|
Worthless dance -----------------------------------
「じゃあ、これ」 「どうも」 約束通りの金額。同じ相手と寝れば、その金額は段々と値上がっていく。 一回目はこれだけ、じゃあ二回目はこれくらい。そんなふうに。 セックスを重ねる度に、要は価値が上がる。下がるのではなく、上がる。何故ならそれは付き合いじゃなくて、ちゃんとした契約の上にあるものだから。
汚い図式だと思っていたそれに、クラウドはいつしか飲まれていった。最初はこんなことをするつもりは一切なかった。それが何故こんなふうになったかといえば、理由は単純。 挫折という言葉がピッタリ合う。 それは神羅のシステムが悪い。 戦闘シミュレーションなどでも良い成績を上げていたクラウドは、ソルジャー候補の中でも上をいっていた。この調子ならば試験も合格するだろうとまで宣言されていた。 それなのに、神羅に入ってすぐにやってきたソルジャー試験に、クラウドは落ちてしまったのだ。 合格圏内といわれていたのに、何故? そんな疑問ばかりが浮かんだものだが、それよりも挫折感が大きかった。 ソルジャー試験のシステム。 それは、筆記と実技の二種があり、その中でも細分化される。 筆記試験については大方が理解できているところだし、記憶力されあれば簡単にパスできる。だから問題は実技の方である。実技はそれこそ実践的なものから、基礎的な部分までを見せなければならない訳だが、そのシステムといったらおかしなものだった。数人でのチームプレイでの判定をされる実践用試験では、戦闘能力の高さや瞬発力などの重要項目よりか協力的な部分を重要視された。 元々クラウドは特定の人物としか触れ合うこともないし、そういったことも苦手だった。戦闘能力だけで見ればとても高いのに、それで落とされたようなものである。 早々に戦闘を終了させようと強い攻撃を加えるクラウドに対して、他のメンバーは弱い攻撃を何度も与えるという、およそ効率の悪い戦い方をする。それはクラウドをイラつかせた。組んだメンバーは皆、クラウドよりもずっと弱い者ばかりで、だからこそそういう戦い方をするのだろうとも思っていたのに、それが返って良い評価を得たのである。 結果、本来クラウドよりも弱いその人間達がその試験に合格をした。 馬鹿げている――――――――そう思った。 ソルジャーになりたいと思う。そう思うのに、それではいつまで経っても認めてなどもらえない。考え方は基本的には変わらないし、そういうイライラする効率の悪い戦いなどしたくもない。 神羅は、所詮、認めてはくれないのだ――――――その、挫折感。 能力はあるのに。 それが、クラウドを別の方向へと誘ったのである。 とにかく認めてもらいたい。自分の価値がないなんて、思いたくない。 それが、クラウドの行動をおかしくさせた。 入社当時から、クラウドの少し翳りのある雰囲気や外見などは、同僚の一般兵から好奇の眼で見られており、それはクラウド自身も知っていた。男しかいない兵舎では、性欲処理に同性を抱くという事もあると聞いていたし、だから自分もそういう眼で見られているのかもしれない、と。だけどそれだけは 勘弁だ、そう思っていたのだ。 しかしクラウドの中でそれは、いつしか充足感を与えるものになっていたのだ。何しろそういう好奇の眼を向けられるのは限られた人間で、そういう人間は大概重宝がられる。ある意味で“認めて”もらえるのだ。例えそれが望んだ種のものではないとしても、結果的に自分が優位に立てるのには変わりないことである。 ちょっとした、商売。 クラウドはその行為をそう言葉にしていた。 一度寝るだけで、少しばかりの金が入る。副業は禁止だから本来は金銭授受は許されないのだろうが、これは別物だと思う。金を出しても願い出る者が吐いて捨てるほどいて、それを受けることができる少数の内一人が自分というなら、それは悪い商売じゃない。 そういう事を重ねて、金という物体がもうどのくらい溜まっただろうか。 クラウドはそれをほぼ使うことなく溜め込んでおり、それはこれからも使われることはないだろうと思われる。神羅からの給料で日々の生活をするのには事足りてしまうし、これといって欲しいものもない。強いていえば、ソルジャーになりたいというだけ。 だから金は、自分が必要とされている証明のようなものだった。 そう―――――証明は大切だから。
「約束の額、くれよ」 事が終わってむっくりと起き上がったクラウドは、今まで自分を組み敷いてきた男に向かってそう言って手を差し出した。 夜の部屋の中である。 そこは男の部屋で、男はソルジャークラス3rdの人間だった。クラウドが目指すソルジャーの一部がこうして自分を抱くのは何とも可笑しい事実である。しかし目指す肩書きを持つその男が自分を求め、自分を立てるというのは酷く甘美なものにも思える。だからクラウドは、同じ一般兵とよりこういったソルジャー達を相手にする方が好きだった。より自分が優位に立てるような気がして。 男はクラウドの隣で寝そべったままタバコをふかし始めると、何故か落ち着かない雰囲気になった。 「どうしたんだよ?」 訝しい顔でクラウドがそう聞くと、その男はチラッとクラウドを見遣ってまたその視線を外し、少し経ってからこんなことを口にした。 それは、とても信じられない言葉だった。 「…金、は無い」 「―――――-え?」 「だから。金は払えないって言ってるんだよ」 まさか、そんな馬鹿げたことがあるだろうか。金が無いなんて在り得ない。 実際に男がどのくらいの収入があるかなど知らないし、どれくらい消費しているかなども知った話ではない。