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鼓動 ----------------------
星の鼓動。
生い茂る緑の鼓動。
生きている皆の鼓動。
この世は、息づいている。
いつか目の前から消えてしまうなら、 最初からそんなものは無くせば良い。 悲しいなんて感じる前に、何も思わなくなればいい。
ただ、生い茂る緑を見ていれば、それだけで良い。
カダージュがアクセスをしてくるようになって、ルーファウスはある一つのことを思い出していた。 カダージュ達がこうして自分の前に現れたのは他でもなくあのジェノバの為だと分かっている。そのジェノバの欠片を見つけてしまったことで、こうして悲劇は始まってしまったのだ。 カダージュ達の出現を悲劇と称するのは何も、彼らの存在によって世の中がどうこうという大仰なものではない。確かにこうして今自分が見詰めているものの一部にそれはあるが、それでも心に燻るものを消しさることはできないのだ。 カダージュ――――――彼らは、思念体だと言った。 セフィロスの、思念体。 本来の実体を持たない彼らが、それでも人の目に映る形を有してルーファウスの元に現れたのは、ジェノバを取り返し星に復讐する為だという。 正直にいえば、それはあまりにも馬鹿らしいことだった。 以前もこうしてジェノバという物体についてある男が同じような行動を起したことがあったが、それを深く思い出さずにはいられない。それはもう何年も前のことで本来ならば記憶も薄れそうなものだったが、それでもこの数年間やってきたことの背景にはそれがあったのだから到底忘れるなどということはできなかった。 まあ当然か。 ルーファウスはそう思う。 カダージュがあの男と同じことをする理由…それは分かりきっている。何故ならカダージュはあの男の思念体なのだから、同じ方向に事を進ませるのは当然のことだ。 しかし、それでもカダージュとあの男…セフィロスは違っていた。 その違いは、ルーファウスにとってあまりにも大きい。 同じことをして、同じふうに悩ませるくせに、あまりにも違うから。
「そろそろ世間話も疲れたでしょう?」 やってきていたカダージュが、そんなふうに言って壁に背をつけた。 ルーファウスの所有物であるロッジ、その一室の中。 レノとルードは今頃あのクラウドという男とアクセスしている頃だろうが、彼らは何故だかこういう時に限って此処にはいない。一部にはルーファウスの令だからというのもあるが、それにしても毎度良いタイミングで席を外しているものだと思う。 カダージュと二人きりだと、あの心の燻りが蘇る。 だから、できればレノやルードにいて欲しい。 しかし現実そこにはカダージュの姿しかなく、ルーファウスは自然と心にバリアを貼るかのようにある種の緊張感を張り巡らさねばならなかった。 車椅子に乗る白いローブの男を演出していたルーファウスは、白いローブの端からチラとカダージュを見遣ると、そうだな、という一言を返す。 そして、また顔を伏せた。 「ねえ、社長。できればもう終わりにしたいな。早いとこ終わらせたいんだよね。どう、そろそろ全部話してくれる気になった?」 「全部?一体何のことだか分からないな。私は全ての情報を与えているはずだ」 憮然としてそう言い放ったルーファウスは、その言葉に対するカダージュの反応をそっと確かめる。 すると、どうやらカダージュはそれほど気を悪くしたわけではないようだった。 もし此処で気を悪くすると、この思念体は何をしでかすか分からない。若くて凶暴な思念体は、何かを壊すということに何の恐れも抱かないらしく、何の躊躇いもなく人を殺し、物を壊す。だから、星を殺すことにも何の疑念も抱かないのだ。 いや、“抱けない”のかもしれないが。 「社長、本当に嫌味だね。でもまあ、悪くはないよ。社長はまだ話が分かるからね。話しててそれほど苛々しないよ」 「それは誉め言葉か?」 「やだなあ!当然だよ、それ以外にある?」 笑ってそう言うカダージュは、言葉を抜かせばそれほど危険なふうには見えなかった。 銀髪を持ち、端正な顔立ちをしている。 それはまるであの男のそれと酷似していて、ルーファウスはその姿を掠め見るたびに心臓がギュッと掴まれるような気分になった。 「話が分かる、か…」 思わず笑うと、ルーファウスはそう反芻する。 話が分かるだなんて、生まれて初めて言われた。 以前は…そう、恐れられていたし、それほど人に好かれていることなどなかった。 