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カシャ、カシャ、カシャ。 フラッシュの光が眩しい。 その光に思わず眉を顰めてしまうと、その光の向こうにいる人物が顔をひょっこりと出してこう叫んでくる。 「駄目駄目!セフィロス、いっつも神妙そうな顔ばかりするな」 彼は、機械のカメラを押さえながらそんなこと言い、更には「もう一枚いくからな」と宣言して、再び光をカッと照らした。 その瞬間、やはりそれが眩しくて目をすぼめてしまう。 やがて彼がカシャ、とシャッターを押すと、セフィロスは暫くそのままの姿で止まっていなくてはならなかった。像を焼き付けるから、らしい。 そういう動作が何度かやりとりされた後、彼はふうと息を付きながら光を落とした。 そうして、セフィロスの側に歩み寄ってくる。 「お疲れ様。これで今回は終わりだ」 そう言われてセフィロスは、やっと腰を上げるに至った。先ほどまで光を当てられていたせいでどうにも汗が噴出してくる。 セフィロスの前に立っているのは、正にカメラマンだった。 彼は神羅の社員でもあるわけだが、メディアなどに関わる部署に所属している男で、歳の頃は50ほどだろうか。あの社長とそれほど変わりないと思う。 とにかく彼は長年そうしてセフィロスという人物を写真に収めてきた人物で、その付き合いたるやかなりのものだった。セフィロスは覚えていないが、生まれた時もその男が写真にそれを収めたという話を聞いている。ただ、その写真がどこに存在しているのかは未だ謎であるが。 「…面白いか」 セフィロスは、もう幾度となく聞いてきたことを、その時も彼に質問した。 彼はそう問われた事で少し眉を顰めたが、しかしすぐに特有の、右の口端だけをニッと上げるだけの笑みを浮かべると、 「さあなあ」 などと、いつもと同じ答えを返す。 「俺はこれが仕事だからな。面白いも面白くねえも関係ないさ。俺の仕事は事実を映すってだけだからな」 「ふん。事実だと?」 セフィロスは鼻で笑いながらそう言うと、少し間を開けてからこんな言葉を続けた。 「…お前はいつだって嘘を撮ってきたのではないのか?あのときの…戦火の中でだってそうだろうが。事実はいつだって湾曲される。俺の存在自体も、同じことだ」 「へえ、そりゃ興味深い言葉だ。じゃあ何か。俺が悪いとでも言いたいのか」 特別怒るふうでもなくそう言った彼は、早々にも煙草に火をつけ始める。そして火がついたその煙草をふう、と一息吹かすと、 「まあ――――お前が悲劇のヒーローだって事は、否定しないがな」 そんなことを言った。 セフィロスはその言葉に俯きがちになると、今まで数度と無く自分を写真と言うものに変換してきたその男との過去を思い返し始める。 それは――――――もう遠い過去。 覚えている内で一番古いのは、確かソルジャーになる前のことだった。幼少でソルジャーの地位を手にしていたセフィロスにとってそれは、かなり幼い頃のことであると言って良い。とにかくそんな昔から彼はセフィロスを写真に収め続けており、セフィロスが覚えている限りの初対面の時分、セフィロスは彼にこんなことを聞いた。 “何で、写真なんか撮るんだ?” それは尤もな疑問だった。 突然連れてこられた部屋で、突然被写体になる。何故そんなふうに写真を撮るのか全く理解できない。何の記念でも何でも無い日だというのに。 しかし彼はセフィロスにこんな答えを出した。 “それは君が神羅の看板を背負う運命だからだよ” セフィロスにはその言葉の意味がさっぱり分からなかった。何しろその頃のセフィロスはまだ幼かったし、セフィロスにとって神羅という組織は訓練などをする場でしかなかったし、そもそも神羅の看板というならば社長やらがそうなるべきであると思ったから。 セフィロスが英雄の名を受けるずっとずっと前から、彼はそれを運命と言ったのだ。 セフィロスが何らかの功績や実力を見せるずっとずっと前から、彼はそれを運命と言ったのだ。 つまりそれは、意図的に仕組まれた、ということである。 しかしそれをセフィロスが自覚したのは、それよりもずっと後の話であり時期としては英雄などという呼び名が付けられたその頃のことだった。 少しばかり能力に長けているとは思っていたものの最終的にはただの人間でしかないと思っていた自分が、その戦争によっておかしいほどに賞賛を浴び、祀り上げられる。神羅のソルジャーという存在でしかない自分が、まるで神羅の顔であるように世の中に広められる。 何故なのか? セフィロス自身は何もしていないし、それらを助長し動かし続けたのは他でもない神羅とこの男に過ぎないのだ。そうして世間に英雄の名が広がると、今まで彼が撮りつづけてきた写真は一冊のアルバム状に纏められ、神羅の資料のように扱われるようになった。 その内それを閲覧し、陶酔や心酔をする輩が現れてくる。 