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灰色の建物の中で、セフィロスは呼び出されてその場に腰を下ろした。 神羅の中でも一等嫌いな場所だと思うそこは、いつも妙な匂いで包まれている。如何わしいことこの上ない。 そう思っていた――――そこは、科学部門の客室。 神羅の中でも独立しているこの部は、裏での役回りが多く、本社の客室には案内できないような輩が良くこうして此処に通されたりしていた。 だからつまり、此処に呼ばれたことの意味は、秘密事項の話し合いということになる。 それを察していたセフィロスは、また何か妙な事でも始めたか、と心の中で毒づいていた。 しかし―――そこに現れたのは、セフィロスの毛嫌いしている宝条という男ではなかった。そうではなくて、その元にいつもいる博士予備軍の一人だった。 その男が姿を現し、そして椅子に腰を下ろすと、早速というようにその“密談”が始まる。 何の話かは、想像がつかない。 「セフィロス、今日呼び出したのは…ある事を頼みたいんだ」 そう切り出され、セフィロスは目を細める。この如何わしい連中からの頼みごとなど、それこそ如何わしい事に決まっているのだ。しかしまずその内容だけは聞かねば、そう思いセフィロスが話の続きを催促すると、男はこんな話を始める。 「ある種の“欠陥品”が…神羅に溜まって来た。そこで我々は“欠陥品”をある一つの場所に纏め上げようと思う」 「欠陥品?」 そう、と頷いて、男は何枚かの紙束をセフィロスに提示した。それは見ると、公式の書類である。しかもどうやらそれは、入社時に作成される個人データだった。 そこには経歴やらコメントがびっしりと書き込まれているが、不可解な事に一部に何か赤い印が付けられている。 「これは?」 その赤い印についてそう尋ねると、男は、 「それこそ欠陥品の印だ」 などと言った。 “欠陥品”―――それは人間のことだったらしい。 「彼らは何らかの不適合な要素を有している。一般的に過ごしていくには少々問題があるのだ。しかし神羅として彼らを良い方向に持っていくことは、できない事ではない」 いや、場合によっては本当のエリートの道も夢ではないのだ、そう言って男は、一枚の紙を抜き出した。 そこには、クラウド・ストライフと書かれてある。 「この彼だが、特に問題がある。しかし、化けるかもしれない」 「…問題というのは何だ?」 特に記載された内容に問題は無いように思うが、そんなふうに思いながらセフィロスは首を傾げる。しかし男は首を横に振り、大問題だ、などと漏らした。 手元からまた新たな書類を取り出しそれを提示した男は、そこに書かれた数字をトントン、と指で叩く。 「この数値を見て欲しい。上下段になっている下段が一般兵の平均値だ。そして上段が彼の数値だがアスタリスクになっているだろう?」 確かに上段は「*」のマークになっている。 「これは入社時の簡易能力テストの結果だ。今期の平均値に対して彼はアスタリスク。普通、平均値は上がるか下がるか一方しかないが、彼の場合、機械による測定時に、はっきりした数値が導き出せなかった」 「というのは?」 「つまり――――…」 機械は、彼が手を触れ、破壊されてしまったのだ――――そう、男はセフィロスに告げた。 なるほど、それでは測定不能、数値がどうのという問題ではない。 セフィロスも、かつてその簡易テストというのをやった事があったが、実はセフィロスもその口だった。 つまり測定不能ということである。 しかしそれが何故、測定不能だったかといえば答えは一つ―――上段を越えた…つまり強すぎるということである。 「この少年は…“そういう”意味で?」 悟ったセフィロスがそう霞がかった言葉で言うと、男は少し妙な顔つきになって、まあ、などと返した。 「この結果で言えば、そういう事になる。…ただ、それが単に強さを有している云々の話であれば問題は無かったが」 「まだ他にも問題があるというのか?」 強いのならそれに越した事は無いではないか…そう思うが、それはどうやらそんな単純な話ではなかったらしい。 問題は、その強さを―――――……。 「彼は…コントロールができない」 じっくりとした口調でそう言った男は、椅子に背をもたれて、ふう、と溜息をついた。そして髪をくしゃくしゃとしながら困ったふうな顔でセフィロスを見遣る。 「感情によるコントロール制御の欠落。問題はそこだ。先日は同期と言い争いになり、そのせいで感情が不安定になったようでな、その相手は重症を負っている。それは彼自身が気付いていない、力の流出だ」 「…なるほど」 それは確かに問題がある。力というものは、普通、理性の上でコントロールされ出されるものだが、彼はどうやら感情の上にあるらしい。更にコントロールもできず、本人が気付いていない。 非常に悪しき状況。 「それで。彼を含む何人かを一つ所に纏めるというのは?彼は本来そこまで力を有しているのに監禁だというのか?」 そう言ったセフィロスに男は、そこが問題だ、とまた一つ“問題”を増やしたりする。 「他の欠陥品に関しては少し違う種の突出した能力があるようで…そこはその手の専門に見てもらう。