「それで、報告は?」

気だるい神羅の午後。

同僚タークスは本業で奔走してるっていうのに、俺は何故だか神羅社屋の中にいた。

社屋の上の上の方に構えてる副社長の城に呼び出された俺は、例の画期的活動についての進捗を報告しなきゃならない立場にあった。こういう時、新人ってのは羨ましい。まず第一に面倒じゃないからな。

「えーっと。まあ尽力してるんだけど成果はついてきてないっていうか」

「“っていうか”、じゃないだろう。お前らタークスは結果至上主義じゃなかったのか?」

「いやまあ、そうなんですけど」

まるで成果の出てないこの活動に、副社長は半ば呆れたような顔をする。

だけど考えてもみろ、あんた何も動いてないじゃん。動いてるのはあくまでも俺たちだし、あんたの仕事といったら報告を聞いて大儀そうに説教たれるか頷くかのどっちかだろって感じ。

だけどまあこれでも一応上司ってやつだ、俺はマトモに取り合ってやる。

「結果が出せないようじゃいつまで経っても元の仕事には戻れないぞ。…まあ私はその方が助かるけどな」

「へ?」

何だそりゃ?

おいおい、もしかして俺たちを陥れたいってことなのか?

「…いや、気にするな。こっちの話だ」

「こっちの話、って…そんなトコで区切られてもすごく気持ち悪いぞ、っと」

咽喉に魚の骨が引っかかっていつまで経っても取れない、みたいな、なーんか嫌な感覚。そんな感覚を続けろっても無理な話だ。

そう思ってる俺を副社長はチラリ、のぞき見る。それで。

「世の中には知らなくて良い事も多くある。そうは思わないか?」

「知らなくて良い事」

復唱して、ああ、なるほど、と俺は納得した。

つまりこうだ、副社長はこの画期的活動についてなんらかの秘密の爆弾を抱えてるってことだ。で、それはあくまで俺たちには内緒。その秘密がばれてもいけないし、副社長曰くこの画期的活動が終わってもいけないってわけだ。

だけどこんな活動に秘密?

そもそもVIPの息子がどっかに雲隠れってそのネタ自体が秘密じゃん?

それにこんなの続けてて社長に意味なんかあるか?

大体さ、こんな仕事したくないって言ってたクセに?

「そーですか、ま、それでも良いや」

「そう思ってもらえれば光栄だ」

「はいはい」

俺は半ばめんどくさくなって、そんな返事をした。上司相手にチャレンジャーな返事。だけど副社長はしらんぷり。

まあ別に良いけど。

俺は一礼をして、副社長の城を後にした。

――――――――けど。

「んー?」

バタン、ってな具合にドアが閉まった後、何だかちょっと違和感を覚えて俺は立ち止まる。だって、俺がいなくなったら一人っきりのクセに、何でだかその部屋からは声が聞こえてきたからだ。

勿論、アンテナを発動させる。

高感度の耳っていうアンテナだ。

“…もう暫くは大丈夫だ。気にするな。…ああ、そうだな。また、例の場所で…”

「…ふーん?」

俺は腕組をしながらドアを睨みつける。

なるほど、それが副社長の秘密ってワケか。

どうやらその秘密って奴には誰かが絡んでるらしい。俺との話の後に「もう暫くは大丈夫だ」なんて、何だかいかにもアヤシイじゃん。一体どんな裏がある?

何となく。

何となくだけど、俺はちょっと楽しい気がした。

俺らに秘密があるって部分はイタダけないけど、でもさ、なーんにも無いより何かあった方が良い。ナニゴトもなく張り合いもない、そんなのは一番つまらない。まあその秘密ってやつがこの活動の解決になるとは思わないけど、どうせ付き合うことになるんだったら楽しい方が良いに決まってる。

それにこれは、上手い具合に“本来の”タークスの仕事を出来るチャンスかも。

「…悪いけど、やらせてもらいますよ、っと」

俺はニヤリ、笑う。

 

 

 

