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FLASH ------------------------------------------
いつからだったろうか。 思い出すまでもなく最近のことなのだろうが、それでも沸騰している怒りのせいでハッキリと思い出すのも面倒くさい。 ともかく、いつからだったかアバランチという反神羅組織のリーダーという状態へとなった新しい仲間、クラウドを、バレットは快く思ってはいなかった。 いや、快いとかそういう次元ではないかもしれない。それは最早、煙たいだとかウザったいという次元のものだったのかもしれない。ただ、先行される苛立ちや怒りでバレットはそれをどういうレベルと判断することすら出来ていないだけで。 ともかく、腹立たしい。 苛々する。 それはもしかすると、今迄アバランチのリーダーだったはずの自分がまるですっぽりと必要とされなくなってしまったからだろうか。 無論そんな事は無かったが、神羅への憎しみという点に於いてリーダーとしての自覚だけは人一倍だったバレットとしては、もしかするとそれも理由の一つだったかもしれない。 いつもクールぶって、無口で無関心。 ヤル気があるのか無いのかも分からない無責任男。 ともかくともかくいけ好かない野郎。 その上、ティファときたら何の根拠もナシもクラウドに肩入れときている。幼馴染だか何だか知らないが、だからといってそんな甘ちゃんがアバランチにいて良いはずがない。 元ソルジャーだか何だか知らないが、そんなものは信用できないし信用したくもない。 「…っ畜生!」 バレットは、一人抜け出した酒場で散々管を巻いた後、ガン、と机を叩いた。 頭にあるのは、あのクラウドの事。 思い出すだけでむしゃくしゃするのは、もうどうにも止められそうにない。 「あ〜旦那!すみませんけど困るんですよね、そういうの。皆、楽しい酒ひっかけてるんすから、旦那も此処は一つ…」 一人で勝手に騒音を立てているバレットに、困った様子で店主が近付いてくる。 しかしバレットはそんな店主を一睨みすると、うるせえ!、と大ボリュームの声で叫んだ。それがまた店中に響くものだから店主にしてみれば溜まったものじゃない。 その後も店主は何だかんだとバレットに宥めの言葉をかけていたものだが、バレットは酒を流し込んで厳しい顔をしながらブツクサと独り言を口にするだけだった。
そもそもクラウドという奴は、生意気だ。 そう思う。 新入りのクセにでしゃばって、何かにつけ女に庇護されている。 それでも男か!、そう叫んでやりたい。 そう思えば思うほど、クラウドをどうにかしてへばり付けさせてやりたいと思う。 その為に何か弱点を―――――本来仲間であれば絶対にそんなふうには思わないだろうに、バレットの心はクラウドの弱みを見つけることを望んでいた。 観察する時間は十二分にある。 例えば一つのミッションを少しでも間違えればそれだけで突付く事が出来るのだ。但しその場合は自分の目的としても塩梅は悪いから、できればクラウドだけが持つ弱点が良い。 それはどんな弱点か。どこにあるものか。 ――――――そう思う中、バレットのクラウド観察は進められていった。 そうこうして数日、それでもクラウドの弱みというものを見つけられずにいたバレットは、その状況のもどかしさに苛立ちを隠せなくなっていたものである。 ただでさえ短気で苛々が板についているバレットのこと、それが助長されたとなれば周囲にいるティファ達も怪訝にならないはずがない。 「どうしたの、バレット?何だか変だよ、最近」 今やクラウドを無償庇護しているという点で苛立ちの原因の一つに変化していたティファは、そんなふうにバレットを宥めてくる。 変だよも何もない。 変なのはそっちだろうが。 バレットの心情としてはそうだったが、ティファはてんでそれに気付いてはいない。何せ彼女にとってクラウドと共にいれる状況は喜んで当然のことだったし、その感情からすれば自分が変わったなどというのは考えられない域のことである。 「…ちィ、何でもねえよ」 だからバレットは自然とそう返すようになっていた。 どうせ話しても無駄だ、いや、その前に話すつもりなど微塵も無かったけれど。 しかし――――――じゃあどうしたら良いのか? このむしゃくしゃした感情、苛立ち、許せないというこの怒りを。 例えそれが他人にとって正当な理由のない苛立ちだったとしても、バレットの中では絶対に正当な怒りである。弱みさえ握っていれば良いのだが、それが見つからない状況ではまるで八方塞――――――どうしたら良いか……
そう考えていたバレットに、一つに閃きが起こったのは正に偶然な事だった。
