【神羅学園フレンズダイアリー】

 

 

 

それから数日、クラウドはヴィンセントのことが気になって仕方なかったものである。学生だといっていたけれど一体どこの学生なのだろうか。もしも神羅学園の生徒だったらひょっこり会う可能性もあるんじゃないかと思って、普段なら立ち寄らない場所をいろいろと歩き回ってみたクラウドだったが、残念ながらヴィンセントに会うようなことは無かった。

その代わりといっては難だけれども、セフィロスからこんな情報をゲットする。

「ヴィンセントといえば神羅学園のSランクに在籍していたはずだ。Sランクの場合は就職するか学内に残って研究するかどちらかだが、ヴィンセントがどちらなのかその辺りは良く知らんな」

さすがはセフィロス、長年神羅学園にいるだけあっていろいろな情報を持っている。

Sランクといえば、Cランク・Bランク・Aランクと続いたその上に位置するランクで、生徒とはいっても授業を受けているわけではない。学内でいろんな研究をするか、在籍だけはあるものの他に就職しているか、のどちらかである。後者の場合は講師補佐などをすることがあるから、言ってみれば二つのところに就職しているようなものだ。とにかくSランクといえば「凄い」と思われるのが普通なのである。

因みにセフィロスなんかは既にSランク状態なのだが、就職するのが面倒だといって未だにAランクにいる。これは学園内でも有名な話だ。

「あーあ、もう一度会ってみたいなあ」

Sランクだから凄い人なんだ、というのも勿論あるけれども、それだけじゃなくて何となくもう一度会ってみたいと思う。あの男前スマイルが何だか忘れられない。

「もしかして俺って…」

―――――――――よもやこれは恋!?

一瞬クラウドはそんな事を思って蒼白になってしまったものだが、まさかと思ってブンブンと首を横に振る。これじゃあ宝条先生の保健室と一緒になってしまう。それだけは勘弁である。

「もう一度行ってみようかな、保健室」

宝条先生が帰ってきたという話は聞かないから、きっとまだ帰省中なのだろう。だけれど、保健室が無人だという話も最近良く耳にするから、訪ねていったとしてもヴィンセントはいないかもしれない。

「もう良いや。駄目モトで行ってみよう!」

そう決意したクラウドは、ヴィンセントに会おうと思ってその日から毎日保健室に通うことにした。特にお腹が痛いわけでもないし吐き気がするわけでもないのに、とにかく毎日毎日保健室に行ってみる。そうしたらいつかひょっこり会える時が来るかもしれない、そんな期待を胸にしつつ…。

しかし此処で思い出してみて欲しい。

そう…神羅学園の保健室がどういう場所であるかを。

いくら宝条先生が帰省中だとはいっても一般の生徒はそんな事情などまるで知らない。たまたまいなくて「ラッキー!」くらいのものである。保健室はあくまで保健室であって、保健室といえば宝条先生である。やっぱり禁断の場所なのである。

そんな禁断の場所にお腹も痛くないのに自ら毎日出向くなどといったら、これはもう大問題であることは言うまでもない。宝条先生の毒牙にハマってしまったのだと思うのが普通である。

そんなわけだから、クラウドは噂の的になっていた。

「最近クラウドのやつ保健室に通ってるんだ。ヤバくないか?」

「マズいな。それは非常にマズいぞ」

学園の屋上で、ザックスとセフィロスは腕を組みつつ唸っている。

ザックスなぞは、クラウドが腹痛で倒れた時に意地でも保健室になんぞ運ぶんではなかったと後悔したほどだ。こんなことになるなら笑い死にさせていた方がよっぽど良かったんじゃないかとさえ思えてくる。まあ笑い死にもどうかと思うが。

「俺はクラウドを助ける!」

そう高らかに宣言したザックスに、セフィロスは静かな制裁を加える。

「待て、それは俺がやる」

「やだよ。俺がやるって。だって元はといえば俺が悪いんだし」

「いや、駄目だ。お前なぞに良い役はやらん」

「はあ!?何かっこつけてんの!?クラウドのナイト役は俺なの!」

「ナイトだと?馬鹿馬鹿しい、そういうのは俺が適任なんだ」

「なに〜!?」

そんな訳のわからんところでドンパチし始めた二人の横では、ジェネシスが「やれやれ」と呆れたため息をついていた。

 

一方、毎日保健室に通いつめていたクラウドは、13日目にしてとうとう憧れのその姿をキャッチしたものである。何と、ヴィンセントがいたのである。因みにその日は13日の金曜日だった。特に意味は無い。

