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Smile ---------------------------------------------
「シエラ、結婚したんだってな」 そう言われて、シドはドキッとした。 一体どこでそんな情報を手に入れたのだか…とにかくそれはクラウドの口から語られる。 「シエラってシドの好きな人じゃなかったっけ?」 「な、なに言いやがるっ」 そんなんじゃねえ、そう言ってシドは首をブンブン横に振ったが、当のクラウドはあっさりとこう言ってのけた。 「良いの?他の男に取られちゃって」 その言葉にシドは唖然とする。 ドキリとしたり焦ったり唖然としたり何だか矢鱈と忙しいが、ともかく最後の言葉だけは納得できない。 良いの、なんてそんな事はクラウドの口から聞きたくなかった。そもそもそれはどういう意味だと問いたい。一体全体何で今お前は此処にいるのかと。 「おい、クラウドよ。そりゃねえだろうがよ!良いのってそら、お前…良いかどうかなんてそんなの…」 完全否定しようとしたシドだが、何故だかつい語尾がどもってしまうのは実に悲しい事実だった。まあそれも仕方無いだろうか、何故ってシエラといえばそれはもう長い間連れ添ったも同然の女性だったのだから。 それがこんなふうに他の男と結婚だなんて――――――確かにそうだ、クラウドの言う通り許せないというのは一理あると思う。 しかし彼女の選んだ人間を一概に否定するだなんて、それも違うと思うのだ。 それが彼女の幸せならシドにはどうしようもない。 「ハッキリ否定しないとこ見ると、引き摺ってるんだな。今から連れ戻したらどうだよ」 「連れ戻すなんてできるわけ…って!おい!お前がそれが言うな!」 思わず引き込まれそうになりつつもハッと我に返ったシドがそう叫ぶ。 しかしクラウドときたらまるでどうでも良さそうな態度だった。 「何で?だってその方が幸せだろ。良いんじゃない」 「良いんじゃない、って…」 最早呆れるくらいの勢いに陥って、シドは目の前のクラウドをまじまじ見遣る。 クラウドは一体全体何で此処にいるんだ? 好きだからとか、そういうのは無いのか? 「お前よ…」 ハッキリ言って疑問に陥ってしまったシドは、この際ハッキリ聞こうと思ってクラウドにピシャリとこう聞いた。 それは、そのものズバリの言葉で。 「お前、本当〜に俺様の事が好きなんだろうな??」 そしてその返答と言えば―――――…。 「まあ、一応は」 「………」 シドがガックリと肩を落としたのは言うまでもなかった。
クラウドの情報通り、確かにシエラは結婚をすることになっていた。 長年シドの連れ添いのように暮らしてきた彼女がそういう決断をしたことは、シドにとっては確かに大打撃に違いない。 まるで夫婦のように共にいた彼女はそれこそ世話をしてくれたし、少々トロいとはいってもなかなか見所のある女性だった。 そんな彼女のことを、当然シドは気にいっていたものである。 周りがさも当然のように「奥さん」なんて言ってくると「よせやい」なんて言いながらも悪くないなと思っていた。 しかしそんな彼女が何時の間にか心をどこか遠くに馳せていたことに気付かなかったのは正にシドの落ち度だろう。シエラがシドの身の回りの色々なことを熟知していたのに比べると、シドは彼女のそんな素振りにすら気付かなかったのだから。 かつて神羅のエンジニアとしてその技術をふるっていた頃は、それこそ充実していた。 多分、そういう思考だって細部にまで行き渡るくらいにクリアだった。 でも、神羅が宇宙開発部門を閉じて以来シドもシエラも何かを失ってしまったような状態になってしまい、ことシドの方はそれが顕著になっていたのである。 夢は、諦めたわけではない。 それは多分、死ぬまで永遠に持ち続ける夢だろうと思う。 いや、もしかしたら死んでもしぶとく宇宙の夢を見てしまうかもしれない。 それくらいシドにとってその夢は当然そこにあるべきものだったが、それにしてもそれを実際に活かせる場所が無いだとか、実生活を送る上でのコストの高さだとか、とにかく色んなものが邪魔してそれを大々的にパフォーマンスすることなど到底不可能だったのだ。 