ワンダースクエア。

そこに入って、バスケットゲームや腕相撲ゲームやキャッチャーゲームなどをやる。無論、大型のバイクゲームやバトルゲームもやったが、大方ルーファウスが勝利できたのはバスケットゲームくらいの話だった。そもそもいつもはデスクの上でへばりついているような人である、いきなりゲームといったってそういう習慣がないからどうにも上手く運ばない。

「このやろう…またイカサマしやがって!」

どうやらルーファウスは、負けるとそれをイカサマと決め付ける傾向があるらしい。

それどころか最後には「このゲームは壊れているぞ」だとか言い出す。言いがかりも程ほどにして欲しい。

しかしそんなルーファウスも、占いゲームで良い結果が出たときには何故だかほくそえんでいたものである。…本気で信じているのだろうか。

「おい、お前もやってみろ」

「俺がですか」

そう言われてルードは、渋々ゲームをやるハメになった。

それは腕相撲ゲームだったが、ルーファウスがものの数秒で負けたのに対し、ルードはものの数秒でそれに勝利をする。それを脇で見ていたルーファウスは、先程まで散々愚痴っていたというのに、凄いなあ、なんて関心していた。

それを見てルードは、何となく、笑う。

それから今度はバイクゲームだとかスキーゲームなどをやれと言われてやったものだが、それにもルードはきっちりと勝利していた次第である。この間ルーファウスはやっぱり「凄いなあ」と感心してはしゃいでいたものだが、周囲にいた一般客達にとってみれば何だか妖しい二人がはしゃいでいるなんて恐い図でしかなかった。何せスキンヘッドでサングラスをしている図体の良い男がスキーゲームで右に傾いたり左に傾いたりしているのだ。しかもスーツで。…すごく恐い。

ともかくそうしてルーファウスがほぼ惨敗のルードがほぼ勝利という状況になって、二人はようやくそのワンダースクエアを後にした。

「さて、どこに行こうか?」

そう言ってパンフレットを開いたルーファウスは、先程ルードに駄目と言われたバトルスクエアは除外して残る場所へと焦点を当てる。

その際、目についたのはイベントスクエアだった。

「今日はイベントはやってるかな?」

「さあ、どうでしょう」

イベントが開催されていなければ意味などないしな、そうルーファウスは呟いたが、それでも数秒後には意見を変えたのだかルードの腕を引っ張る。そうしてズルズルと引き摺るようにすると、

「少し休憩しよう」

そう言った。

 

休憩としてそこに辿り着いた二人は、今日はイベントが開催されていないことを知って、ちらりほらりと人が腰掛けているだだっ広いベンチにとりあえずと腰を下ろした。

イベントの開催されていないそのステージはあまりにも静かである。

ただそれでも少しばかりの人々がベンチに腰をかけており、彼らは皆楽しそうな様子で何やら話を楽しんでいた。

それを見遣ったルーファウスは、チラ、と脇のルードを見遣る。

ルードはサングラスをしているせいでどんな表情をしているとも分からない状態だが、口がへの字に閉じられていることからもあんまり楽しいという感じには見えなかった。

「…つまらないか?」

何となく、ルーファウスはそんなことをルードに聞く。

聞かれたルードの方は、その言葉に慌てるでもなく、

「そんなことはないです」

とだけ答えた。

しかしその答え方も何だか感情が露ではない。要するに、お世辞にも楽しいとはいえないという所だろう。少なくともルーファウスはそう思ったし、ルードはそれについて何かをフォローするような言葉も口にはしなかった。

「そうか」

幾分かツマラナイような表情をしたルーファウスは裏腹にもそんな納得の言葉を返すと、すっと視線をルードから外して、丁度真後ろの方を見遣る。

と、そこには特設のワゴンのようなものが設置されていた。

どうやらポップコーンやアイスなどの軽食を売っているらしい。

「ふうん…」

カラフルなパラソル屋根のワゴンには、此処でちょっとした休憩を取ろうとしている客が僅かに並んでいる。客達はそれぞれ思い思いのものを買い込んでは嬉しそうにそれを持ち、そうしてベンチに戻っていく。