けれどとにかく、クラウドと行為に及ぶという事に於いて、そんな事は在り得なかった。 だって、それがあるからセックスは成立する。それがあるから結果的にクラウドは満足できる。 「…何だよソレ。話が違うじゃないか!」 沸々と怒りが沸いて、思わずそう叫ぶ。 確かこの男とはもう何度か寝ているから、そういう条件の上でこういう事をしているというのはハッキリ分かっているはずだ。もし手持ちがないというなら、それはそれでこの夜は存在しなかったはずなのだ。 それなのに。 「まあまあ、そう怒るなって。…大体さあ…もうこれで何度目、俺たち?もうそろそろ、そういうの抜きでも良いんじゃないか?」 男は開き直ったようにそう言って、おどけた態度を見せたりする。それが更にクラウドの気分を苛立たせる。 ふざけている場合ではなかった。 「そういうの、って…そういうのって何だよ。俺はアンタの事なんか好きでも何でも無いんだ。勘違いすんなよ。金が無いっていうなら俺はもうアンタとは寝たりしないからな」 きっぱりとそう言い切ると、クラウドは素早く服に手を伸ばす。そしてそれをすぐさま着込み、もう既に男とは何ら関係もないと言うが如くにその場から立ち去ろうとした。 しかし、そんなクラウドの背中に一つの声。 「お前、試験落ちたんだって?」 ピクリ、とそう反応して―――――思わず動きが止まる。 その事はもう誰しも触れはしない。クラウド自身の中でもそろそろ薄まってきた過去だったし、できれば嘘だといってほしい結果だった。 それを男は掘り返すように、少し皮肉な口調で言う。 「それで腹いせにこんな事してるって訳か。そうだよな、お前みたいな万年一般兵が大口叩けるのも珍しいもんな?」 「……うるさい」 知らず、手は拳を作り、そして震えていた。別にその煽り言葉を買おうというわけではない。でも許せないものは許せないし、腹立たしいものは腹立たしい。 しかしそんなクラウドの気持ちを知りながらも、男はまだ言葉を続けた。 「奥の手使って、幹部にでも体売ってみれば?ソルジャーになれるかもよ?」 はは、などという笑いが混じるその言葉にクラウドは我慢ならず、とうとう振り返って男に近付く。つかつかと歩いてそのプライベートスペースまで入り込むと、ぐっ、と男の肩を鷲づかみし、それからくぐもった声で、 「ふざけるな!」 そう叫んだ。 まだ裸体を晒している男は、その格好にそぐわないほどに強気な態度を見せる。先ほど金が無いといった時分に焦っていたのとは大違いの態度であることは間違いない。クラウドは今までこの男とベットを共にしてきて、その男がそれほど強い性格ではないということを知っていたので、突如そのような態度に出たのは何だか腹立たしかった。 しかし、そうした態度を見せる男には、やはり―――理由があったのだ。 男は己の肩からクラウドの手を払うと、ニヤリと笑ってこんなことを言い始めた。 「神羅の風紀が乱れるのは、お前みたいな奴のせいなんだってさ。知ってたか?」 「何だと…」 確かにそれも一理あるかもしれないが、それは求めてくる奴がいるからじゃないか、と思う。求めてくるこの男のような存在とてそれに当てはまるではないか、と。 が、男はあくまで自分を棚に上げていた。 「性欲ってのはさ、自分でも処理できる。でもお前みたいにそれを逆手に誘惑しかけてくるような奴がいるから駄目なんだ。神羅はさ、そういう奴を嫌ってるって知ってたか?」 「何が言いたいんだ。ハッキリ言えよ」 「へへ…はっきり言えって?…そうだな。つまり神羅はお前みたいな奴をどっかに捨てたいわけさ。まあ元々こういう風習はあったらしいけど、そろそろそれともお別れしたいんだって。だから最近は風紀取締りっての、やってるんだよな」 「…取締り…?」 何だそれは、聞いたことがない。 クラウドのような存在は幹部にさえ会う機会はないし、それほど重要な動きを教えてもらうことすらない。だから神羅という会社が今どういう動きをしているだとかそういう事すらクラウドは良く理解せずに日々を過ごしている。大体知っていることといえば、試験の日程だとかその程度で、それは反対に言えば知らずとも良いということなのかもしれない。 とにかくクラウドは、そのような話を聞いたことはなかった。 すっかり優勢になった男は、ニヤニヤと笑いながらクラウドを見遣ると、更に追い討ちをかける。 「お前の場合は、副業禁止のところを金まで取ってるんだから、それ以前に立派な規則違反だろうけど。まあ、あれだ。お前はもう……クビだろうな」 「な…にを言ってるんだ。そんな事あるはずない!」 そう反論の言葉を口にしながらもクラウドの心音は少し早まっていた。 まさかとは思うけれど、もしそんなことになったらば―――。 「なあ、クラウド。それを俺は秘密にしといてやるっていうんだ。だからサービスしなくちゃな」 男はすっとクラウドに手を伸ばすと、その途端に身体を引き寄せてベットに引きずり込んだ。今までとはうって変わった強い力で。 「や…めろっ!」 ジタバタと抵抗するも、なかなかそれは振りほどけない。 「俺のモンになれよ。夜だけで良いんだから」 「ふざけるな!」 とてつもなく嫌な気分になる。耳にかかるその息も、その言葉も。 やがて男はクラウドの服をまた引きはがし、現れた肌にべっとりと手を這わせる。今さっきまでの情事が繰り返されるなど真っ平だとクラウドは思っていたが、今度は男も強引だった。がっちりと抑えられた体が言うことをきかない。 「やめろ…くそ、っ!」 体の隅々を強引に愛撫され、クラウドは唇をかみ締めた。 悔しい―――――――これでは自分があまりにも惨めで。 こんなソルジャー如きに、金という証明もなしにただ抱かれるなんて…そんなのは、ただ惨めなだけだった。
|