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灯りをつけないままの暗い部屋の中で、頼忠は花梨を横たえた。絡みついたままの腕が、頼忠を連れてくる。 こんなふうに花梨を見下ろすことなど無いだろうと思っていた頼忠にとって、それは不思議な感覚でもあった。 勿論、心の中で密かに望んでいたことではあったけれども、ただ一つ理想と違っていたのは、花梨の目を潤ませているのが別の男だという事だった。 けれど今、花梨に満足を与えられるのは、その男でもなく自分だという事実がある。 これが裏切りだとしても、その咎がどこにあるかと問われれば、それは微妙な問題だった。 花梨の腕で固定された頼忠は、その中途半端な体勢のまま、花梨の襟元に手をかけた。その交差された合わせの間から、そう慣れてもいない手つきではあったが確実に指を忍ばせた。その動きに合わせてスルリと解けた衣が、守っていた肌を曝け出した。 その肌は白く、頼忠を狂わせるに十分な女性らしさを突きつけた。 それでも焦る事無く、頼忠はゆっくりと花梨の首筋に口付けをする。緩く吸い上げるようにしては、軽く触れ、丁寧に舌を這わせた。その唇は徐々に速さを増し、下降していく。 「あっ…頼忠さん」 何だか恥ずかしい、と続けながら、花梨は頼忠の背中をぎゅっと掴んだ。 「大丈夫です、花梨殿。恥ずかしがることなど、何も無いのですよ」 「そんなこと言っても…」 そう言いながらも、頼忠の右手は花梨の胸の膨らみに刺激を与え始めていた。それは緩く優しい手つきから、次第に強い手つきに変わる。円を描くように多少の圧力をかけて揉みしだく。もう片方の膨らみには、軽く口付ける。微かな吐息が漏れ始めて、やがて双方の乳首がピンと張り詰めた。 「感じているのですね?」 何も言えないまま真っ赤になる花梨に、柔らかい微笑みを見せるた頼忠は、立ち上がった乳首に執拗なくらい重厚に舌で刺激を与え始めた。時折、噛むように挟みながら舌先で転がすように弄ってやる。柔らかくなっては堅く張り詰めるそこに、頼忠は何度も舌と指をもって愛撫を加えた。 「あ…っ…!も、ああっ」 とろんとした目付きで花梨は何かを訴えようとするが、それは言葉にならなかった。 何とも言えない感覚に陥って、口から漏れるのは喘ぎ声ばかりになってしまう。 今迄晒したことが無かった己の体を、男性に曝け出している。しかもその相手は、最近まで一緒に同じ目的の為に戦いをしていた、人。今迄そんなふうに見た事など無かったのに、いざこうした行為になると、頼忠が妙に「男」を意識させる。良く分からない羞恥心が溢れて、花梨はギュッと目を瞑った。 「可愛いですよ」 「変な事言わな…あ、んっ」 「何度でも言いますよ。可愛い」 「んんっ…!」 成立しない会話にもどかしさを覚えながらも、全てがどうでも良いような気分に支配される。ただ頼忠の舌と指から伝わる感覚だけが、全てだった。 暫く貪るように乳房に愛撫を加えていた頼忠は、やがて上体をずらし、花梨の丁度真横までやって来た。立ち膝のまま、花梨のはだけた太腿に手をかけると、するすると足の付け根までを辿る。 「ちょっ!やだ、頼忠さんっ」 ビクリと体を震わせた花梨に、頼忠はやはり優しい笑みを浮かべた。 「大丈夫ですよ。ほら」 「きゃっ」 何時のまにか下着の中に忍ばした手が、中心の秘部を擽った。軽く弄ると、ぐちゅりと生生しい音を立てる。 「これだけ濡れているなら、大丈夫です」 何と言っていいか分からず、花梨はまともに頼忠の顔を見れなかった。ただ、恥ずかしいと思うのが精一杯で。 「貴女に嫌な思いはさせません」 そう言いながら、頼忠は翡翠のことを思い浮かべた。翡翠は、どんなふうに彼女を抱くのだろうか。きっと翡翠なら、自分より格段に手馴れたふうに彼女を愛撫するのだろう。かといって頼忠にそう経験が無いかといわれればそういう訳でもなかったが、それでも相手が相手なだけに、それは大きな嫉妬に繋がった。 そう考えると、自分の欲望だけを突きつけるように強引な行動に出そうな自分がいて、それでも何とかその気持ちを制御していた。 秘部を万遍なく濡らした愛液は、小さな筋になって垂れ落ちている。それを下からすくうように指に絡め取ると、まだ開ききらない小さな口へと、ゆっくり押し入れた。 「んっ…っ」 小さな呻きを上げる花梨の様子を見ながら、さらに奥へと押し進めようとするが、それ以上は進むことが出来ずにいる。少し力を込めて潜らせようとすると、 「痛いっ!!」 耳を劈くように花梨が叫んだ。苦痛そうに顔を歪ませるその様に、頼忠は眉根に皴を寄せる。 まさか、そんなことなどある筈が無い。そう思いながら、一旦指を離して、顔を近づけた。その頬に手を当ててやると、安心させるように優しく撫でる。 「花梨殿…」 やがて視線を合わせた花梨は、まるで小動物のような愛らしい目付きをしていた。 