【神羅学園フレンズダイアリー】

 

●秘密の保健室●

 

 

 

保健医・宝条といえば神羅学園ではその名を知らぬ者など断じていないというほど有名な先生である。

はて、では何故そんなにも有名なのかといえば…そう、この宝条(年齢不詳・推定50歳前後)なる男、大の美少年好きなのである。

方向性上どうしても男子が多い神羅学園では、当然、なかなかどうして美少年だったり美青年だったりする男子が存在しているわけで、悪名高き宝条はそんなイタイケな美少年やら美青年にちょっかいを出してはニヤニヤとしていたのだ。

よっぽどの事が無い限り保健室には行くな!

―――――――これは神羅学園の常識である。

だけれども、こうしちゃいけませんと言われるとついついやりたくなってしまうのが人間の悲しい性であるのはご存知であろう。嗚呼、悲しきかな人間!テスト前日の一夜漬けを頑張ろうとハチマキまで巻いて頑張っているのに何故だか無性に部屋の片づけがしたくなるなどというのは、正にこの良い例である。

で、ここにもそんな悲しい人間が一人いた。

「あう〜もう駄目だあ!お、お、おおおお腹が…」

ザ・腹痛。

それは時としてこの世に降臨する最強にして最悪の事態。

この腹痛とかいうやつに朝から悩まされていたクラウドは、何としてでもこの腹痛を鎮めようと思ってしっかりバファリンまで飲んだけれども、どうやらその効果はさっぱり現れないようだった。それどころか腹痛はどんどんと増幅していって、しまいには痛くて痛くて涙まで出てくる始末である。

もうこうなったら保健室に行くしかない!

そう思ったけれども、保健室といえば学園内で行ってはいけない場所NO.1を誇るほどの場所である。なんせ保健室には保健医がいる。保健医といえば宝条である。イコール、とっても危険なのだ。

「ああ、どうしよう…保健室に行きたいけど、保健室は行っちゃ駄目だし…」

クラウドは教室の隅っこで、青ざめた顔をしながらお腹を押さえている。そうしながら、過去保健室に行った生徒たちの体験談を思い出していた。

“俺、宝条先生に無理やり写真撮られてさ…しかもアソコまで…酷い!”

“俺なんかベットに押し倒されて、やばい寸前だったんだぜ!”

“それだけならまだマシだ…俺なんて実はもう…”

―――――――嗚呼!考えたくない!

なんて恐ろしい世界なのだろう、考えただけでも震えが止まらない。

きっと保健室に行ったらあんなことやこんなことを無理矢理されて、抗議も出来ないまま無き寝入りするしかないのだ。そう思うとこの腹痛に耐えた方がよっぽどマシに思える。…痛くて失神しそうだけど。

「うう…痛いよ…だけど怖いよ…うう…」

クラウドはお腹をよじらせながらうーんうーんと唸っている。ハタから見ればまるで悪夢にうなされているみたいだ。というか悪夢そのものだ。

しかしクラウドにとって悪夢でも、外野にとってはかっこうのネタだったのは言うまでもなく。

「よーっす!どうした、クラウド。腹痛えのか?」

こういう輩が来るわけで…。

「うう…ザックス…」

「おいおい、ひどいなその顔。すげえ青いし」

「だって…お、おお、おおお腹が…」

「分かってるって!痛いんだろ?そういう時にはこれだって!」

学友であり親友でもあるザックスは、これで完璧といわんばかりの様子で突然手を構えだした。その構えはどんなもんかというと、むにゅっと何かを掴むような、そんな感じの構えである。

で、ザックスがしでかした事といえば――――…。

「こういう時には笑って払拭するのが一番だぜ!」

「ぬ、ぬわあにいいいいい!?」

「いざ!」

こちょこちょこちょこちょこちょこちょ…

 

「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!」

 

…そう、それは「くすぐる」という非常に痛々しい行為だった。

お腹に激痛が走りながら、一方ではめちゃくちゃくすぐったいというチンプンカンプンな状態に陥ったクラウドは、もうどうして良いか分からないながらも顔をぐにゃりと歪めた。笑っていいのか泣いていいのか全く分からない。というかこれは拷問ではないのかと問いたくなる。というか拷問だ。それしかない。

