次の瞬間、俺の目に映ったのは――――…。

「……うわっ…」

俺の目に映ってたのは、はっきり言ってかなり良い感じのバスルームだった。だけど特に変なとことか秘密っぽいとこなんか無くって、普通といえば普通と言う感じ。

ただちょっと違ったのは、普通よりかは高級そうなトコだろうか。

とにかくそのバスルームは普通よりちょっと広めで、バスタブなんかは1、5倍はあった。かなり前から使っているんだろうけど壁もバスタブも何もかも綺麗でピカピカしてる。全部が全部かなり綺麗に整えられていて、はっきり言ってこれはシャワーを浴びるのも楽しみになるくらいのつくりだった。

「何だよ〜めちゃめちゃ良いバスルームなのに…」

もしかしたらセフィロスってば、ケチってただけなのかな…?

俺に使わせたくないほど愛用してるとか、そういう…。

「あのセフィロスが…?それも何だかなあ…」

…ちょっと考え難い。

だけどとにかく俺だったら確実にお気に入りのバスルームって感じで、俺は「してやったり!」って気持ちで此処を使わなきゃいけないはずなのに、ついつい浮かれてた。

どれどれ…バスタブをもっと詳しく見てみようかな、そう思ってフタをカラカラと捲るとそこには、驚いたことにお湯がはってあったりした。しかも手を入れてみるとそれはホカホカで入れたてみたいな感じの温度で。

お湯が張ってあるってことはつまり、セフィロスは此処に入る予定だったんだろうか…そう考えるとやっぱり何だかムカッとくる。

ちょっとくらい使わせてくれたって良いのに…!

俺は「ムカッ」がちょっとばっかり復活したから、マッハのスピードで身体を洗って髪をあらって隅々綺麗にしてから、その湯につかってやることにした。

本来俺は自室に戻ってシャワーを浴びることになっているから、此処で少しばっかり湯につかって時間が経ってもどっこいどっこいってトコだろうと思う。

折角綺麗なバスルームだし、「してやったり!」を高めることもできるし、これは一石二鳥だ。俺の自室のバスルームなんかとは比にならないそこで、ちょっぴり良い思いをしてもバチは当らないはずだ。…セフィロスさえ見ていなければ、だけど。

俺はちょっと楽しい気分になって、そっとそのバスタブに足を突っ込んだ。ちょっと熱めだけど入れないこともないくらいの熱さで、結構すんなりと全身までつかれそうな感じ。本当に良い感じで、俺はすっかり全身すっぽりとその中に入ると、バスタブの背にもたれながら「ふう」なんて息をつく。

――――――かなり気持ち良い…っ。

セフィロスはいつもこんな良い感じでお湯に浸かってるんだろうなあ、そんなふうに思ってちょっと羨ましくなる。

もし、もしもセフィロスが「此処を使えば良い」と何とか言って公に使うことを許してくれたらどんなに良いだろうとそんなことまで浮かんできた。そうしたら俺は多分もっと此処に来るのが楽しみになるんだろうと思う。

「はあ…セフィロスはどうして駄目って言うんだろう…」

俺は周囲を見回してみたけど、どこにも秘密は無さそうだし、やっぱりその理由は不明だ。それともやっぱり出し惜しみみたいなもんなんだろうか。

まあとにかく解っているのは、それでもやっぱりセフィロスは「此処を使うな」って言うんだろうって事だ。

―――――――と、俺がそんなことを色々考えていたその時。

 

ガタッ

 

ドアの向こうの方で何かの音が聞こえて、俺はその瞬間にはっとした。

…まさか…セフィロスにバレた…??

大体セフィロスは、寝室にいるといったらそのまま居るような人だから俺はすっかり安心してたけど、もしかしたらこんな日に限ってありえないことが起こるかもしれない。

そんなふうに思って用意周到な俺は、真っ先に言い訳を考え始めた。

「えっと、えっと…!」

“だって遠いんだもん!”とか?

