秘密のバスルーム

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俺は良くセフィロスの部屋に遊びに行く。

そんな俺は、毎回思うことが一つある。

それは、セフィロスの部屋のバスルームのことだった。

バスルームなんかについて何を思うんだって言われると微妙なんだけど、とにかく俺にとってはそのセフィロスの部屋のバスルームっていうのが不思議な場所だったんだ。何故かって言うとそのバスルームは、セフィロスが唯一「入るな」って言う場所だから。

何でか知らないけど、セフィロスはそのバスルームを使わせてくれない。

…っていっても、人の部屋のバスルームを使うって方がそもそも間違ってるのかもしれないけど、一応俺とセフィロスはそういう事もしちゃうわけだから、それは俺にとっては死活問題だった。

ベットに入る前にシャワーを浴びたいな、なんて言うと必ずセフィロスは言うんだ。

「此処に来る前に入って来い。自分の部屋で」

そんなふうに。

そう言われ続けてきたから俺は自分の部屋でシャワーを浴びてからセフィロスの部屋に遊びにくるようになってはいたけど、それでもたまに急遽会うことになったりして、しかも急遽そんな雰囲気になっちゃったりした日には、やっぱりそれは死活問題なわけで…。

でも、それでもセフィロスはやっぱりそのバスルームだけは入っちゃ駄目だって言うんだ。何でそんなに駄目だって言うのか俺には分からない。

だからセフィロスの部屋のバスルームは、俺にとっては何だか不思議でミステリアスな場所になってた。

で、今日もやっぱりそれは起こったりする。

今日は急遽会えることになって急遽セフィロスの部屋に飛んできたわけだけど、やっぱりこういう時って…そういう雰囲気になるんだ。

でもそれって絶対、セフィロスが悪いんだって思う。

だってセフィロスときたら、こういう時に限って恐いほど優しいんだ。

例えば、いつもだったら絶対に言わない台詞を言ったり、いつもだったら絶対にしない動作をしたりする。大体セフィロスって淡白なところが目立つから、そういう雰囲気になるときも俺が微妙に誘ったりすることが多い。因みにそういう時は俺だって事前にシャワーくらい浴びてきてる。だからこういう突発的な時は、俺は誘いをかけたりなんかしないんだ。…だってシャワーも浴びてないし。

それなのにそういう時だけセフィロスが誘ってきたりするんだよな…だから本当に俺、困るんだ。

「クラウド…」

セフィロスの手がすっと伸びてきたとき、俺は第六感で「来た!」と思った。これは絶対に来る…そもそもセフィロスが意味ありげに俺の名前なんか呼ぶ時点でオカシイ。ってかそう言ってる間の眼がヤバい。だってメチャメチャ優しげな目してるし!

「せ、セフィロス…あの。俺、今日はシャワーを…」

俺はセフィロスの手を頬で受けながらもへっぴり腰でそう言った。何でかって言えば、俺がそう言った時のセフィロスの文句は目に見えてるから。

ピクッ、そうセフィロスの眉が上がる―――――…それがその証拠。

「クラウド、お前な…」

「だ、だって…!!」

まだ何も言われてないのに、俺はすかさず言い訳体制に入った。戦闘準備万端って感じで避ける手まで添えてみる。こういう時、俺って何て用意周到なんだろうって思う。…まあこういう時だけだけど。くどいようだけど、何しろシャワーは浴びてないし。

で、セフィロスの表情はといえば、これまた最悪だった。

どっかの熱血教師の如く俺に指を突き出すと、ビシッッとこう言う。

「良いか、クラウド!こういう時こそこっそりとシャワーは浴びてくるものなのだ!」

「は、はいっ。すみませんですっ」

っていうか、何でそんな事で怒られなきゃならないのか意味不明…。普通そういう事で怒るかな??というか俺も何で律儀に謝ったりしてるんだろう…トホホ。

そう思ったけど、それよりもとにかく、セフィロスの言い分は熱かった。いつも淡白なのに何故だかそんなことに熱くなるセフィロスは、何故こういう時こそシャワーを浴びなければならないかという事について、それはもう細かく説明し出す。

っていうか…そんなこと説明されても…。

「突発的に会うと言うことはつまり、それだけ感情的な行為なのだ。じゃあ明日九時に会おう、とか何とか言って会うのとは訳が違うのだ!この相違が解るか、クラウド」

「い、いや…分かるような分からないような…」

「甘いっ!」

それだからイカンのだ、とか何とか言いながらセフィロスは更に説明を続ける。もう既に疲れてきた俺は、はっきり言って「そういう雰囲気」どころじゃなかった。ぶっちゃけてもう既にそういう雰囲気なんかは無くなってて、どっちかというと怒られてるだけって気が…。まあそれでもセフィロスが珍しく熱くなるときだから、俺はそれ聞くけど。

「突発的に会うとはつまり、一夜の愛のようなものなのだ。それに引き換え約束して会うという行為は生活のようなものだ。良いか、一夜の愛と生活では天と地の差だ、天と地!一夜の愛の為には着飾るが、生活は“ま、良いか”と怠惰になり着飾りもしない…つまり一夜の愛である今日のような日には完璧にする必要があるのだ!そうだろう!?」

「は、はあ…」

何だか段々マシンガントークになってきたセフィロスに、俺はとにかく圧倒されてた。

セフィロスの例で言えば、いつも約束して会ってる時は生活の一部ってことになるけど…でも俺はその生活の方でしか誘いをかけないわけで、セフィロスはその逆。ってことはセフィロスって、一夜の愛にしか燃えないわけ?なんて事を考えて、俺としてはある意味悲しくなった。

だってそれじゃあ、生活の部分ではセフィロスは燃えないって事だから…俺ってちゃんと想われてるのか…び、微妙かも…。

でもまあセフィロスが俺以外の人とそういう雰囲気になってるとかそういう様子はさっぱり無いからその辺は心配しなくても大丈夫だとは思うけど。

セフィロスはそんなふうに散々俺に説教して、それが終わった途端にすっと表情を変えるとこんな事を言い出した。

「…というわけだ。だから俺は待っている」

「え?」

待ってる、って…どういう意味だろう?

