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Chance ---------------------------
セフィロス家は非常に丈夫な作りをしている。 地震がきても雷がおちても平気ではなかろうかと思うほど丈夫である。 備品などは全て神羅から支給されていたが、これもまた非常に丈夫だった。 冬のこの時期、セフィロスの周りのソルジャー達は、やれ暖房が壊れただのと騒いでいたが、セフィロスの家の暖房はちゃきちゃきと働いていた。 これは実に奇跡的で、はっきり言ってかなり良い環境だったはずだが、セフィロスはこれが気に食わなかったのである。
クラウドとの付き合いが始まってから、何週間か経つ。 が、セフィロスは未だに紳士的にクラウドに手を出していなかった。しかしこれは実のところ、紳士的だとかそういう問題ではなかったのである。何故こんなに静かな付き合いをしているかといえば、それは単にセフィロス自身の問題であった。 そういう関係になるのはともかく、じゃあどうしたら良いかということがイマイチ良く分からない。これはセフィロスの中で非常に大きな問題である。 そんなこんなで数週間。 結局セフィロスとクラウドはプラトニックな関係を貫いていたりした。
その日、セフィロスはクラウドと会う約束をしていた。 もうすぐクラウドがやってくるという時間になって、セフィロスは何だかそわそわしていた。今日もまたクラウドはやってくるが、さて何をしたら良いものか。そんなことを考えていると、何だか落ち着かないのである。 せめてこの家の暖房でも壊れてくれれば「寒いな」とか何とか言って抱きしめるだとか、そういうこともできるかもしれないと思うが、どうにもこうにも暖房は壊れそうに無い。 水をかけてみても、グーで叩いてみても、へっちゃらといわんばかりに、暖房はブーンなどといって稼動したりする。…かなり憎らしい。というか憎さ100倍とは正にこのことであろう…。 今日こそ何か進展をしなければ、そう思いつつもセフィロスは頭を抱えていた。 しかし時間は容赦なく流れるわけで、やがてその家にはインターフォンの音が響いたりする。勿論、クラウドである。 ああ、とうとう来てしまった…そんなことを思いつつクラウドを迎え入れるべくドアを開けたセフィロスは、そのドアの向こうに立っていたクラウドに「入れ」などと言う。言ったは良いが、すっかり頭は白くなっていた。 「お邪魔します」 そんな言葉をかけて入ってくるクラウドを見遣りながら、セフィロスは「適当に座れ」などと言ってみる。…が、やはり頭は真っ白だった。 とにかく落ち着いて飲み物でも出そう、そう思ってセフィロスはコーヒーなどを出し、それから相当悩んだ挙句にクラウドの隣に座った。…とはいっても30センチほど間が開いている。 「セフィロスのところは暖房壊れてないの?」 「だ、暖房だと!?」 何とタイムリーなことを口に出すのだろうか。少し焦りつつそう返答すると、クラウドは何の疑問も持たないままに、うん、と一つ頷く。 「何だか最近、兵舎の暖房が壊れてるんだって。そろそろ傷んできてるんだろうけど」 「そ、そうか」 セフィロスは我が家の暖房を恨まずにはいられなかった。何故他のところでは都合よく壊れて、この家だけ壊れないのだろう。これさえ壊れてくれれば、悩まずにギュッとかチュッとかできるかもしれないというのに。 ――――――――――しかしセフィロスには口実もなくそれができなかった。 きっとそういうものなのだろうとは思うが、いまいち、そういう雰囲気に持っていくというやり方が分からない。いきなり抱きついてもオカシイだろう、野獣じゃあるまいし。 とにかくセフィロスには何かキッカケが必要だったのだ。 それらしい雰囲気になるための、キッカケというものが。 至極悩んだ顔をしているセフィロスを見遣ったクラウドは、一旦視線を外してから、もう一度セフィロスの方を見ると、ふっとこんな事を言い出した。 「あのさ…」 「ん?」 「俺のとこの暖房も壊れちゃったんだ。だから、その…」 「何だ」 「その…今日、此処にいても……良いかな?」 その瞬間、セフィロスの顔は蒼白になった。 何ということかクラウドの方から誘惑――――――――!? …それはいかにも不味いのではないだろうか、セフィロスは相当悩んだ。勿論此処にいるのは構わないのだが、本当なら自分から言い出すべき言葉なのではないだろうか、それは。そう思うと、それをクラウドに言わせたというのは実に実にけしからんことである。 結構に悩んだ挙句、セフィロスはコホン、と咳払いなどをして、 「あ、ああ」 と答えた。…何だかんだいって、チャンスはチャンスなのだ。 しかし、だからといって良い案があるわけでもない。このままクラウドがこの部屋にいたとしても、そういう雰囲気になる為にやはり何かのキッカケが必要なのは変わりないのだ。 キッカケさえあれば良いのだが―――――…。 そんなもどかしい展開の中でも、クラウドはあくまで穏やかだった。 