だからシドは、まるで口先だけの男のようになってしまっていたのである。 本当は心の奥底や頭の隅の方でいかにしたら良いかを順々考えていたとしても、それを事細かに誰かに相談することなど無かったから、周囲からすればそんな状態だったのだ。 だからシエラも愛想尽きてしまったのだろう。 シドは、そんなふうにこの状況を見ていた。 そんな状況で、また別個にクラウドと関係を持っていたシドは、このクラウドとのことについては別の意味で相当頭を悩ませていたものである。クラウドの方はいかにも男の事情で有耶無耶なままに付き合いを続けていたのだが、こちらはいかにも性的な部分での付き合いだったからシエラとは全く別個の問題が降りかかるわけだ。 シエラとの関係が自然なら、クラウドとの関係は打算的…まあ言ってみればそんなものだ。 しかし何が問題かといえば、多分性的な云々というよりもクラウドの性格自体だろうと思う。シエラはちょっと気弱そうなおっとりタイプだったから、いかにも亭主関白なシドとしては非常に楽だった。しかしクラウドは違う。クラウドはハッキリ言って、シドにとって訳の分からない性格をしていたのである。 さっきまで笑っていたかと思えば、今度はムッツリしていたりする。 一体、楽しいんだか怒っているんだかサッパリ分からない。 そんなだったからシドは、いかにも性的な部分を除いてはクラウドの事が良く分かっていなかった。夜ならちょっとはシオラシイくせに…昼はさっぱり。 だからクラウドがシエラの話を出してきたことにもどういう気持ちがあるのか分からなかったし、好きか嫌いかと聞いて一応好きなんて言われてもその気持ちが本当なのかどうか分からなかった。 「ったく、わかんねーヤツだ」 チッ、そう舌打ちをしながらかつてのタイニーグロンコの進化版を手入れしていたシドは、何となくかつてのことを思い出す。 昼下がり、のんびりお日様の下での手入れ。 そういえばいつだったか神羅にいた頃も、こんなことをしていたかと思う。 但しこんな規模じゃなかったし、手入れ道具だってしこたま揃っていた。今とは天と地の差、悲しいくらいのギャップだ。 「…結婚かよ」 はあ、そう溜息をつきながらまたシエラのことを思い返す。 夢が打ち壊れたその時―――――――確かシエラが内部に残っていて…。 それだからシドの夢は壊れてしまったも同然で、それはどこに怒りを発していいのか分からないような出来事だった。本当は彼女を恨めばそれで済むことだったのだろうが、彼女のしていたことは正しいことでとてもシドはそれを怒ることなどできなかったのである。 そうして真っ直ぐに進んだ彼女を、責められるはずがない。 でも崩れた夢はなかなか取り戻すことはできない。 「…あん時から一緒だったクセによ」 ポツリとそう呟いたシドは手入れの手を止めると、やだやだ、などと言いながらドサリと後ろに倒れこんだ。 倒れこんだそこは芝生になっていて、こうして日差しの良い日はこういうのも結構気持ち良い。倒れこむと視界に入り込むのは当然のことながら一面の空で、そういうのを見るとシドは自然と顔が緩んでしまったりした。 しかし何故だか、今日はそう行かないらしい。 「シエラは結婚、クラウドのヤツはワケわかんねえ…、か」 二度目の溜息をついたシドは、何となく今のその状況が行き詰まりのような気がしてならなかった。現状シエラは誰かと幸せにやっているのだから、シドの側に居るのはクラウドだけである。クラウドはシドの近くの家に居候している身だから案外とすぐに会える。それは良い。 しかしそのクラウドは、果たして側にいたところで何かなるようなものなのだろうか。 まるで打算的な気持ちのようだが、それでもそんなことを考えてしまう。 シエラのようにエンジニアなわけでもない。 身の回りの世話をしてくれるわけでもない。 まあセックスに関してだけは存分に意気投合できるが、それだけで何が成り立つのかは良くわからない。はっきり言えばこんなものは、どこかの女と一晩ヤって気ままな独り暮らし…というのと変わりが無い。 「あんにゃろ…本当に俺が好きなのかよ…」 何となく、信じられない。 好きならもっと何かあっても良いと思う。 それに――――――そうだ、シドとしては一番気になるのが最近の態度だ。 