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0%の夢 -----------------------------------------------
夜の空は綺麗すぎて、その空の中にぽっかり浮かぶ月や輝く星は――――――切なすぎて。 あんなに遠くにある光が…。 手に届きそうだった。 大きな宇宙が、 小さな宇宙に――――――なりそうだった。
いつでもそれは忘れられない。 今、この時でさえ。
寝静まったその空間を抜け出し、シドは一人外気に触れるべく足を踏み出した。 ジャリ、という音が妙に大きく聞こえる。 きっと夜が静かなせいだろう。 宿から少し外れたそこで、程よい樽などを見つけ、まあ座るには丁度良い、そう思いながらシドはそれに腰掛けた。 「はあ…」 何となく出たのは溜息である。どういう意味で出たのかはあまり考えたくない。 とにかく、そんなことよりも―――――煙草、だ。 そうしてポケットからしわがれた煙草を取り出す。これに火を点ければ完璧―――そう思って一本を口に咥えると、火を探った。 が。 「あれ、忘れてきちまったか?」 どこを探しても無く、シドは首を傾げる。 しかし、その時、すっと隣からマッチの火が差し出され、シドはその火を見ただけで、 「ああ、悪ぃな」 そう言って何も不思議に思わないまま煙草に火を点けた。 ――――――――その奇怪さに気付いたのは、はあ、と美味そうに一服を終えた後のことである。 「……は?」 何だかおかしい。 誰が火を持ってた……!? そう思ってばっと振り返る。…はっきり言ってそれはかなり遅いリアクションだった。 「…遅いな、気付くの」 「―――――…何でえ。お前か」 その姿を確認すると、すぐにシドはつまらなそうに振り返った顔を元に戻した。 その場にいたのは、クラウドだった。 シドにとってみれば、最近知り合った奇怪な青年――――というだけの存在。 その奇怪というのは、クラウド達の目的が何やらデカすぎることだったからである。 そんなことしてどうなる―――――というよりか、できるのか。 そんな疑念もある。が、悪くも無い。 シドはどことなくロマンを追う人間だったからか、そんなふうな捉え方をしていた。 とはいえ、そうそう深入りするつもりもない。 シドの隣に腰を下ろしたクラウドは、その姿をチラリと見遣りながら呟いた。 「ヘビースモーカーだな」 「悪ぃか」 「別に」 素っ気無い会話。しかしそれにクラウドは笑った。 「よっぽど好きなんだな。戦闘中も吸ってるだろ」 「悪ぃか」 「別に。…火事にでもなんなきゃ問題ない」 そのクラウドの一言に、シドはフン、と笑う。 「火事、だあ?そんなの怖くも何ともねえ。…俺にはな」 「そうだろうな」 訳も聞かず納得をする相手に、シドは何となく真面目な顔つきになった。 何となくクラウドの言いたい事が分かる。それはシドの過去でもあり、そこから連想してそういった答えを出したのだろう。 シドが夢を失った理由―――――――シエラ。 彼女がクラウド達にそれを話したのは知っている。余計なことを、とも思ったが今となってもどうにもならないことで、それをとやかく言うつもりはない。 神羅の新社長ルーファウスの訪問すら、シドの期待を裏切るものだった今では、もう。 それでも夢は捨てていない。 それは、きっと仲間全てに伝わっていることだった。 「何も言うんじゃねえぞ」 シドは敢えてそんな言葉を選んで言った。 今更それをぐちゃぐちゃと出されるのは嫌なことでしかない。 「分かってる」 クラウドはそう答えて、一つ、頷いた。 「なあシド。俺にも一本くれよ」 ふとそう言い出され、シドは、 「は?」 と眉間に皺を寄せる。 「お前、吸うのか?」 「吸うんじゃなくて“吸える”んだ」 「ああ、そうか」 まあどうでも良いけどよ、そう言いつつ煙草を一本取り出し、クラウドにそれを渡す。結構にキツイ奴だからと注意しておいたが、クラウドはむせはしなかった。 そんなクラウドを見ながら、シドはこう言う。 「眠れねえのか」 「いや。…何となく、考え事だ」 「ああ、そうかい」 別段その“考え事”やらに興味は無い。悩むだけ悩んでくれ、それくらいのものである。 しかしそんなシドの思いも空しく、クラウドはポツリと話し始めた。 「シエラ…を恨んでる?」 「…お前な…」 さっき何も言うなと言ったはずだ。それなのに――――そう思いながら溜息をつく。 それでも答えを返すなら、NO、になる。 「…そんな訳、ねえよ」 「だよな」 「だから何だってんだ」 いや…、そう答えながらクラウドは煙の中で笑う。何だか見慣れない感じがして、シドは顔をしかめた。 そんな中でクラウドの答えが続く。 「それは、強いことだ」 「……」 まさかそれは慰めのつもりか? シドはますます顔を歪ませる。 