恋人のススメ

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最近ルードは困っていた。

何にかといえば周囲からの痛い…それはもうグサグサくる視線に、である。

その原因が何なのか、それは分かっている。

数日前、あの副社長ルーファウスが突拍子もなく言ったある一言が原因であることは分かっているのだ。

それが原因で、ルードはほとほと困ることとなってしまった。

 

 

 

「私はルードが好きだ」

相当悪いものを食べたのか、相当頭がいかれたのか、何なのか分からないがともかく、何を思ったのだかルーファウスはそんなことを公衆の面前で宣言した。

因みに此処でいう公衆とは、タークス諸君のことである。

突然そんなことを言うものだからそこにいたタークス諸君は大いに驚いて、約三分ほど硬直したものだ。

ルードとルーファウス…まあ関係ないこともないが、関係あるとも言い難い。というか、関係ないといった方が結構近い。

「そんなわけだから、諸君。私はこれからルードと交際することにしたから、邪魔をしてくれるなよ」

えっへんと胸を反らせながらそう言ったルーファウスに戸惑ったのは、これから交際する予定らしいルード本人だった。

だって、そんな事はこれっぽっちも聞いたことがない。

レノとツォンが「初耳だ…」なんて言っているが、こっちこそ初耳である。

「ルード…お前いつの間に副社長落としたんだよ」

そう言うレノに、ルードは「いや、そんな記憶は…」と反論するが、レノはちっともそれを聞いてはおらず、もう既に「最低」だとか「最悪」だとか言っている。因みにその最低とか最悪というのは、ひとえにレノがルーファウスを虎視眈々と狙っていたからだった。

「ルード…お前ってヤツは…上司を立てるという言葉を知らないのか」

またツォンの方はそんな事を言ってルードを睨んでくる。実はこの主任も、密かにルーファウスに想いを寄せていた一人であった。

レノとツォンといえば、日々「ルーファウスは自分のものだ」とか「抜け駆けしたら殺す」とか豪語していて、ルードはそんな二人をぼうっと見ていたに過ぎない。それだというのに、何故だかルーファウスはルードを好きと言い、挙句の果てには交際するだとか訳のわからんことまで公言してくる始末……これでは、痛い視線がグザグザこないはずがない。

「さあ、ルード。早速逢瀬と行こうではないか」

「…しかし…」

「しかしもお菓子もない。さあ、行くぞ」

「え…」

ルードはルーファウスの手に強引に引かれ、あれよいう間にその場から引き摺られていった。それを見守る二人の眼が異様に冷たかったのは言うまでもないことだった。

 

そんなふうに引き摺られてやってきたのは、どういうわけだかルーファウス宅だった。

いきなりこんなプライベートな場所に連れてこられても…とすっかり意気消沈していたルードは、目前でテキパキと物事を運ぶルーファウスをぼうっと見やっている。最早口をつく言葉もない。というか元々それほど何かを口にしようという感じではなかったが。

そうしてルードが見遣っている先のルーファウスはといえば、いつもに増して生き生きした調子で茶を出そう、とか、茶菓子は要るか、とか聞いてくる。それに対し無言でいるとルーファウスは勝手にそれらをサッと用意し、遠慮しなくても良いとか何とか言いながらも自分が先にそれらをズズーとやった。

そのスピードたるや並ではない。

茶と茶菓子を出されたルードは、これは一体どういう展開なのだろうかと思いながらもやとのことで茶に手を出した。しかしどうにもそれを口に含むのが躊躇われる。多分それは、脳裏を掠める誰かさん達の姿が気になって仕方無いからだろう。

「どうした、ルード?」

その様子を目に留めたルーファウスは、いかにも分からないといったふうに首を傾げてくる。

しかしルードにとっては、こっちこそ首を傾げたいという具合だった。

だから、重々しい感じで口を開くと、ようやっとその疑問を口にする。

「…あの。何で俺なんですか。どう考えてもおかしいような気が…」

「おかしい?何でだ、私とお前とはもう既に公認の仲ではないか」

それはさっき副社長が勝手に公認にしただけじゃ…そう思ったルードだったが、それは敢えて口には出さなかった。その代わり、一番肝心なことを口にする。

「…あの。副社長は、その…俺の事を好きなんですか」

「は?」

は?、じゃない。

それが一番肝心である。

「いえ…あの。それがかなり重要だと思うんですが」

「まあ、そうだな。確かに交際というものは健全な二人が真摯に相手を愛することでやっと一つになる行為であり、そこからするに私達は真摯にお互いを愛することが必要になるだろうな。…ふむふむ、交際とは実に奥の深い行為で――――」

ルーファウスは突如として交際について熱く語りだしたが、しかしルードとしてはそんなことよりも実際にルーファウスがどう思っているのかという部分を聞きたかった。もしもそれが何かの間違いであれば、ともかくこの交際という展開を脱することは出来るのだから、その可能性を判断する為にもそれは必要不可欠である。

と、そんなふうに思っていたルードだが、ふっと耳に入ってきたルーファウスの言葉に思わず唖然としてしまった。

だってルーファウスは言うのだ、そう…よりにもよってこんなことを。

「社会勉強だからな、よろしく頼むぞ、ルード」

「―――――――は?」

にっこり笑ってそう言うルーファウスに、ルードがそれ以上を言えなかったのは仕方無いことだろう。何せこの人、社会勉強だというのだ。この突然の交際宣言をよりにもよって社会勉強だと。まあ意味合いとしては分からないでもないが、そういう社会勉強は好きな人が出来たときにやれば良いのであって強制的に学ぶものでもないだろう。

