Unworthy

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「お前がついておきながら何てことだ。お前、見舞いちゃんと行け!」

ガツン、とそう言われ、レノはゲッソリした。とはいってもこの目前で怒っている人物からすればそれは、確かに自分の失態だった。だから文句も言えない。

目前でお怒りのツォン主任。彼に、はいはい、と返事をすると、レノは柄でもなく溜息をついた。

「あー何でこんな事に…」

まったくその通り。

 

 

 

昨日、ルーファウスは出かけるという話だったので、レノはその護衛についていた。いつもならツォン辺りがするこの仕事は、たまたまプレジデントとルーファウスの外出が重なった為にレノに回ってきたのだった。

何だか良くは分からない会議の席で、一応それらしくSPなどをしていたものの、それはあまりにも暇だった。暇だからと言い訳するわけではないが、やっぱりそれは集中力を欠けさせた。

そういう中、ルーファウスの姿から目を離している内に、何ということかその人は階段から転げ落ちたのである。

はっきり言えば、何て間抜けなシーンだと思う。

けれど、ルーファウスが神羅の副社長であるとか、レノがその下で動くタークスであるとかいう事実は、それを単に“間抜け”で済まさなかったのであった。

護衛はどこまでが護衛なんだと突っ込みたいが、それはやはりレノの不注意とされてしまう。

何てコトか。

とはいえ、そうである以上もう何もできないので、此処はツォンの言うとおり見舞いでも行くか、と思ったレノであった。何しろ見舞いといったって、何やら凄いことをするわけでもないし、一言かけて何かしら物でも持っていけば良いのだから。

どうせルーファウスの事だから、病院といっても快適な環境なのだろう。

…まあ、病院に行くほどのものだったというものにも問題があったが…。しかも入院。余程、打ち所が悪かったらしい。

レノにとっては“大袈裟だ”と言うくらいのものでしかなかったが、やはりルーファウスを取り巻く人間にとってはそうでないらしい。…ツォンに然り。

 

 

 

そんな訳でその病院までやってきたレノは、ルーファウスの病室まで行き、久々にドアをノックするということまでしてのけた。

…トントン

「誰だ」

「俺なんだぞ、っと」

「…レノか。入れ」

何だ、つれない態度だな、そう思いながらレノはドアを開ける。…まあ当然かもしれない、何せ非難されている本人なのだから、自分は。

適当な果物詰め合わせ…いわゆるフルーツバスケットなどを手にしながら部屋に入ったレノは、そこに入るなり目を見開いた。

「あれ…。病人じゃないのかな…っと」

目前のルーファウスは何故かいつもと変わらない白スーツで、椅子に腰掛けていた。しかも優雅に足など組みつつ、読書中である。

「見舞いに来てくれたのか。悪いな」

「ああ…っと。あ、コレ」

そう言って手にしていた見舞品を近くに置く。どうせ食べやしないだろうとは思うが。

それをチラリと見遣りながらルーファウスは笑った。

「珍し…律儀にそんなモン」

「誰かさんがウルサイからな」

「そうだな」

それだけで、誰がうるさいのか分かるらしい。

それにしても病人がそんな事をしていて良いのだろうか。レノからしてみれば「それでも良いんじゃないか」という具合だったが、そうは問屋がおろさないわけで。

「もう大丈夫なのかな…っと」

どう考えてもピンピンして見える。

「ああ、全然。最初から大した事無い」

「なるほど。…で、アレか。たまには副社長もサボリ、って?」

「何だ。良いだろ、たまには」

少しブスッとしてそう言うルーファウスに、レノは両手を挙げて笑った。

「言わないって、誰にも」

というか、もしそれがバレても、どうせ誰も何も言いやしないのだ。まあ、それでも今はちょっと秘密事という具合である。

「で。何を読んでるのかな、っと」

そういえばルーファウスは読書中だった。今は本を伏せて、レノと会話中ではあったが、これはいかにも変な光景である。何故って、ルーファウスはああ見えて仕事はできるらしいが、勉強熱心というわけでもない。いわば実践はとでもいおうか。…まあそこは良いとして、とにかく読書家には到底思えなかったわけである。

「…つまらない本だ、どうせ」

そう言ってルーファウスはその本をレノに渡す。首を傾げながらそれを受け取ると、どうやら確かにそれは、いかにも堅苦しい本だった。

THE・経済…うんたらかんたら―――――――以下略。

レノに人生にはそんなモノは無い。

「な、つまらないだろ?」

どうやらルーファウスの人生にもそんなモノは無いらしい。副社長のクセに、である。

「それ、見舞品。馬鹿らしいにも程があると思うだろ。もっとマトモなモンよこして欲しいよな」

「これを送る奴、ね…」

余程、堅苦しい人間なのだろうと思う。その瞬間にツォンの顔が浮かんだが、ちょっと路線が違そうだ。彼ならきっと“起きたら駄目です!”とか言うのだろう。

まあ誰かは知らないが随分と悪趣味だな、そう思いレノはこう言った。

「顔が拝んでみたいな。そんな堅そうな奴の」

その言葉にルーファウスは暫し、きょとんとした。そして、それから小さく笑う。

「いつも見てるだろ?」

「は?」

何だそれは、と意味が分からなくてレノはそう返す。まさか本当にツォンなのか。

しかし、それはちょっと違っていた。というか、大分違っていた。

「オヤジ」

ルーファウスのその一言に、レノは呆気にとられた。

 

 

 

そんな具合で、結局一日中レノはルーファウスの話し相手をしていた。そういう許可も出ているし、まあたまには付き合ってやっても良いか、などと思う。

レノはいつも通り俗ネタ満載トークをしていて、ルーファウスも不思議とそれについてきていた。まさかこんな所でこんな人とこんな会話をしようとは思ってもみなかったので、これはある意味、良い経験だったかもしれない。

しかも、ここぞとばかりにルーファウスの好みなども聞いてみた。まさか見識高きお嬢様かなと思ったけれど、どうもそういうワケではないらしい。

首を傾げて、さあ…、なんて言う。

「過去好きになった奴を思い出せば良いんだぞ、っと」

そうレノがアドバイスしても、首を捻っている。恋愛などに関してはそんなに頭が回らないのだろうか。

「良く、分からないな。そういうの」

「“そういうの”って…。普通あるだろ、ホラ。“ドキッ”とか“おお〜!”とか“やばっ”とか、そういう感じのさ」

「いや、無理。全然わからない」

説明が悪かったのか、ルーファウスはキッパリそう言い切った。

何がそんなに分からないのだろうか、それこそレノには分からなかった。仕事なんかより余程分かりやすいのに。

しかしそう思うレノに、ルーファウスはこう言い出した。

「あ。でも、あるな。“ドキッ”とするのは目が覚めて寝過ごしたって思った時。“おお〜!”って思うのはすっごく早く起きた時。“やばっ”って思うのは仕事間違ったとき」

「………色気一切ナシ」

「…はあ…」

「…はあ…」

二人は同時に溜息をつく。

どうやら生き方がかけ離れているらしい…。

しかし、ということはつまりルーファウスの“今迄”はそういうものであって、もしかしたら恋愛だとかいうものなど入る余地など無かったのだろうか。

―――――――――と、いう事は…?

「……人。人、好きになったコトあるのか?」

もしや、そういう基本的な問題なのか?…そう思って恐る恐るそう聞いてみると、ルーファウスは首を傾げながら、こう一言だけを返した。

「さあ」

 

 

 

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