だから、自分が欲しいと思った人間にもそんな気持ちは伝わることはなかったし、むしろそういうものは一生手に入らないものなのだと思っていたのだ。 それが、こんな時になって唐突に認められるだなんてあまりにも皮肉である。 それも―――――――カダージュになんて。 「ねえ、社長。もう世間話にも飽きたし早く本当の事教えて欲しいけど、まだ連絡が来ないんだよね」 「連絡?」 聞くと、どうやらそれは仲間からの連絡らしい。 仲間の思念体が連絡を寄越す手筈になっているらしく、それがまだ来ないと言うのだ。 カダージュは電話を弄びながらもルーファウスに近付くと、車椅子の真正面にすっと腰を落とし、ローブの下からルーファウスの顔を覗き込む。 そして。 「だから、もう少しツマラナイ話しようよ。そうだな―――――セフィロスについてとか、どう?」 ふうっと笑ったカダージュに、ルーファウスは沈黙した。 ローブの中からは丁度カダージュの口元だけが見えていて、その口元は何だか妙に意味深に見える。だからなのか妙に嫌な感じがして思わず顔を顰めたものだが、それでもルーファウスは少ししたあとに、良いだろう、と答えた。 ―――――本当はセフィロスのことなど口にしたくなかったけれど。 でも、きっともう時効なのだろう。時効だからこそ、こうして誰かがその話を振ってくるのだろう。 そう自分を納得させたルーファウスは、セフィロスの話はどうかと提案してきたカダージュに、一体彼の何を聞きたいのかということを投げかけた。一口にセフィロスの話といっても色々なことがありすぎてとても語りきれない。 しかしそれを聞いたルーファウスの一言は、自然と話の方向を決定付けたようだった。 「あの男は伝説並に語られる男だからな、どこから話せば良いのか分からない」 「伝説、ね。…ふん、陳腐だ。馬鹿みたい」 「陳腐…そう思うか」 そう言ったルーファウスに、カダージュは「当然だ」と返す。どうやら彼はセフィロスのことを良くは思っていないらしい。 まあ当然だろうか、思念体である自分からすればそれは、絶対に逆らえないような存在なのだから。 カダージュは立ち上がると、その場を離れないままに言った。 「伝説でも何でも良いけど、結果を出せなかった奴は皆同じだ。失敗したんだから消えて当然なんだよ」 「…お前はどうする?星に復讐すると言うが、もしそれに失敗したら。そうしたら自分も消えるのは当然だと思うのか」 「当然だよ」 きっぱりとそう言ったカダージュは、だって、とその理由を口にする。 それは殺伐としていて、納得できなくはないもののどこか寂しさを伴っていた。 「仮に失敗したら、消えるのは当然だ。目的をまっとう出来なかったら、生きてる意味なんか無い。くだらない事にばっかり苛々して過ごすなんて馬鹿げてる」 「…目的か」 その真っ直ぐな考え方を、確か以前にも聞いたことがある。 目的が遂行できないならば、意味などないと。 だから――――――――目的遂行の邪魔をするものは切り捨てるのだと。 そう言っていた、あの男も。 「…似てるな」 それを思い出したルーファウスは、ポツリとそう零した。 それが聞こえたのだかカダージュは「どうだか」などと言う。それはいかにも軽蔑したふうだったから、彼のセフィロス嫌いは相当なものなのだろう。 けれど、ルーファウスにしてみればカダージュはやはりどこかセフィロスに似ていた。外見は今更言うこともないが、その考え方はいかにもである。思念体だからそうだというのは分かるが、それでもこうして話しているとまるで過去に返ったような気分になってしまう。 その過去とはもうかなり前の話で、多分セフィロスの思念はそんなことすら覚えていないのだろうけれど――――――でも、ルーファウスは覚えていた。 忘れるわけがない。 今それを思い出してしまうことこそが、正にルーファウスの考える悲劇なのだ。 ジェノバをどうこうという問題ではなく、自身の心に灯る問題。それが。 「あの男も同じだった。目的が遂行できないならば意味などないと、そして邪魔をする者があるなら切り捨てるのだと―――――――そう、言っていた…」 そっと語り始めたルーファウスの口は、時折途切れながらもその男についての形容を綴る。それは社長としてではなく、ルーファウスとして語られるセフィロスの姿だった。
“お前も邪魔をする気なら、容赦はしない”
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