「花梨殿、貴女はもしかすると」 「…うん…?」 小首を傾げて、花梨は真っ直ぐ頼忠を見ている。 「こんな事を聞くのも不敬とは存じますが……。まだ、翡翠と契っていないのですね?」 「え…」 弾かれたように、花梨は悲壮な面持ちになった。それはある種、我に返す言葉だったかもしれない。しかしそれでも、頼忠にとっては重大なことだった。 翡翠と、というのには御幣があるかもしれない。翡翠に限らずとも世の男というものと契りを交わしたことがないという、そういう事なのだから。それは多分、頼忠でなくとも男である以上は大切な事柄であったろう。 男を知らないその体に、初めてそれを教えてしまう事の意味は重大だった。 しかもその相手が――――――――誰か別の男のものであると思えば思うほど。 本来頼忠はそういった不敬なことは自ら拒む男だったが、目前にいるのが花梨であるという事実はそれさえも覆していた。何しろ花梨は、頼忠にとっては今尚見詰めるに相応しい女性だったのだから。 「花梨殿…」 頼忠は花梨を見詰めると、そう呟き、その頬をそっと撫でた。 「私を――――――翡翠だと…どうか、そうお思い下さい」 重ね重ね言われていたことをもう一度そう繰り返されたことの意味など、花梨には分からなかった。だから、首を傾げる。 しかしそれは、頼忠にとっては重要なことだった。 そう最後の確認に承諾をされたなら、自分は翡翠の名を借りて、罪悪感を失して花梨を抱くことができる。例え初めての男という、翡翠からすれば許されないだろう位置を手にしてしまっても、それでもそれは逃げ道となるから。 そう考えてしまう自分は愚かである、そう分かっている。 けれど目前の花梨に、情欲は抑えられようはずも無かった。 「花梨殿―――――」 頼忠は花梨の首筋に顔を埋め、そしてゆっくりと己の欲望で花梨の純白を崩し始めた。
どういった運命のいたずらなのか、翡翠が京に姿を現したのはその翌日のことであった。 昨夜の頼忠とのことに、さすがに罪悪を感じずにはいられない。それは花梨の表情に如実に表れ、結果的に翡翠の表情をも曇らせる。 花梨が頼んでいた伊予の土産というものを手にして戻った翡翠は、晴れない表情の花梨が気になったものの、それでもそれを手渡す。約束だから、と。それを素直に受け取った花梨は、どういう表情を返して良いか分からなくなってしまった。 確かに勝手な約束をしたのは自分の方である。 その我侭ともいえるものをしっかりと手にして帰ってきた翡翠に、一体どういう顔を見せれば良いというのか。本当に心から好きだというのに、それでもたった一夜の契りは花梨の中に重くのしかかる。 「もしかすると私は、待たせすぎてしまったかな」 そんな様子の花梨を気遣って、翡翠はそんな言葉を口にした。 翡翠が花梨の前から姿を消し、そしてこうして戻ってくるまでの間は、ゆうに一ヶ月。それを長いと取るか短いと取るかは微妙である。 「翡翠さん…私」 「何だい?私がいない間に、何かあったのかな」 「……」 犯した過ちは、たった昨日の一度。いや、実際にはそれ以前から寂しさの為に頼忠を呼び寄せていたのだから、それも含まれるだろうが、実際に一番の咎となるべきものは昨夜の契りであろう。 けれど、それを口に出すことはできなかった。 口になど、できなかった。 もしそれを口にして翡翠が自分を許さなければ、花梨はこの世界に残ったその意味すらも剥奪されるのである。そしてその事実に翡翠が怒りを表すだろうことは歴然だった。だから、花梨には言えなかった。 「翡翠さん、大好き」 多分本当の気持ちをそう口に出しながら花梨は、唐突に翡翠に抱きつく。 先程まで曇った表情を向けていた花梨が唐突にそうしてきたことは翡翠を驚かせたが、しかし愛しい彼女のそういった行為が嫌なはずもなく、だから翡翠はそれを抱きしめることで返した。 しかし、その胸中は複雑である。 16歳の花梨が過ちを胸に秘めながらそうした事は、彼女なりの精一杯だった。精一杯の隠蔽だった。 けれどそれを翡翠が見抜けないはずはない。 特に翡翠はそういう心の機微を見抜くのには長けていたし、花梨はそういう隠し事のできない人間だということも承知していたから。 ただそれでも翡翠は、何も聞かなかったし咎めもしなかった。 何も言わずただ、花梨の髪を撫でる。 「私が悪かったね。花梨」 「……」 「もう寂しい思いはさせないよ。私がずっと側にいるから」 その言葉はとても優しかった。 しかし、何か棘のように花梨の胸に突き刺さったのは確かだった。まるでこれ以上の過ちは許さないとでも言うように。 「…うん」 花梨はそっとそう答える。 しかし、体の奥底に残る何かが、かの存在を忘れはしなかった。
たった一度の過ちが、永遠の咎となり鎖となる。 甘さの断片を零しながら。
END
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