THE ONLY LIFE

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ねえ、あなた―――――――

エレノアさん、可愛い赤ちゃん産んだのよ

名前はね、マリンちゃんっていうんですって

可愛いわねえ

 

……あなた、ごめんね

 

あなたの赤ちゃん…産んであげられなくて――――――…

  

 

 

 

目を開けると、そこにはいつも優しい妻の顔があった。

それが消えたのはいつだったろうか。

それが普通だと思ってた。思っていたのに、気付いたらそれは粉々に砕け散っていた。

その理由は、自分。

あの時、あのミッドガルのネオンは、神羅の社旗は、とても神々しかった。誰もがそれに何かを求めていた。

きっと、何かが変わる――――それは勿論、豊かな方向に。

そう思っていたのに。

コレル村に神羅のスカーレットという人物が来た時、バレットはそれが救いだと思っていた。親友のダインは神羅の魔晄路建設に反対をしていて、それを率先して説得したのは確かに自分だった。

魔晄路の様子を見に行ったその日の朝、ミーナはどんな顔をしていただろうか。

確か、とても綺麗な笑顔を見せてくれた。

『行ってらっしゃい。気をつけてね』

そういつも通りの言葉をくれた。

いつものように笑って。

とてもとても小さな手で、手を振っていた。

その顔を見たのが、最後だった。

今思えば、どうしてもっともっと多くの顔を見ておかなかったんだろうと思う。

いつも優しく笑ってくれるだけだったから、そればかりが思い出される。

もう一つ印象的なのは、少し悲しそうな顔。

それは、ダインの妻であるエレノアがマリンを産んだ時。

ミーナが生まれつき体が弱い方だったのは、バレットも承知していた。だから体には気をつけろと常々言っていた。

ダインが子供を授かる少し前だったか、実はバレットとミーナの間にも小さな命が舞い降りたのである。少し遠くの医者まで息を切らして走ったのを覚えている。

嬉しくて――――仕方なくて。

けれど、ミーナの体はそれに耐えられないと宣言されたのだ。

もしも、生まれてくる子供を選ぶなら、それはミーナの命と引き換えだった。

バレットには、それはできなかった。

愛する人との子供。それは夢だったけれど、ミーナを失っては意味が無い。

彼女がいなければ―――――。

『ごめんね、あなた』

そう言って、彼女は泣いた。

『馬鹿、泣くんじゃねえよ!俺はお前といることが一番なんだ!』

『…ありがとう』

泣きながら笑った彼女が悲しくて、思わず抱きしめた。それは勿論、ミーナだって期待していたはずなのだ。その体で、子供を産むこと。

けれどそれは叶わなかったから―――――。

せめて、彼女をもっともっと幸せにしてやりたい。

もっともっと、もっと。

だから、せめて生活を潤いたいと思ったのだ。だから丁度その矢先にやってきたその神羅の話は、バレットを喜ばせた。

これで少しでもミーナに楽をさせて、少しでも喜んでもらえたら良い。心の傷は勿論治りはしないけれど、それでもせめてそうできれば良いと思った。

けれど――――――――期待は、裏切られてしまったのだ。

 

 彼女がいなければ、意味が無い…。

そう思って、いたのに。

自分のした事が、その大切な人を失う原因になったなんて――――。

 

意味なんか……

 

 

 

「バレット」

呼ばれて、バレットはその声の方向を振り返った。

今やすっかりリーダー顔のクラウドが、そこにはいる。いつもクールぶって嫌な奴、それがバレットの印象だった。

それは今でも同じだったけれど、ただ先日のダインと決闘のときだけは、それも少し緩んだ気がする。

はっきり言って何を考えてるかさっぱり訳が分からない男だが、それでもきっとそんな悪い奴ではない。

「皆は何だか買出しに行くって言ってるけど、アンタ、どうする?」

「ああ。俺は良いや、ちょっくら考え事してるからよ」

「そうか」

そう言って納得をしたクラウドは、バレットから離れていった。

ダインとの決戦をしたコレルプリズンからそこそこ離れた土地、ゴンガガ。何だかんだ言ってゴールドソーサーのチョコボレースでクラウドは見事一位をとり、そのおかげで今は此処まで来れた。

しかしその最中もバレットの中ではダインとの決戦のことが消えなかった。

変わり果てた親友。

捨てたはずの過去を背負って、彼もやはり生きていたのである。

ダインにマリンのことを告げた時、本当は怒鳴ってやりたかった。もしあんな状況でなかったらきっと、怒鳴っていた。

マリンは確かに今はバレットを父親だと思っているけれど、それでもその体に流れているのは半分はダインの血である。それは絶対に変わることがない。

バレットには見ることが叶わなかった、子供の顔。

それが届く場所にあるというのに、過去に縛られ、それを拒絶した。その心は分からないでもないけれど、せめて―――――受け止めて欲しかった。

愛するものは、ちゃんとそこにあるという事を。

だけど、それもまた叶わなかったのだ。

「どうして…こんなことになっちまったんだろうな…」

ゴンガガの外れで一人佇むと、バレットはそっとそう呟いた。

コレルでささやかな暮らしをして、そこには笑顔が溢れていて――――少しばかり埃にまみれた生活でも、それは幸せだった。

親友と、その妻と、その子供と――――愛する人と。

それだけで、本当は良かったのかもしれない。

「ミーナ、俺、今やってること、合ってるよな…?」

きっと彼女はこんなことを望んではいないだろうけれど、自分自身のけじめとして、これは必要だと思う。

こうなってしまった人生の括りの為に、必要だから。

「あんなのさえなけりゃ…」

視界には、ゴンガガの崩れ去った魔晄路が見える。

あれがなかったら、こんなことにはならなかったのだ。幸せは続いていたのだ。

けれど、あれを欲しがったのは、他でもない自分―――――。

 