それを思いついたとき、そうだ、その手があったか、と思った。 今まではクラウドの弱みを掴もうと思っていて観察を続けてきたが、しかし逆に考えればこんなふうにも言える。 クラウドの弱みを作れば良い、と。 クラウドの弱み自体をバレットが作ってしまえば、その弱みはずっとバレットによって保持されるはずだ。という事は、バレットはいつでもクラウドを脅かす存在となれる。 …そうだ、そうしたらギャフンと言わすことも可能だろう。 そう考えたバレットは、今度はクラウドの弱みを作るということに専念することとなった。それはクラウドの性格を考えあぐねた結果、クラウドの信頼を失わせるというもの、というところに辿り着く。 当初考えていたミッションの失敗なども同じことだけれど、基本的にこれはクラウド自身にダメージを与えるというよりかは周囲にダメージを与えることである。つまり、クラウドの弱点…過失でも何でも良いが、ともかくそういうものを作って、それによって周囲にいるティファの方がダメージを受ければそれで成功。そうすればティファはそのダメージを受けてクラウドへの信頼を解いていくという段取りなのだ。 クラウドのあの性格からすれば、アバランチでやっていられるのはひとえにティファのお陰と考えても良いだろう。そうじゃなければあんなに無口で無責任で何を考えているかも分からない男などは願い下げである。 だから、アバランチにいられないようにすれば良い。 肩身が狭くなって、身動きが取れない状況――――――それがあれば良いのだ。 姑息だとは思うがバレットの苛々はもうそこまで募っていたし、当初はただへこませてやれば良いと思っていたものがアバランチからの排除と摩り替わっても、それは最早仕方のないことだった。 とにかく気に食わない。 それが第一だったから。
バレットがそれを実行したのは、ある日の夜。 呼び出されて不審そうに眉を顰めたクラウドは、それでもバレットの言う通りにその背中についていった。当然ながらそれは丸腰で、剣も持っていなければ防具も取り外している。それらがなければマテリアも付けられないのだから今のクラウドが抵抗をしようと思ったらそれは腕力ただ一つだろう。腕力を考えた時、それはバレットに分があることは確実だった。 何度か振り返ってそれを確認したバレットは、表面上厳しい顔を崩さなかったものの心の内では笑みが止まらなかったものである。クラウドはまんまと付いてきた。不審そうにしながらも付いてくるなんて余程の阿呆か馬鹿だろうと、そんなことさえ思っていた。それとも一応は仲間だからと信頼でも置いているのだろうか…まあそれはバレットには信じられないものだったが。 ともかくそうして付いてきたクラウドを、バレットは一つの場所に案内した。 そこは牧地のすぐ隣にある掘っ立て小屋のような所で、陳腐といえば陳腐な建物である。 しかしこの小屋の侮れないところは、外装が木造であるのに関わらず内部は鉄筋で囲われているというところだろう。そもそもは、牧地での作業用品を密封する為に建てられた物なのだ。 「…此処は?」 着いたそこに、あからさまに不審そうな顔をしたクラウドがそう問う。 それに対してバレットは、シラを切るように「さあ」などと言った。 しかしクラウドにとってそれほど意味不明な言葉は無い。だって、バレットが来いと言ったから付いてきたのだ。それなのに「さあ」などと言われたら訳が分からない。 「バレット、どういう事だ。説明しろ」 もう既に小屋の目の前でそのドアを開けていたバレットは、そう問うクラウドの言葉にも無関心そうに「さあ」などと返す。 しかしドアが完全に開ききり空気の悪い鉄筋密封のその空間が露になった時、やっとバレットはクラウドにこう言った。 「よう、クラウド。ちょっとこっち来い」 「え?」 グイ、そう腕を掴まれる。 そうして次の瞬間には凄い力でその鉄筋密封の空間に放り出された。幸い床は木で出来ていたから体を打ちつけられてもそれほどの問題はない。 しかし問題はそこではなく、何故こんなことをされなくてはならないのかという部分である。 「バレット!!」 床に体を打ちつけるや否やそう叫んだクラウドは、無残にも言葉無くバタンと閉まってしまったドアに激走した。そして、すぐさまそのドアをガンガンと叩く。 「おい、バレット!何のつもりだ!おい!ドアを開けろ!!」 ドアの内面は、やはり鉄筋で出来ている。 そこを力任せに打ち付けることは、クラウドの拳に酷い衝撃を与えた。 ガンガンとドアを叩くたび、ガンガンと衝撃が走る。 「バレット!聞いてるんだろ、バレット!」 突然のこの状況に怒りというより困惑を思ったクラウドは、力のある限りドアを叩き続けた。そして、今迄で一番だろうと思われるほどの声を張り上げる。 ―――――が、どうやら反応は一切無い。 「…くそ…っ」 暫くそうしていても何の反応も無いことを知ったクラウドは、それが無駄な行為だと理解してドアの前にへたり込んだ。 閉められた空間は、鉄筋密封の空間である。 勿論のこと窓も何も無い。 そこは冷たく静かで、暗い。 幸い閉所恐怖症じゃなく高所恐怖症だけですんでいたクラウドはその空間に苦しさは覚えなかったが、それでも一人きりの暗闇でいつ出られるとも知れないそこにいることは一種の恐怖感を生んだ。その上、換気もできないときている。 時間がたてば、おかしくなってしまうに違いない。 「……くそ」 もう一度その呟きを吐きだしたクラウドは、ドアに背を付けて立膝で座り込むと、うなだれるようにして顔を伏せた。
クラウドを簡易的な監禁状態にしたバレットは、その小屋の持ち主に顔を出すと、簡潔に礼を言った。前もって、一晩貸して欲しいと願い出ていたから特別主も不審そうな顔はしない。 「大切なものを閉まってるからよお、悪いけど明日まではあれで頼むぜ」 そう言ったバレットはそのまま元の宿屋への岐路に付いたが、その道中思っていたのはやはりクラウドの事だった。 最初思ったのは、してやった、という事である。 何しろ今迄ずっとこの時を待っていたのだ、そう思うのも当然だろう。 明日はあらかじめある任務を遂行する予定だった。まあ任務といってもアバランチにとっての任務であって、憎き神羅からすればテロ行為も同然である。しかしともかくその任務を明日早朝と位置付けていたバレットは、今夜こそがクラウドを貶める日だと確信していたのだ。 明日早朝、大切な任務があるのにクラウドは姿を消している。 剣も防具もそのままだからティファは絶対不審に思うだろうが、そこで一言バレットが「出かけたのを見た」とでも言えばそれで事は成功するのだ。 夜中に出歩くなんて良い用事とはいえないだろうし、武器や防具を外していくとなればそれは戦闘を想定した用事ではないことが解る。自ずと見えてくるのが道楽というものだ。 そう考えていくと、大事なミッションも無責任に放棄し、明け方まで遊び呆けているクラウドに、ティファが信頼を落とすのは歴然だろう。 それこそがバレットの狙いなのだ。 「ふん、上手くいきやがった」 笑ってそう呟いたバレットは、もうすぐ先に宿屋が見えるという状況まで来て、今度はクラウドの解放のことを考え始めた。 明日、何時くらいに解放すれば良いだろうか。 ともかく早朝にはティファをガッカリさせなければならないし、その後はミッションがある。ミッションは何時に終わるかは解らないが、運良く行けば然程の時間はかからないだろう。 しかし…。 「ん…ちっと待てよ。明日のミッションってのは確か…―――」 ふと、ミッション内容を思い出した。 確か明日は――――…爆破ミッションだったはずである。ミッドガルの支柱の一つを爆破することで神羅に打撃を与える手筈なのだ。 「…ひょっとすると、かかるか?」 呟いて、ピタリ、とバレットは足を止める。 明日の爆破ミッションは神羅の手が厚い場所で、運良くいけばそれほどかからないだろうが、運が悪ければかなりの時間をくうはずだ。しかしそこでもし…考えたくはないが運が悪かった場合、クラウドを解放するのがあまりにも遅くなってしまう。もしも夜中になってしまったら、それは二晩の監禁と同じくらいの長さだ。 「それはさすがにマズイぜ…あんなトコじゃ気分が悪くなっちまう」 クラウドを貶めたいという気持ちは当然あるが、それでも二晩の監禁はさすがにマズイ。あそこは何しろ空気の出入りが無い場所なのだし、いくらクラウドが元ソルジャーと称していて体が頑丈といえどもさすがに気分も悪くなってしまうだろう。 実際そういう体調の面からすれば、それは一晩の時点でかなり大問題だった。空気の流れが無く密閉されているということは、その場にはクラウドの吐き出す二酸化炭素だけが増えていくということである。酸素の無いそこで息がつまり中毒になるのは問題中の問題だったが、バレットはそこについてはそれほどの事を考えてはいなかったのだ。 ただ、二晩になったら、という発想が出てきてやっとその危険さを理解したくらいで。 「ヤバイ、ヤバイぜ。そりゃマズイ。…場所を変えなくちゃな」 クルリ、と反転したバレットは、今迄辿ってきた道を一目散に駆け出した。 早いところ場所を変えてしまわないと、早朝までに間に合わない。 クラウドが素手で監禁を破ってしまったら困る、そういう理由だけでその鉄筋密閉の空間を探し出したバレットは、結局それが原因で自らクラウドを解放することになった。
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