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お前、変わりにこの書類を提出してこい――――――。

何故かそんな命令を出されたザックスは、そう言ったセフィロスから書類を受け取ると、渋々と歩きだした。

向かう先は何でも副社長室なのだとかいう。

何で一介のソルジャーが副社長なんかとご対面しなきゃなんないのかね…そう思いつつも、ついつい引き受けてしまう自分が少し悲しくもある。

その道すがら思っていたことといえば、ある噂だった。

今から向かう副社長室の主―――その名の通り副社長は、何でも酷く癇癪持ちなのだとか言う。そんな噂がどこから流出したのかは分からないが、ともかくザックスはそれを耳にしたことがあったのだ。

そのヒドイ癇癪持ちは、社長のご令息である。これは周知の事実で、それじゃ幹部もやりにくいだろうと余計な事が気になるというものだ。

しかしそんな事を思ってはいても何故か顔だけが浮かばない。

と言うのも実は、副社長の地位にそのご令息が就いた時、別に気に留めていなかったからである。僅かに覚えているのは社長の顔―――あんまり思い出したい顔じゃない事は確かだ。

とにかくその男の子供というのだから、それはもう凄いのだろう。

「アレの若い版だよなあ…」

少し想像してみる。

あの社長の顔から少し皺を取り払ったくらいだろうか。

「…あんまり見たくねえ…」

うっ、と顔を蒼褪めさせながらザックスはついそんなことを呟く。

あの顔に癇癪持ちか――――手にしている書類の内容よりも何故かそんな事の方が気になるには何故だろうか……。

とにかくそんな事を考えている内に、何とかザックスは副社長室まで辿り着いた。

 

 

 

至ってシンプルなその扉をノックして、ザックスは一つ咳払いなどをする。

ゴホン…

「失礼します」

取りあえずそんなふうに言ってみてからドアノブに手をかける。ガチャ、と音をさせて開いたドアの向こう―――――そこにはザックスの想像していたプレジデント・ヤング版がいるはずだったが、しかし……。

「ん?」

どういう訳か、その部屋には誰もいない様子である。

しかし時刻的にも席を外しているという可能性は希薄だった。とはいえ相手は副社長なのだからそういう枠では捉えきれないのかもしれないが。

「もしもし…?」

そろそろと部屋に入ってそんなふうに声をかけてみる。が、やはり返事は無い。

ある意味、これは恐い事態である。

何しろザックスに仕事を頼んだ相手はセフィロスで、“いなかった”と正統な理由を言ってもきっとムッツリするのだ。そうすると色々問題がある訳で、やはりそちらの方が大事に思える。

「すみませーん、副社長ーっ?」

もう良いだろうと今まで抑えていた音量を最大限に上げてザックスがそう叫ぶと、ふっとどこかで音がした。

「え?」

ガサッ…

そんな音がする。

「ええと…」

聞こえてくる音を注意深く辿りながら、ザックスは歩を進めた。

音のする方向はどうやら――――デスクの向こう。

がしかし、デスクの向こう側は窓になっている。それに、椅子にも姿がないわけだから、それは相当おかしな事実だった。

まさかポルターガイスト現象か!?――――とも思ったが、その方が何倍も恐いのでそれ以上考えるのは止めておいた。

「良し…」

ザックスが覚悟を決めてデスクの向こう側を覗こうとしたその時…。

「…っくしゅっ!!」

突然妙な声が―――――!!

「うわあああああああああ!!!!!」

思わず大声を上げてデスクに腕をついたザックスだったが、まさか此処で引き下がるわけにもいかないだろうと再度覚悟を決める。

そして。

「あ…」

どうやらその覚悟は水の泡になってしまった。何故なら、覗くより先に相手が姿を見せたからである。

しかもそれは――――…。

「あの…誰ですか?」

ザックスは思わずそう聞く。どう考えても目前の人物はプレジデントヤング版ではない。何しろ全然似てない。クログロ髪とは違う金髪の男―――とてもじゃないが、ザックスにはそれが副社長だとは思えなかった。