最近のクラウドといえば、事あるごとにシエラの事を口に出してくるし、矢鱈滅多らと不機嫌そうなのだ。不機嫌というか無表情というか…とにかくあんまり良い表情を見た試しがない。 だからか、一緒に居てもまるで険悪ムードが漂っているかのような気分に陥る。 「何かあったのか?でもアイツにゃねーだろなあ」 仰向けに寝転がったまま腕組をして、シドは「ううん〜」などと唸ってみた。 しかし頭に浮かぶ様なことは何一つ無い。 まあ実直にクラウドに聞くのが一番だろうと思うが、あの険悪ムードのような雰囲気では聞きにくい。せめて夜なら…と思ったが、それはそれでつまらなくなりそうで微妙に嫌である。 「…何だかなあ」 空を見詰めて、思わず他力本願な事を思う。 あの雲に答えでも書いてあれば楽なのに、と。
夜、例によってクラウドがシドのところまで尋ねてきた。 これはも最早恒例で、シエラが家を出て行った数週間前からは日課くらいの勢いになっている。別にシドが呼んでわけではないから、そちらかというとクラウドの希望で来ているという感じだろう。 シエラがこの家にいた頃は、バツが悪いような気がしていたから外にまで出向いたものである。そう言う時はシドが外出するわけで、それは今日びのように日課とまではいかない程度のものだった。 「おう、来たか」 すっかり毎日のことになっていたから当然というように戸を開いてクラウドを受け入れたシドは、いつも通りにベットまでを誘導する。といっても別にすぐさま行為にいくだとかそういうわけではなくて、単にベット脇で話をするのが恒例になっていたからそうするのだ。 クラウドは何も言わずにそれに従うと、もう何度運んだか分からないそのベットに腰を落ち着かせる。そして、続いてベット脇にやってきたシドをチラと見遣った。 「なあシド。今日は先にやろうよ」 「真っ先にかよ!?」 いつも話をしてから段々…という意外にも緩やかな段階を踏んでいたものだから、そう言われたシドは相当驚いたものである。 欲求不満なのか?、などと思わず首まで傾げてしまう。 「お前な、そんな急かなくたってまだお月さん出たばっかだろうがよ。えっと…まあ何だ…まずはな、ちょっと俺の話でも…」 折角なのだから、此処は一つ意を決して例のことを聞こうじゃないか。 そう思っていたシドは大股を開いた膝の上に手を置くと、エヘン、とワザとらしい咳払いなどをしながらそう言った。 しかしどうも語尾がしどろもどろになってしまって上手い具合に言葉にならない。いや、言葉にしているつもりなのだがクラウドには伝わっていないようなのだ。 だからシドは、一度自分の頬をベシッと叩くと、気合を入れなおしてからクラウドに改めてこう切り出す。 それは例のこと―――――――最近漂っている、何だか険悪そうなムードのこと。 「お前よ、何てぇか最近こう…何か変だろ」 「変?」 首を傾げるクラウドに、そうだ、とシドは大きく頷く。 「だってお前、やたらめったらシエラのことなんか言ってよ、その上何だかいっつも暗そうな顔してんじゃねえか」 「…そうかな」 言われて、クラウドは少し暗い顔をした。 しかしシドはクラウドの顔を見て話していたわけではなかったのでそれには気付いていない。気付かないまま、その先を続ける。 「そうだってよ。で…まあ俺様としてはだな、お前そんな暗い顔してっと何だかこうムードも悪ぃだろ。まあ俺様もこんなんだけどよ、何かあるってんならこの俺様に相…――」 「話したくない」 「―――へ?」 「だから、話したくないから良い」 キッパリとそう言った声に、シドは唖然としてクラウドの方を見遣った。 が、その瞬間にクラウドからの唐突のキスを受けて言葉が続かなくなる。その代わり驚きは二倍といった具合でシドは目をまん丸にしてクラウドを見ていた。 ガバリと抱きつくようにされて受けたキスは、随分と攻撃的なキスである。 くどいくらいに絡まってくる。 「ん…っ、っ」 しっかりと目を閉じているクラウドは、シドを襲うかのようにそのままその体を押し倒すと、キスをしたままの状態で自分の服を脱ぎ始めた。 あまりに早い展開である。
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