ベンチに戻ると、連れらしい人がやはり嬉しそうにそのちょっとした食べ物を口に含んでいた。

そうする人々は、小さな喜びを一緒に食べているみたいで、食べ始めたばかりなのにお腹いっぱいまで満たされたかのように笑い合っている。

「…なあ、あそこにワゴンがある。私は何か買ってくる」

ルーファウスは何を思ったのだかそんな事を言うと、スクリと立ち上がった。

それを見てルードは慌てて自分も立ち上がると、席を離れようとするルーファウスを制して声をかける。

「俺がいきます。副社長は待ってて下さい」

「え。でも…」

「俺が、行きます。何が良いですか?」

強くそう言われたルーファウスはそれ以上は反論せず、ただ「何でも良い」と答えた。そうしてルードを暫し見詰めると、その後もその場を離れていく背中を見守る。

ルードがワゴンで買物をしている間、その一部始終をじっと見遣っていたルーファウスは、やがて自分の元に帰ってきたルードを見て、ありがとう、と言った。

「これで…良かったですか」

そう言ってルードが差し出してきたのは、実にマニュアル通りにポップコーン。

ギラギラした字でゴールドソーサーと書かれた紙パックに山盛り入ったポップコーンは、キャラメル味だとかで何だか美味しそうな甘い香りが漂ってくる。

ルーファウスはそれを見詰め、ゆっくりとその一粒を手に取ると、それを口に放り込んでゴクリと飲み込んだ。なんてことは無い、単にキャラメル味のポップコーンである。

でも、何だか分からないけれど、そのポップコーンが妙に嬉しい気がした。

「うん、美味いぞ。お前も食べてみろ、ルード」

「…はあ」

そう言われてルードもそのポップコーンを食べてみる。普段あんまり甘い物を食べないルードとしてはそのキャラメル味のポップコーンはいかにも甘くてかなり辛かったが、それでもそれは表情には出さない。

そんなルードの様子をじっと見遣っていたルーファウスは、

「どうだ、美味いか?」

などとどうでも良さそうなことを聞いてきた。

だから、本心は「あまりに甘すぎて美味いという次元の話じゃ…」と思っていたものの、ルードは一応こんなふうに答えておく。

「はあ…まあ」

その曖昧すぎる答えはともすれば嘘臭いという感じもしたが、それでもルーファウスはその言葉に何故かにっこりと笑った。

「そうか、良かった」

 

さて、そんな時間を終えてルーファウスが行こうと言い出したのはスピードスクエアだった。

スピードスクエアはアトラクションゲームで、高速で走る車体に乗り込みその中で宙に浮く物体を撃ち落していくというものである。まあ言ってみればガンアクション拡大版みたいなものだろう。

このアトラクションに乗り込むに当たり、二人はやけにやる気満々になっていた。

何せ、そう…二人にとって銃というものは得意中の得意である。ルードは仕事でそれを使っている手前命中率もかなりのものだったし、ルーファウスに至っては趣味でバンバンやっているものだからそれもなかなかの命中率だった。

「ルード、勝負しないか?」

「良いですね、副社長」

珍しく一致団結してニヤリと笑いあった二人は、オモチャも同然のガンを手にしながら、それぞれ気合をいれている。正に興奮状態だ。

発車します、そうアナウンスが流れて動き出した車体は、異空間に二人を運び出す。周囲は真っ暗に近くて、それでも宙でキラキラ輝く何かのおかげで全くの暗闇というわけではない。

その中で、ルーファウスもルードも、ズキュン、ズドン、と向かってくる物体を打ち落とす。その勢いたるや凄いもので、二人はほぼ同時にそれらを打ち落とし、そうして確実に命中させた。因みにこのアトラクション、結構難しいといわれているらしい。

「よし!良いぞ、この調子だ。ルードには負けられないぞ」

「副社長、そっくりそのままお返しします」

「またまた!そんな事言って私に勝てるとでも思ってるのか?」

「当然です」

「…言ったな!」

ズキュン、ズドン、ズキュン、ズドン…

そうして響いていく音と共に得点が加算される。

二人の得点はかなりのもので、同じものを狙った際にどちらが撃ち落しどちらが得点加算されるかはかなりのドキドキ感だった。

しかしそういうドキドキ感もあっという間に過ぎていき、やがて車体は元の場所にプシューと戻り、そしてそのアトラクションは終了を告げる。その時間はかなり短い時間のように感じられてルーファウスは元より今回はルードも少し残念に思ったが、それでも終わりというのだから仕方無い。もう一度やるとなれば、少しばかり並んでいる列にもう一度並ばねばならないのだ。

そのアトラクションで二人が打ち出した得点は過去最高点で、その得点の高さにはアトラクションのクルーのお姉さんもビックリ仰天をしていたものである。あまりの高得点が打ち出されたため最高記録の証として記念撮影でもと言われたが、さすがにその時は二人もそそくさと断った。

…まさか経営会社の人間がピースをして映る訳にはいかないだろう。

そんなこんなでかなりハッスルしたスピードスクエアに別れを告げた二人は、次にゴーストスクエアへと進んで行った。

しかし此処はアトラクションとは全く違う。

「…おい。此処は随分と不気味だな」

「ゴーストスクエアだから、仕方無いです」

その名の通りゴーストが出そうな雰囲気を醸し出しているそこは、墓場だとか葉の散った枯れ木なんかに囲まれていた。かなり不気味な上、効果音や音楽が更に恐怖感を煽っている。

