ETERNITY
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すれ違う長い綺麗な銀髪。 “おはよう” いつもなら普通にかけられてたその一言が、今ではもうかけられない。 “お”の口の形をして、手を中途半端な所まで上げて、俺は止まってる。 何の素振りも無くすれ違ってく、あの人。 そうだ。それが普通なんだ。 おかしかったのは今までの方なんだろう。 すれ違ったその後に、微かに残ってた嗅ぎなれた香りに、胸がとてつもなく苦しくなった。 もう俺達は何も無い、赤の他人。 そしてその決断を下したのは俺の方なのに。 何が大切だったのか、今ではもう分からないよ。 焼きついた、あの笑顔。 俺だけに見せてくれてた笑顔。 離れない――――。
簡素なその部屋は、いつも何かの香りが漂っていた。 ずっと知らなかったけれど、それが珍しいフレグランスの一つなのだと知って、俺はそれが欲しいとせがんだ。 セフィロスは“じゃあやろう”と言ってその一つを俺にくれた。俺はそれからいつもソレをつけては喜んでたんだ。どうせ汗だくになってソレどころじゃなくなるのに、それでも毎日毎日、少量を吹きかけてはセフィロスの事を思い出してた。
だけど、その日だけはどうしてもそれが付けられなくて―――。 寄ったその部屋で、その慣れきった匂いを嗅いだときは、苦しくさえなって。 いや、それどころじゃなかったのかもしれない。 久々にその部屋をじっくり眺めてみると、何だか胸が締め付けられる程、色んなものが詰まってて、妙な感覚が押し寄せた。 眩暈がしそうだった。
いつもなら俺から、くだらない話題を持ち出すのに、その日は珍しく黙ったままの俺を気にしてか、セフィロスの方が先に口を開いた。 「調子でも悪いのか?」 「いいや、普通…」 そう思うのも当然か。俺は年中、何かしらセフィロスに話しかけてたから。 だけど実際俺は、どうしていいか分からなくて、何か話さないとって思って、どうでも良い話をしてたんだよ。 多分、セフィロスは気付いてないだろうけど…。 そうなんだ。この聡明な人はどこかヌケてて、こういう事に関しては鈍感なんだ。 それは付き合いが長くなるにつれ分かってきた事だった。 そして今俺の心に巣食ってる感情も、それが原因かもしれない…。 「でもお前、何だか暗いぞ」 セフィロスは何の気なしで俺の顔を見てそう言う。 ああ、もう! どうしてこんな日に限ってそう優しい言葉なんかかけるんだよ。 俺はこれから言おうとしてる言葉を思い浮かべて、その視線からワザと外れるようにした。 怪訝そうなセフィロスの顔。 だけどきっとその意味さえ、この人は予想できてないんだろう―――――。 沈黙の中で、あの匂いだけが漂っていた。 口を開かない俺に、セフィロスは無言のまま俺の真正面に腰を下ろす。 フローリングは冷たいかな。俺はいつものようにソファに座っているけど、思えばソレって随分と良い扱いだったりするのかも…。 まあそれは良いとして、でもやっぱり俺はもう耐え切れないんだ。 ずっとそうだった。 今までずっと気にしないようにしてきたけど、本当はいつも耐えてたのかもしれない。 なあそうだろう、セフィロス? だってセフィロスは―――。 「俺…もう良く分からないんだ」 「分からない?」 俺はやっとの事でそう口にする。セフィロスはといえば、静かに煙草に火なんか点けていた。本当にいつも通りだ。 「セフィロスは何を考えて俺の側にいるんだよ?俺には―――良く分からない」 近づけば近づくほど、遠くなる存在―――そんな感じなんだよ。分からないよ。 セフィロスは俺の言葉に眉を寄せて、どういう意味かと尋ねてきた。 分かってくれない―――そんな所にも苛々する。 「俺はセフィロスの“何”?」 「“何”とは何だ。何と答えて欲しくてそんな事を聞く?」 ホラ、すぐコレだ。答えて欲しい言葉は確かにあるけど、そうじゃないだろう。セフィロスの本心を知りたいのに。 何て聞けば、この人に伝わるんだろう。 俺は考えて、誘導尋問のような言葉を連ねた。 「じゃあ聞くけど、セフィロスは俺に会いたいって思う?」 その一言に、セフィロスは煙を吐き出しながら「特には」なんて言う。 ―――会いたくない無いんだ。 「じゃあ何で俺に会うわけ?」 「お前が会いたそうな顔をしてるからだ」 何だよ、それは。じゃあ俺ばっかり会いたいって事なのか? ――いや、そうかも。 この人はこういう人だし…。 「じゃあ…何で俺を…その、抱いたりすんの。それも俺がしたそうだから?…他に女が沢山いるってのに」 俺はそう言いながら少し空しくなった。 そうなんだ、この人には他にも相手がいっぱいいて…俺はその中の“一人”でしかない。 それ程悲しい事って無いよ、セフィロス。 そりゃ俺は男で、その上未熟で―――まだセフィロスには到底及ばないけど……。 でもきっと罪悪感なんて無いんだろうな。 俺はセフィロスに近づくにつれ、その相手全てに嫉妬するようになってたっていうのに、それすらきっと分かってないんだ。 「お前は妄想し過ぎじゃないか?」 良く分からない言葉が飛び込んでくる。 そして―――。 「そんなものは身体の自然な欲求だ」 俺はとうとう我慢できなくなった。 何でそうなんだ。何で伝わらないんだ。 俺はずっと憧れてたって言ったのに、ちゃんと言ったのに、それすら踏みにじるんだ。 そうやって中途半端にするならキッパリ言って欲しいよ。 俺はもう無理なんだ。 あなたに近いだけで満足だ、なんて言葉が吐けるほど、優しくなんて謙虚でなんていられないんだよ。 俺の側にいてくれるなら、ちゃんと俺を見てて欲しい。 誰だってそうだろう? それともそれは贅沢なのか? 「セフィロス、ちゃんと言ってくれよ」 「何を」 「何を、って…。好きでもないのに、そういう思わせぶりな事しないで欲しいんだ。セフィロスにとって俺がどうでも良い存在なら、もうこんな関係―――」
「やめたい」
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