……全くもってその通りだけど、多分それって通用しないっぽい…。

「じゃあ、えっとえっと…!」

“湯冷めして風邪引くのヤダから”とか?

……めちゃめちゃ正当な理由っぽいけど、セフィロスの切り替えしが目に見える…。

「う〜っ、じゃあ…!」

“だって此処にバスルームあるから良いだろ!”とか?

……これって言い訳じゃないな…でも結構良いかもしれないとも思う。だって本心だし。

そうだ、本心を言えば良いんだ。今まで俺はそんな事を考えもしなかったけど、一度くらい本心を言ってみても良いんじゃないだろうか。

何だかそう考えたら俺は、妙にヤル気が出てきた。そうだ、セフィロスにとことん対抗してやるっていうのも手なんだ。此処にバスルームがあるのに自室に帰れだなんていかにも酷いし、酷いと思うなら酷いって言ってやれば良いんだ。

うん、そうに違いない!

「よーし…」

俺はそう決心して、ドアの向こうから響いてくる音にも恐れずに湯の中でじっとしていた。

来るなら来い!―――――そう思いながら。

そうして暫くしてそのドアの向こうから響く音がやんだ時、とうとうドアが開くガチャッという音がした。

その音がしたことで俺は、セフィロスがバスルームに入ってきたんだって事が分かった。でも決心したせいか恐くなんか無くて、ただ「言ってやるんだ」って事に燃えてて、俺はセフィロスの第一声をとにかく待っている状態。

どうせまた怒るに決まってるんだ。

俺はそう思いながらとにかく第一声を待って待って待って…待ち続けた。

――――――ところが、それはいつまで経っても響いてはこなかった。

「…??」

おかしい、明らかにおかしい。

そう思って、耐え切れずに俺は背後を振り返る。本当なら怒りの第一声を聞いて、それに対抗して怒鳴ったりして、そこで初めてご対面って感じにしようかっていうプランだったのに、俺はある意味無言のプレッシャーに負けてちゃったんだろう。

…で。

「…え?」

背後を振り返った俺は――――――そこで信じられないものを見てしまったわけで。

「な、何で…」

俺は無意識にそんな事を口にしていて、それ以外の言葉は出てこなかった。言ってやろうと思ってた言葉もどっかに飛んでしまったみたいに。

――――――だってそこには……全裸のセフィロスがいたから。

「う、嘘…え、え?何で?もしかしてシャワーあびるとか…」

いきなり全裸で現れたセフィロスに、俺ははっきり言って困惑してた。

だって脱衣所の時点でセフィロスは知ってたはずなんだ、俺が此処にいるってことを。それに関してセフィロスは絶対に怒るはずだし、文句を言うだけなら脱ぐなんてありえない。それが全裸ってことはもしかしてセフィロスも、俺が自室に帰ってる間にバスルームを使おうと思ってたって事なのかな。

でもでも、それにしたってお怒りのお言葉が無いのはオカシイ。

それにそれに…。

「え、え、ええっ??」

訳がわからなくて俺は意味のない「え」を連発する。

その向こうでは全裸のセフィロスが―――――――恐ろしいことに、笑ってた。

でもその笑いっていうのは微笑みって感じの笑いで嫌なものじゃない。何だか解らないけどセフィロスは全く怒る気なんか無いみたいな感じに見える。

一体どうなっちゃってるんだ。

明らかに困惑してる俺に向かって歩き出したセフィロスは、俺が入っているにも関わらずバスタブの中に入り込むと、その中に身を沈める。すると、二人分の体重を受けて水位が上がって、お湯が少しだけ溢れて流れていった。

サラサラ…流れていくお湯を視界の中に映しながらも俺は、目前にやってきたセフィロスから目が離せない。

だって、だって―――――――セフィロス、全然怒ってない。

それどころか。

「…お前と一緒に入るなんて、初めてだな」

「へっ!?…あ、ああ、うん。そ、そうだよね…っ」

――――――恐い…。

何でいきなり優しさ全開なんだろう…!?

