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さて、その見合いは早速というように始まった。 場所は高台にある高級料亭の奥の方の一室で、その部屋からは外が一望できる。 いかにも風流といったそこでは、その景色に匹敵するような豪華な食事が所狭しと並べられており、それらはまるで飾りか何かのようにぴっちりと整列していた。 その豪華な食事が置かれたテーブルを挟んで、四人が向かい合っている。 ルーファウスとプレジデント、その向かいには見合い相手である女性とその父親。 噂の女性は何だか奥ゆかしい感じで、チラとルーファウスを見ては頬を染めて目を逸らしたりする。 普通だったら此処で「可愛い人だなあ」なんて思ったりするのだろうが、ルーファウスの性格上それは欝陶しいものでしか無かった。因みに顔はお世辞にも綺麗とはいえず、肩幅はルーファウスより厚い……ゴツすぎる。 その父親の方はヒョロリとしていて瓶底眼鏡を付けている。七三分けの髪に脂汗、どう考えてもくたびれたサラリーマンといった感じ――――…これが本当に利益ある会社の幹部なのだろうか。かなり疑問であることは言うまでも無い。 そんなどうにもこうにもチグハグな席で、とうとう見合いは始まる。 「本日はお日柄も良く…」 汗ダクのお疲れサラリーマンがそう言うと、ルーファウスはすかさず、 「確か今日は、我が神羅にとっては終戦記念日なんです」 などと言った。 その途端に親二人がザッと蒼褪める。 『こら!何言ってるんだ、ルーファウス!』 『だって本当のことだろ?』 隣の父親は相当不服だったらしくギロリと睨んできたりする。 だって本当の事だし、そう思ったルーファウスだったが、此処で親子喧嘩をするのも難なのでそれ以上は反論しなかった。 「ま、まあそれはともかくとして、いやはや、この度は非常に目出度い!かの神羅のご令息とウチの娘がこのような席に」 「いやあ、全くです!これは我が社にとっても非常に有益な縁談ですな!」 我が社にとってかよ、とツッコみたいところを敢えて黙ったままで過ごしたルーファウスは、目前の奥ゆかしげな娘の視線を受けつつもサックリそれを無視している。 会話は親同士がサクサク進めているが、息子と娘はさっぱり口を閉ざした状態…これがもし“恥ずかしくて”などの理由だったならばまだ話は分かるのだが、悲しいことにそれは違う。それというのは、あれだけ見合いの決意をしたというのに此処にきてやっぱり疑問に陥ってしまったルーファウスの方に非はある。 何しろご令嬢はルーファウスに興味満々なご様子なのだから。 「わ、私たちだけ会話をしていても難ですから、まずは自己紹介などどうでしょう」 その時、上手い具合に疲れ眼鏡がそう言いだす。だもんだから、とうとう令嬢と令息が話すこととなってしまった。 令嬢には待望の、令息には憂欝な、そんな瞬間である。 チラ、とルーファウスを見遣った令嬢は、広い肩幅に似合わずにごにょごにょと何やらを言い出す。 「あ、あの、ゎたし、クリスチーヌといいます。ょろしくぉねがぃします…」 「はあ、どうも」 イントネーションがどうなっているんだかさっぱり分からない言葉でそう言われ、ルーファウスはかなり微妙な気持ちになりながらもそう返答する。しかも、どうでも良いこととはいえ、クリスティーヌじゃなくてクリスチーヌかよ、などとも思う。ティとチじゃ大きな違いだとか何だとか細かいところを指摘したくて仕方無い。 しかしそれは口には出さず、ルーファウスはその後にハッキリとした口調でこう自己紹介をした。 「私はルーファウス神羅だ。神羅カンパニーの副社長でもある」 「ぇえ、存じてぉります」 令嬢はやっぱり恥ずかしそうに頬を染めながらそんなふうに言う。何がそんなに恥ずかしいんだかさっぱりルーファウスには理解できない。 しかしそんな恥ずかしげで奥ゆかしげな彼女も、ルーファウスへの興味にだけは果敢に口を開いたものである。 「ぁの、ご趣味はどんなものを?」 そう聞かれたからルーファウスは素直に答えた。 「特にない」 「ぇ。な、無いのですか…あ、はい。じゃぁ、好きな食物とか…」 「特にない。嫌いなものは…そうだな。カステラ、かな」 「まぁカステラが?