クラウドはクラウドで、何かもっとセフィロスに近寄る方法があれば良いなとは思っている。しかしなかなかセフィロスがそういう展開に持っていかないので、クラウドは敢えて今日、そんな言葉を口にしたのだ。とはいっても、それは早急な展開を望んでいるわけではなく、あくまで順を追ったものだった。 「しかし、その、あれだな。設備はしっかりして欲しいものだな」 セフィロスはそんな言葉を口にしつつも、心の中では“設備はしっかりしないでくれ”と思った。何が悲しくて、この家だけ丈夫なのだか…。 とにもかくにも、チャンスができてもキッカケは無いという悲しき状況であった。 「…えっと…静かだね…」 「…ああ…」 「…あの…話とか、無いの…?」 「…いや、微妙で…」 ―――――――何ともスローな空間である。 更にはこんな会話まで起こった。 「…何かその…緊張するような…」 「…そうかもしれん…」 「…何か音…が、欲しいよね」 ―――――――音…? セフィロスは相当悩んだ挙句に、仕方なくテレビというものをつけることにした。因みにこのテレビは、かなり長い間使われていない。セフィロスは一人でいる間、こういうものをあまり使用しないのである。 そうか、テレビでもつければ音があってまだ落ち着くのか、そう思ってセフィロスはスイッチを付けた。 しかし。 「ん?」 カチッ カチッ カチッ どんなに何度やっても、そのテレビはつかないではないか。コンセントを覗いてみたが、どうやらちゃんと入っている。ということはつまり、これは故障とかいうものではないだろうか。 「…すまん。どうやら壊れたらしい」 何と言うことか、雰囲気を作る為に暖房が壊れるのではなく、雰囲気を助けるテレビが壊れていたのである。つけもしないので、そんなことには気付きもしなかった。これでは何の解決にもならない。 結局、何も音の無い空間が続く事になったのは言うまでもないことだった。 ―――――――――セフィロスはどうして良いか分からない極致に至った。 が、しかし。 その時、非常に都合が良く、すっと電気が消えた。これは勿論セフィロスがスイッチを消したわけでもなければ、念力で消したわけでもない。とても自然に、消えたのである。 「て…停電??」 真っ暗になった部屋の中で、クラウドは周囲を見回しながらそんなふうに声を出した。まさか、とは思ったがそれしか考えられることはない。セフィロスはふっと窓の外を見遣ったが、その向こうに見える家などにはちゃんと明かりがついている。という事はどうやらこの部屋だけが暗いということらしい。 しかしこれは実に都合が良かった。 何しろ暗いのだ。 ここぞとばかりにセフィロスはすっとクラウドに近寄ると、そっと肩を抱いたりする。その動作は暗い中では見えない。だから、突然やってきたその感触にクラウドはビクリ、とした。が、勿論「嫌だ」ということは無い。 むしろ、これを待っていたといってもいい。 「クラウド…」 キスの一つでもしてしまおうか、そんなふうに思いながら静かな声でそう名前を呼んだセフィロスだったが、しかしまたもや唐突に事件が起こった。 そう……今度は寒くなったのである。 「セフィロス…何か…暖房、壊れた…?」 突然肌寒くなった部屋の中で、ちょっとばかり寄り添った二人。それはいかにも良い雰囲気だったが、それを応援するかのように今度は暖房がイカレてしまったのだ。 この事実は、セフィロスにとっては非常に不思議だったが、でもとにかく好都合だった。何しろ寒いのだ。と言うことは寄り添うしかないではないか。 「そうかも…しれないな」 そんな訳でセフィロスはより強くクラウドを抱きしめた。抱きしめたその部分から、鼓動が伝わりそうな気がする。それは少し恥ずかしい気もしたが、そんなことは言っていられなかった。 だってチャンスは今しかないのだから。 「寒いだろう?」 「うん…だって俺、自分の部屋も暖房壊れてるし。此処なら少しは暖かいかなと思ったのに…」 「――――じゃあ、クラウド」 セフィロスは一つ咳払いのようなものをした後に、そっとその言葉の続きを口にした。それは初めてのお誘いの言葉。やはり此処から先は自分から言わねばならないだろう。 こんな関係の中ではきっと自然なことだ、そうに違いない、そう自分に言い聞かせたセフィロスは、それでもやはり少し照れてしまった。 “一緒にベットへ…”
期待通り壊れてくれた暖房には感謝しなければなるまい。 しかし、問題は残っていた。何しろセフィロスの家のテレビも電気も暖房も全て、それ以降暫く直りはしなかったのだから。 そう、本当にすっかり壊れてしまったのである。 神羅に申請すれば直してくれるということは知っていたが、セフィロスは申請などしなかった。 そんな訳で暫くセフィロス家は過ごしにくい空間になっていたが、その代わりその家にはもっともっと大切なものが増えたのだった。
END
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