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◆褒句◆
「あ、これ可愛いっ!」 「これですか?」 日曜日のショッピングモールは人でごった返している。頼忠がそういう人ごみを嫌っているのは知っていたけれど、最近できたというショッピングモールにどうしても行ってみたくて、花梨は半ば強引にそこに彼を連れてきていた。 お目当ては、大好きな洋服ブランド。 やっぱり彼の前ではお気に入りで可愛い服を着ていたいというのは当然の話で、でもやっぱりその彼と一緒にきたのは不味かったかもしれない。 何故って頼忠ときたら、もう既にぐったりしているのである。 いつもならキリッとしてて格好良いその人も、こういう場所では別人になってしまうらしい。 ところで、花梨が可愛いといったのは勿論、大好きな洋服。 甘すぎないフリルがあしらわれた、ちょっぴり可愛めテイストのワンピース。それに目を奪われていた花梨を見て、頼忠は首を傾げた。 女性というものは何で洋服というものに、こうも拘るのだろうか。好きな服を着るというのは良い事だしそれは分かるけれど、その周期が驚くほど早い。 確か先日はチェックのスカートを買ったんだとか言ってなかったろうか。 「お客様、宜しければご試着もできますよ」 店員にそう声をかけられて、花梨は頼忠の方をチラッと見遣る。その顔はいかにも着てみたいという顔で、頼忠はその甘えた顔に苦笑しながら、こう答えた。 「どうぞ」 「ホント?じゃあ、待っててね!」 「はい」 そうして試着室へと花梨は姿を消した。
それから数分後のこと、花梨が試着室から顔を覗かせた。 「頼忠さん、どうかな?」 そうして、ちょっと恥ずかしそうに姿を見せる。 可愛らしいワンピースはボディラインも綺麗で、花梨の身体にぴったりのサイズだった。フリルは最初、頼忠の眼にはあまりにも派手に映ったが、こうして花梨が着てみるとそうでもない。それどころか本当に良く似合っている。 「良くお似合いですよ、お客様」 店員の決まり文句に花梨は笑いながら、ちょっと可愛すぎるかな、などと言っている。 暫く頼忠は何も言えなかったが、チラチラと自分を見る花梨の視線にやっと口を開いた。 「とても良くお似合いです」 しかしその言葉の内容に花梨は何故か膨れた。 「も〜!本当はそう思ってないんでしょ〜!」 「えっ、そんなことはありません。私は本当に…っ」 慌ててそう反論してみたが、花梨はすっかり疑いの眼で頼忠を見ていた。確かに頼忠の言葉では、店員の決まり文句と全く同じで、本当にそう思ってるのかどうか疑わしい。 どうやら乙女心は少しばかり傷ついてしまったらしい。 「ええと…」 頼忠は焦って何か言おうとしたが、花梨は「じゃあ脱ぐね」と言って試着室に入ってしまった。 バタン、と閉まるドアを見ながら、頼忠は少し後悔したのだった。 何せ、そのワンピースはとても良く似合っていた。本当に良く似合っていて、それだから目を奪われて黙っていたのだから。 上手く言葉に表せない自分が、少しばかり悲しかった。
一日中ショッピングモールを回り、帰る頃には夜も9時を回っていた。夕食も済ませて後は帰るだけで、明日は花梨も学校があるしこれ以上は一緒にはいられなそうだった。 だけど、それはやっぱり寂しい。 折角会えた日は、少しでも長く側にいたい。 開拓された土地に建てられたショッピングモールは、夜景も綺麗で、それ専用にベンチなどもあるし、ちょっとだけで良いから、と花梨は最後に頼忠をそこに誘った。 当然ながら周囲はカップルだらけで、二人も付き合っている仲とはいえ照れてしまう。 「な、何だか落ち着かない…かな」 そんなふうに言う花梨に、忠頼も少し躊躇いながら「はい」などと言う。 とにかく開いているベンチに座ると、二人は、ふう、と息をついた。周囲はカップルだらけで、空は暗く、外灯のほのかな光だけがほんわりと浮いている。確かに雰囲気はとても良い。 「あの…頼忠さん?」 何となく何を話していいか分からなくなってしまい、花梨はちょっと考えてから彼にそう話しかけた。 「何ですか」 「あのね、さっき…ほら、出てくるちょっと前に、頼忠さんも何か買い物してたでしょ?何買ったのかなあって」 そうなのだ。此処にくる少しまえ、じゃあ出ようという段になって、頼忠は「少し待っていて下さい」と言って買い物をしにいったのである。花梨はその場に残って待っていただけだから、頼忠が何を買ったのかを知らなかった。 そういえば自分の好きなところばかり回ってしまって、悪かったな、などと反省までしてしまった。 「ああ、それは…」 頼忠はふっと笑顔を見せると、手にしていた袋を持ち上げ、そしてそれを花梨に手渡した。 「え?」 「プレゼントです」 そう言われ、花梨は驚いた。プレゼントなんて、今日は何でもない日なのに。 でも、目前で優しく笑う彼を見ていると、何だか花梨も嬉しくなって笑ってしまう。 「開けても、良い?」 戸惑いながらもそれを受け取り花梨がそう聞くと、頼忠は微笑んで頷いた。 何となく貴重なカンジがして丁寧に袋を開けてみると、それはどうもプレゼント用になっていた。それをまた、丁寧にはがしていく。 そして、やっと中身に辿りついて、花梨はそれを目にした。 それは……。 「とても―――――可愛らしかったですから」 隣では頼忠がそう言って少し照れたようにしていた。 「ありがとう…」
そこにはあったのは、花梨が気に入っていたワンピースだった。
END
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