次の日、俺は早速“本来の”タークスの仕事をミックスした。

それは“尾行”って仕事だ。

勿論俺に課せられてる重大な仕事は例の活動であって、残念ながら“本来の”仕事じゃない。それは忘れてない。でも、俺は「やってみなきゃわからない」をモットーに、俺の信念を貫くことに決定。

その為にはまず裏工作が必要だった。その裏工作ってのは電話一本で出来るリーズナブルな裏工作。だから俺は社用携帯でリーズナブルにそれをこなす。電話先は当然俺の期間限定の相棒だ。

「もしもし、俺だけど。悪いけどさ、俺ちょっと仕事は入ったからソレ済ませてから行くぞ、っと。サボらずに仕事してろよな」

新人タークスは「ええ〜」とか「ひどいですよお」とかワケわかんないことを連発してたけど、俺は念を押してさっさと電話を切った。そもそも「ええ〜」も何もない。そりゃ仕事だ。仕事だったらやれ。

で、俺はというと、勿論尾行を開始する。

今回のターゲットは神羅カンパニー副社長のルーファウス神羅氏。

では、ルーファウス神羅氏の本日の動向にズームイン。

朝9:00に出勤。

間髪入れずに自分の城に直行、暫しの篭城。それでも10:00には城を明け渡し、素敵な白スーツで神羅を後にする。

ハイヤーに乗り込むかと思いきや意外にも所有の車で外出。運転は勿論本人だ。

俺はそれを確認してすかさず車に乗り込む。この車っていうのはタークスで所有してる車で、任務の時に使うことが許可されてる車だ。勿論神羅配給だから個人的負担はゼロ。ただし、これが神羅配給って時点でこの車での尾行はかなり厳しくなる。だから俺はすぐには発進しない、これが利口なやり方だ。その間副社長がどこまで行こうが焦ることはない、何ていったってちゃんと発信機を取り付けておいたから。

「…南の方向に2キロ、そろそろ行っても良いかな」

2キロの車間距離じゃさすがの副社長も気付かないだろ?

エンジン発動、サイドブレーキ解除、絶妙な半クラからアクセル全快、これでOK。

「さーてと。神羅の技術を駆使させて頂きますよ、っと」

搭載された最先端カーナビをいじって、モニタ切り替えが完了。これは副社長につけた発信機の位置をリアルタイムで教えてくれる優れモノ、だから俺にはいつでも副社長の位置が分かる。その上このシステムは、発信機までの道筋をしっかり案内してくれるときたもんだ。ほんと快適。

そんな快適システムにナビされて揺られること数十分、俺はようやく車を止める。肝心の副社長はさっきから同じ位置で止まってる。つまり副社長は車を停めたってことだ。

どんなもんかって見てみると、どうやら確かに車は止まってた。しかも森林豊かな凸凹道沿いにちゃっかり停まってる。はっきり言って余程似合わない、こんな道にこんな車なんて。まあだからこそ気になるってのも本音だけど。

車内をチェックすると社長はすっかり雲隠れしてた。

「んーどこ行ったのかね、あの人は…」

取り敢えず車を停めた俺は、副社長の位置を再度確認する。

発信機が示してる位置は…ハッキリ言って森林の中だ。

「こんなところに用事、ね。こりゃ只事じゃないな」

俺は独り言を口にしながら、ガキの頃のくだらない探検遊びを思い出した。今になってみりゃどーってことない近所の森。そんなトコでさえガキの頃は妙に広くって妙にワクワクしたもんだ。

まあ、そういうのもアリかもしれない。

たまには。

「よし」

以下にも足場の悪そうな森林の中へ、俺は早速足を運ぶ。

背の高い雑草と鬱蒼とした草、やたらめったらデカい木、はっきりいって道なんてものは無い。もしかしたら誰か一人くらいは歩いたかもしれないけど、それでも道が出来るほどの足跡は無い。

それでも俺は、草を掻き分け木をすり抜けとにかくとにかく前に進んだ。

副社長の発信機までは、もうすぐ。

だけどそうして前進してるうちに、俺はふっとあることに気づいたわけだ。

それが何かっていえば――――――そ、俺は此処を知ってるって、こと。

「あー…そうか、あの時…」

記憶を辿って何とか思い当たったのは、思いのほか最近の出来事だった。それはあの新人とVIP息子を探してるときのことで、本当につい最近のこと。そういやあの新人はひーひー言ってたっけ。