素敵」 何がどう素敵なのか分からない。 というか、嫌いなものとして答えたのにそれを素敵とうっとりするのはどうなのだろうか。かなり疑問である。 しかしそんな疑問をすっ飛ばして、彼女は更に果敢に口を開いた。 「じゃぁじゃぁ、す、す、すすす…」 「酢…?」 酢には特に興味はない。どちらかというと醤油の方が良い。 「好きな女性のタイプとかゎ…」 「女?さあ…特に考えたこと無いな。男なら期待に添えるヤツが良いな」 「まぁ、じゃあ女性はどんな形でも大丈夫なのですね。ぉ心の広い…」 そんなことは言ってない。 っていうか、どんな「人」じゃなくて、どんな「形」という表現に一種のホラーを感じるのはルーファウスだけであろうか。 「ルーファウスさんって素敵な方ですのね」 「……」 そんな妙なところで誉められても……そんな気がしつつも虚ろ笑いを返したルーファウスは、取り合えずは一旦この妙な会話に区切りを付けたい、と思っていた。が、そこでまた上手い具合に邪魔なことを言い出す輩がいる。プレジデント神羅だとかいう輩だ。 「いやあ、そんな滅相もない!ウチの息子はそんなふうに言われるほど大層なもんじゃないこともないんですよ!」 謙遜に見せ掛けて誉めてどうする――――――――――!!? 思わず派手にブッと吹き出したルーファウスはすかさず心中でそうツッコんだが、意気揚揚と父親がそう言うのでやはり口には出さずに黙っておいた。相手の父親はよほど呑気なのかどうか知らないが、そのプレジデント神羅の言葉を真に受けて、「全くです、ウチの娘には勿体ない位です」とか何とか言ってしまっている。 更にそれに対するプレジデントの切り返しが「でしょう!」と来たもんだから、ルーファウスはほとほと呆れてしまった。 一体全体この人達は見合いを成功させようという気があるのだろうか?…かなり疑問である。 しかしそんな変テコな会話の間にもかの娘はルーファウスを凝視していて、それにはさすがに恐ろしさを感じずにはいられないルーファウスだった。 ……と、そんな時。 ガラリ、と襖が開く。 何かと思えばそれはどうやら、料亭の給仕だったらしい。 ミッドガルでは珍しい着物とやらを来て、髪はちょんまげとかいう結い方をしている。 給仕は、三つ指などを付いてお辞儀をすると、失礼致します、などと言って見合いの席に入り込んできた。 暫らくルーファウスに御熱だった娘もそのあまり見慣れない格好をした給仕に目が釘づけになっているようで、これはルーファウスにとってみれば良いチャンスであった。この給仕の登場で、上手い具合に話 が長引けば―――――そう思う。 給仕はいそいそと進みでると、深々と頭を下げた。 「お食事の途中、申し訳ありません。本日はお目出度い席と聞きましてミットガル最高級の茶をお持ち致しました。どうぞ御賞味下さい」 どこの世界に見合いを邪魔する茶などあるのかと思ったものだが、どうやら誰もそれを気になどしていないらしい。それどこれか、悪いな、なんて言って給仕の運んできた茶を手にする始末。 まあ悪くないが、それにしてもそのタイミングといい計らいといい何だか妙である。心遣いと言ってしまえばそれまでなのだろうが、一体誰が見合い情報を流したのだろうかと疑問が残る。 そう思いながらも配られた茶をまじまじとルーファウスが見つめていると、目前でかの娘が、あっ、と声を上げた。 「すごぃ!茶柱が立ってぃます!」 「なにぃ、茶柱がっ!!?」 何と驚いたことに、娘の元に配られた茶には、茶柱などというものが立っていた。縁起が良いとされる茶柱が立っているだなんて――――――…これは偶然なのか? 娘は大いに喜んだ。 父親二人も大いに喜んだ。 ルーファウスは地獄だった。 ―――――しかしその時。 「おっとっと!あらぁ、いけない〜」 「あっ!!」 ズドン…! 何ということか給仕が娘に体当たりした。いや、最早それはタックルの域だ。間違いない。 その間違いなくタックルだったそれを受け、娘の茶の中に立っていた茶柱はすっかり沈んでしまったようである。 沈没する茶柱を覗き込みながら心まで沈没していく娘をよそに、給仕はわざとらしい声でこんなことを言う。 「あらまあ、ごめんあそばせ。