[ CLOUD ]

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くもりガラスからのぞく空はやっぱり雲っていて、晴れてなどいなくて、気だるかった。

いつになったら空は晴れるのだろう。

いつになったら心は晴れるのだろう。

家にいても、此処にいても、いつでも変わりないそれが、いつか拭われるのだろうか…?

 

 

 

 

 

「シャイン…良い名前だな。だが顔とは正反対だ。こいつは駄目だな。次。…ん?リバース…んん…これは不吉な名だな」

書類の束をめくりながら薀蓄をたれているのは英雄セフィロス。何の書類かといえばそれは、ソルジャー試験の受験者の書類である。

その書類は数百にのぼったが、それを一枚づつ眺めながらセフィロスはやたらと口数を増やしていた。

隣でその整理をしていたザックスは、溜息をつきつつ、セフィロスにこう言う。

「セフィロスさ…さっきから聞いてるとマトモな奴一人もいないじゃん。名前で判断は悲しすぎるぜ」

「馬鹿者。名前だけでなく、顔もだ」

「同じでしょうが…」

「何を言う。顔に表れるものだ、人の意気込みや心というのは。だからだな…」

「はいはい」

もう数百と聞いているセフィロスの薀蓄に半ば疲れていたザックスは、途中で適当にあしらうと、さっさと自分の仕事に戻る。自分の仕事とはいっても、所詮ボランティアである。いきなり呼び出されて何かと思えば、手伝え――――その一言だった。

そんな訳でその日は朝からソルジャー試験の書類にもまれている。

ソルジャー試験の全般は治安維持部門に一任されているため、こうしてザックスなどにも仕事がどっさりとやってくるというわけだ。

まったくもって迷惑。だが、未来のソルジャーと思うと、そうも言っていられない。

ザックスがボランティア中の“自分の仕事”をすいすいと進めていると、ふと隣でセフィロスの動きが止まった。何かと思って目をそちらに向けると……どうやら、ある書類を見て止まっているようである。

「どうしたんだよ?」

何か不備でもあったのか、そう思って覗き込んで見るが、そんな雰囲気ではない。それに、何かあれば絶対に薀蓄が聞こえてくるはずである。

セフィロスはただ黙したままじっと目線をその髪に向け、ザックスの声が聞こえてないふうに動かない。

一枚の書類。

それは、ソルジャー試験の……。

「不吉な名前だな」

暫くした後、やはりそうした声が響き、ザックスはいつもの事だったのか、とホッとした。単なる毒付きならさっさとそう言ってくれ、と思いながら。

その後すっと自身の仕事に戻ったザックスは、その後のセフィロスの動きを見てはいなかった。

その一枚の書類が、脇に避けられていたのも。

 

 

 

急遽呼び出されてその部屋に出向いたクラウドは、そこにいた人物に目を見張った。

呼び出されたのはソルジャーの詰め所みたいな場所だったので、てっきり上官であるソルジャーに何か小言でも食らうものかと思っていたのだが、どうやらそういう訳でもないらしい。というか、小言を言われるようなことをしたつもりは無いが。

「どうして…セフィロス?」

仕事中に会うなんて滅多に無いその人が、そこにはいる。

ということは自分を呼び出したのはセフィロスということか。

セフィロスはやってきたクラウドを見遣ると、その後に一枚の書類を手にしてクラウドの近くへと歩み寄った。

「これはどういうことだ?」

そう言って、ヒラリと見えたのは、ソルジャー試験受験用の書類である。写真がついており、今までの成績、備考にはトレーナーの見解なども書かれていた。

それを見たクラウドは、ああ、と言いながら説明をし始める。

「受けても良いって。言われてたから」

簡潔にそう答えると、セフィロスは少し不機嫌そうに近くの椅子に腰を掛け、足などを組んだ。その場に立ったままのクラウドは、その様子を眺めながら首などを傾げる。

何をイライラしているのだろう?

折角ソルジャー試験をイレギュラーで受けることができるというのに、それは喜びこそすれ、怒るようなことではないはずだ。

しかし目前のセフィロスは誰の目に見ても分かるくらい機嫌が悪かった。

怒る必要なんてどこにも無いのに――――そう思うクラウドの目前で当のセフィロスは、はあ、と息をつく。

それからクラウドを見遣ると、

「無理はするな」

などと言う。しかしクラウドにはその意味こそ理解できなかった。自分はある程度の実力を持ってしてそのイレギュラーでの試験資格を貰ったのだから、それはオカシイことではないし、無理なことではない。セフィロスの言うことの方が余程オカシイというものである。

「無理なんかしてないよ。俺は受けるよ、試験。悪いことなんて何処にも無いだろ?」

少し笑ってそう言うクラウドを、セフィロスは黙って見つめていた。

書類―――――確かにそれには、そこそこ実力があるように書かれ、本来の段階をパスしても良いとのことも書かれている。

けれど―――……違う。

それは違うのに。

しかしセフィロスはその心の内を口にすることはせずに、その一枚の書類を握り締めたまま、

「そう思っているのはお前だけだ」

と、そんな言葉を口にした。

「それ、どういう意味?」

「さあな。自分で気付かなければ、それまでだ」

「え…?」

何を言われているのかも分からないままに、クラウドは首を傾げる。何故か自分に批判的なセフィロスは、折角のめでたい結果にそんな言葉を浴びせたりする…意味が分からない。

