イエティ

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うっすらしてる雲を、何となく眺めてる。

暇ってわけじゃないけど、何となく。

この星では、死んだら人は星に返るんだっていうけど、いつか俺にもそんな時がくるんだろうかって。そんなの途方も無い話だけど、何だかそんな事を考えながら、俺はうっすらしている雲を何となく眺めてた。

昔はそんな事、考えたこともなかったけど。

 

 

 

「レノ、仕事だ」

そう言われて振り返ってみると、そこにいたのは予想通りツォンさん。

ついこの間憂鬱な事件が終わったばっかだってのに何でこうせっかちかな。ふつーもっと間があると思うんだけど。

そう思ってる俺にツォンさんが示したのは、何だか変な鍵だった。

「何コレ?」

「見れば分かるだろう、鍵だ。これは神羅の最後の財産ともいえるものを仕舞ってある場所の鍵でな」

何だよそりゃ。俺にザイムカンリでもしろってのか??

冗談、そればっかりは勘弁。俺はそーいうのには向いてないんだよな。

そもそもそんな重要なことはツォンさんの仕事だろってのに何でだかツォンさんは俺にそれを差し出してそこに行けなんて言う。

ハッキリ言ってすごい面倒だったけど、まあ仕方無いかって立ち上がった俺は、折角のまったり満喫にサヨナラしてその鍵を受け取った。

「はいよ、了解」

神羅の最後の財産ってのはアレだ。社長の個的財産ってヤツ。

俺が相当世話んなってた神羅の本社ビルは2年前にオダブツになったもんだから、それ以降はずっと社長のポケットマネー…個人的な財産でやってきたワケで、それは社長ご所有のヒーリンのロッジとは別のトコにあるってな話だな。

まあ、さすがにこんだけ社長と付き合いが長いと、それなりにまあまあそういう場所なんかも知ってるわけだけど、俺としてはそういう重要なコトってのはできれば関わりたく無いタブー領域だった。

そりゃ当然、厄介ごとと握手なんかしたくないし。

でもま、どうやら今日は貧乏クジがドンピシャ大当たり。…ホント最悪。

「じゃ、行ってくる」

俺は軽く手を上げると、ツォンさんにそう言ってそこから一歩踏み出した。

「おい、レノ」

「んー?」

「…社長も一緒に行くらしい。そこで何か重要な話があったとしたら、しっかり聞いておけよ」

「は?」

俺はそのフカカイな言葉に首を傾げた。何でそんなコト言うんだか。

これでも俺は仕事に関してはマトモにやってるつもりなんだけどな、どうやらツォンさん的には失格だったか?

俺がそうしてると、ツォンさんはそれ以上何も言わないで俺に背を向けた。

「やれやれ…」

ツォンさんの秘密主義はそろそろタークス内にも蔓延らしい。

ま、俺にとってはどうでも良い事だけど。

 

 

 

社長と一緒にそこについたのは、鍵を貰ってから一時間くらい経った後の事。

ロッジからはそんなに離れてないからポンコツでも飛ばせば何とかそのくらいで着くって話で、俺は早速その鍵を使ってソイツの中に入ってった。

此処は言ってみれば金庫みたいなもんで、今迄社長が個人的に持ってた財産の殆どは此処にあるって話だ。っていっても、2年前までの神羅幹部っていえば、金っていったって数字と同じようなもんだった。実際俺だってそうだったし。

つまり、大方の金ってやつは一瞬の内に数字のまま消えてったってコト。

何でかって?

そりゃあ当然、溜まってた金だって所詮は数字上だけで管理されてたからだ。

コンピューター上にいくら0をたくさん積まれたって、ソイツが壊れればそれでKO。0が一個だろうが十個だろうが即ガン無視決定。

「悪いな、レノ」

やっと車椅子を手放した社長は、長い間ソイツを使ってたせいか多少よろよろしてる。危なっかしくて見てられないっての。

だから俺は肩なんか貸して社長のお付き。いわばタークスが秘書に変身ってトコだな。

「体調は良いのかなっと」

俺がそう聞くと社長は、まあ、なんて曖昧な返事をしてくる。その「まあ」ってのがまた信憑性0。どっちなんだよって聞きたくなる。

「でも良かったよな。星痕症候群。アレ、治ったから」

「ああ、そうだな。それも皆がいてくれたからだ」

「…あ、そ」

星痕症候群。

ついこの間までこの世を騒がしてたソイツは、ある事件が片付いた途端にスッと世間様から消えてった。そりゃもう神羅崩壊くらいの大スクープだったけど、とにかくソイツは良いことには変わりないだろう。

でも俺が気になるのは、社長の言葉。

…そ。社長は星痕症候群が嘘みたいに消えた日から、やたらこーいう事を言ってくる。

アリガトウとか、俺達のおかげだとか。

それは悪くないけど、俺としては何だか複雑。理由は良く分からないけど、そんなことで礼なんて言わないで欲しかったんだよな俺は。なあ、社長?

昔から散々あんだけのコト言ってきたくせに、礼なんか言うなよ。俺達タークスにさ。

「どうした、レノ?」

「別に」

何時の間にか止まってた俺は、社長の言葉にとりあえずそう返すと、さっさと作業を済ませる為に指示を仰いだ。

その指示ってのは至って単純。

奥にある金庫を、教えてもらった通りにダイヤルする。

でもって金庫を開けると、そこから指定のギルを出す。

変な気さえ起さなきゃ誰にでも出来る単純作業だろうけど、じゃあ何で俺なのかが更に疑問になるトコだろ。

ともかく俺は指定された大量のギルをそこから掘り出すと、社長が指定した袋にそれをザックリ放り込んだ。これでOK、任務即完了。

「で、後は?」

手をはたきながら聞くと、社長は何故かだんまりスタートした。

何だか分からないけど妙な雰囲気。俺にはその意味がさっぱり分からない。

そういえばツォンさんが変なコト言ってたけど、それが何か関係あるってのか?

