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■HANDS■
ふと目が覚めると、隣にはバッツの姿があった。 椅子に足組みなどして座りながら、読書なんかしている。 読書って柄じゃないだろ……まだ覚め切らない頭の中で、ファリスはそんな事を思う。 それよりも何で自分だけベットに横たわっているのか―――それの方が気になった。 記憶を辿って、ああ、と納得する。 そう、毒気にやられていて―――でもそれを告げずにいて倒れたんだったか? 絶対に大丈夫だと思っていたのに。 「ファリス…?」 ふと声をかけられて、ファリスは声のほうに振り返った。 「大丈夫か?お前、倒れて…」 「知ってる」 わざと突き放すようにそう素っ気無く言うと、ファリスは顔を背けた。
あの視線は苦手だ――――そう思う。
バッツは良い奴だと思うけれど、だけど時々見せる視線がファリスは苦手だった。 それはいつものおちゃらけ調子のバッツじゃ無く真面目な―――…いや、それ以上に…。 『女』として自分を見ている、視線だったから。
「レナやクルルも心配してたんだぞ」 少し強い調子でバッツはそう言う。 「悪かったよ」 「毒消しならあったのに、どうして言わなかったんだ」 「それは―――」 続けようとしたが、ファリスは口を噤んだ。 元々は頼らないようにと思っていたけれど、原因はもう一つあった。 アイテム一式を持ち歩いていたのがバッツだったからだ。 きっと自然とバッツが処置をするだろうから、それが嫌だった。 レナやクルルは良い。非力な女の子なのだから守るのは当然だ。 でも自分は違う。男として生きてきて、さらには集団までを統率してきた身だ。 それが今更、誰かに頼るなどもっての外だった。 特にバッツのように自分と対等か、若しくはそれ以上の強さの持ち主には。 「なあファリス。ファリスは強いよ。だけど辛い時くらいはさ…」 押し黙ったままのファリスに、バッツはそんなふうに話し始める。 「誰かを頼っても良いんじゃないか?」 「何を…」 核心を突かれ、ファリスは言葉を繋げなくなった。そして、またあの嫌な視線がファリスを貫く。 耐え切れなくなって、慌てて何かを言う。 「頼るなんて、そんなの必要無――――」 「俺は?」
――――――え?
遮るように放たれた言葉に、ファリスは耳を疑った。 しかしそれは、幻聴なんかではない。 「俺じゃ、頼れない?」 何でそんな事をストレートに言うんだ……ファリスはそう思い、困り果てる。 そんな事を言われたのは初めてだったし、そう思える存在も今までいなかった。 いわば、初のシチュエーションといえる。 「聞いてるか、ファリス」 そう言い、バッツはファリスの腕を掴んだ。 その腕は「男」の腕で―――今迄男達を纏め上げていたファリスでさえ、欲しくても手に入らない「強さ」だった。 そう思うと、何故か無性に腹が立った。 「…腹立つ!お前には俺なんかより他に守るモノがあるだろう?もっとさ、お前の力を必要としてる奴がいるんだ」 そうだ、それが正しい。いっそそう言って自分を突き放して欲しいと思った。 そうすれば、この正体不明の気持ちに悩まなくて済むのだ。 だがファリスの期待とは裏腹に、バッツはしっかりとこう言った。 「ファリスは?」 「え?」 「ファリスは必要としてないかな?」
―――だから。何でそんなことを言うんだ、お前は。
どうして良いか分からなくて口ごもる。 しかしそんな態度が自分で許せなくて、次には憎まれ口になっていた。 「――――知るかッ、そんなの…」 とにかく腹が立った。 どんどん自分の中の弱い部分が曝け出されるようで、自分が許せない。 だってそれは。
孤独だった頃を思い出す。 頼る手が無かった辛さを思い出す。 だからこそ一人でも生きれるくらいの強さを身に付けてきたというのに。
「本当、お前って嫌な奴だなッ」 「えっ!?」 俯いてそう言うファリスに驚いて、バッツは「ごめんッ」などと律儀に謝り出す。 でもファリスは分かっていた。 それはバッツのせいなんかじゃ無い。そう思いながらも、口は勝手な事を言い始める。 「…俺は…弱くなんか無い」 言葉にしてしまえば、本当になりそうで怖かった。 それはいわば、自分を制御する為の無意識の言葉。 しかしそんなファリスの心の内を知ってか知らないでか、バッツはただ頷いただけだった。 「―――うん」 そして、バッツはカラッと笑う。 「そうだ。ファリスは強いよ。だから今くらい、弱くなっても良いさ」
誘惑めいた言葉に、ファリスは無意識に胸を預けていた。 明日からは元通りの自分で行くんだ。 そう思いながら。
終わり
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