスの格好、夏と変わらないじゃん」

どう考えても変なのに。

そう思うクラウドに、セフィロスはやはり当然のようにこう答える。

「ソルジャーたるもの寒さなど感じないものだ。俺の場合、昔から寒さとは無縁だがな」

「へ、へえ…」

―――――――――絶対オカシイよ、セフィロス。

クラウドはセフィロスの言葉にそう思ったけれど、それでもそれは口には出さずにおいた。セフィロスの口ぶりからするに、どんなに反論しようと反論で返されるのがオチであるのは分かりきっている。

まあセフィロスのようなガッシリした体型の人ならば、見ているコッチが寒い、なんていう気持ちも少しは薄らぐから良いかもしれない。これがもし、クラウドのように痩せ型の人間だったら、間違いなく見ている方が寒くなってしまうだろう。

当のクラウドといえば、タートルネックのニットにダウンジャケット、更にはマフラーまで巻いているという重装備である。

その二人が並んで歩いている―――――――どこからどうみても変。

やはりセフィロスという人は少しばかり普通の人とは違うのだろう、クラウドがそんなふうに思ってしまうのも仕方無い話である。

「……」

変なの、そう心の中で呟きながらクラウドは、隣のセフィロスの手にそっと己の手を伸ばした。その大きな手に自分の手を重ねて握ってみると、その手はひんやりと冷たい。

「へへ…」

寒さと無縁だと言ったセフィロスの手が冷たいと知った時、何となくクラウドは嬉しくなった。

冬は、寒くて寂しい感じがするからあまり好きじゃないけど―――――こうして繋いでいたら暖かい。それが嬉しい。こんな寒さだからこそそれが際立つのである。

どうせだったら、この寒い中、寂しさもなく暖かさに埋まりながらいれたらもっと良いのに。

そう思ってクラウドは、笑ってこう言った。

「寒い間にどこかに一緒にいきたいね、セフィロス」

 

 

 

ある日の午後、ふと歩いていた廊下でザックスとすれ違ったクラウドは、その姿を目にしてギョッとした。

ザックスの方はなんともなしにいつも通りの笑顔を浮かべて「よっ!」なんて言って来たが、クラウドの方は「よっ」どころではない。

何故って―――――――ザックスときたら、ノースリーブで歩いているのだ。

だからクラウドは、言われた「よっ」に軽い返事を返すことも忘れて、まずはその驚きなどを口にする。あんぐりと口を開けて。

「ザ、ザックス…その格好って、寒くないの??」

唐突にそういわれたザックスの方は、何でいきなりそんなことを言われるのか分からないといった調子できょとんとしていたが、取り合えずといったようにその言葉に返答した。

「ん、これか?あー…どうだろ。まあ寒いといっちゃ寒いけど」

「寒いの!?じゃあじゃあ何でそんな格好してんだよ!?」

セフィロスといいザックスといい、揃いも揃ってまったく意味不明だ。セフィロスは寒さと無縁だなんて言っていたけど、ザックスは寒いとハッキリ言うではないか。だったらそんな格好しないで欲しいとクラウドは思う。とはいえザックスも結構に良い体格をしているから見ていて凄く寒いということはなかったけれど。

しかしだからって…寒いならわざわざそんな格好しなくても良いのに。

そう思う。

しかしザックスは、カラッと笑いながらもこんなふうに言った。

「そりゃだってさ、寒いからって着込んだら体なまりそうだし。それに…まあ、ちょっとした挑戦をな、してんだな」

「挑戦???」

一体何の挑戦だろう。というか、そんなものに挑戦してどうするんだろうか。

クラウドにはさっぱりその挑戦が分からず、ハッキリ言ってしまえば、やっぱりザックスも変なんだ、なんていうふうに思った。だって明らかにおかしい。我慢大会でもあるまいし。

―――――――と、クラウドがそう思った瞬間。

何という事か、正にそのままの言葉が耳に入った。それが何かといえば、我慢大会というやつである。

ザックスは照れ笑いなどをして、実は…とその我慢大会についてを話し始めた。

「実はさ。毎年冬に我慢大会みたいなの、やってるんだよな。別に神羅とは関係ないんだけど、ソルジャーの中だけでやってんの」

「え…」

何だそりゃ??