ちょっくらバランスが崩れちまったみたいでございます」 「茶柱がぁ…」 口だけの謝りを入れる給仕と、茶柱沈没にショックを受ける娘。 その近くで父親達はあんぐり口を開けていた。 しかし暫くして我に返った父親二人は、そうした瞬間に給仕に向かって烈火の如く怒り出す。 がしかし給仕の方はといえば、そんなものは意にも介さないといった具合にへっちゃらな顔をして、すみませんねえ、なんて笑っている。 何のこっちゃ、という感じだ。 「全く、気分が害した!折角の目出度い席だというのに」 「そうですよ!もう給仕のことは放っておいて話を進めましょう」 憤慨していた父親達は、こともあろうに出された茶をズズズとやりながらそんな事を言い出し、そこに給仕が居る事もそっちのけで見合い話に話題を戻した。だもんだからルーファウスとしてはちと残念な展開となる。 何しろ―――――――目前をチラと見遣ると既に娘は、視線ををルーファウスに戻していたから。 ふう、そう息だって付きたくなるというものだ、折角視線が逸れたと思ったのに。 しかしそんな気分に陥っていたルーファウスに一人だけ味方してくれる人物がいた。 それは。 「いやあ、やはりこの後は若い二人に任せて私たちは退散を…」 「そりゃやばいだろでございます」 ――――――――――――シーン……。 そう暴言を吐いたのは…給仕である。 給仕は、そこに自分がいることがさも当然かのように正座などをしており、更には母親かなんかのように口出ししてきた。 「給仕、お前は何と失礼なことを言いおるのじゃ!出ていけ!」 怒りを顕にしたプレジデントがそう叫ぶと、給仕は負けじとこう言い返す。 「いえ、私はアドバイスをと思いまして…見るにそちらのお嬢ちゃん、ちょっと下心がありそうだし」 「なっ!下心!?」 驚いてプレジデントがそう叫び娘の父親を見やると、そうされた父親は焦って 「そんなことはありません!」 などと弁解を始めた。 しかしルーファウスに言わせれば、下心があるのはウチの親父だろ、という感じである。お前が叫ぶな、という具合だ。 しかしそこで娘がこんなことを言い出したから事態は更に混乱を極める。 「き、給仕さんのぃぅとぉりです。わ、わたし…実は前から…」 モジモジしつつも彼女は言う。それはもう高らかに。 「ルーファウスさんが好きだったんですぅ!!!」 「な、なにぃぃ!!」 驚いたルーファウスがそう叫ぶ。 「でかした!」 「これで我が社の飛躍が!」 父親達は歓喜した。その内、約一名は本音が出た。 そして給仕は―――――。 「…だから何だってんだよ!!」 給仕は――――――――――…何故か、怒った。 怒りまかせに着物の裾から足をがばっと出し、それをドンと机の上に放り出すした給仕は、放り出した足で立て膝を作るとその上に腕を乗せた。そして、こともあろうかガンなどを飛ばし出す。しかも娘と父親に向けて。 そして―――…一つの問題発言。 「…こいつはなっ」 そう叫びながら給仕は、ぐい、とルーファウスの首を引き寄せた。 そして、その言葉の続きを高らかに叫ぶ。
「こいつは、俺っていう先約があんだよ!!!」
――――――その瞬間、その場は氷ついた。 “俺”? っていうか、“先約”?? この不可解な給仕の叫びには、娘と親達だけでなくルーファウスまで驚きを隠せずにいる。 だってルーファウスは今までの人生のどこをどう振り返ったって給仕と良い仲になった過去は持っていない。しかもこの給仕とは初対面のはずである。 「??」 唖然としている一同を目前にルーファウスは暫し横にある給仕の顔をまじまじと眺めた。どこをどう見ても知らない―――――はず…。 「???」 …いや、待て。 この給仕、さっき「俺」などと言っていなかったか? しかも肩にある手などはごつめで、これは到底女のものではないような…。 という事はつまり、この給仕は――――――。 「……男?」 そう思った瞬間ルーファウスは一気に現状を飲み込み、途端にゲッ、という表情になった。 ああ、そうだ。そうだとも。 この給仕が男であるなら頷ける。先約の言葉も見合いを壊そうとするのも、此処にいることでさえ。 だってこの給仕は――――――。
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