First Restaurant

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“レノ、一緒に休憩しないか?”

そう言われるようになったのは、いつからだったろう。とにかくもう、かなり前からだったように思う。

最初そう言われたときは、この金髪上司は頭がオカシクなったんじゃないかと思ったものだが、どうやらそれは違っていた。

最初は―――――――純粋に誘ってくれているものだと思っていたけれど。

でもそれは違っていて、その金髪上司の誘いの裏には、ある意味が隠されていた。それに気づいたときは、さすがのレノも苦笑を漏らさずにはいられなかったものである。

まさか―――――――自分が単なる「橋」だなんて、気づかなかった。

 

 

 

最初そう誘われた時、レノは驚きつつも快諾をした。

そして誘われるがままに足を向けたのは、神羅外のあるレストラン。

そのレストランはレノも知ってはいたが、今まで一度として足を踏み入れたことは無かった。何しろそこは高級レストランで、いくらレノが幹部に近い位置の人間とはいっても普段からそこにいくまでの考え はないくらいの場所だったから。

だから、そんな場所に突然つれてこられたレノは、なるほどこの金髪上司はいつもこんなところへ来ているのかと別のところを意識していたものである。しかしそんな雑念を渦巻かせていられるのもその時だけだった。

何故って、その初めて足を踏み入れるような高級レストランの中で金髪上司は言ったのだ。

少し聞きたいことがあるんだ、と。

副社長なんていう肩書きを持つ人が自分に一体何を聞くっていうんだ?、そう思っていぶかしんだものだが、それは意外にもすぐに解決をした。

金髪上司は、すぐにその「聞きたい」内容を口にしてきたりする。こんなふうに。

「普段私はお前たちとはそれほど深い接点が無いからな。だから聞いてみたいんだ。その…どんなふうに行動しているか、とか…」

「お前たち、って。俺じゃなくって、タークス全体ってことかな?」

「ああ、そうだ」

ふーん、そう言いながらもレノはチラと金髪上司を見遣る。金髪上司はいかにも威厳を保ったような顔をしてそんなことを聞いてくるが、レノにとってそれは何だか可笑しい表情にしか見えない。

何で自分一人を呼び出しておいて「お前“達”」?

そんな言葉を心の中で吐いて、小さく笑う。

タークスは今のところプレジデントの一言で動くように位置している。組織図上は治安維持部門下となっているがそれは表面上のことであって、実際にはプレジデントの鶴の一声で何でもかんでもこなすのがタークス。例えばそれが暗殺だろうがハッキングだろうが、とにかく何であってもそれはプレジデント直々でなくてはならなかった。

だから、例えこの金髪上司が副社長という地位であったとしてもタークスを指揮することは出来ないのが現状である。そうなるとこの副社長の言葉も分からないでもない、あまり接点がないから、という部分に於いては。とはいえ、実際完璧に関連が無いかと言われればそういうわけではない。例えばプレジデント神羅がルーファウスの護衛をタークスに依頼した場合、それは当然顔を合わせることになるし、実際そういう場面は今まで幾つかあった。だから話をしたことがないというわけではない。

しかしそれにしたって何故そんなことが気にかかるのか、レノには分からなかった。

だってこのルーファウスという金髪上司にとって、タークスなんていうものはどうでも良いものなのだから。

「ストップ。答える前に質問だぞ、っと。その疑問は仕事関係?それとも個人的な疑問?もし仕事関係だったら俺は完全黙秘。知ってるだろうけど俺達タークスは社長の一声で動いてるもんで、例えルーファウス様相手だって軽はずみな言動はできないぞ…っと」

「そんなのは分かってる。…個人的な疑問だ」

珍しく真面目に回答したレノに、ルーファウスはそんなふうに答える。どうやら個人的な興味らしい。

何でそんなもんが気になるんだか、そう思いながらもレノは、じゃあ、と続けて話をし始めた。

「えーと、どんなふうに行動してるか…だっけ?まあ言った通りだけど俺達は社長の命令だけに従えばOKなんだな」

「単独行動か?」

「まあ、な。大体はそんな感じ。但し大幅な任務だとツーマンだったりスリーマンだったり…まあ、まちまちかな、っと」

「ふうん…なるほど。じゃあ常に一緒ということでは無いのか…」

レノの言葉を聞きながらそんなふうに納得をしたルーファウスは、どこか残念そうな顔をしている。だから、その表情を目に映したレノは、先程から持ち続けている疑問を更に激化させることとなった。

何でこんな退屈な説明にそれほど残念そうな顔など浮かべる必要があるのだろう。さっぱり分からない。そもそもルーファウスがタークスの行動に興味を持つこと自体が既に不明だが、今のリアクションはもっと不明だろう。

常に一緒に行動しない、というのはつまりタークス全員のことである。

だからルーファウスのその表情の意味は、タークス全員が常に一緒に行動しないことが残念だ、ということである。

しかし何故そうなる?―――――意味が分からない。

レノはそれらの疑問を数分ほどグルグル旋回させたものだが、その内あんまりにも面倒になったのでズバリとこう言ってのけた。正に直球である。

「俺達が一緒に行動してないと不都合?」

そう端的な一言を受けたルーファウスは、何故だか慌てて、

「そういう訳じゃない」

などと返答する。

しかしその返答を慌ててするあたりがまた、何だかレノにとっては疑問だった。

そうして意味の分からない疑問が増えていくから面倒になる。面倒だから直球で聞いてしまえば、その答えがまた意味の分からない言葉となってレノに返る。結果、あんまりにも堂々巡りすぎて、疲れてくる。

折角の高級レストランなのに、何だかその時間はレノに、退屈に近いものを思わせた。

 