まさかこんな若造にそんなふうに言葉をかけられるとは思ってもみなかったし、そんなのは真っ平ご免だった。 同情なんかもされたくない。 何のつもりか、さっぱり分からずシドは「そりゃどうも」と素っ気無く答えた。 「俺はそんなふうにはできなかった」 ふっと、クラウドはそんなふうに続ける。 「できなかった?」 そんな経験でもあるのか、そう思いながらシドは首を傾げた。 「…俺にも夢があったけど、それを壊した奴を…いや、奴らを。俺は許せなかった」 「…そりゃ、まあ」 そんなこともあるだろうよ。そう言いながらシドの手は二本目の煙草に伸びる。ごく自然に。 それに対して、これもまたごく自然に、クラウドの手はマッチをすった。実に気が利く。 「どうしたら、そう思わずにいられるんだろうな?」 「さあ――――な」 本当はシエラのことを――――。 最初は許せなかった。それでも彼女が彼女なりに努力しているのは知ってる。トロイ、トロイと言い続けた彼女が、それを罪悪だと思ってることも。 それでも一番許せないのは自分だった。 何にしても。否がどこにあるとかではない。 ただ――――――。 「俺、シドの夢、叶えてやるよ」 突然、クラウドはそんな事を言い出した。 驚いたシドは、思わずポロリ、と煙草を落とし、もう少しで火傷をするところだった。 ―――――何を言ってるのか、まったく支離滅裂だ。 「馬鹿言ってんじゃねえよ。その技術はどこにある」 神羅ほどの力が、どこにあるのか――――――。 もしそれがあれば可能かもしれないが、それでもその望みは今や0%だろう。 しかしクラウドは「いいや」と首を横に振った。 「シド。シドの頭の中にあるだろ」 「は?」 「夢は――――叶えるためにあるらしいし、な」 「はあ…そうかい」 シドは半ば呆れつつそう返す。全くもって夢物語でしかないクラウドの言葉。けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。別に意味はない。無いけれど。 「で?お前の夢ってのは叶えられるモンなのか?」 そう聞いたシドに、クラウドは、 「…さあ」 と答える。 「分からない。けど、きっとできる。いや、やらなきゃならない。それが例え―――― 0%の夢でも」 「ふん、なるほどな」 それは良い決意だ、そう言ってシドは笑った。とはいえ、そのクラウドのいう夢とやらはさっぱり分からないままである。 けれど特に聞こうとは思わなかった。 問題なのはそのものではなく、その姿勢だから。それは痛いほど知っている。 それが――――シドが誰も恨めない理由。 「シド。これ、やるよ」 そう言ってクラウドはかなり短くなった煙草をシドに押し付けた。 「え。お前、“やるよ”ってコレ、元々は俺が…」 そう抗議しようとしたが、クラウドはもうすっかり立ち上がって帰ろうとしていた。 「シド」 「あん?」 結局その煙草を口に咥え、シドはつまらなそうな顔に戻ってそう答える。そんなシドに、クラウドは言った。 「――――――0%の夢でも、叶えような」 その言葉に、シドは何も言わずクラウドを見つめる。 ―――何で、“しよう”なんだ。 そう心の中でぼやきながら。 「―――――あいよ」 結局それだけ返すとクラウドは、それじゃ、と言って去っていった。 一体全体何しに来たんだ、とシドが疑問に思ったのはもう少し後の話である‘='text-indent:10.5pt'>それでも、そうした後にシドは思った。 「0%の夢、ねえ…」 0は1になるんだろうか、と思う。 1にならなければ、2にも100にもなりはしない。その架け橋はどこにあるのか。 この心なのか―――――――それとも。 「あ」 シドはふっと煙草の煙を見つめながら声を上げた。 「アイツと間接キスかよ…ゾッとしねえなあ」 別に良いけどな、そう零しながら、限界になった煙草を揉み消す。 こうして一本づつ、終わってゆく。 何本の火を点しただろうか。 夢のロケットには最後まで点すことができなかった火。 それを、この小さな一本に、絶えず点け続ける。 幻の火を、点けていく。 それでも灰になって消えてしまうのはきっと、自分の罪悪感。 「そりゃヘビースモーカーだろうよ」 ふっと笑ってシドは一人、そう漏らした。 0%の夢――――――それを、0%のまま、罪悪に点していく。 本物に出会えるまで、きっと、ずっと――――――。 「かけてみてえな、あるならよ」 その、0%の夢に。
煙草を消した後、少し空気を吸い込み、シドはやっと宿に戻るべく腰を上げた。 そういえばクラウドの夢とやらは何だったのだろうか。ふと、そんな事を思ったが、それは特に深くは考えなかった。 大切なのは、そんなことではないのだから。 そう思いながら。
いつでも、それは忘れられない。 今、この時でさえ。 0%の夢。
END
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