そう思ったルードだったが、目前のルーファウスはやる気満々といった具合で、とてもそんなことを言って納得してくれるとは思えなかった。

故に。

「よし。じゃあ早速、交際の醍醐味に行くとするか」

「だ、醍醐味…?」

恐る恐るルードがそう聞くと、ルーファウスはエヘンと胸を反らしながら、ある一冊の本をルードに手渡した。どうやらそれを見ろということらしい。

仕方なくルードがそれを手にしてパラパラやると、そこにはどうやらこう書かれていた。

因みに本のタイトルは「恋人のススメ」とかいう如何わしいもので、ルードが丁度開いたのは「逢瀬」という項目である。

「“逢瀬とは”…」

 

恋人のススメ 第二章 【逢瀬とは?】

 

逢瀬とは、交際する二人がその愛を育み広げる為に重ねる時間のことをいう。

お互いを理解し尊重し育まれていく愛の為に、交際する恋人達はしばしばこれを行う。

その内容は、談話、食事や酒の席などの軽いものから、一両日をかけて行う買物までともかく幅広い。若い恋人であれば、遊技場なども良いだろう。また、同じ趣味を持つ恋人であればそれに関する場所に出向くのも効果的である。

とかくこの逢瀬というものは大切で、これの如何により恋人達はしばしば別れを決断することもある。

それはお互いの中に許容できぬ部分を見つけたりと、つまるところ相互理解が得られない場合に起こるものだ。これを防ぎ、お互いを良く尊重し合いながら逢瀬を繰り返すには、お互いへの思いやりを忘れない言動を心がけたい。

 

 

「……」

そこまで読んだルードは、その内容をもう一度反芻した後に、今迄も無言だったのに更に無言になった。

っていうか、愛を育み広げ…る必要性があるのだろうか。

かなり疑問である。

しかし目前のルーファウスはやはりエヘンと胸をそらせて「凄いだろ」などと言ってくる。どこがどう凄いのかさっぱり分からない。

とはいえ、ともかくルーファウスがそれを社会勉強の為だけに実戦しようとしていることは確かで、何故ルードが選ばれたのかは不明だとはいえこれから確実にそれをこなすはずなので。しかも本に書かれたことを基として。

となると、まずはこの逢瀬とやらを繰り返さねばならない。

「さてルード、まずはどこに行こうか。まあ逢瀬だからゴールドソーサーは外せないと思うが、ルードはどう思う?」

「ゴールドソーサー…ですか。でも今はまだ勤務時間じゃ…」

「まあそう言うな!私は偵察、お前は私のSPということにしておけばそれで一段落じゃないか」

そういう問題か?、そう思ったがルーファウスが意気揚々とそう言うので、ルードはそのまま口を噤んだ。そのせいか、ルーファウスはゴールドソーサー行きにまでルードが了承したものとして勝手にそれを決定してしまったものである。

そんなわけで、この擬似恋人関係は、まずこの逢瀬というものから始まった。

 

 

 

勤務時間中にゴールドソーサーへひとっとびした二人は、名目上は偵察&SP、その実擬似恋人としての逢瀬、ということでその地を楽しむことになった。

ゴールドソーサーといえば神羅の建てた巨大アミューズメントパークであって誰しもが一回は遊びに行きたいと願う場所だったが、今迄二人は個人的にこの地で遊ぶということをしたことがない僅かな人間の一人である。

そんなわけだから、どういうものがあるかは知識上知ってはいるものの、全てが全て初体験という具合。これは正に恋人のデートにぴったりのシチュエーションである。

「よし、ルード。まずはチョコボスクエアからいくぞ」

張り切ってそう言ったルーファウスの手には、あろうことかゴールドソーサーのパンフレットが握られていた。…すっかり観光客である。

「…副社長、レース予測するんですか」

「ああ、そうだ!私の手腕を見せてやろう」

不敵にそう笑ったルーファウスについていってレース予想をしたところ、それは見事の見事に丸外れをした。どこが手腕なのかとかなり訝しい気持ちになったルードであったが、隣のルーファウスがあんまりにも悔しそうに「このやろう!」とか「イカサマだ!」とか喚いているものだから、思わず同情して何も言えなくなってしまう。まあルーファウスがこういう事をしているという事実自体あんまりにも珍しいことだから、それはそれで微笑ましいといえば微笑ましいのだろうが。

しかしチョコボスクウェアでかなりの大金をつぎ込んだ挙句にすったルーファウスは相当お怒りだったらしく、今度はぷんぷんとしながら、

「バトルスクエアにいくぞ!」

などと言い出した。

だものだからルードは大いに焦って「それだけはやめて下さい!」と懇願した次第。いくらタークスとはいえ、まさかそこに一緒に入るということはルール違反である。となると、ハンデがつくらしいバトルにルーファウス一人を出すということになるのだから、それははあまりにも危険だ。何せ銃も何も無い。…尤もこれが口喧嘩バトルだったら敵に同情するかもしれないが。

そんなわけでバトルスクエアはルードが必死で止めて何とか行かずに済んだ。

「じゃあワンダークスエアだ!」

次にルーファウスが行こうと言い出したのはワンダースクエアである。ソコは確かゲームセンターのようなアーケードゲームらしきものが詰っている所で、そこであればルーファウスも普通に過ごせるだろうと踏んで、ルードはそれに静かについていった。

 

 

 

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