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あしなが英雄と少年 ---------------------------------------------
英雄はその日、至極ご満悦だった。 彼の小さな恋人であるクラウド少年が見事ソルジャー昇格した―――――――夢を見、またその少年が訓練中に英雄を見つけて手を振ってくれ、さらには愛刀正宗の手入れも終え、その切れ味といったら素晴らしかったからである。 ついでと言ってなんだが、給料日だった。 実はこの英雄、この給料日には一つやるべきことがある。やるべきことというか、彼自身がそう決めたことだったが、それは最早日課ならぬ月課だった。 そんな訳で英雄、“月課”をこなすため、至極ご満悦顔で兵舎に向かうわけである。 して、ある部屋の前で足を止める。胸からすっと英雄らしからぬ封筒などを取り出すと、床とドアとの数ミリの隙間の中からそれをしのばせる。 英雄、快感の溜息。 ―――――――これが英雄の“月課”だった。
当然であるが、クラウド少年の給料は安い。 英雄の数分の一であるが、この詳細はプライバシー保護のため伏せておく。しかしこの英雄は特別なのであって、一般のソルジャーはそれより低い。だが、クラウド少年よりは高い。…当然である。 英雄とクラウド少年の間には共通の友達、ソルジャークラス1stのザックス青年というのがいるが、彼は二人の中間であった。それはともかくとして、このザックス青年にも月課があったりする。それはクラウド少年と深く関わりがある。 その日、給料日であったザックス青年は、クラウド少年を呼び出し、こう言った。 「ありがとう!」 頭を垂れ、ピン札を差し出してそう言う。クラウド少年、それを受け取り一言。 「今月こそは、ちょっとくらい残さないとね」 そう……実はザックス青年はクラウド少年に些細な借金をしていたのである。だったら高給取りの英雄を頼めば良いのにと思うだろうが、そういかないのが世の中の不思議というものである。 給料日に近付くにつれ、ザックス青年は生活がちょっとばかし苦しくなる。そこで良く一緒に遊ぶクラウド少年にちょっぴり借りる。給料日になってそれを返す。 ――――――これがもうずっと続いていた。 幸か不幸かクラウド少年の給料日はザックス青年の半月後なのだった。 そんなクラウド少年、何故かお金は貯まる一方だったのが不思議である。 特に貯蓄をしようとしているわけでもない。それでも懐は黒字なのである。 実はクラウド少年には秘密があった。そう、それは……。 「あ。まただ…」 部屋に帰るなりクラウド少年の目に飛び込んだのは、床に落ちている封筒である。 それを開けると―――――――そこには数枚の札。 「またこんなに…。誰だろう?」 そう、クラウド少年の部屋には月に一度、こうして差出人のない封筒が投げ込まれ、その中には結構な大金が入っていたのである。勿論、相手など知らない。 「誰だか知らないけど……ええと、ありがとうございます」 そう言って封筒を拝むと、丁寧に棚にしまう。 こうしてヘソクリ的物体が積み重なり――――――――それは今ではクラウド少年の給料の半年分以上となっていた。 それは実に快挙であった。
さて、クラウド少年には凄い恋人がいた。神羅の英雄といえば誰でも知っているほど有名である。 その英雄・セフィロスが、どういう訳かこのクラウド少年の恋人だったのだ。 クラウド少年は英雄の部屋に良く遊びに行く。そして恋人同士のホットなヒトトキを満喫するのであるが、その詳細は伏せておく。 ある日の給料日、英雄はいろんな意味でご満悦、ザックス青年はホッとする、クラウド少年はやはり首を傾げるしかない、そんな日の出来事。 やはりクラウド少年は軽い足取りで英雄の下へ行く。英雄、至極ご満悦。 そして、そこではいつもと違う会話が繰り広げられていた。 「何だかセフィロス、機嫌良くない?」 「そうか?そんなことは無いが」 英雄はフフ、と笑いながらそう言う。その隣でクラウド少年、溜息。 「俺がちょっぴり戸惑ったりする日に限って、セフィロスって楽しそうだよな…」 「そうか?…というか、何だ。その戸惑ってるっていうのは」 クラウド少年の言葉には、英雄も敏感だった。 「えっとね…何かさ…」 クラウド少年は少し戸惑いつつもそう話し始める。