「お、おいっ」

思わず焦ってクラウドの唇を引き剥がしたシドは、何とか息を継いでそんなふうに制裁の声を上げた。が、クラウドはそれをまるで無視しているようにどんどんと脱いでいく。

それどころかシドの下半身にまで手を伸ばし始めたものだから、シドは大慌てした。

「ちょい待て待て待てぃ!お前、今日は絶対変だぞ!そんな、いきなりお前っ」

「やだ。すぐ挿れたい」

「はあ!?」

何だか知らないが今迄例を見ないほどの急展開になっている。

シドは「ちょっと待て、まずは話の続きを!」などと言おうとしたが、それよりも先にクラウドに体を愛撫されて如何ともしがたい状況になってしまった。まるで襲われているような気分である。しかし現金なことにこれがなかなかに気持ちが良い…故に言えない。

「あー…分かってんな、お前…」

こういうのもなかなか良いな、そんなふうに思い始めてすっかりクラウドに体を預けていたシドは、気持ちの良いままにそんなことを呟いた。

するとクラウドは、ごく小さな声でこんなことを言う。

「…体はな」

「あ?」

「ううん、何でもない」

シャットアウトされてしまって結局その呟きが何だったのかシドには分からなかったが、もうそんなことはどうでも良いかというくらいに気持ちよさの方が上回っている。

クラウド主導権のそのセックスはクラウドからの愛撫に始まり、やがてクラウドがシドに乗りかかる形でクライマックスに突入した。

シドのイチモツも、いつもと違ってクラウドの舌先でたっぷりと興奮させられた後だったので割とすんなり挿入できたくらいある。その上クラウドは自身で挿入される部位を緩和させていたから、はっきりいってそれは驚くほどの奉仕といえた。今迄こんなことは一度としてなかったはずである。

「よお…クラウド、お前何かあったのか…」

少しばかり息が荒くなりながらそう聞いたシドは、そう聞きながらももう我慢ができずに逆にクラウドを押し倒した。そうして一転、いつもの体勢になった二人は、慣れている状態だからか思い切り行為に没頭する。

今迄シドの体に垂直の状態で乗りかかっていた為に不安定だったクラウドは、雁字搦めのような安定感を持つその体勢で今度はしっかりとシドの体を抱きしめた。もう既に羞恥を考える余裕もなく持ち上げられた両足をシドの肩に預けて、律動に合わせて自らも腰を振り動かす。

それはシドの動きと重なり、クラウドの奥の方までシドの先端を突きつけた。

「あっ、ああ…っつ!」

「そんなに良いかよ、クラウド」

押さえることもないままに張り上げられるクラウドの声がシドの耳に入り込む。それは耳から入り、そしてシドの全身に興奮を沸き立たせた。

ゾクゾクするほど興奮する、こんな感覚は初めてだと思う。

普段はそれなりにまあ可愛いトコもあるんだろうと思う程度が、ここまで興奮させられるとなるとまた違った感覚がある。

もっとキツク、痛いくらいに感じさせたいと思う。

それはいうなれば、支配欲だろうか。

「お前、ホントわかんねぇヤツだな。でも良いぜ、こういうの。悪くねえよ」

呟いたシドは、少し笑うと一気にクラウドを突き上げ始めた。

途端に張り上げられる声に、ますますゾクゾクする。

「はっああっ!シ、ド…っ!は、ああっ」

「良いぜ、そういうの。もっとくれよ、なぁ」

シドの視界の中で揺れる金髪が、動きに合わせてベットにこすれていく。徐々に乱れていくその髪の先を見遣って、シドはクラウドの顔の脇に固定させるように置いていた手でそれをすくった。

サラリ、と指を通る金髪。

何故だか、そんな所にまで興奮を覚える。

「あっ!んっ…つ!シド、シ…ド…」

体をグッと掴んでくる腕に力が入り喘ぐ中でそう呼ばたシドは、髪に通していた指を取り払ってクラウドを見遣った。

どうやら何かを言いたいらしい。

見下ろしたクラウドの顔は、普段からは想像すらできないような陶酔を示している。半開きになった瞳は出し惜しみするかのような微かな蒼さを見せており、それが妙に引き立っているように見えた。

