不可解な存在

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「最近、クラウドと仲良くない?」

ザックスに突如かけられた言葉に、セフィロスは眉を顰めた。

「仲が良いだと?」

「だあってさ、しょっちゅう見かけるもんな。おたくら一緒にいるトコ」

「そうだったか…?」

人目につくほどに一緒に行動しているつもりは無かったが、第三者がそう言うならばそうなのだろう。

「あまり良くないな…」

立場上、そういう事態は好ましく無い。そもそも人と馴れ合うという事自体どうかとも思う。

「で、どうなのよ?」

ニタニタ笑いを浮かべながらザックスはそんなふうに聞いてくる。

“どう”とはどういう意味だ、と問いただすと、そりゃあねえ、などと言葉を濁す。

「誰をも傍に寄せ付けないと専らの噂のあんたがよ?よりによって一訓練生のクラウドなんかを許してるってえのはねえ…。ほら、何せ此処って男の巣じゃんか?」

「…それを言うなら、お前も良く話しかけてくるじゃないか」

俺は良いんだよ、と都合の良い解釈などをして、ザックスはセフィロスの腰部分に視線を投げた。

「あんたの腰を知ってるってのは貴重だよなあ」

思いがけない言葉に、セフィロスは思わず目を細めた。そして、先ほどのザックスの言葉の意味を理解して溜息などをついてみせる。

「お前の物言いには呆れるな、全く」

「そんな事言うけど、実際に良い憂さ晴らしだとか思ってんじゃないの?」

セフィロスを相手にここまで砕けた言葉をかけられるのは、ザックスくらいだろう。最初はいちいち腹立たしくもあったこの調子にも、今ではすっかり慣れてしまった。

クラウドはクラウドで、実力とは裏腹な態度が腹立たしくもあったが、それもいい加減慣れてきてしまっていた。

そう考えて、セフィロスはまた溜息を吐く。

「お前とクラウドは似てるな」

「そうか?」

思いがけない事を言われて、ザックスは微妙な顔付きになった。

ただ、一言だけ反論をする。

「俺の事は襲わないでくれよな」

がはは、と笑うザックスに、セフィロスは呆れて物も言えなかった。

 

 

 

事実、神羅の中ではそういう風潮がある。

そういう、というのは、ザックスが言っていたような事だ。

会社全体としては女性の存在もありはしたが、兵士関係になるとそれはまた別の話である。ソルジャーにななければ到底それは叶わないといっても良かったし、そもそも女とじゃれあう時間などありはしない。

それでも男としてごく自然な欲求は消えないらしい。

どうにかして性欲だけを満たそうとする。その風潮が、表に出ないとはいえ存在しているのだ。

何も相手を駆り出す事はあるまいに…そう思うが。

セフィロス自体にはそのような経験は無かった。それは多分、彼自身の感情が希薄だからだろう。そもそも欲求というものが無い。そう、戦いの中でしか。

かといって女性経験が無いかといえばそういう訳でもない。

ただ、面倒だった。

女は相手が自分であるというそれだけで狂喜する。セフィロスが誘うのでは無く、相手が誘ってくるのだから、それを拒まなければその機会はうんざりする程ある。それは女に限ったことでは無かった。男でもまた同じ状況が生まれ、それは一切を切り捨ててきた。

相手なら誰でも良いのだろうが、とそう吐き捨てて。

 

「セフィロス、どうしたんだよ?」

 

長い思考を途切れさせたのは、クラウドの言葉だった。

はっとして顔を上げると、どうして良いか分からないといったふうな表情が目前にあった。

周囲は見慣れた自分の部屋。

「ああ、何でも無い」

セフィロスはそう答えながら、クラウドが会いたいとせがむので、こうして自分の部屋まで招いた事を思い出した。

「考え事?何?」

先程までは困ったような顔をしていたくせに急に嬉々としてそんなふうに聞いてくるクラウドに、セフィロスは「いや」とだけ答える。

「秘密主義だな、セフィロスは」

「何でも話せる奴の方がどうかしているだろうが」

癖になりつつある溜息を吐きながら、セフィロスはこの少年についてを考えた。

 

クラウドとはもう長く一緒にいるように思えるが、実際は違う。

そもそもセフィロスにとって、クラウドの存在は「他人」に他ならない。

深い介入をしようとも思わないし、したくもない。

だが、気付けばクラウドの方が自分に付いてきているという状況があった。

この心もとない少年兵は、普段はどうやって生活しているのだろうか。

力も無いくせに、自分に対しては一端の口を叩く。

だが、実際は…。

ふと、ザックスの言葉を思い出した。

『憂さ晴らしだとか思ってんじゃないの?』

思い出して、またもや呆れた。

 

「お前、セックスの経験は?」

「へっ!?」

思ってもみなかった言葉に、クラウドはビックリして声を上げた。

「無いのか?」

困惑し始めるクラウドに、セフィロスは淡々と続ける。

「ある…けどさ」

クラウドは珍しく弱弱しい声などを出した。何も知らない少年かと思えば、そういう訳でも無いらしい。

「―――神羅では?」

「…どういう意味?」

どうもザックスの言葉が抜けなかった。もしかするとクラウドもそんなふうに性欲を発散しているのかもしれない。そんなふうに思うと、それはそれで嫌気がさす。

暗黙の了解だろうが、と思いながら、セフィロスはそれでも言葉にした。

「お前も男の体を借りてる類なのか」

その言葉に、クラウドはあからさまに嫌な顔をした。だが、少しして俯き始めると、ポツリと言葉をもらした。

「…俺は嫌だよ、そんなの」

「答えになってないな。お前の意見を聞きたい訳じゃない。あるか無いかを聞いてるんだ」

そんな言葉に追い討ちをかけられたような表情になって、クラウドは、

「…あ、る」

とだけ答えた。

「そうか」

分かっていた事とはいえ、やはり失望してしまう。どういう訳なのか、クラウドだけは違うのではないかという思いが多少なりともあった。だが、やはりクラウドも神羅の兵に他ならないのだ。いつもこの組織の中で生活し、腐っていく。

「ねえ、セフィロス」

言い訳じゃないけど聞いて欲しいんだ、とクラウドは慌てていった。その姿は一生懸命で、だがセフィロスにとっては言い訳のようにしか思えない。

「俺、嫌なんだよ、そういうの。俺はしたくなんか無い。けど…あいつらが…」

「お前、もしかして」

“抱かれてる”のだろうか、この少年は?

どこかの男に玩具にされて?

そう考えて、セフィロスは眉をひそめた。本来なら、そんなものすら拒絶が出来ないなどもっての他だと思う。が、何故かそうは思えなかった。

どこの輩がそんなことを無理強いするというのだろうか。無性に腹が立つ。そもそもそういった風潮自体が気に食わないが、それ以上にそれは許しがたい気がした。

「俺の事を、汚いと思う?でも、皆は普通にそういう事、するんだ。本当に普通なんだ。俺には…分からない、けど」

クラウドの口から語られる実態が、ますますセフィロスを不機嫌にさせる。しかし、それが爆発したのはクラウドがふいに言葉を漏らしてしまった次の瞬間。

「セフィロスも…してるのか?」

極上の軽蔑の眼差しがクラウドに注がれる。

そして、セフィロスは冷徹に言葉を放った。

「帰れ」

 

 

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