 

 

そんな高級レストランでの休憩は、レノの予想に反して随分と続いたものである。

初めて誘われたその日は退屈さを思いながら過ぎていき、運ばれてきた料理に口はつけたものの何だか面倒になって疲れてしまい、結局レノはその殆どを残してしまった。

一方ルーファウスの方はといえば、レノを疲れさせる疑問の連発に忙しかったせいか、やはり料理は手付かずであった。

どう考えても金の無駄遣い、その上退屈、良いことなどありもしない。

そんな状況だったので、レノの表情はあんまり良いものではなかったはずである。それに気付かないはずは無いだろうから、さすがにルーファウスももう二度と誘ってくるような事はないだろうと思っていたのだが、そのレノの予想は見事外れた。

ルーファウスがあの高級レストランでの休憩に誘ったのは、その翌日のことである。

またか、などとうんざりしながらもそれに付き合ったレノは、前日と似たり寄ったりな会話をしつつも、どうせ退屈なのだからと今度は最初から食事に重点をおいてなあなあで話を聞いていた。

ルーファウスの方は相変わらず疑問と納得の連発に忙しいらしく、料理などには眼もくれない。だからレノは、それをすかさず自分の方に引き寄せて口に放った次第である。それでも気付いていないのだからルーファウスの興味は相当なものなのだろう。

そんなふうな高級レストランでの休憩が幾日か続いていく。

レノは相変わらずここぞとばかりに後生版にあずかり、ルーファウスは黙々と疑問を並べていく。別に双方それである種の満足はあるわけだから問題はない。

しかしそんなふうに幾日か過ぎていくと、さすがにその高級レストランでの休憩というのは「当然のこと」のような感覚になっていき、それが無い日は何かが足りないような気分になってしまう。例えばそれは、料理が無いだけでもオカシイ気がするし、会話の内容が別のものに変化してもオカシイ気になってしまう。

レノがそれを初めて感じたのは、高級レストランでの休憩がほぼ日課になった頃の話だった。

その頃にはもうルーファウスもタークスの動きというものをほぼ理解できるようになっており、実際の指揮はとらないとはいえそこそこ仕事の話としても繋げられるようになっていた。レノが退屈そうに語ってきたタークスのタイムスケジュールも把握しているし、今後の予定などをうっかり話してしまったら、どうやらそれも覚えているようである。

それらの話を再度されるのはレノにとって退屈に変わりなかったが、しかしそれでも教える者と教えられる者という関係から、お互いに話し合う関係にまでなれたことは少々レノを楽にさせた。とにかく面倒じゃないのが楽で良い。

しかしそんなレノの退屈を吹き飛ばすような会話が、ある日ルーファウスの口から齎される。

確かにタークスの話はタークスの話なのだが、それはどう考えても特殊だった。

だってそれは、特定の個人の話だったから。

「ツォンは随分とデキるな」

唐突にそう言われた時、レノは思わず口にしていたアイスコーヒーを吹き出しそうになったものである。それでも何とか未遂で抑えると、ゴホゴホと咳き込みながらルーファウスに問う。

「は?何でいきなりツォンさん?まあデキる事は否定しないけど」

悔しいけれど、さすがに主任だけあって仕事はデキる。だから否定はできない。

そんなふうに言ったレノに、ルーファウスは何故か満足そうに笑みを浮かべる。

「やっぱりレノもそう思うか?いやな、この前SPについてもらったんだが良い腕前だったから他にも色々と頼んでいるんだ」

「頼んでる?ツォンさんに?」

プレジデント直属のタークスに仕事を依頼しているなんて一体どういうことだろうか。もし実権がルーファウスに移ったというならまだしも、そんな話は一切聞いていない。

そうレノが疑問に思っていると、それを察したかのようにルーファウスがこう言った。

「個人的に頼んでるんだ。ボランティアみたいなものだな」

「ボランティア?ってことはサービス任務ってことかな、っと」

「まあ、そんなものだ。ツォンも快諾してくれたし」

「へえー…」

―――――――――――何だよ、それは。

何だか、ムッとする。

何故だかはよく分からない。

ツォンに対しては尊敬に近い気持ちがあるし、この目前の上司とて別に嫌いという訳ではない。少々理解不能で退屈だというだけで別に嫌いではないのだ。

しかし何だろうか、この胸のムカムカとした感じは?

「そりゃ強い味方が出来て良かったな…っと」

レノは料理の一切から手を引くと、椅子の背にべっとりと背中をくっつけて、目前のルーファウスを直視した。その先にいるルーファウスは相変わらず何か満足そうに笑んでいる。かつて初めて此処で休憩をした日に見せた焦りの表情やら威厳を保ったような表情はどこへやら、まったくその色を見せない。

――――――――何だか、気に喰わない。

そう思うレノに、笑んだままのルーファウスがこんな言葉をかけた。それは、当初はレノこそ望んでいたことに近いものだったのに何故だか今はズシンと重みを持って響く言葉で、レノにより一層「気にくわない」と思わせるものだった。

「今迄付き合ってもらって悪かったな、レノ」

「……」

それは、日課にさえなっていた高級レストランでの休憩にピリオドを打つ言葉。

散々情報を引き出しておいて、もう必要はないからと切り捨てる言葉。

その言葉を聞いたその日、最後の話題は―――――――ツォンだった。

それが何故だか、気に喰わない。

それが何故だか、許せない。

「…はいはい、了解」

しかしそれでもレノはそんなふうに軽い言葉で返答すると、余裕があるかのような笑みを見せた。まるでそんなことは夢にも思っていないかのような表情で。

 

 

  

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