だから一般兵と同じ場には配属できない。しかし―――クラウド・ストライフ」 今話題にしていた、彼だ。 「彼は特殊だ。……そこで君に頼みたい」 「俺に?何を?」 「―――――――――“コントロール”」 何を言ってるんだ―――まずセフィロスが思ったことはそれだった。制御できないからといって他人が制御できるものがあるだろうか。いや、あるとしてもナンセンスな話である。たった一人の兵士の…しかも神羅が入社を判断したその兵士の、その制御とやらを自分がするなんて。 しかし、その意味が分からないでもない。 未知数である能力、ことに力となれば、それを上回る人間によって制圧するのは必至、つまりそこでセフィロスの登場というわけだ。 「神羅の中では、君にしか頼めないんだ」 「…勝手だな」 「そうかもしれん」 セフィロスは一つ溜息をつくと、その男を見遣って、 「――――――――分かった」 と、了承の言葉を述べた。 しかしこんな非常事態はセフィロスにとっても初めてのことである。具体的にどう、そのクラウドに接し、そのコントロールとやらをすれば良いのかが分からない。 「実際のコントロール法は?」 そこで、まずそこを聞くと、男は書類を纏め上げながら、さも当然のようにこんなふうに言った。 “任せる” ―――――――――ふざけているのか? そう思ったが、セフィロスはそれ以上をその男には求めなかった。勿論、神羅にも。
クラウド・ストライフ―――――――未知数能力を有する、欠陥品。 なんて不吉な存在だろう。 コントロールすらできず、能力を爆発させる。
けれど、思っていた。 憐れ、だと――――――…。 素晴らしい能力を持ってしても、この組織はそれを欠陥品と呼んだ。 彼は、普通の道を歩めはしない。 この神羅に関わってしまった以上は。
そういった大前提を元に、セフィロスはクラウドと対面した。 一見、何でも無いふうな少年。 さも偶然を装ったその出会いに、心中セフィロスは苦笑を漏らす。 けれど少年は、セフィロスを見て目を輝かせた。 貴方がセフィロスですね、と。 お会いできて光栄です、と。 他の誰とも変わりないその態度は、セフィロスを困惑させる。この彼のどこが欠陥品なのだろうか。本当にコントロールができない問題児なのだろうか。 そんな戸惑いを胸にセフィロスはクラウドと接し始めたわけだが、当初クラウドは、そんな疑問をセフィロスに抱かせる程に“普通”だった。 ところが、ある日。 それはセフィロスという人がクラウドの中で少しばかり“近い存在”に変化してきた頃の話だったが、そんなある日に初めてセフィロスは納得できるような場面に出くわしたのである。 それはクラウドと同じ“特別コース”に所属していた、本来は―――“欠陥品”である少年。その少年をクラウドは、一撃で死に至らしめてしまったのである。その間、クラウドは自分のしたことを良く覚えていなかった。何が何だか分からない内に事は終わっているという、そんな状況である。この意識の無さや、ふとした瞬間に勃発する力。破壊力。 ―――――――――ああ、なるほど。 セフィロスはそれを納得した後にこう言った。 何故あんなことをしたんだ、と。 しかしそれは、その最中を覚えていないクラウドには愚問だった。だから言い換えてみる。 気に食わなかったことは?、と。 するとクラウドは首を傾げながら、あどけない顔でこんなふうに答えた。 『“お前に関わると皆不幸になる”って言われた』 その後すぐにクラウドはセフィロスに向かって、 『そんなことないよね?セフィロスは不幸じゃないよね?』 そんなふうに――――――同意を求める。 セフィロスはすぐには答えを出さなかったが、それでも最終的には「そんなことは無い、大丈夫だ」と答えたのだった。 本当は――――…正直、良く分からなかった。 不幸ではないが、クラウドと関わることで何かが圧迫されていくような気はする。 例えばクラウドにそんな言葉を吐いた少年が、何故そんな事を思ったのかが証明している。 その少年はクラウドがセフィロスと臆面無く接しているのを知っていた。勿論それはセフィロスにそういった依頼があったからで、一般的な兵士はそんなふうにセフィロスに接することはできない。しかしとにかくその少年はそんなクラウドを妬み、そしてどこからか仕入れた情報により、クラウドが未知数の力を持つ、いわば問題児ということを知った。 だから本当は、そんな危険な人物がセフィロスに関わったら、セフィロスもまた迷惑だ、というようなことを言いたかったのである。 それにコントロールできない力を爆発させたクラウドは、多分その言葉に嫌悪感を抱いた。それは…独占欲に、似た。 自分の正当性を守ろうとするその行動を抑える方法は既に一つと導き出されている。 自分を正当化し「今」を引き剥がそうとする、その反対をすれば良いのだ。 『お前は正しい。――――そしてお前の側に在ろう』 ――――――――それが一番簡単なコントロール方法。 だからこうして側にいる。 だからこうして見つめている。 一番簡単な、恋愛という充足を与えて…。
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