  彼女のために欲しかったんだ。

それなのに、彼女を失ったんだ。

 

 

「バレット」

またそう呼ばれて、バレットは振り返った。

「何だ、せわしねえなあ」

視線の先にいたのはやはりクラウドである。どうやら皆の買出しとやらは無事済んだらしい。

クラウドはバレットの側までやってくると、いつも通りの表情で、

「もう考え事は済んだのか」

とだけ言った。

まったくいつも通りの表情で、なんとも無いというような顔をしている。ダインとの出来事はつい最近の話だし、バレットの考え事といったらそれしかない。多分、クラウドも見当くらいついているはずである。

「済まねえよ。多分、一生な」

「かもな」

「…かもな、って何だよ。分かったふうな口聞きやがってよ」

「どうせこの間の話だろ?」

ずばりそう言われて、バレットはクラウドを睨む。

「悪いかよ」

「いや」

まったく何を考えているのか分からない。多分、表情にあまりでないからだろう。この前少しだけ見直したというのに、喉元過ぎれば…そんな感じがする。

何だか考え事をする気もそがれたな、そう思いバレットはワザとらしく溜息を付いて言った。

「はいはい、もう行くんだろ」

クラウドなんかと一緒にいたら調子が狂ってしまう。そう言わんばかりの態度で方向転換すると、街の中心の方に向かって歩き出す。

しかし、どういう訳かクラウドの方は立ち止まったままで付いてはこなかった。

何だ、訳が分からない。

そう思って振り返る。

「おい、行かねえのかよ」

そう怒鳴り気味で聞いてみると、クラウドはすっと振り返って、こんなことを言った。

「…良いのか?」

「は!?」

何だ、その“良いのか”ってのは?―――――――そう思い、素っ頓狂な声を上げる。しかしクラウドの方は意に介さない様子でバレットを見ていた。

それから少ししてクラウドはこう言い直す。

「良いのか、泣かなくて」

「…あんだと…?」

「悲しいときは泣くのが良い。というか堪えると毒だ。これからの為にも」

淡々とそう語るクラウドは、それがさも当然というような顔つきをしている。

バレットは驚いて開けた口が塞がらなかった。まさかクラウドの口からこんな言葉が出てこようとは。

しかも顔はやはりいつも通りにクールそのものである。

「…お前、馬鹿じゃねえの」

「馬鹿じゃない。俺は正しいことを言ってるだけだ」

「はーん、じゃ泣けっていうのか。この俺に」

「堪えるよりはマトモだ」

まるで埒があかない会話に、バレットは溜息を付いた。何が悲しくてクラウドの前で泣かなくてはならないのか。性格からしてもそれは無理だし、更にクラウドの前というのが気に食わない。

「馬鹿言ってねえで、行くぞ。おら」

とにかくもう行くか、そう思って催促の言葉をかける。

「良いのか、バレット」

「だから!何がだよ!」

「…胸くらい貸してやるって言ってるんだ」

バレットは思わず目が点になった。

それはもしや、そういう意味なのだろうか。胸を貸すということはつまり、バレットからすれば何倍か小さなその体に抱きついて泣けと、そういう事なのか。

――――馬鹿じゃあるまいし。

「遠慮するに決まってんだろ」

そう言ってバレットはクラウドから目を離した。そして、街のほうに向かって歩き出す。

クラウドがついてきてようが、そうでなかろうが、もう関係は無かった。

 

――――――馬鹿じゃあるまいし。

泣けるか、お前なんかの前で。

 

でも……

 

後ろからついてきたらしいクラウドは、少し走るようにしてバレットの隣に並んだ。それから前を見たままの状態でこう口にする。

「その気になったら、言えよ」

それに対してバレットは、これもまた前を見ながらこう返した。

「言うか、馬鹿」

 

それでも、何となく思っていた。

そんな事を言う馬鹿は、やっぱり悪い奴じゃないだろう。

そんなふうに。

  

 

 

ミーナ……

 

気にするこたあ、ねえよ

確かに残念だったけどよ―――――でも俺はお前が大切だったし、それに…。

 

今はこんな馬鹿な奴も側にいんだ

 

俺とお前の子供がこんな奴に育つんだったら願い下げだけどよ

でも、こんなのも悪くねえよ

 

 

俺の人生……

お前がいて

こいつ等がいて

 

 

それが俺の、今ある人生なんだ

 

 

 

END

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