そして、やがては誰しもが思うようになる。 セフィロスは特別なのだ、と。そうなって然るべき人物なのだ、と。 そういうふうに仕組み上げてきた人物の一人であろうその男は戦時中でさえセフィロスにべっとりと張り付き、その“勇姿”をカメラに収めていた。そういう動作をあまり良いものと思っていなかったセフィロスは、戦火の中、聞いたものである。 “眼前で人が死んでいく…それでもお前はその事実ではなく、俺だけを撮るのか” 死にいく人々は、紛れも無くセフィロスや神羅のソルジャーの手によって命を奪われており、それはセフィロス自身も自覚していた。人を殺すという行為を善悪で計るとすればそれは無論悪でしかなく、自分のしている事はほぼ許されないことだろう、と。 しかし戦争という特殊な環境において、善と呼べるのは人間レベルの常識でも個人レベルの常識でもない。組織レベルの常識でしかないのである。だからセフィロスが所属している神羅が敵とみなしたものは全て悪であり、その悪を消滅させる為の殺人行為は善というふうにしか捉えられないものだった。 だから、斬り続けた。 しかしそれは――――――望んでいることなどでは、無かった。 男はセフィロスの問いに答えたものである。 カシャ、とシャッターを切りながら。 返り血を浴びても動じずに。 “そうだよ。君は神羅を伸し上げる為の「商品」だからね” “…商品?” “君はその為に、生まれてきたようなものなんだよ。セフィロス” “………” その時、ようやく自覚したのだ。 自分は神羅の為に生まれてきたに過ぎず、自分の人生とは常に他人に動かされているものなのだ、と。 そう思った時から、セフィロスは自分自身というものをほぼ捨てるふうに生きてきた。完璧に神羅の為に行動すると言う意識は無いものの、本来の自分という真実は在り得ないも同然だと言うふうに解釈するようになったのである。 どうせ自分が本心から行動した何らかのものでさえ、世の中に伝わる時には既に事実は湾曲されているのだ。戦うことを好んでいるわけでもないセフィロスの本心は、世の中に伝わることなどなく、世間はセフィロスを強さの象徴としてみなす。 そしてそれを目指して強さを欲する人間が生まれる。 それはセフィロスが望んだことではなく、神羅が望んでいる強さの連鎖というだけの話なのだ。セフィロスという存在は、神羅や強さの象徴として、利用されているに過ぎない。 そうなってからは、何が真実なのかどうかも分からなくなった。 憧れています、と言われれば、頑張れ、と答えるようになった。 しかし一体何を頑張れというのだろうか。何しろセフィロス自身は強さを望んでそうなったわけでもないしその立場が欲しかったわけでもない。更にいえば、そういう強さを誰かに持って欲しいわけでも何でもないのである。 しかし神羅の英雄セフィロスという確立された立場は、セフィロスに、それ以外の答えを許さなかったのだ。 憧れています、と言われて、そんなものは何の糧にもならない、と本心を告げることを許さなくしたのである。 確立された、出来上がってしまったその像通りの言動―――――それを、求められる。 だからこそ、世間が“英雄セフィロス”に望まないものは排除しなくてはならない。 「――――――楽しいか」 セフィロスはもう一度、ゆっくりとした調子で男にそう聞いた。 しかし男はただ、こう答えるだけであった。 「さあなあ。…この世は嘘ばっかりで構成されてるから…な」
セフィロスとクラウドが再会したのは、例の日以降、一週間が経った後のことだった。 その日は珍しくセフィロスが呼び立ててきたので、クラウドは少しだけ嬉しくなってその部屋までの道のりを走っていったものである。 あの日のことはもう怒っていないのだろうか、そんな事を道すがら考えていたものだが、どうやら再会したセフィロスにはそんな様子は窺えなかった。それどころか、いつもよりも晴れた笑顔で迎えてくれる。 だからクラウドも、あの日に感じていた嫌な気持ちを払拭してその場を楽しんだ。 しかしそれでも少しだけ思ったことは、やはり此処は誰も見ていない場所だからセフィロスはこんなに優しいのだろうか、という事だった。もしこれが公共の場であったならセフィロスは呼び立てなかったのだろうかとか、こんなに笑ってくれなかったのだろうかとか、そういうふうにも思える。 しかしそれでも、今こうして笑んでくれるセフィロスがクラウドは嬉しかった。 ただ単純にそれが嬉しくて、それ以外のことは考えられなかったのである。 「また機関紙読んでるの?」 部屋の中に放られていた機関紙に目を留めたクラウドは、何の気なしにそんなことを口にした。それは例のあの日にセフィロスが見ていた機関紙で、神羅が発行しているものである。 「ん?…ああ、習慣でな」 「ふうん。そんなに面白いの?」 クラウドがそんなふうに言ってそれを覗き込むと、そこには写真と記事がびっしりと詰っていた。