そうそう、あの時も足場が悪くて、こんなとこにVIP息子がいるはずないって新人が喚いてて、でも俺はそれでも突っ走って…そうだ、あの時だ。

あの時俺は、別に目星をつけてたわけじゃなかった。

此処に息子がいそうだとか思ったわけじゃなくて、ただ単に隈なく探せよって意味で此処まで来たんだ。今は例の活動ってわけじゃないから関係ないけど、何だかんだいってこの場所には収穫があったってわけだな。残念ながらお目当ての息子じゃなくて、違うトコの息子さんだけど。

「でもな、何だってこんなとこにいるんだか」

なに考えてんだ、あの人。

俺は無遠慮にそう思う。

だって神羅の副社長がこんな森林の中に入ってくなんて意味不明だろ。

―――――――――って、思ってたら。

 

「あれ…」

 

急斜面を上がって何とか上に辿り着くと、そこにはちょっとした休憩所みたいのがあった。休憩所っていっても別にちゃんとそれらしいもんがあるわけじゃない。単に草が無い平地があったってだけの話だ。

だけど俺はそこで、遂に第一の目的を達成した。

俺の目には、はっきりと副社長が映ってる。

そして、かの副社長殿は――――。

『…どこかに行くなら手伝おう。どうせ仕事は私の手中にある』

『うん、それも良いな。そうしちゃおうかな』

『きっとその方が何倍も良い』

おいおい、何だ?何だよこれは?

副社長の隣には、くりっとした目の男がいる。副社長はそいつと話しながら微笑んだりしてる。微笑んで、なんてあんまりにもしっくりこない。

そもそもあの男は何だ?

副社長と同じくらいか、それとももう少し年下か…って、そんなことを思ってる時、俺の耳には衝撃的な言葉が入ってきた。

『なあ、XXXX』

――――――――へえ、なるほど。

副社長の口から出た言葉は、紛れもなく俺のターゲットだった。つまり、例のVIPの息子ってわけだ。

その言葉を聞いて俺はようやくピンときた。

副社長があの画期的活動にヤル気を出さないのは、つまりこーいうことだったわけだ。お尋ね者のVIP息子は自分の知り合い、しかもこんな森林の中で密会するくらいの親密度。その息子が家を飛び出してそれに加担、だけど仕事上では捕獲必須。これはどうしたもんかと悩むのも馬鹿馬鹿しい話だ、だって副社長はあの画期的活動を上から操ることが出来るんだから。

つまり、捜索の手を緩めるように仕掛けりゃ良い。

そーいうことだ。

ってなると俺らは副社長の手のひらでクルクル回されてるだけに過ぎないってことになる。そりゃあんまりだって思う。

だけど俺は、そのあんまりな現実よりも今目前にある現実の方に興味津々だった。

『誰かの馬鹿馬鹿しい夢に加担などしてやる必要など無い。自分が苦しいだけだ』

『そうだね、ルーファウス』

『私だって以前は…』

私だって以前は―――――――――以前は、何だ?

その先は?

そうソワソワしてる俺の耳に、副社長の言葉は届かない。

ザアアって風が吹いて、肝心なところが聞こえない。

俺はそれがもどかしくて、とうとうタークス的な仕事を放棄した。放棄して、脇に茂ってる草を掻き分けてザッと副社長の前に躍り出る。

それは、副社長とその男にとって“ありえない事態”だった。

「どーも!」

「…!」

俺の顔を見るなり副社長は体を硬直させる。だけどさすがに副社長、それをすぐに解いて咄嗟の判断をする。

「逃げろ、XXX!」

滅多に聞けない叫び声を上げた副社長に、隣に立ってた男が瞬時に走り出した。勿論それは俺から逃げるためだ。何せその男は例のVIP息子で今はお尋ね者の身なんだから、まあ当然といっちゃ当然だろうな。

だけどさ、とっても残念なお知らせ。

俺の興味はその男じゃない、あんたの方なんだよ、副社長。

 

 

 

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