俺は訳が分からなくてハテナマークを点滅させる。

するとセフィロスは、すくっと立ち上がってこんなふうに言いなおした。

「お前は今から自室でシャワーを浴びて此処に戻ってくるのだ」

「―――――はっ!!?」

俺は呆然としながらもそう叫んでた。

だって…いかにもそういう雰囲気なんか飛んでしまったっていうのに、此処から更にシャワーを浴びる為だけに部屋に戻れって言うんだ。

そんなのってアリ…!?

「俺はお前が戻ってくるまで寝室で待っている。じゃあな」

「え。ちょっと、セフィロス!でも、それ…」

反論しようとした言葉もむなしく、セフィロスはサクッと寝室の方に消えていく。

俺はその姿を見ながら、本当に呆気にとられてしまった。

「…え…本気で…??」

――――――それって…酷すぎると思うんですけど…。

何が悲しくてシャワーの為だけに自室に戻らなくちゃいけないんだ。だってシャワーなんて浴びようと思えばセフィロスの部屋にだってバスルームあるんだし、大体そこまでしてそんな気分になれないと思う。

そんな事を考えてたら段々今の状況の理不尽さが大きく感じられてきて、俺は何だかちょっとムカッとしてきた。

何だって俺がそこまでしなきゃいけないんだ。

そりゃセフィロスのこと好きだし、勿論したいって思うけど…でも俺だけがそこまでする必要ってあるんだろうか。だって良く考えたらセフィロスなんていつもシャワーなんかどうでも良いって感じでベット入っちゃうし、セフィロスが言うトコロの「生活」の時なんか、そんなふうに拘ったりなんかしない。

それなのに、こういう時だけ―――――――…。

「…酷いっ!」

そうだ、酷い!これは酷いんだ、きっと!

俺はとうとうそう決定すると、ある決意を固めた。

その決意っていうのは別に、セフィロスに「さよなら」って言うこととかそういう大層なものじゃなかったけど、ちょっとした対抗だった。

セフィロスは自室に戻ってシャワー浴びて来いって言うけど、そんな酷いことを俺は絶対やるもんか。だってそんなの理不尽だ。どうせセフィロスは寝室のベットの中で悠々待ってるだけなんだから俺の行動を見張ってるわけでもない。だから俺がどういう行動をしようが、とにかくシャワーを浴びてその寝室に登場すればそれで万事OKって事なんだ。

だから俺は、決めた。

そう、それは…。

「俺は此処でシャワー浴びるし!」

不思議でミステリアスなセフィロスの部屋のバスルーム…お手軽にもそこでシャワーを浴びることを、俺は固く決心した。

何が悲しくて自分の部屋まで戻らなくちゃいけないんだって思った時、どうせ近くにバスルームがあるんだからそこで良いじゃないかって気分になった俺は、今まで散々セフィロスに「入るな」って言われてきた禁断のバスルームを使うことを決心したんだ。

もしセフィロスに「この部屋でシャワー浴びるね」なんて言おうものなら、絶対に怒られる。だってそこは絶対入るなって言われてる場所だから。

でもムカッときたから、今日はそれを実行してやるんだ。

これは俺のささやかな抵抗って奴。…っていうかホントささやかすぎ…。

でもそれでも俺は心の中で「してやったり」とほくそえんでた。そんなものであっても、俺にとっては大偉業を成し遂げるくらいのことだったから。

そう決心した俺は、セフィロスの部屋の中で唯一俺が入ったことのないそのバスルームに近付くと、そろそろとそのドアの目の前で服を脱ぎ始めた。

脱衣所はちゃんとしてて、洗面台とかには日用品も置いてある。整髪剤とかそういうヤツだ。

「…何だよ。セフィロスは使ってるんじゃん」

それなのになんで俺には使わせてくれないんだろう、はっきり言ってかなり疑問だ。そんなにこのバスルームには秘密があるんだろうか。

「あ…」

その時俺はひらめいた。

そうだ、きっとこのバスルームにはセフィロスの秘密が隠されているんだ。そうに違いない。

だってそうでもなきゃ「使うな」なんていわないはずだし、大体恋人関係だったら使わせてくれてもオカシクない。それを頑なに「駄目」というからには何かバレたくない理由があるはず…。

「でも…一体どんな秘密なんだろう…?」

セフィロスに秘密があるとしても、あんまり想像はつかない気がする。俺は相当セフィロスと会ってるけど、普段淡白なだけに嘘とかも言わないし隠し事をするのも面倒って感じに見える。だからそういうセフィロスに秘密があるなんて考え難い気がするけど…でもそれ以外に可能性なんか思いつかない。

「うん、やっぱり何か秘密があるんだ…!きっとそうだ、うん!」

俺は勝手にそう確信すると、ついつい深呼吸なんかをしてそのバスルームのドアノブに手をかけた。

何故だか緊張する…。

―――――――でも此処で怯んだら「してやったり!」じゃなくなる…!!

そう思った俺は、思い切って一気にそのドアノブを捻った。

 

「こんにちはっ、禁断のバスルーム…!!!」

ガチャ。

 

 

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