俺は焦った。とにかく焦った。あんなに入っちゃ駄目だって言われてたバスルームに居る俺に、こんな優しげな言葉をかけて微笑んでいるセフィロスなんてハッキリ言って恐い意外の何者でもない。

しかもこの状態って一体どうなんだろう??

…全裸で二人…って。

そう思って違う意味でも焦ってきた俺の前でセフィロスは、相変わらず恐いほどの優しい表情を向けてくると、

「クラウド…」

そんなふうに俺の名前を読んで、それから…お湯の中に浸かっていた腕をすっと上げる。その腕はゆっくり俺の頬までやってくると、水滴をつけたままでそこに触れた。

そんなことをされて俺は、ヤバイ、って思った。ただそう思って、どうにも動けなくなる。さっきソファのところでもそうされたけど、その時と全く同じ予感がしたりして、俺はどうしようもなく困ってた。

来る――――――――そう思ったから。

たださっきと違うのは、此処がバスルームの中っていうことだ。だからハッキリいってシャワーがどうのっていう心配はないし、それどころか今正にそこに居ますって感じで用意も何もない。

ただ俺がその予感に対してドキドキしてたのは、多分もっと基本的なことだった。つまり何ていうか…この状況にドキドキしてたんだ。二人で裸でバスタブの中にいて…そういう雰囲気になっちゃってるって、そういう事に…。

俺は久々にそんな緊張を感じて、懐かしいなあとすら思った。

もっともっと前、それは多分セフィロスとそんな関係になり始めた頃の話だと思うけど、その頃の俺はいっつもドキドキしっ放しだった。セフィロスはやっぱり格好いいし綺麗だし、その上その頃は今みたいにセフィロスの淡白さなんて知らなかったから、時々見せる真面目な顔とかそういう雰囲気とかに俺はとにかく緊張してて。

そういう感覚が、今、すごい久々に俺を襲ってる。

どうしてこんなにドキドキするんだろう…いつもと違うシチュエーションだからかな…?

ベットの中ではもう緊張なんてしないし、服なんか脱がされても別にって感じだし、その最中だって特に緊張なんかしない。それなのに何か…変、だ。

俺はそんなふうに緊張の中にいて、マトモにセフィロスの顔を見れなかった。だけどそれでも視界の隅っこにはセフィロスが移ってて、そのセフィロスが俺をじっと見てるってことだけは分かる。

セフィロスは俺を見てて、それから、頬にやった手をゆっくりと下降させてる。

その下降した手は俺の首筋にやってきて、やがて鎖骨の辺りをゆっくり撫でた。

俺は首くらいまでしっかりお湯の中に浸かってたから、俺の鎖骨の辺り触ってるセフィロスの腕は半分お湯の中だ。だからそこら辺をなぞるのに指を動かすたび、ちゃぷん、と音が響く。

シンとしたバスルームの中、それは何だか妙に響いてた。

「クラウド――――」

二度目に俺の名前を呼んだ時、セフィロスはザプンと音をさせて半身を上げたりした。身体に纏わり付いてたお湯がバサアアと落ちていくのが視界に映る。それと同時に俺はセフィロスの身体の陰にな って、結局視界全体にセフィロスのお腹辺りが映し出された。

俺はその視界の中の腹筋なんかを見つめて別のことを考えて…というか、別の事に意識を向けようって無意識に思ってたみたいで、何だかその後のセフィロスの動作なんて頭に無かった。…いや、それこそ無意識では何が起こるかって分かってたとは思うんだけど。

すっと顔の脇を、銀髪が通る。

それから。

「ん…」

それから、やっぱりっていうか、とにかくキスなんかしてた。

いつもと違って、室温も熱くて湿気だってある中でそんなことをしたもんだから、何だか俺は余計に熱かった。

しかもセフィロスの指はもうすっかりお湯の中に入り込んで、その中で俺の胸あたりを行ったりきたりする。それがポイント絞った愛撫に変わったとき、俺の体の熱さはもっともっと膨らんだ。

――――――ヤバイよ…何か、ヤバイ。この感じ。

 

 

 

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