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an eclipse -----------------------
俺はいつもズレを感じてた。 それは絶対に一致しないズレで、それを心のどこかではずっと知ってた。 けど俺は、それを一生懸命一生懸命埋めようと必死にもがいてたんだと思う。 それでもそのズレは絶対に一致なんかすることがなくて、俺はそれがもどかしくて、いつだって踏ん張ってた。 一致しないなら、どちらかに合わせれば一致する。 だけどそれは嘘でしかない。 それはただ空しいだけで、心の奥底にあるズレは絶対に一致なんかしなかった。
最初その人を見た時、意外にも常識人なのだということを知った。 人々に英雄と称えられていたその人はさも偉大で尊大で、人とは違う考え方をして生きているのだろうと思ったから、意外にも普通だったことは何だか拍子抜けのような気がしたのだ。 一番意外だと思ったのは、戦闘はそれほど好きじゃない、と言ったことだった。 へえ、英雄とまで言われた高度な戦闘能力の持ち主でも本音はそういうものなんだ、とそう思う。もし自分の思うがままの技術を持っていたら、闘うことだって恐ろしくないし、それよりもむしろ楽しいものなんじゃないかと思っていたクラウドにとって、それは何だか変な感じだった。 「セフィロス」 そう呼びかけることは、いつからこんなに普通になってしまったんだろう。 以前は絶対にそんなふうに呼ぶなんて考えられなかったのに。 「何だ?」 難なくそう答えたセフィロスは、今迄手にしていた神羅の機関紙から顔を上げると、さも当然のようにクラウドを見遣った。 そういうことが当然になったのも何だか不思議だけれど、とにかく嬉しいことには変わりない。あの英雄が、今では自分の名を呼ぶのだから。 クラウドは、既に当然と化していたそれに少し笑みながらも、背後からセフィロスに抱きつく。 此処は神羅内だから公共の場である。となれば、そんなことは許されない。それはわかっていたが何だかその時はそんな気分だったのだ。 だからそうしたというのにセフィロスは、そんなふうにしてくるクラウドを煙たそうに見遣った。 「離れろ」 たった一言そう言って機関紙をパサリと近くに置くと、折角巻きつけた腕をグイと引き離す。その様子といったら、いかにも迷惑そうだった。 だからクラウドは、ついついムッとする。 今さっきまで何でもないことが幸せに感じられていたのに、こんな一つの動作ですっかり気分が削がれてしまう。しかもクラウドにとってそれは、セフィロスが厳しすぎるという一言に尽きた。 だってそうだ。 いくら公共の場とはいえ、今は誰もいない。そういう場所を選んでいるのだし、そういう時間を選んでもいるのだから当然である。それなのにセフィロスは過剰に気にしてそんなことをするのだ。例えばこれがプライベートな場所なら何も言わないのに。 「気にしすぎだよ、セフィロス。誰も来ないよ」 「何故そう言いきれる?万が一に、ということもある。気は抜かない方が賢明というものだろうが」 そう言われて、クラウドは益々ムッとせざるを得なくなった。 そのセフィロスの口調はいかにもと言った感じで、フォローのし様がないほど“世間の眼を気にしている”のがみえみえである。 実のところ、こんなことは日常茶飯事だった。 神羅の中だとなると途端にそうなる。家でならどんなに抱きつこうが文句など言わないくせに、人の眼のあるところだとなるとすぐそれなのだ。 人に見られたら困る。 噂にでもなって傷がつくと困る。 ―――――――つまりはそういう事なのだ。 そういう部分に関してはクラウドだって勿論多少は考慮しているつもりである。例えば人通りのあるところでは絶対に抱きつくなんて事はしないし、声をかけて無視されてもそれは仕方無いことだと割り切っている。英雄と呼ばれたその人と共にいるということはそれくらいの大きなことだったし、自分の立場だって弁えているのだ。 もし自分がそれ相応のソルジャーだったり、はたまたどこかの令嬢か何かだったら話は別だったろうが、そうではないから。だから、そんなことはちゃんと知っているのだ。 それでもたまに、やはり腹立たしくなるときがある。 思うのだ。 そんなに自分の英雄という立場が大切なのか、と。 ひとたび家に足を踏み入れれば、驚くべきことに愛しているとさえ言ってくれるのに、たった一人でも他人という存在が介入すると、それだけでその「愛してる」は取り消されてしまう。もし本当に「愛している」なら、たまには、他人をどうこうと考えるよりもその愛している気持ちが勝っても良いのではないかという気がしてしまう。 けれどそれはどうやら無理らしい。 「お前は平和の中にいるからそんな事が言えるんだ」 続いてセフィロスが言ったのはそんな言葉だった。 「どういう意味?」 「“どういう”?…それはクラウド、お前がそんな言葉を言っているだけで済まされる場所にいるという事だ」 「…何それ」 何だか良く分からないけれど…何だか――――何だかバカにされている気がする。 勿論セフィロスがそう言ったのは真顔でのことだったから、バカにするというような意味で言ったわけではないのだろうけれど、何だかクラウドにはそれが許せなかった。 セフィロスはクラウドのその問いには答えようとせず、機関紙などはもう興味も無くなってしまったのか、腕組などをして溜息を吐いている。しかしそれも少しすると止み、その代わりといっては難だが、クラウドとしては尤も嫌な展開を見せ付けてきた。 「俺はもう帰る」 ガタンと立ち上がってそんなふうに言ってきたセフィロスに、クラウドは怪訝な顔をしてこう問う。 「何で?だって此処にいたってことは今は仕事じゃないんでしょう?」 そんなふうに尤もなことを言ったクラウドを一瞥したセフィロスは、無言で背を向けた。否定をしないということは多分それが事実だということだろう。しかしセフィロスはそれについて肯定の言葉も否定の言葉も口にせず、ただその場を去っていく。 多分、今日はもう話もしたくないと言う事なのだろう。 「ふん」 クラウドはそんなセフィロスを引き止めることもせずに、ただ拗ねるようにその場に留まった。
