短冊の夢
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短冊に願い事。
笹の葉に乗せて、ユラユラユラ。
夢を叶えて貰えたら幸せ。
だけど、本当はこれは、一つの約束。一つの願い。
年にたった一度だけの、奇跡。
神羅の中庭にドドーンとでっかい笹がやってきたその日、ルーファウスはその風景を見ながら仕切りと首を傾げていた。
何故に笹?
地上70階建ての神羅本社ビルの丁度6階くらいまであるドデカイ笹は、猛獣のようにユランユランしている。それだけでも珍妙だというのに、更に疑問なのはその笹が数多くのゴミをつけているという部分だった。
「何だろうなあ、あれ…」
最後にやっぱり首を傾げたルーファウスは、その猛獣をわらわらと囲む神羅社員がいることに興味を覚え、ちょっとだけその中庭に出向いてみることにした。
さて、その中庭に出て直ぐに目についたのは赤髪の男、レノだった。
社員はどうやら100人ほどワラワラしていたが、その中でもその髪の色は妙に目立つ。というか仕事内容的に極秘任務を担っているはずの人間がその髪で良いのか、と多少以前から疑問に思わないでもなかったが、まあこの際それは置いておこう。
で、レノだったらば気軽に話もできるだろうと踏んだルーファウスは、早速レノの肩をポンポンとやった。
「おっと。副社長」
それに驚いて振り返ったレノは、ルーファウスの姿を確認してニッと笑う。
「副社長も書きにきたのかな、っと」
「書きに?何のことだ??」
「ん。短冊」
「短冊??」
さっぱり意味が分からないといったふうに首を傾げたルーファウスは、レノの手のなかに握られた短冊とやらを見て更に首を傾げる。そういえばその短冊とやらは、猛獣笹のついているゴミである。
「それ、ゴミじゃないのか?」
純粋にそう聞いたルーファウスに、レノは「おいおい、罰あたりなんだぞっと」と言いながらも早速のように新しい短冊をルーファウスに渡す。それを無意識に受け取っていたルーファウスは、その短冊…ゴミが、無地で何の変哲もないものであることに更なる疑問を覚えた。
「これは何なんだ」
「またまた…だから短冊だって。ほら、七夕だろ」
「タナバタ?何だそれは?」
「……もしかして。本当に知らないのかな、っと…???」
まさかそんなはずは無いだろう、超有名な年中行事だぞ、そう思いながらもレノが恐る恐るそう聞くと、何ということか天下の神羅副社長はサクッとこう言った。
「知らない」
――――――――――WHY!!!!??
レノは思わず英語表記で驚いた。
が、知らないというからには一から教えなければならないだろうと思い、ええと、などと言いながらも七夕おいう行事について説明を始める。というか何でそんなことをせにゃならんのかと少しばかり疑問にならないでもないが。
「えーっと。だからな、七夕ってのは。彦星と織姫が年に一度、7月7日にだけ会えるんだぞ、っと。二人は天の川ってのを隔てて別のトコにいて、雨が降ると天の川の水位が増して会えないんだって」
「ふーん…で、その彦星と織姫はどこにいるんだ?」
「は?どこって…まあ、空?」
「空!何だそれは」
「いや、だから。それは伝説なんだぞ、っと。彦星と織姫は本当は星で…」
「星〜?何だそりゃ。じゃあ魔晄が沢山取れるってことか?」
「いや、そうじゃなくて…」
何だかさっぱりトンチンカンなことを言っている副社長に、レノはたじたじになってしまった。これはどう説明すれば良いものだろうか。ルーファウスのことだからきっと、織姫と彦星の人間ヴァージョン姿を見ないことには納得しなそうである。
しかし問題は短冊であるから、レノはそれだけに問題を凝縮することにした。
「とにかく。この短冊に願い事を書いて、笹にかける!」
そう言ってレノは、親切にもペンをずいっと渡す。だからルーファウスは思わずソレを手にとって、更にはポンッとフタを開けた。
「願いって本当に叶うのか?」
訝しむようにそう言うルーファウスに、レノは「大丈夫大丈夫」と何がどう大丈夫なのかさっぱり分からないままに断言する。しかしルーファウスの書きそうなことなど思いもよらないレノにとってはその辺りは適当だった。
「よし、じゃあ…」
ルーファウスは暫しあれこれと考えた後、ペンをすいすいと動かし、願い事をその短冊に書き込んでいく。本来願い事なんていうものは一人胸に閉まっておくのが道理なのだが、この場合レノが隣にいることでその願い事はバレバレだった。
しかもそれは―――――――。
「…これ、願い事なのかな、っと」
「ん?どう考えても願い事だろ?」
…ルーファウスの短冊にはこうあった。
"織姫と彦星が無事会えますように"
―――――――確かに七夕である…それは正しい。
がしかし、そんなことを書く奴がこの世にいるだろうか。いや、いる。此処にいる。っていうか、いた。
「え。え。これ、本当に叶えて欲しいことなのかな…っと」
レノがそんなふうに言うと、ルーファウスは、
「うん。だって年に一度しか会えないんだろう。可哀想じゃないか」
と、さも当然のように言った。
「いや、まあ…そうだけど」
「お前だって書いたんだろう?彦星と織姫が出会えますようにって」
「え。いや、それは…」
書くはずがない。
「早く願いが叶わないかなあ…」
ルーファウスはその短冊を早速、猛獣笹の端にくくりつけると、さも楽しみであるかのようにそんなことを言い出した。その調子はまるで、それは当然絶対に叶うものである、というふうである。
しかし考えても見て欲しい。
本当に叶うなんてことが果たしてあるだろうか?
しかも彦星と織姫の密会が?
――――――――――そんなものは結果を確かめる術もない…!
「やばいな…と」
説明がいけなかったかなどと思いつつも、レノはその責任逃れを早々に考え始めていた。ルーファウスはきっと、これが叶わなかったら「何で」だとか「おかしい」だとか言い出すに決まっているのだ。 それを考えると自分がウソツキになってしまう。
いかにも、マズイ。
「えーっと…じゃあ結果は来年だなっと」
「は?」
「いや、願いってのはアレだ。そんなにすぐに叶うものじゃないんだぞ、っと。だから結果は来年に分かるんだぞっと」
「え、でも7月7日に会えるかどうか分かるんじゃないのか?」
「それは去年の願い分で、今年のは来年なんだぞっと」
段々ワケの分からないことになってきたレノは、やばい、何言ってるんだ、と思いつつもポンポンと口からでまかせを連発した。ドツボ、である。
しかし、いかにも嘘臭いそんな話を、ルーファウスは「なるほどなあ」だとか普通に解釈していた。
しかも、じゃあ来年が楽しみだ、なんて言い出す始末である。
これはいかにもマズイ展開――――――――しかし既に、逃れる道は無かった…。
7月7日、レノは必死で雨乞いをした。
因みにレノの短冊に書かれていたことは…
"面倒な仕事が来ませんように"
――――――――――願いは叶わなかったらしい。
END
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