||||||||| 古の記憶の歌 |||||||||

 

 

「たまには息抜きも良いじゃない」

 そう言い始めたのはエアリスだった。

「息抜き?」

 仲間の面々は突飛な発想に思わずそう聞き返し、驚いてみせる。常に緊迫されたその状況の中で、無意識の中でそれを望んでいても、誰もその言葉を口にすることは無かった。

「でも息抜きったって、こんなんじゃ…」

「確かに…」

 荒廃した土地に娯楽を見出すのはとても無理そうな気がした。ちょっとした期待をした手前、やはり普遍に続く現実は重たすぎると痛感する。しかしエアリスはそんな様子に動じることなく、それどころか笑って言った。

「大丈夫だよ」

 ふふ、と悪戯っぽい笑顔を見せると、

「別にね、すごく羽目を外そうという訳じゃなくて、ちょっとだけでも良いからホッとできるような…そんなでも良いの」

 そう続けたエアリスに、確かにそうだな、と答えたのは意外にもクラウドだった。個人的な感情をこの状況に持っていたクラウドが、そんなふうに切り返すのは不思議な気がした。

「で、しょう!?ホラ、だからね、皆行こう?」

 

 嬉々としてそう言うエアリスに何となくつられて、その場には笑顔が溢れた。

 

 

 

エアリスにつられてやってきたのは、そう遠くも無い場所だった。密林のような場所に小さく広がった口があり、そこから人一人がやっと通れるような狭い道が続いていた。荒廃した町の空気が徐々に薄れ、そこには透明な空気が満ちていた。小道を抜けた場所に広がっていたのは、不思議な感覚に包まれた湖だった。いや、湖というには小さいので池といった方がまだ近いかもしれない。大樹に囲まれたその水の流れは、小さく幾筋にも枝分かれし、微かな恵みを大地に与えているようだった。

「へえ、こんな場所があったのか」

 驚いてクラウドはそう言った。

 神羅に侵された世界に、まだこんな純粋な土地があるなんて信じられなかった。エアリスは、そうでしょ、と得意げに笑う。

「多分、此処にはあの人達は入れないんだよ。此処は守られた土地だから」

 それだけ言ってエアリスはしゃがみこみ、水に手を浸した。

 エアリスと一緒だから入れたという事だろうか、とクラウドは思う。

 妙にこの場所に不似合いに思えたバレットは、

「こんだけ平和になりゃ良いのにな」

 と、その神聖ともとれる土地に平和を重ねた。それは至って真面目な言葉だったが、エアリスは、駄目!とふくれながら怒った。

「何だよ?」

「だーめっ!今は忘れてゆっくりするの。息抜きの意味が無いでしょ?」

「あ、そうか」

 素直に頭を垂れるバレットに、エアリスは笑顔を見せる。

 皆はしばし沈黙をした。

 それは嫌な沈黙では無く落ち着いたもので、少しの安息をもたらす。

『いつか…返れるよね?』

 どこからともなくそんな声が聞こえ、クラウドはハッと顔を上げた。

 周りには寝転がるバレットと、エアリスと何やら楽しそうに話しているティファがいる。

 そして――――。

 ふと振り返ったエアリスが、そっと微笑んだ。

 声は、落ち着いて次の言葉を放った。

『今夜、また此処で会いましょう?』

 クラウドは無意識の内に「分かった」と呟いていた。

 

 

 

 夜の空気はまた一段と清浄な気を含んでいた。昼に感じたものとは違うそれに、クラウドは不思議な気分になった。自然の力がそうさせるのか、それとも――――。

「クラウド」

 呼ばれて、クラウドはその声の方向に目を向ける。

 そこに立っていたのは紛れも無く―――。

「エアリス」

 やはりあの声の主はエアリスだったのか、と確信する。

 いつもと変わらない優しい笑みを見せたエアリスは、一歩づつクラウドに歩み寄り、そして「ごめんね」とだけ言った。

「何で謝るんだ?」

 首を傾げるクラウドに、

「だって、呼び出したりなんかしたから。“彼女”の前では誘ったりできないでしょ?」

 だから呼びかけたの、心で―――と続く言葉。クラウドは思わず苦笑する。

「勘違いしてるよ、エアリス。彼女なんかじゃないよ、ティファは」

「優しいね、クラウド」

「信じてないな?」

 ふふ、とエアリスは笑う。しかしクラウドの言葉は本当だった。ティファは確かに幼馴染だったし、その繋がりのせいで共有している思い出も、エアリスとに比べれば膨大な量だ。けれどそれ以上の感情を持っているわけではない。ティファの方がどう思っているかは定かでは無かったが、少なくともクラウドはそうだった。

 おもむろにエアリスは手を差し伸べた。

「?」

 何だろうと思いながら、クラウドはエアリスの手を取る。

「―――あ…」

 その瞬間、心の奥底に溢れ出したものがあった。

 “歌”、だった。

 

 木々のざわめきと、風のコーラスと、大地の波動が重なり、その声は美しく言葉をのせていた。

 心に響く歌。

 それは自然を受け入れた人間だけが口にすることを許された、古の記憶の歌。

 その声は、クラウドに向けて優しく響いていた。

 

“―――――――どうか忘れないで―――――――”

 

 

 

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