クラウドは思わず呆気に取られる。

「そ…そんなことやってるの?だって風邪引いたらシャレにならないのに」

風邪をひきでもしたら任務もこなせないし、困った事態になるのは目に見えている。それなのに、肝心のソルジャーがそんなことをしているなんて、相当ワケが分からない。セフィロスやザックスのように体格が良いのならまだしも、ソルジャーとてそうじゃない人間もわんさかいるわけで、そういう人たちにとったらそんな我慢大会なんていうのは在りえない事態に決まっているのだ。

しかしその疑問を解決するべく、ザックスは笑顔でその理由を口にした。

そう、その我慢大会には―――――――理由があったのである。

冬の我慢大会といったら、やはり寒さに対する我慢だろう。寒さに対する我慢といったらやはり、この寒空の中どれだけ薄着で耐えられるか、となるわけだが、そのMAXというのは薄着具合とそれをしている期間にあった。

で、その我慢大会に勝つと特典があるらしい。

「まあバカみたいなモンなんだけどさ、我慢大会に勝つと成績が上がるわけよ。あ、成績ってのは任務なんかの成績のことな。で、成績が一定以上になると更新テストをパスできるわけだな」

「更新テスト?」

「そうそう。半期に一回あるんだよ、ソルジャーっていう立場が適任かどうかっていう見直しのテストがさ。それがまたダルいんだよな。色々面倒なこといっぱいやらされるんだぜ」

「へえ…」

そんなことは知りもしなかった。というか立場的にソルジャーではないのだからクラウドがそれを知らないのは当然だったけれど。

ともかくそういう更新テストのパスが結果的な特典となる我慢大会というのがあるらしく、ザックスはそれに参加している状態らしい。

ということはセフィロスもそれに参加しているのだろうかと、クラウドはそんな事を考えて首を傾げた。しかしセフィロスの場合は夏でもあんな感じなのだからあんまり関係ないような気がする。

と、そんな事を考えている時、ザックスは溜息を吐きながら実にタイムリーなことを言った。ジャストタイムである。

「でも絶対セフィロスには勝てないんだよな。ったく、あの人ズルいからな」

頭をポリポリとやりながらそんなふうに言うザックスを真正面から凝視したクラウドは、その言葉を聞いて、やっぱりセフィロスも参加しているんだということを知った。

しかも絶対勝てないというからには、ザックスよりセフィロスの方が上ということだろう。というか、そもそもそうわかっているところだけれど。

が、そのセフィロスの参加というのはどうも少し特殊だったようだ。

どういうことかというと、つまり――――――…。

「だってこの我慢大会さ、あの人主催だし」

「―――――は?」

「いや、だからさ。我慢大会はセフィロスがしようって言い出したことなわけよ。だからこそ成績が絡むような特典がつけられるんだよ。他の奴がそんなこと言ったって上が許さないだろうしな。まあ上と繋がってるから出来ることなんだよな」

なるほど、セフィロスだからこそそういう特典がつけられたというのは頷ける。

しかしともかく解せないのは、何でそんなことをセフィロスが始めたか、という部分だった。だってそんなことをしたって絶対勝つと分かっているセフィロスには、勝ったからといって嬉しいようなこともない。成績だって、そんなことをしなくても常に一定以上だろうから更新テストのパスどころか更新テストすら受けずに済むくらいの勢いだろう。

となると、セフィロスにとったら特典なんて一つもない我慢大会ということになる。

何でそんなものを始めたのだろうか…それはクラウドにとってかなりの疑問だった。

がしかし、ここでもまたザックスがタイムリーなことを言い始める。

「しかも今年さ、何だか特典がプラスアルファされてるんだ」

「え、それってどんな?」

「ああ、神羅経営のジュノン高級ホテル宿泊権」

…何だそりゃ!?

先程の更新テストパスとは随分と違うではないか。

思わずぽかんと口を開けたクラウドに、ザックスはせつせつと思いのたけを語ってくる。それは先程の愚痴のような意見と同様のことであり、またしてもセフィロスの関連することであった。つまりそう、どんなに特典が多くなったとしても勝つのは大体セフィロスなのであって、特典に眼が眩んで参加しても結局意味がないということである。その場合、大方の大特典は風邪であろうか。…空しい。

「そんなわけでさ、その高級ホテルに泊まれるんだって、今年の優勝者。しかも長期有給でそこに行けるんだぜ、おいしいだろ?けど考えてもみろって…絶対それってセフィロスが欲しいから付けた特典なんだぜ。ヒドイよな〜」

全く…などとブツブツやっているザックスの隣で、クラウドは何だか微妙な気分に陥っていた。セフィロスに大方の権限があるらしいその我慢大会、確かに今年その特典がプラスされたのは明らかにセフィロスが欲しいからだろう。しかし長期有給つきで高級ホテルに泊まりにいくだなんて、何でそんなものが欲しいのだろうか。

大体そういうものは旅行と同じものだから、息抜きというのと同じだろう。

となると…今は息が詰っているのだろうか。

「…なんだよ、それ」

そんなことを考え始めたら急に腹が立ってきたクラウドは、未だに愚痴を行っているザックスを残してサクッとその場を去っていった。ザックスが「おい」なんて言っているのも振り返らずに。

行き先は勿論、セフィロスの所だった。

 

 

 

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