しかしその人物はいかにも機嫌が悪そうな声でこう答えてくる。

「誰だ、だと?お前こそ誰だ!勝手に入るな!」

それを聞いた瞬間、ザックスはハッとした。

「…“ヒドイ癇癪持ち”…?」

「は!?何だ分からないが早く出て行け!」

「なるほどな」

そうか、これが“ヒドイ癇癪持ち”の“副社長”な訳か、とそう思って納得の頷きを一つする。

顔こそ似てないが、噂でいくとどうやら本物らしい。

というよりまず、副社長ってこういう人だったのか、というのが大きかった。

しかしそう思っている場合ではない。何しろ書類提出しにきたのだから、これも立派な仕事なのだ。

何だか酷く不機嫌そうな副社長に向かって、ザックスは気を取り直して「ええと」と手の中の書類を差し出してみた。

「悪いけどちゃんと仕事で来たんで。これを提出しに」

「何?」

眉をひそめながら、副社長――ルーファウスはそれを受け取る。一通り目を通してから、チラリとザックスを見遣り、そしてルーファウスは一言だけこう告げた。

「分かった。もう帰って良い」

たったそれだけ告げただけで、ルーファウスはもうザックスを眼中から外したらしく、普通に自分の業務に戻っていく。

何だ、つれないな。そう言おうとしたが、寸でのところで止める。どうせそれを言ってもまた、喧々囂々、ヒドイ剣幕で言われるだけだろうから。

だから此処は素直に引き下がることにして、ザックスは一応礼などをして「じゃあこれで」と言った。

―――それすらルーファウスは聞いていないようだったが。

しかしドアノブに手をかけて、ふっとザックスは立ち止まった。そういえば先ほどルーファウスは何をしていたのだろうか、と思ったのだ。椅子にも姿がなく、ドアからも見えないとなれば…。

「あー、あの」

何だか気になるな、そう思いついつい口にだす。しかしルーファウスはそれすら気に入らないらしく、

「うるさい。さっさと行け」

と言ってくる。

何だよ、と思いつつ結局ザックスはぶつぶつ言いながらもそこを去っていった。

 

 

 

数日後、セフィロスからある話を聞いたザックスは素っ頓狂な声を上げた。何故ってそれがあまりにも変なハナシだったからである。

「そんな訳でな、困ってるんだ」

「あ〜…なる…」

ふむふむ、と頷きつつザックスは渋い顔をする。何てことのない話のような気もするが、妙。というのも、セフィロスのいう話とは、こんなものだったのだ。

 

ある日、家に帰ったセフィロスは、我が家で妙な物体を発見した。そいつはどうやら生き物で、何故か「ブヒ」だとかいう鳴き声を上げる。

ブタ――――――――?

そう思ったセフィロスだが、ブタの割りには、ちょっと様子が違う。猫のような髭があり、前進は毛むくじゃら、そして尻尾は猿のように長かったのだ。

その生まれて初めて見た物体と暫く見詰め合ったセフィロスは、3分経った後にハタと我に返った。

コレは―――――異常事態……!!

何せ見たこともない物体なのだ。いまだかつて見たことが無いし、果たして見て良かったのかどうかも危うい物体である。几帳面なセフィロスは、急いで図鑑でその物体を探してみたが、

やはりその“ブタ+猫+猿”のような生き物は載っていなかった。

はて、これはどうしたものか。

考えた挙句、セフィロスは何もないことに決めた。何と言っても未確認物体である。

しかし残念な、非常に残念なことに、その物体は――――…

ボトッ

『あああああああ――――ッ!!!!!』

――――ちゃんとお通じをもよおす物体だったのだ。

 

「そんな訳で非常に困っている」

「ああ、そう。そりゃヒドイね…」

そう他人事のように呟いたザックスだったが、悲しいかなセフィロスは“他人事”では済ませてはくれなかった。

「ブヒ」

「…“ブヒ”?」

突然聞こえてきたその鳴き声にザックスは不思議そうな顔をする。そこで即刻逃げなかったのが運のツキ、目前のセフィロスは実に無表情に、ザックスに向かってある物体を差し出した。

―――――ブタ?

「うぎゃあああああ!!!」

その何とも奇妙な物体を目にしてから3秒後、ザックスは悲鳴を上げた。

「そんな訳で、これをお前にやろう」

いりもしないのに押し付けてくるセフィロス。…はっきり言ってヒドイ。

「いや、あげるって!いらないし!」

「いやあ世紀の大発見だぞ、ザックス。凄いもんだ、金持ちになった暁には何か奢れよ」

「っていうか!ちょっと!」

「じゃあな」

「あ、セフィロス!逃げるな、オイ!」

しかしセフィロスは立ち上がってクルリと方向転換した後に、脱兎の如く逃げて行った。

その姿を呆然と見つめつつ、ザックスはぽかんと口を開けている。

一体コレをどうしろというんだ――――?

はっきり言って頭の中は真っ白。しかしその場にそぐわず、近くには緊張感の無いブタ…いや猫、いや猿…どうでも良いが珍獣がいた。

「ブヒ」

「……」

嬉しそうに鳴くソレを見ながらザックスは大きな溜息をついた。

 

 

 

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