小一時間ほどして同僚のいる部屋に戻ったクラウドは、そこで皆がしている話に耳を傾けた。 リクリエーションルーム、そんな名がついているその部屋は、一般兵専用の部屋である。 様々なことに利用されるが特別な召集がかからない限りは自由に使って良いとされているその部屋は、普段、一般兵が談話などするのに使われていた。トレーニングとトレーニングの間の小休憩などの時間には便利だからだろう。中にはそのものずばりの休憩室を利用する者もいるが、休憩室はソルジャーとも兼用な為、人口密度が高い。だから何だか休んだ気がしない。 そんな理由で此処は、一般兵にとっては利用頻度の高い部屋だった。 「よう、クラウド」 そう話しかけられクラウドがその声の方を振り返ると、それは友人の一人だった。どうやら耳を傾けていた例の話をしていたのはこの友人であったらしい。 話の内容は、セフィロスのことだった。 「お前も見る、これ?すげえよ」 「へえ、何?」 先ほど耳を掠めていた言葉から大体のことは察していたクラウドだったが、敢えてそこで知らぬ振りをして差し出されたものを手に取る。それは小さなアルバム状になったもので、中を開くと古めかしい写真やら新聞の切抜きが並んでいた。 映っているのは、話題の中心でもあるセフィロス。 クラウドがそれをまじまじ見詰めていると、隣から身を乗り出した友人が頼んでもいないのに説明などをし始める。 「ほらコレ。例の戦争の時の写真だぜ。これなんてもっとレア。ソルジャーになった時のだってさ」 何故そんなふうにセフィロスの写真が膨大に並んでいるのか、クラウドはそれに少し疑問を感じながらも「すごいね」とほぼ無感動に返す。 写真の中のセフィロスはどれも神妙な顔つきをしていて、面白くも何ともないふうである。それはともかくとしてクラウドが気にかかったのは、ある一枚の写真だった。その写真がいつのものかはハッキリしないが、ともかくその写真の中のセフィロスは誰かと一緒に映っており、その誰かの部分が丁度綺麗に切り取られていたのである。少しだけセフィロスの肩にその誰かの肩がかかっていることで、隣に何者かが映っているというのがやっと分かるという具合。 写真の下にはこう書かれていた。 “敵将の首を討ち取る”、と。 「さすがセフィロスだよな。しっかしあの戦争中にカメラマンが付いて回ってたって事か?まあそのおかげで俺達がこうして写真なんか見れるんだろうけどさ」 「まあ…」 クラウドは曖昧にそう返事をしながらも、頭ではもっと別なことを考えていた。 先ほど…そう、一時間ほど前まで一緒にいたセフィロスは、常に周囲を気にしながら動いており、クラウドの存在ですら煙たそうにしたものである。 その事を記憶しているクラウドは、その切り取られた誰かに自分を重ね、何となく気分が悪くなった。 なるほど、こうして残ってしまうような写真も同じことなのか、と。 つまりいつだって他人の眼が気になって仕方無いのだ。誰かが隣にいるということを知られてはいけないのだ。だからこの写真の誰かだってこうして切り取られてセフィロスに煙たがられるのだろう。何しろいつだってセフィロスは神妙な顔つきをしている。 それはきっと、隣に誰かがいることを煙たがっているのに違いないのだ。 「…最悪だね、この写真」 クラウドはそんな事を考えていたせいかそんな言葉を吐くと、隣にいた友人にそれをすっと差し出した。 「え〜何で?すげえって思わないのかよ?だってこんなに写真が残っててさ、しかもそんなのセフィロスだけだぜ」 「英雄なんだから当然だろ」 「ちぇ。クラウドって時々すっげえ冷めてるよな」 そんなふうに愚痴をこぼしつつも友人は、また別の誰かとそれを見て盛り上がっている。どうやら彼の中でのセフィロスは相当な英雄らしい。いや、それは当然なのだが、クラウドだから感じられるあの距離感を、彼は全く知らないからそんなふうに騒いでいられるのだ。 クラウドは友人の輪から離れると、部屋の隅の方におかれている椅子に腰をかけた。椅子の隣には小さなテーブルがあり、それは少々高い位置にある。 そのテーブルに右頬だけをペタンとくっ付けると、クラウドはそっと目を瞑った。 きっと――――――――セフィロスは自分のものになんかなりはしないのだ。 何故だかそんなふうに思う。 セフィロスが自分の名を呼ぶのが普通になっても、誰も見ていない部屋で愛していると言ってくれることが普通になっても、抱き合う事実があっても尚、きっとセフィロスは自分のものになどなりはしないのだ。 セフィロスがあんなふうに誰かの眼を気にしている限りは、セフィロスと自分の関係などただそれだけのものでしかないように思う。実際、神羅の中で誰一人として二人の関係を知るものはいない。 例えば今日感じた腹立たしさを誰かにぶつけたくても、クラウドはそれさえも出来ないのだ。そんなことをすれば明るみに出てしまうし、なによりセフィロスに嫌われると知っているから。 ―――――――――この関係は、何なのだろう? しかし、それよりもっと分からなかったのは、自分が望んでいる関係とはどんなものなのか、という一番簡単であるはずのものだった。
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