「ヴィンセント!」

感激のあまりそう名前を叫んだクラウドに、保健室で茶なぞしばいていたヴィンセントはくるりと振り返った。

「ああ、お前か。また会ったな」

ザ・男前スマイル。

一瞬クラッとなりつつも、クラウドはいそいそと保健室に入り込む。そうしてヴィンセントの目の前にあった椅子に腰をかけると、会えて良かったあ、とニコニコ顔になる。だもんだから、ヴィンセントもますます笑顔になった。

しかしここはあくまで保健室である。であるからして、当然ヴィンセントの口からはこんな言葉が発される。コレ常識。

「今日はどうしたんだ?また腹痛にでもなったのか」

「ううん、違うんだ。ヴィンセントに会いに来たんだよ。いついるか分からないから、最近ずっと保健室に通ってたんだ」

嬉しそうにそう言ったクラウドに、同じ神羅学園に在籍している者としてヴィンセントは思わず苦笑してしまう。何しろここは禁断の保健室なのだから。

「そう言ってもらえるのは嬉しいが…神羅学園の生徒なら保健室の噂は知っているだろう?毎日通ったりしたら、変に噂されるぞ」

「うん!でも良いんだ、やっとヴィンセントに会えたから!」

「全く…怖いもの知らずだな」

ヴィンセントは苦笑を笑顔に変えると、ニコニコ顔を続けているクラウドを見やって面白そうにこんな事を言う。

「…まあ、噂を本当にしてやっても良いがな?」

「うん!…って、ええっ!?」

うっかり肯定してしまってから派手に驚いたクラウドに、ヴィンセントは堪え切れないといったふうにプッとふきだす。

「面白いな、お前」

「ちょ…!面白いって!からかってるでしょ!酷い〜っ!」

膨れっ面をするクラウドを見て未だに笑いを止められないままのヴィンセントは、それでもやっぱり男前である。宝条じゃなければうっかりイケない世界に入りそうになってしまうかもしれないと、クラウドはちょっぴり思ってしまう。

しかしそんなクラウドの思考回路を正道に戻したのは、他でもないヴィンセントの言葉だった。

「で?お前は私に会いに来たというが、どういう用件なんだ?」

そう言われてハッとしたクラウドは、ひっそりと持参していたカバンをいそいそを広げる。そうしてその中からノートと教科書を取り出すと、ニコニコ笑顔でこう言ったのだった。

「えっと、勉強教えて下さいっ!」

クラウドの発言にヴィンセントは思わずぽかんとしてしまう。そりゃ当然だろう、何せ毎日保健室に足を運んでまでヴィンセントに会いたかったその理由というのがよりにもよって勉強を教えて欲しいなんていうものだったんだから。

因みにこれには深刻な理由があった。

まず、親友のザックスは勉強に興味が無い、故に教えて欲しいなんてあり得ない。で、Aランクのセフィロスは面倒だから嫌だといってやっぱり教えてくれない。仕方ないからセフィロスのAランクの友達のアンジールやジェネシスにもかけあってみたけれども、ジェネシスは自分の世界に入ってしまって一向に話を聞いてくれないし、アンジールは勉強は出来ないんだと言って拒否してくる始末…つまり誰も教えてくれやしないのだ。

自分よりランクが上のセフィロスやジェネシスやアンジールが駄目となるとこれはもう絶望的だとクラウドは思っていたけれど、なんということかもっと上のランクの人がいたのである。そう、正に今ここに。

Sランクの人だったら完璧なはず―――――――――!

しかもヴィンセントは男前だし優しそうだし、きっと皆みたいに拒否なんてしないはずだ。

ヴィンセントのことが気になって仕方なかったその理由は、実のところそれだったのかもしれない。嗚呼、何と現金なのだらう!

「全く…」

ヴィンセントはそう言いつつもどうやら勉強を教えてくれるらしい姿勢を見せ始める。あんまり関係ないけどさすがは男前だ。

やっぱりヴィンセントに会えて良かったなあと思うクラウドの脇で、ヴィンセントはすらすらと難解な問題(※クラウドにとって)を解いていく。Sランクは伊達ではない。

がしかし。

「クラウド、勉強だったらいつでも見てやろう。その代わり、条件がある」

「ホント!?条件って何?」

「一つは保健室に来ることだ。また暫く此処にいる羽目になったからな。それから…」

ヴィンセントはちらりとクラウドを見やると、面白そうに言った。

「その間、保健室で何が起こっても私は保証しないからな」

Sランク――――――――それはとっても伊達ではないのだった。

 

 

 

こうして禁断の保健室は、クラウドにとって内緒の保健室になった。

すっかり宝条に良いようにされてしまったのだと思い込んでいたザックスとセフィロスは、ルンルン気分で保健室に向かうクラウドを涙なくしては見れなかったものだが、それはそれ、クラウドだけの小っちゃな秘密である。

 

 

 

END

 

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