しかもその記事の一つはセフィロスのもので、写真もつい最近のセフィロスのものである。 「へえ、セフィロス、載ってるんだ」 どれどれ、と記事の見出しを見てみると、英雄譚、などと書かれている。第何回、なんていう言葉からすると、どうやら定期的に書かれている記事であるらしい。 さすがはセフィロスだな、そんなふうに思いながらクラウドは、そんなセフィロスと一緒にいられることを少し誇りに思った。しかしその誇りというものだって、二人以外の誰も知らないのだから自慢にもならない。 本当だったら叫び出したいくらいなのに、そんなふうにクラウドは思ってしまう。 そう――――例えばこの間、セフィロスの昔の写真を見ていて騒いでいたあの友人などは、仰天して羨ましがることだろう。 そんなことを思って一人笑ったクラウドは、そういえばね、とセフィロスにその話題を振った。 「この前、友達がセフィロスの写真を見てたんだ」 「写真?」 隣のソファでくつろいでいたセフィロスは、そう言われた瞬間に少し怪訝そうな顔をした。それを瞬時に察知したクラウドは、しまった、と思う。この話題はマズかったろうか。 しかしそう思った瞬間にクラウドは、自分が気になった一枚の写真のことを思い返し、やはりこの話題を続けようと決意すると言葉を続ける。 あの写真の切り取られた誰か――――――自分はそんなものになりたくはないから。 ちゃんと隣に映っていたいから、だから。 「リクリエーションルームで見せてもらったんだ。何か、アルバムみたいになってるやつで、戦争中の写真とかもあった」 「ああ…きっとそれは、この機関紙の俺の記事を纏めたやつだ」 神羅はセフィロスの記事だけはそうして纏めて冊子にしており、それを誰にでも閲覧できるようにしていた。クラウドの友人が手にしていたのは丁度それであり、その主な内容はセフィロスの功績の歴史みたいなものであった。 だからこそ戦時中やらの記事までもがそこに保管されているのである。 しかしそれが自由に閲覧できるようになっているという事実は、神羅の狡猾な手段に過ぎないといえなくもない。それはセフィロスが商品だと言ったあの男の言葉を裏付けるも同然で、セフィロスの気分を悪くする事実である。 何しろそれはまるで、セフィロスのプライベートをそっくりそのまま他人に公開しているも同然なのだから。 とはいえ、そのプライベートとはいわば作られた偽物に過ぎないが。 「で?お前はそれを見てどう思った?」 セフィロスは静かにそう言うと、クラウドを見やる。 クラウドはまさかセフィロスがこの話題を自分から続けてくるだなんて思ってもみなくて一瞬驚いたような表情をしたが、少しして表情を引き締めると、 「凄いなあって…単純に思った…よ」 そんなふうに答えた。 が、勿論それは本心ではない。あの時クラウドが思ったのは、隣に映っていただろう誰かが切り取られた写真の意味であり、凄いなんてことじゃなかったから。 「本当にそれだけか?」 何故だか訝しげにそう聞いてくるセフィロスに、クラウドは少し戸惑った様子で口をもごもごさせた。何だか妙に見透かされている気がして何だか落ち着かない。 しかしクラウドは、聞いてみなくては、と意を決すると、とうとう例のことについて話し始めた。 「…俺、一つ気になった写真があったんだ。それ、戦争中の写真で…確か“敵将の首を討ち取る”って書いてあった」 「……」 「その写真さ、セフィロスの隣に誰かが映ってたんだ。でもその人、肩しか映ってなくて、セフィロスは微妙な顔、してた。あの写真はさ、その―――何で隣の人が、切り取られてるのかな?」 「……」 もし説明通りにそれが敵将の首を討ち取った際の写真であるならば、神羅にとって光栄であるその時、その場に一緒にいた人間が映っていようと構わないだろうと思う。 それほどの光栄な場であればセフィロスの表情だって、もっと輝いていていいと思う。 しかしあの写真にはまるでそんなものが無くて。 「――――――敵将の首を討ち取る…か」 セフィロスは暫く黙り込んでいたが、やがてそんなふうに呟くと、あの日のように溜息を吐く。しかしそれはあの日とは少し違う種のものであり、クラウドに対して向けられたものではなかった。 そして。 「そうだな。神羅の英雄は敵将の首を討ち取り、その栄光に笑まねばならなかった。…俺の失態だな」 セフィロスは何故か、笑った。 「クラウド。お前は、敵将の首を討ち取ったのは俺だと思うか?」 「え?」 唐突にそんなことを聞かれ、クラウドは驚いてそう声をあげる。 俺だと思うか、だなんて―――――――そんなの当然の話じゃないかと思う。 そう思ってクラウドが首を捻ると、セフィロスはそんな様子のクラウドに少し笑った。そしてそれから、こんな事を言い出した。
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