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「今お前達の中で何が一番大切だか…お前達自身まだ把握しきれてないだろう。この神羅の中には、そういうことを打ち消すものがザラにある」 突然セフィロスが言い出したのはそんなことだった。まるで何か会社批判でもしているかのような具合で、それが果たしてこの場の言葉に相応しいのかどうか俺には分からなかった。 「俺は数年と此処にいて、同じことを繰り返してきた身だ。お前達が今何を目指しているかといえばソルジャーだろうが、そうなってみてもまた同じことだ。…それだけは言っておこう」 誰もそんなことは言わないだろうからな、そう付け加えてセフィロスは一旦言葉を切った。 ソルジャーになっても同じこと―――――… それは一体どういう意味だろう? 今確かに俺達はソルジャーを目指してる身で、それに向かって頑張ってる。いつもこの時間に貰う言葉といえば、それに向かう為の言葉だったり、その為の叱咤だ。なのにセフィロスはそれと違うことを言う。 まるで、ソルジャーになっても意味なんかないみたいに言う。ソルジャーになっても同じことを繰り返してるだけだって、そう言う。そんなことを言われたら意志が薄れそうで少し恐くなる。 なのに―――――…。 「お前達は過去、家族と共にあり、そして此処にはいなかった。そして今、お前達は此処にいる。更に未来―――お前達は何かしらをしていることだろう。それが此処に留まることか、ソルジャーとなっていることか、それとも…全く別の物か、俺には分からん。ただ言えるのは、今は故郷にいないという事が過去であり、ソルジャーとなりたいというのが未来ということだ。―――――この意味が分かる者は?」 そうセフィロスが聞く。 だけど誰も反応しなかった。というより反応できなかったんだろう。その意味はと問われてもただ「それはそれ」としか思えないし、その言葉の羅列の先にセフィロスが見ているものなんて、俺達に見えるはずない。 難しすぎる。 俺はその話の間と、そして今この静寂の中ずっと、セフィロスを見詰めていた。 そして―――――――ふっ、と、眼が…合う。 思わずドキリとして、つい眼を反らしてしまう俺がいて、それは自分自身でも嫌だった。 だって…俺は残念ながら答えなんて出せないから。合ってしまった視線はまるで俺に答えを求めているかのようで、何だか嫌で。 セフィロスは暫くしてから眼を反らすと、 「誰も分からんか」 と、そう静かに言った。 俺はセフィロスと視線がズレたそれだけで、どこかホッとしていて――――…。 「時間というのは不思議なものだな」 答え――――それはその口から語られることなく、ただそんな言葉だけが響いていた。 まるでヒントだけ渡された回答不能の難解クイズみたいで。俺はこの状況に何だか辛い嫌なものを感じながらも、最初に感じた乱れもまた覚え続けていた。 ああ―――――そんなふうにセフィロスが言葉を放つ度、乱れてく。色んな、もの。 でもその後のセフィロスの話といえば、実戦についての云々であって、もう難しい話なんかじゃなかった。だけど俺の頭の中にはさっきの言葉が渦巻いてて、俺は必死に答えを探してた。 セフィロスが言おうとしてたことの意味。 そしてその答えを。 俺がそうしてる間にも時間はとうとうと過ぎていて、気付けばセフィロスが来てからもう40ほどは経過している。いつも一時間やそこらのものだから、セフィロスが此処にいるのもあと20分くらいだろう。 そしたらこの乱れも無くなる。乱れが無くなればきっと俺も必死に考えたりなんてしないんだろう。 それにしても…まるでソルジャーになるなんて意味無いとでも言うようなことを口にしていたセフィロスだけど、その後に実戦の話をするなんて一体どういうことなんだろう。少し矛盾しているように思うけど。 とにかく、そういうふうにして時間は過ぎてった。 結局俺は、セフィロスがその場から姿を消すまでずっと、さっきの話のことを考えていた。 とめどなく。