本来の段階をパスすること…それは大概、素晴らしい実力を持つ者にしか許されない。

そして現状でもそれは、クラウドを含め数人しか認められていなかった。試験を受ける資格…それはつまり、受かることを前提として、なのである。

勿論クラウドは、自分はそれをパスするはずだと思っていたし、疑いなどしなかった。

セフィロスも勿論それを喜んでくれるものと思っていた―――――なのに。

「…分かったよ」

自分の中で何かを解決したようにクラウドはそう言うと、一つ頷いて真面目な顔つきでセフィロスを見遣った。その言葉はセフィロスの言葉に対しての回答ではなく、自分の導き出した考えへの回答だった。

パタン、とドアを閉め去っていったクラウドを見つめながら、セフィロスは書類を放る。

そして、一つの溜息。

「――――何も分かってない癖にな…」

 

 

 

認めないというなら、認めさせるまでだ。

無理じゃない、できる、そのことを。

 

 

 

いつもの訓練を終えた後、クラウドはある場所に向かっていた。そこは兵舎の中にある受付のようなものである。ほぼ寮と同じ扱いの此処では、自分宛に届いた荷物やらはこの受付で受け取る。それから諸々の手続きも同様に此処で済ますことができる。本社の受付と似たような機能を持っていたが、本来のそれは場所が遠く兵舎からは行くのにも不便なので、こうしてこういう場所が存在している。

この日は試験の受験票というものを取りにきた兵士達で、その場はごった返していた。

クラウドも例外なくそれを取りに来たのだったが、順番が来て自分の名前を告げると後回しにされた。

「選抜コースの方は後に」

ああ、なるほど。

そう言われて納得したクラウドは、時間がかかりそうだということもあって、一旦部屋に戻ったりした。

そのコースは、特別である。

クラウドのように、実力のある者は特別の訓練を用意され、普段分けられているクラスも別である。そういうふうに説明され、クラウドはそのコースに身を置いていた。

コースは少人数制で、いわゆる英才教育とでもいうのか、戦闘に関連のないことまで教えられる。同僚の兵士たちは、そのコースをエリートコースと呼んでいたが、そう言われるのも悪くないとクラウドは思っていた。

受験票を受け取るまでの間、部屋で待機―――――そう思っていたクラウドを待ち受けていたものがあった。

ふと、歩みが止まる。

「――――――セフィロス?」

……どうして?

何故かそこには、その人が待ち構えている。

クラウドの姿に気付いたセフィロスは、ゆっくりと手を差し伸べると、来い、などと言う。

しかしもうすぐ受験票を受け取る時間がやってくるのだ、今一緒にいたらそれを逃してしまう。セフィロスは何故か試験を受けること、それを良く思っていないらしいのだ。

まさかとは思うけれど、阻止しに来たのかもしれない――――そう思うと。

「嫌だよ…俺は受けるよ」

一歩、後ずさる。

「クラウド、頼むから一緒に来い」

「嫌だよ…」

いくらセフィロスでも―――――それは出来ない相談。

また一歩、後ずさる。

「クラウド」

一際強くそう言われてクラウドは唇を噛むと、一瞬にして身を翻して、そして。

「クラウド!!」

セフィロスに背を向けて、全速力で逃げ出した。

良く分からない、確信もないけれど。それでも今はセフィロスが恐ろしく見える。

いつもはとても好きなのに…今だけは。

遠くの方からずっとセフィロスの声が聞こえていたが、クラウドはとにかく逃げ続けた。

しかし、あまりにも必死で逃げていたせいか、目前の障害物に気付かなかったのだ。

ドン…

当った瞬間にはもう遅かった。

気付くと既に、腕にやんわりとした感触が染み付いていたのだった。

背後からはゆっくりとした歩調で人が近付いていた。

何で――――――……何で?

諦めに似た感情が全身を駆け巡り、クラウドはゆっくりと目を、閉じた。

 

 

 

クラウド・ストライフ。

その名を耳にしたときは何て不吉な名前だろうと、セフィロスは思っていた。

CLOUD……物事の悪しき見通し……。

STRIFE……不和……。

まるで何かを予兆するかのような名前だと思っていたその名の少年に関わることになってしまったのは、正に皮肉であった。本当なら一般兵の何においても口出しするようなことは無いセフィロスが、こんなふうに深く関わっている。というよりまず、一般兵とソルジャーは別世界と同じことだ。

切れ掛かった電球を付け替えることもなく、パチパチと付いたり消えたりを繰り返している電気の中でセフィロスは、横たえたままのクラウドを見つめていた。

つい今さっきまで、ザックスにも協力を得て捕まえたクラウドは、ジタバタと暴れた上で、セフィロスの一撃を食らって気を失い、こうして目を閉じている。そういう雑な扱いはしたくなかったが、それは仕方無かった。どうしても確保しなくてはいけなかったのだから。

意味も分からぬままにそれに協力してくれたザックスは、そうした後に何も聞かずに去っていった。何かを悟ってくれたのかもしれない…とにかくそれは、セフィロスには在り難いことだった。

ソルジャー試験を受けるなどとクラウドが言ったときはどうしようかと思った。

まさか―――――――そうも思ったが実際に書類を目にしてしまったからには、申請されているということであって、後は自分が何とかするしかない。

受けても良いだなどと―――誰が言うものか。

言った奴の顔が見てみたいものだと、セフィロスは心の中で毒づく。

目前で目を瞑っているクラウドの気持ちは…ちゃんと理解しているつもりだし、クラウドの立場からしたら、このように阻止されるのはどう考えてもおかしい事である。

それは知っているが―――――――いけない。

それは出来ない。

 

クラウド―――不吉な名前だと思っていた。

出逢った時から、ずっと。

 

 

 

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