「どうしたよ」

事の最中だというのに一瞬その表情に見とれてしまったシドは、はっとして我に返るとそんなふうに問う。

すると、小刻みに息をする唇から呻くようにこんな言葉が漏れた。

「シド…好きな…んだ」

「え…」

緊張するように鼓動がドクンとなり、瞬間、動作が止まる。

何だ、今のは。

そう思ったが、クラウドの唇はもう小刻みな呼吸しか漏らさない。

――――――――――――――本当はもう一度聞きたいと思ったけれど。

でも、しっかり脳裏には刻まれた。

だから。

「そっくり返してやるぜ、クラウド」

シドはそう言うと、今までの興奮とは違ったものを心に点して、グッとクラウドを抱き竦めた。

 

 

 

何だか熱い夜だった。

こういうのを官能的とでもいうのか、などとぼんやりと思う。

そんなことを思いながら窓から流れる夜の空気を浴びていたシドは、一番美味い一服をふかしていた。

ベットでは今さっきまで散々ぐったりとしていたクラウドが、ゆっくりと服を着込んでいる。そうするクラウドは先ほどの言葉を発した同じ人物とは思えないようにいつも通りのクラウドだった。

「なあ、シド」

やっと最後まで服を着込んだクラウドは、窓際で机の上に座っていたシドの元まで歩いていくと、そう名前を呼びかける。

そして続けざまに言葉を発した。

「今日、どうだった?」

「へ?」

「今日、少しは良かった?」

「え…そりゃお前…まあ、良かったってか…」

何でそんなことを突然聞くのかと思いながらも、少し照れたシドがそんなふうに口をもごもごさせる。まさか事の後に「どうだった?」なんて聞かれるとは思ってもみなかった。なまじ今のクラウドがいつも通りなものだから尚更照れてしまう。

「そっか…じゃあ良かった」

しかしクラウドの方は照れなどないようで、むしろ真面目な顔をしてそんなふうに呟く。

もしこれが本当に真面目なだけならまだマトモだったが、しかしどうやらその真面目は種類の違う真面目だったらしい。

それに気付き、シドは途端に眉を顰める。

「おい。何だよ、その“良かった”ってのは?」

「いや…俺さ、今日でもう此処を離れようかって思ってたから」

「はあ!?」

シドはガバッと立ち上がった。

そして飛び出るくらいに目を見開いて叫ぶ。

「何だよそりゃ!俺ぁ聞いてねえぞ!いきなりどっか行っちまうなんてどういう了見だ!」

夜だから近所迷惑だとか、そんなことは顧みる余裕などない。

シドにしてみればそのクラウドの発言はあまりにも突飛で、しかも許せない内容である。

もう何が何だか分からないし信じられもしないけれど、とにかく反論しないことには気が済まなかった。

そんなシドの態度を見て、それでもクラウドは淡々とこう述べる。

「下宿先にももう伝えてある。今日までなんだ。本当は前々から思ってたんだ、もう止めた方が良いよなって事は」

その止めた方が良いというそれは、どうやらシドとの関係を差しているらしい。それが証拠にクラウドは此処にきてもまだシエラの名前を出してきた。

俺がこういうふうにしていたからシエラはどこかに行ってしまったんだと、シドはシエラと離れなければならなくなったんだと、そんなふうに言う。

全ては自分のせいで、だからもうこれ以上は迷惑はかけられないと、そんなふうに言う。

しかしそれを聞いたシドの方は怒りも沸騰といった具合だった。

ガバッとクラウドの胸倉を掴み、その顔に向かって怒鳴りつける。

「ふざけんな!シエラの話なんかすんじゃねえ!!アイツが誰選ぼうとそんなのお前とはてんで関係ねぇだろうがよ!お前のせいじゃない、アイツがどっか行ったのは俺のせいなんだよ!俺のせい!」

「でも…」

「でもも明後日もねぇ!!だってお前、それじゃさっきの言葉何だったんだよ!嘘かありゃあ!」

そう言われたクラウドは、そこにだけはハッキリと「嘘じゃない」と反論した。

しかしそれが本心ならばそんなふうに引いてなんか欲しくないというのがシドの気持ちである。あんなふうに言われて、自分も同じだと返して、ついさっきまで抱き合っていたのに…それなのにそんなふうに言い出すクラウドが分からなかった。

けれどクラウドはそれにさえこう言う。

それは、クラウドの本心だった。

「だって俺、何もできないだろ。シエラはエンジニアだから話も分かるだろうし、一緒に夢だって見れる。身の周りのこととかもしてくれたんだろうけど…俺にはできない。俺、何一つ役になんて立てないから。俺にできることっていったら――――そう考えたら夜しかないだろ」