俺はそう考えながらも社長の言葉を待ってた。

で、社長がやっと口を開いたのはそれから五分ぐらい経った後のハナシ。

「…変更だ。やっぱり金庫から全てのギルを出してくれ」

「は?」

全部?

そりゃおかしいだろ。そんなことしたらそれこそ財産パアだ。

俺が止まってると、社長は何だか妙な顔なんかして話し出した。どうやらツォンさんの勘はアタリらしい。

「…全て分与する。そして、今日で終わりにする」

「は?」

社長はとうとう頭がおかしくなったんだかそんなことを言い出した。そのおかげで俺は二度も同じことを口にしなきゃならなくなる。

分与って何だよ?

分与っていうからには分けるってコトだろうけど、そもそもこの大量ギルは社長のであって俺達のモンじゃない。

全財産を分与って…家族でもないのに何言ってるんだよ。

「神羅崩壊から2年…一応それなりに給与は払ってきたつもりだが、それもいずれは出来なくなる。今の内にお前達に賞与を払っておく方が良いだろう?」

「賞与、って…」

おいおい、ホントに無茶言うなよな。

俺はこの社長のこーいうトコがホントに頭にくる。前もそうだった。

そうそう、神羅が壊れて最初の一ヶ月、とりあえず俺達は社長を助け出したけど、そりゃあいわゆるボランティアと一緒だった。俺達はタークスで、今迄ずっと神羅の秘密を握ってきたしそれを守るのが当然だって頭に叩き込まれてやってきたんだ。

だから社長を助けることは、今じゃ俺達タークスにとっては当然も当然、最優先みたいなもんだったわけだ。

でも、社長。社長はその救出に対しても「評価」をしたんだったよな。

それでもって、そっから先の行動にだって「評価」したんだ。神羅が壊れても社長のそばにいる限り俺達はタークスで、それをしてる限りは社長は雇用主で。

だから俺達は、ただ削るしかない社長のポケットマネーから何でだか知らないけど給与が出てたってワケ。

つまり俺達の善意ってヤツ、社長にとっては仕事でしかない。

ホント気に喰わないよな、そーいうトコ。

「悪かったと思ってる。ジェノバの件、星痕症候群の件…それを突き止めるにはどうしても助けが必要だった。…でももうそれも終わった」

「要するに俺達は用済みってワケ?」

「そうは言って無い。お前達をこれ以上拘束するわけにはいかないと言ってるんだ。それに見合うものも返せなくなるしな。…だから。これを払ったら、もう終わりだ」

終わりって何だよ?

俺の脳ミソは完全沸騰、社長が何を言ってもお構いナシの完全拒否状態。

だってそうだろ、終わりだっていうなら2年前にとっくに終わってるんだ。

それを今更なんだよ、終わらせるって。そんなのオカシイに決まってる。

それなのに社長は、そんなの何でも無いってふうにシオラシイ顔なんかして話してくる。

「この2年、お前達には無駄な時間を過ごさせてしまったと思ってる。2年もあれば何か築き上げる事だって出来たはずだろうにな…それを、崩壊したものでしかない神羅に縛り付けた。それは今迄私が行ってきたことの中でも、最低なことだったと思ってる」

「…そう思うなら、終わりなんて言うなよ」

コッチはそのお陰で完全タークスなんだから。

散々タークスって場所に縛られてきたせいで、変な期待なんかしてんのに。

それでも社長は首を横に振ったりする。

だから俺は、この2年、きっと俺達タークスがどことなく持ってた期待ってヤツをどう処理してくれるんだかを問い詰めた。これが仕事だったら完全暴れてたけど、さすがに相手が社長となればそれも厳禁。ちょっと残念だぞっと。

「じゃあ聞くけど。あの時言ったのは嘘なワケだ」

「あの時?」

「シラ切らないで欲しいぞ、っと。あの元ソルジャーが来た時、言ってただろ。世界に借りがあるから返すとかどーとか」

「…ああ、あれか」

社長は納得したみたいに頷くと、それはもう終わったなんて言った。

だもんだから俺としては大パニック。

「ジェノバ、星痕症候群…あれらが無事に解決したことで、その役目は果たせたはずだ。…勿論、それ以上の事を考えていないわけじゃなかった。しかしそれは理想論だ。…レノ、現実的に考えてこれ以上私に出来ることなどあるか?あるとすればそれは、死ぬことくらいだ」

「あーそう。死ぬこと、ね。そりゃ死ぬのは簡単だよな、全部放棄できる最高の方法だ」

「レノ…」

あーあ、そんな顔しちゃって。

まあ俺が悪いのは分かってるけど、かといって俺の脳ミソはすっかり沸騰してて抑えるなんてできそうもない。というか、そんなのしたくもないし。

だって俺は今迄散々我慢してきたんだ。社長がどんなコトしようが、どんなコト言おうが、それが社長の言葉だったら絶対って思って従ってきた。

でも、社長が終わりっていうならコッチだって終わりだ。

我慢できるかよっての。

「言わせてもらうけど、俺達が社長を助けたのは仕事だからじゃない。この2年社長の側にいたのだって仕事だからじゃない。だって俺達タークスだし、ハッキリ言ってぶっ壊れた会社の社長の首なんていつだって獲れるんだよな。それを何で俺達がしなかったか、社長、分かって無いだろ?」

ペラペラペラペラ…もう自分でもうんざりするくらい長ったらしい言葉を、俺は口から放射してた。それはもう社長だってウンザリ状態、でも俺はまだまだ満足しない。

だからガツンともう一発。

 

 

 

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