「ひいいいい!!!」

色んな意味で限界に陥ったクラウドは、教室の隅でのた打ち回り、そして最後にはバタリと倒れこんでしまった。その様子を見てようやくザックスは蒼白になったけれども、残念無念、時は既に遅し。

クラウドは、一番行きたくなかった保健室へと運ばれる事になってしまったのだった。

 

 

 

目が覚めてそこが保健室だった瞬間、クラウドは色んな意味で人生を諦めたものである。

長いようで短い人生だったなあ…

こんなことならもっと親孝行をしておくんだった…

タンスの裏に隠してあるヘソクリ、誰かに取られちゃわないかなあ…

食べかけのプリン、賞味期限が今日だったよなあ…

嗚呼、今までのことが走馬灯のように…

――――――――――って、断じて死んだわけじゃない。

残念ながらまだ息をしているらしいクラウドは、神羅学園の常識を破ってしまったことにとっても落胆した。よもや自分がそれを破ってしまうなんて、今朝方食べたアジの開きがよっぽどヤバかったに違いないと思う。

「保健室…ってことは、噂の宝条先生が…」

もし万が一にもイケナイ事をされた後で(※寝ている間に)、宝条が食後の一服をプハーなんてやっていたりしたら溜まったもんじゃない。俄かその姿を想像したクラウドは、うっかり天に召されそうになってしまったものである。

しかし、こうなってしまったものは仕方ない。起きてしまったことは取り返しなどつかないのである。

「仕方ないよな…もう俺、お婿には行けないけど…それも俺の人生だし…」

クラウドはベットの上でとうとうそんなことを呟き出した。

が、その時。

「目が覚めたか?」

ふと響いてきたその声に、クラウドはガバッと起き上がる。するとそこには、宝条先生ではなく全く知らない男の姿があった。しかもどうだろう、その男はやつれサラリーマン的な外見の宝条と違ってなかなかどうして格好良いではないか。その男前っぷりに、クラウドは思わずビックリしてしまったものである。

「あ…。あ、えっと、あの…!」

一瞬見とれてしまってからハッとしたクラウドは、慌ててそんなふうに声を出す。それがさも可笑しかったのか、男はふっと笑ってクラウドのいるベットに近づいた。

「どうやら驚かせてしまったみたいだな。私はヴィンセントだ」

ヴィンセントと名乗ったその男はとても長身でスラリとしている。黒く長い髪が特徴的で、羽織った白衣がとても似合う。保健医がこれだけ男前だったら、同じ男とはいえ保健室に来るのが何だか楽しくなりそうだなあなんて思ってしまう。

だけれどどうやらヴィンセントは臨時で此処に来ているらしく、保健医が変わったというわけではないらしかった。

「宝条先生が急遽帰省することになってな、数日は私が代理で来ることになったんだ。腹具合が悪いようだから薬を飲んでもらったが、もう大丈夫か?」

「え?あ、そういえば…」

すっかり忘れていたが、あの激痛がすっかりこんと治っている。どうやらいつの間にか飲ませてもらった薬で痛みがひいたらしい。

「あ、ありがとうございますっ」

「礼など良い。それよりも大事に至らなくて良かった」

腹痛で大事に至ったら学園中の笑いものである。

「では、問題がなければ教室に戻ると良い。私もそろそろ時間だからな」

「え?時間って?」

宝条の代理で来ているわけだから保健室にいるのが普通なんじゃないかと首を傾げるクラウドに、ヴィンセントはふっと笑ってこんなことを言った。

「実は私も学生の域を出ない人間でな」

「ええっ!?」

ということはヴィンセントも実は学生!?、そう驚いて叫んだクラウドに、ヴィンセントはしーっと人指し指を口の前に立てる。だもんだからクラウドは慌てて口をへの字にぎゅっと結んだ。

「学園側には秘密なんだ。あくまで宝条先生に頼まれただけだからな」

「そ、そうなんだ…」

普通、学園側がちゃんと代理を立てたりするもんなんじゃないだろうか。まったくこういう所がアバウトなのだから困った学園だと思う。

しかし、単に宝条に頼まれただけのヴィンセント(期間限定)に出会えたことは幸運だったかもしれない。

「では、私はこれで。縁があったらまた会おう」

ヴィンセントは白衣をすっと脱ぎ払うと、男前スマイルを浮かべてすっとその場を去っていった。

そのスマイルに、ちょっぴり男惚れしてしまったクラウドであった。

 

 

 

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