「なっ…なんつー事お前は…」

シドが思わず唖然としたのは言うまでもない。

出来ることは夜だけだから、だから今日はあれほどまでに誘ってきたというのか。

だとしたらそれに興奮した自分なんていうのはいかにも情けないし、まるでクラウドのそれを受け入れてしまったのようである。

けれど、悔やんでも仕方無い。

だって実際にあの時、クラウドが欲しいと思った。相変わらず訳がわからなくても好きだと思ったし、独占したいとまで思ったのだ。

「畜生…っ」

そう小さく吐いたシドは、唐突にクラウドの腕をギュッと掴むと、クラウドの体をグイと窓に押し付ける。

そして、窓の外で鎮座しているタイニーグロンコの改造版を突きつけた。

「おい!あれ見ろ、あれ!どうだ、すごいだろうがよ!」

「シド…!?」

いきなりそんなふうに言われて混乱したクラウドは、改造版とシドとを交互に見遣る。

「なに勘違いしてんのか知らねえけどな、俺様は一流なんだ!シエラがいなくったって俺様はアイツを空に飛ばせんだぞ!?整備だって操縦だってできんだ!」

「シド―――」

「アイツに乗せてやるぜ!いや、アイツ以上のヤツに乗せてやる!空に連れてってやる!ほら見ろ、夢はお前だって一緒に見れんだ。分かったかコノヤロウ!」

荒々しいながらもどこか必死なシドを見て、クラウドは少し切なそうな顔をした。

自分が終わりにすると言ったらこんなにも必死になるなんて思ってもみなかったから、何だかそんなシドが少し意外だったのである。

此処数週間、日課のように出向いていたのはクラウドの方でシドはそんなふうではなかった。だからクラウドは、シドはシエラのことで悲しんでいるのだとばかり思っていた。本当はシエラが好きで、今でさえ手放したくなくて、クラウドは邪魔でしかなくて…そんなふうに思っていたのだ。

けれどシドは、こんなにも必死で叫んでいる。

もしかしたら、自分が思うより自分は好かれているのだろうか……そう思ったら、何だか少し切ない気がした。

そんなクラウドの隣でシドは、少し呼吸を整えて話を続けている。

「…そりゃ。お前はシエラみたいにアイツを整備できるわけじゃねえし飯だって作ってくれるわけじゃねえけど…でもな、クラウド。そういう事じゃねぇんだよ。分かるか?そういうの全部取っ払っても俺ぁ……」

二人の視線は、ぴったりと重なり合った。

そして、シドの夢を背にしながら言葉が舞う。

「俺はお前にいて欲しんだよ」

そう言った後のシドは口をへの字に結んでいた。

それを見て、クラウドは少し笑う。

今迄自分との事に関してそういうふうに我武者羅になっている姿なんて見たことがなかったから、そんなふうに言って最後にはそうしてどこか緊張気味になっているシドが少し嬉しかったのである。

夢追う人の隣にいるには、あまりにも自分は役に立たない気がしていたから。

「シド。俺のこと、ちゃんと好き?」

そう聞いてみると、シドは怒ったようにこう答えた。

「があああ〜!!お前さっき聞いてなかったのかよ!好きだってんだろ、馬鹿!!」

「馬鹿って…」

罵り言葉をつけるのはきっと照れ隠しだろう。それを思ってクラウドはまた笑う。

そういうクラウドを見ていたシドは、バカだの何だの言ったわりには少し嬉しそうだった。

そしてそのついでのようにこんな事を言う。

「そうだよ、それだそれ。お前、笑えよ」

「え?」

「俺様の前では笑ってろって!勝手に暗い顔なんかすんじゃねえぞ。暗い顔する時はまず俺様に言え。したら思いっきり笑かしてやるからよ」

じゃないと心配するだろ、そう小さく付け加えたシドは、ポリポリと髪をかきながらもクルリとクラウドに背を向ける。

そうして新しい煙草に火をつけようとした。

――――が。

「シド、俺もう泊まるとこ無いんだけど」

耳に入ってきたクラウドの言葉に、シドはまず叫ぶことをしなければならなかったらしい。

但しそれはちょっと幸せな叫びだったけれど。

「“此処”にいろっての!何だったら一生泊まってていいぜ!?」

その言葉にクラウドは、笑って一つ頷いた。

 

 

 

END

 

 

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