それは例の封筒の話だったが、実は今まで一度として英雄にこの話をしたことは無かったのだ。 「この日になるとさ、俺の部屋にお金が投げ込まれてるんだよ」 「ほう…」 英雄は笑いをかみ殺し、なるべく深刻そうな顔をする。 「それでさ、その金額が凄いんだ。だから俺、ちょっとドキッとするんだよなあ」 「そうか。だが、まあ有難く貰っておけば良いじゃないか」 こともあろうに英雄はそんな事を言い出した。それは届けるべきだろう、とか、そういう一般的なことをその英雄は欠片も言うつもりはない。 何故なら英雄は、その金をクラウド少年に使って欲しかったからである。 そう――――――その金とは、英雄の給料の一部なのだから。 しかしそんなこととは知らないクラウド少年は「えー…」だとか言う。 「うん、確かに有難く頂いちゃってるんだけど、何ていうか…使えないよ」 「何故だ!!」 「…え。だって…。恐いじゃん…」 「恐くない!!」 「…何でセフィロス、怒ってるの?」 「…!!……何でもない、幻聴だ」 英雄は少し悲しくなってしまった。大好きな恋人に有意義に使って欲しいと思って金を放り込んだりしているというのに、これでは全く意味が無い。 しかし、そこで問題なのは誰からのものかが不明だということだ。もしも英雄からのものだと知ったら、クラウド少年は「なあんだ」と思うであろうが、しかしそれと同時に「何でそんなことするんだ!」と怒るであろう。 それは目に見えていた。 だから英雄はそれだけは言えなかったのである。 が、英雄はあくまでクラウド少年が喜ぶ顔を見たかったのであって、こんな戸惑う顔を見たいのではなかった。 これは困った事態である。 そこで英雄は考えた。 「そうだ、クラウド。お前、欲しいものは無いか?」 「え。俺?」 「ああ。何でも良いから…あるだろう?」 「うん…まあ」 「それは金額に換算すると、どんなものだ」 「え。いくらって事?」 そんな訳で英雄は少し方針を変えたのだった。
翌日、英雄は給料日になってやはり嬉しそうに封筒を胸から取り出し、クラウド少年の部屋にそっとしのばせた。 そしてその日、やはりザックス青年はクラウド少年に金を返した。それからクラウド少年は部屋に戻り、やはりその封筒を目にするのである。 「…まただ」 戸惑いつつクラウド少年はその封筒の中身を覗く。しかしどうやらそこにある金額はいつもと違っていた。 「…ん?」 数えてみる。すると、それはどうやら―――――。 「…なるほどね」 にこり、と笑ってクラウド少年はそれを封筒にしまうと、やはりヘソクリに足すのであった。 どうやらそこに入っていた金額は、クラウド少年が英雄に「何が欲しいか」と言われ、答えたものの金額だったのだ。 クラウド少年はすっかりその封筒の差出人が分かってしまったが、その人物に会っても、怒りもしなかったし気付いたことを言いもしなかった。 そうして、それはやはり毎月続いていくのだった。
クラウド少年には、また一つ月課が増えた。 それは恋人である英雄のところに行った際に「今月はこんなのを買ったんだ」と嬉しそうに報告することである。 それを聞くと英雄は至極嬉しそうに笑った。 が、しかし。クラウド少年は実際にはそんな品を購入してなどいなかった。ただ、英雄の嬉しそうな顔を見たかったのである。 「ねえ、セフィロス。いつか旅行に行きたいね」 「旅行?そうだな、時間に余裕があれば良いが…」 「時間があったら行ってくれる?」 「ああ」 クラウド少年はにっこりと笑う。 彼のヘソクリはすっかり、二人分の旅費を超えていたからである。 欲しいものは沢山あるクラウド少年だったが、何より欲しいものはそこにあった。 「絶対だよ、セフィロス」 それは、英雄の嬉しそうな顔と、英雄との大切な時間だった。
あしなが英雄は、嬉しそうにそっと封筒をしのばせる。 クラウド少年が嬉しそうに、欲しいといったものを手にする姿を浮かべ。
クラウド少年は嬉しそうに封筒を手にする。 いつか英雄と、この貯まりすぎたヘソクリで旅行に行く姿を浮かべ。
小さな「欲しいもの」は、積み重なり積み重なり……、 大きな「欲しいもの」に変わっていく。
そして今日も、あしなが英雄はご満悦なのだった。
END
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