その日、午後19:00の夕食の時に、俺は仲間と一緒だった。 この仲間ってのは勿論同じ一般兵仲間のことだ。 食事の間中、皆の話は例のセフィロスのことで持ちきりになってた。あの話がどうのとか、実戦でセフィロスはどうのとか、そんな感じだ。 でも一番中心になった話題は後半の実戦のことで、皆はもう既に、未来ソルジャーになったらだのという話をし始める。でも俺の中では専ら前半のセフィロスの話が頭を駆巡っていた。 皆が口を揃えて熱いトークをする中、俺だけは下を向いていつもと変わらない定番メニューの食事を続けてる。でもそれらを口に運んでも、俺には食べてる感覚なんて無かった。 ふと時計を見ると時刻はもう19:45で、夕食終了まであと15分程度。 後半5分ほどはゆっくり飲み物でも飲みたいし、なんて思って、俺は珍しく食事を残しておかわり自由の珈琲を注ぎにいく。デカンタ一杯の珈琲がカップに移っていくのを眼で追いかけながら、俺は少し鬱な気分になってた。 この光景って…どこかで見たこと、ある。 そう思うのも当然で、思い出すとそれはセフィロスの部屋で珈琲を淹れてる記憶だった。 セフィロスの部屋にはやっぱりこうして珈琲デカンタがあって、1回づつ豆で挽くみたいな珈琲メーカーがある。最初面白がって触ってたところから、何時の間にか俺が珈琲当番になっちゃったんだったかな。 そんなことを思い出しながら注いでたら、何時の間にか溢れそうになってて、俺は急いでデカンタを持つ手を水平に戻した。 ―――――どうもボーッとしてるみたいだ…。 時計を見る。あと10分しかない。 席に戻って皆の中には入らず、独り珈琲を飲む。 「クラウド、お前はどう思う?さっきの話」 飲みだした瞬間にそう言われて、俺は時間のことが念頭にあったから愛想もなくスッとこう答えた。 「特には…何か良く分からなかったし」 当然俺の頭にあったのは前半の話題だったから、俺のその言葉はその話題に対してのものだった。けど、皆の話題の中心は後半のことだったから、皆は何だか俺のその言葉にきょとんとしてた。 俺はそれにフォローも入れずにただ珈琲を飲み続ける。 カチカチ、と体の中で時計の秒針が動くのを感じながら。
残念なことなのか良い事なのか分からないけど、その日俺は丁度セフィロスと会う約束をしていた。 日中のこともあって俺の気が進まなかったのは言うまでもないけど、いつも2時間くらいしか会わないセフィロスだし、やっぱり行こうと思って部屋を後にする。 セフィロスのところに行くまで俺の足取りはすごく重かった。 多分―――――あの話を気にしてるからだ。 俺は多分考え過ぎなんだろうと思うけど、やっぱり頭を離れない。 俺に言った訳ではないんだろうし、あの話が俺に関係しているわけでもないんだろうけど、何だか俺だけが責められているような気がしてならなかった。 時計を見る。20:37。 セフィロスと会う時間は2時間。その2時間に俺は…乱れずに、乱れを感じずに過ごせるんだろうか。 いつも通りであれば可能。そうでなければ不可能。 そんなことを俺は、セフィロスの元に行く数分の内に考えてた。
セフィロスのとこに着いた時俺はまだ答えを出せずにいたけど、目の前にある扉にその思考を切り捨てた。 とにかく2時間。この2時間を越えれば、俺は俺に返れる。 それはまるでセフィロスに会いたくないみたいな感じのイントネーションだけど、何だか俺はそう思ってた。 「セフィロス」 そう声をかけて踏み込んだ足を一旦止める。 俺の声に気付いたセフィロスは、少しプライベートな格好をして俺の方を振り返った。 ドクン… 一瞬、乱れを感じて鼓動が早く、重くなる。 ――――――けど、その後のセフィロスの様子はいつも会う時と何ら変わりなかった。いつもみたいに、飲み物は何が良いか聞かれ、俺はココアを注文する。セフィロスはそれを注いで俺に渡すと、自分用にホットの珈琲を淹れ始めた。一足先にココアを飲み始めてた俺は、すっかりその雰囲気に安心して、いつものように慣れた調子でソファにもたれる。 