一本道しかない為にそこを進んでいった二人は、やがて見つけた屋敷のような建物にまで進み出ると、何も考えずにサクッとそこに入っていった。

―――――――と、その時。

「ぎゃああああああああ!!!!!!」

「!!!」

突然空中からボトオオンン!!と落ちてきた首吊り人形が「きゃああああ!」という声を上げたのに対し思わず絶叫したルーファウスがガシッとルードを掴む。それがあんまりにも急の事だったので首吊り人形よりもむしろルーファウスの行動に驚いてルードも思わず仰け反った。

そうしていかにも「恐がっています」というリアクションを取った二人に、カウンターの向こうにいた男がケタケタ笑いながら「お泊りですか…」とか聞いてくる。が、それどころじゃない。ルーファウスなどは口をパクパクさせてルードの後ろに隠れている。

「お泊りですか、お客様…ひひひ」

「お、お泊りって…ここ此処はホテルか?」

「そうです、お泊りでしたら部屋にご案内致します…ひひひ」

その語尾の「ひひひ」を止めろ、とルーファウスが言うと、その男は「判りました…ひひひ」などと言ってきた。まるで聞いちゃいない。

ともかくこうして入ってしまった以上は「はい」と返さないわけにはいかなくなり、ルーファウスは取りあえずチェックインするようにその男に言った。しかしどうだ、まさか泊まるつもりなんてこれっぽっちもない。

ともかく一旦部屋に入って落ち着いたらすぐに出て行こうということで、二人は一つの部屋に入るに至った。そういう場合でも一泊分のギルは必要です、ひひひ、と言われたが、そんなものはどうでも良いといった具合である。それよりもこの心拍数を落ち着かせたい。

そうして部屋の中に入ると、ルーファウスはようやくルードから手を離した。

「ふう…驚いた」

「俺も驚きました」

「だろう!?あれは不意打ちだ、イカサマだ!」

憤ってそんなことを言うルーファウスだったが、ルードとしてはどっちかというとルーファウスに対して驚いたのでそれに対して「うん」とは言えない。

しかしそこは曖昧にして終わらせると、ともかくベット脇に座り込んで、じゃあこれからどうしようか、ということを話し出す。

「残ってるのはラウンドスクエアだけです。…どうしますか」

「ああ、そうだな。さっさと此処を出たい気もするけど…」

そう言いながらも、ルーファウスは周囲を見渡す。

部屋の中は綺麗で、いくら周囲がホラーの世界になっていようとも別段不自由はないという具合である。テーブル中央にあるティーポットには紅茶や珈琲などが用意されていて、その脇に茶請けの小さなサブレ菓子などが置いてあった。

それに目をつけたルーファウスは、少し休もう、と言うとすっと立ち上がる。がしかし、そこでやはりルードが立ち上がって「珈琲なら俺が」と言うので、そこは素直に任せた。

「…副社長。こういう所は苦手ですか」

トポポポと注ぎながらそんな事を聞いてくるルードに、ルーファウスは強がりなのだかそんなことは無いとキッパリと言い放つ。その割りにさっきの驚きようは何だという感じだが、ルーファウス曰くそれは「イキナリだったから仕方無い」らしい。…そういうのを世間では苦手というのではないだろうか、疑問である。

まあそれはそれとして、ルードが注いだ珈琲を手にしたルーファウスは、ふうふうとそれを一口流し込みながらもちょっとした話などを始めた。

それは、何とルードが一番疑問だったことへの答えで。

「やっぱりお前を選んで良かった」

「え?」

自分もそれを口にしながら、ルードは驚いてそんなふうに声を上げる。

そんな様子のルードに、ルーファウスは小さな笑みを零しながらこんなことを言う。

「私は社会勉強の為にもこういう事を一度はしておかねばと思うのだが、どうにも相手が不遜だったり信用できなかったり、な。…それで。実はツォンやレノも考慮したんだけど…」

「あ、あ…そうだったんですか…」

何だ、そうだったならツォンかレノにすれば良かったのに。

ルードは心中でそんなことを思った。

だって二人は常々ルーファウスの事を狙っていたわけだし、こういうデートなんかはきっと嬉しくて仕方無いだろう。その上、こういうことをする上ではどう考えても自分よりか二人の方が適任のような気がする。レノなどはかなりお手の物だろうから存分に楽しませることができるだろうし、ツォンであれば完璧にルーファウスを気遣えるだろう。

いずれにしても、不器用な自分には余程似合わない行動である。

でも、ルーファウスはそれを跳ね除けるように言った。

 

 

 

back return next