キューピット

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帝国軍にいたセリスが仲間になり、かなりの時間が経っていた。

仲間はそれぞれ集合した状態で、基本的にシャドウなどを除けば仲が良く問題は無い。しかしセリスに惚れ込んでいてそれが周知の仲になっていたロックにとっては気がかりが一つだけ残っていたのである。

それは、他でもないエドガーの事。

昔から付き合いが長く、色んな事を話してきた仲だっただけに、何だか引っかかる。

それはセリスに対する態度で、何だかいつものエドガーらしくないのだ。

確かに最初は帝国軍にいたわけだし、信用しきれないという言い分も分かる。

だけど時間はもう十分に経っているのだ。その間にセリスはちゃんと一緒に戦ってくれているのだし、問題はどこにも無い。

ロックは思う。

大体何だ、女と見れば声をかけるフェミニストなのに!

いつもならエドガー側につくロックも、大切な女性の事となれば話は別だったようである。

そんな訳でイライラがちょっぴり募っていたロックは、今日こそは、とエドガーと話をする覚悟を決めていた。

 

 

 

宿屋についてから、エドガーの部屋にノックもせずに乗り込んだロックは、いつもと違って敵意剥き出し状態だった。

「たのもう!」

道場破りか何かのようにそう叫ぶと、部屋の端にいたエドガーに向かってズンズンと近付いた。

はっきり言って驚いたのはエドガーの方だった。それはそうである。いきなりノックもせずに自分の部屋に乗り込んできて、しかもその顔ときたら仁王状態。

何なんだ一体、と思うのも無理は無い。

「たのもう!」

近くまでやってきてもう一度そう言うロックに、エドガーは、ぽかんとした。

「…何だ、たのもう、って…」

「うるさいな!良いから俺の話を聞けよな!」

一言しか言ってないのに何が“うるさい”なんだ、と余程突っ込もうかと思ったが、どうやらそういう雰囲気でもないらしく、エドガーは口を噤む。

勝手に椅子にドカン、と座り込んだロックは、大きく深呼吸をした後、こんなふうに言い出した。

「単刀直入に言うぞ。エドガーは何がそんなに気に食わないんだ!」

「気に食わない?」

エドガーには話が見えていない。その様子に、ロックはこう言い直す。

「だから、セリスのどこがそんなに嫌なんだ!」

そうハッキリと説明されて、ようやくエドガーはロックの言わんとしていることが理解できた。

なるほど、そういう訳だったか。

それは前々からロックがブツブツと文句を言っていた事で、はっきり言ってエドガーにとっては何て事も無い内容だった。ロックがそれに執着しているのは、セリスへの執着に比例するものである。だからそれは単なる恋愛中のヒステリーのようなものにしか見えなかった。

クルリ、と身体ごとロックに向き直ったエドガーは、穏やかな表情を崩さないままにこう言う。

「嫌なんて言ってないだろう。信用できないといっているだけだ」

「だから!何でだよ、もう十分時間は経ってる。そろそろ認めたって良いだろう?」

エドガーはそんなふうに声を荒げるロックを見て、不謹慎ながら思わず笑いが込み上げた。けれどそれを何とか堪えながら、あくまで冷静そうな声で返す。

「認めるとかそういう問題じゃない。信用できないだけだ。時間は十分経った?…笑わせるな、ロック。それでも過去が消える訳ではないんだぞ」

さすがにエドガーは説得力のある言葉を連ねてくる。どうもロックはこの言葉の強さにはひるむ癖があって、今まで何ど言いくるめられてきたか分からない。

が、その日のロックは一味違っていた。燃えていた。

「分かってるさ、そんなこと。だけど、そんなの仲間として間違ってる!」

「ほう…」

熱血振りを披露するロックに、エドガーが思案顔になった。勿論、わざとである。そしてこんなふうに言い出した。

「ロック、お前、自分の好きな女性が他の男に良い目で見られて、そんなに嬉しいのか?」

「な、なにぃっ!」

「だって、そういう事だろう?」

さっき仲間という言葉を使ったのもどこへやらで、ロックはもうそのエドガーの言葉しか頭を回らなくなっている。確かにそう言われると微妙だった。

それは勿論、恋愛沙汰でもめるのは嫌に決まってる。だいたいセッツァーなんかとは小さいながらも火花が飛び散っているのだから。

「も〜、良いよ!話してても埒が明かないっ!」

なんだかんだと言って自分の答えが出せないまま、ロックはぷんぷんとした顔をしながらそう叫ぶと、呆気なく自分からその場を去っていった。

バタン、とドアは乱暴に閉められる。

部屋に残されたエドガーが、一人ほくそえんだのは、ロックには分からない事だった。

 

 

 

セリスに対する不信感などは、エドガーの中からはとうに消えていた。

それは勿論、完全ではなかったかもしれない。帝国を敵と見なす自分達にとっては、その巣の中にいた人間なのだから、いつどうなるという保障は無いわけで、それはいつでも脅威だったけれど。

でも今となっては、仲間というよりかは“ロックの大切な女性”状態で、はっきり言って対応に困る部分もあったりしたわけである。

大体ロックは、真面目すぎるのだ。

そんな中、当のセリスがこう相談してきた事がある。

「私…戸惑う部分があるの」

「何が?」

まさか帝国に未練があるとかそんなことじゃないだろうな、と勘ぐったエドガーだったが、どうやらそれは違っていたらしい。

「皆、優しいけれど…そういうのには、慣れてないから…」

「ああ、そういう事か」

どうしてそんな事を自分に相談などしたのだろうかとエドガーは思ったものだが、何となく気持ちは分からないでもない。

過去の自分も、周りからの既成概念と本来の自分とのギャップに悩んだ事があった。だからこそ、分かる気がする。

「だったら、私がその溝になろうか?」

「え、溝って?」

「悪いが、他人の女性には手を出さないのがポリシーなんでな。セリスにだったら、優しくしないようにもできるわけだ」

「…どういう意味?」

セリスにはその意味が全く分からなかった。

「皆は優しくて戸惑うんだろう?だったらどこかに戸惑わない場所があれば良いんだ」

「それがエドガーって事?」

「勘違いするなよ。私はあくまで溝になるんだ。そうする事で、戸惑いが消えるはずだ」

そう説明されてもセリスはさっぱり訳が分からないままだった。とにもかくにもそういう相談があってエドガーの態度は、ロックから“普段と違う”ように見えていたわけである。

その裏にあるエドガーの目的は、きっと未だに誰も知らないだろう。

セリスも理解していなかったようだが、多分悪い事ではないということだけは分かっていてくれるはずだ。

それはとても荒いヤリ方だったけれど、効果は上々。セリスは普通に皆に溶け込んでいったという話である。

 

 

 

誰かが優しさを分け与えない事で、残る人間から与えられる優しさは倍増する。それは例えばロックのように、エドガーに不満を持ったりすれば尚更だった。

単純に惚れ込んでいるロックの事、「俺だけは守る!」とか何とか言って、更に優しさ全開なコトだろう。

そこで誰しもが優しければセリスはそんなロックにも、結果的に戸惑ってしまうはず。

だがこうして誰かが“敵”であることで、ハッキリと分かることだろう。

誰を選べば良いか、を。

大体エドガーは最初から分かっていた。セリスが持ちかけた相談が、皆に対する事ではなく、実はロックの過剰な優しさに対するものだったことを。

誰も知りはしないだろうけれど、実はエドガーはキューピッド役をやってのけたという訳である。

「とはいっても…ロックの奴はどうするべきか…」

はあ、と溜息をつきながらも、エドガーの顔には笑みがもれていた。

 

 

 

END

 

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