ああ―――――何か、普通だ。 恐れていたようなことなんて何も無いんだ。 そう思いながら俺は、俺らしい行動として時計をチラと見遣る。 タイムオーバーまであと1時間50分。 まだまだ始まったばかりという感じだ。 セフィロスは自分用の珈琲を持って俺の隣にやってくると、どうだ、なんて言葉をかけてくる。俺が何の事だろうと思って聞くと、どうもそれは俺の飲んでるココアのことらしい。 「新しいのにしたからな、味はどうかと思って」 「そっか。うん、美味しいよ」 セフィロスの淹れてくれるものなら多分何でも美味しいよ、そう言って俺は笑う。セフィロスはその言葉を受けて少し面食らったような顔をしたけど、最後には笑ってくれた。 大概いつもこの2時間にやることといえば、世間話やら何やらなんだけど、今日はこれという話題がなくて、俺はつい時計ばっかりチェックしていた。話題が無いっていうより例のことが気になって、その話題に触れたくないから何だか色々考えて…その挙句に他の話題が浮かばないって方が正しい。 とにかく俺はそんなことをしてて、変なことにセフィロスも何も言ってこなかった。 ―――――――けど。 俺がココアを飲み干して、そして何度目かの時計チェックをした時。 そう、もう無理だった。 その話題は、始まってしまったんだ。 それは、セフィロスの一言から始まった。 「クラウド」 その一声で。 「昼のことを…覚えているか?」 「――――え?」 最初、それが何のことを指しているのか俺は分からなかった。けど昼というキーワードで俺は例の話題に直面する。 ああ――――――とうとう、きた。 そんなふうに思った通り、俺は急速に乱れを感じ始める。 ドクドクと鳴る心音と共に。 「――――何か言いたそうな顔をしているようだが…」 セフィロスはゆっくりそんなふうに言うと、俺の顔を見遣る。 「べ、別に…俺は」 何故どもってしまったのか分からない。そんなのはいかにも不審なのに…馬鹿みたいだ。でも俺は無意識にドキドキしてて、それを意識的に止めることなんて出来るはずがなかった。 「あの時お前と眼が合ったな。お前は俺を見ていただろう」 「そんなの当然だろ。あの場では先生みたいなものだったんだから」 何を当然なことを言っているんだ。そう思ってそう抗議すると、セフィロスは「いや、違う」なんて否定し出した。 何が違うっていうんだ。当の俺がそうだって言ってるのに。 「お前の視線を感じたからお前の方を見たんだ。あのときお前は…何か訴えるような顔つきをしていた」 「…何だよソレ」 そんなことない、そう直ぐに反応できなかったのはセフィロスの指摘が実は当っていたからだったのかもしれない。 俺はセフィロスを見詰めながら、あの時色んな事を考えてた。確かに考えてたんだ。 けどそれはセフィロスに訴えたいことじゃなかったけど――――俺の心のざわめきは確かに存在してた。 「不満だったか、あの話は。それともあの場に俺がいたこと自体気に喰わなかったか」 そう言われて俺は咄嗟に「そんなことない」と今度はそう反論できたけど、その実本当の心は正反対の答えを出してた。 不満――――確かにソレに近い。 その話の内容も俺の心を乱したし、そこにセフィロスがいたこと自体俺の心をざわめかした。普通でないその状況が俺には嫌だったんだ。 「あの時俺は言ったが…。誰か意味が分かる者はいるか、とそう聞いたが誰も反応を示さなかったな。…お前にも分からなかったか?」 そう聞かれて、俺は少し沈黙した後、正直に首を縦に振った。残念だけど知っている振りができるほど俺はあの話を理解なんて出来なかった。ソルジャーになるのは夢だし、それを意味が無いことだなんて思いたくない。全てが無駄になってしまうような事は考えたくない。 そんなふうな俺の反応を見て、セフィロスは「そうか」と一つ頷くと、 「では一つ逸話を」 と、こんな話をし出した。
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