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人を好きになるってことは、一体どういう事なんだろう?

 

 

 

単純且つ明快――――――そう終われれば良かったものの、単純且つ明快なフリをしているソレというのは、意外と答えが難しい。

そんなことを考えるようになったキッカケといえば、それはルーファウスの直球ストレートな一言だった。

「私はお前が好きだぞ」

そんな一言は、いつも自由気ままに過ごしていたレノに大きな打撃を与えたものである。

本来、「好き」と言われれば「ありがとう」と、それだけの話だ。

しかし何故だかこの時レノはそういうふうに終われなくて、だからこそそんな単純且つ明快なフリをしているそいつに延々と悩むハメになったのである。

ルーファウスは自分に「好きだぞ」と言った。

その時は「そりゃどうも」と返したわけだが、どうもその後がしっくりこない。

何故ってルーファウスはそう言った後にそれは勿論、色々と行動を起したからである。それは別にイヤらしい事ではなく、単に色々話したり、どこかに食事に行ったり出かけたり…多分普通の友人と変わらないことである。しかしルーファウスが副社長である事実を考えるとその友人レベルの付き合いだって相当の躍進といって過言じゃない。

となるとこれはやはり、ルーファウスからみれば「それなりのこと」になっているのであろう。

がしかし、レノとしてはこのルーファウスの行動が少し疑問だった。

故に、悩んでいる。

人を好きになると言う事は、一体どういう事か――――――そういう事に。

 

 

 

「今度はどこに行こうか?」

嬉々としてそう聞いてきたルーファウスにレノは、少々うんざりしながらも「え」などと声を上げた。

場所はレノのデスクの隣。

現在この部屋には二人のみ。

そんな状況だから話は開けっぴろげに行われるわけだが、これは別に聞かれても問題があるようなものじゃない。単に、何でそんなに仲が良いんだと疑問に思われる程度だろう。

しかしその話題がレノにとって少々難だったのは、そのルーファウスの提案…つまり「今度は何処に行くか」というその内容が、レノにとって予想外の展開だったからである。

確かに何度か出かけたりはした。

が、何故に「今度」が普通になっているのだろうか。

このルーファウスの口ぶりだと、どこかに出かける事は当然とでもいった調子で、それはレノにとっては少々疑問だったのである。

だから、ついつい表情にそれが出てしまう。そもそも嘘というのはそんなに得意じゃない。

「何だ、つまらなそうな顔して。行きたいところ、無いのか?」

「いや、っていうか…」

それよりもむしろ、行きたい、と思ってるわけじゃないんだけど。

そう言いたかったがそれを敢えて止めたレノは、うーん、と悩むふうに声を唸らせる。

ルーファウスはそんなレノの心中など知らぬようで、あそこはどうだ、とか、あそこなんかも良いぞ、とか色々提案をしている。レノにとっては実に始末が悪い。

しかしそう思うならいっそのこと、本当のところを言ってしまえばいいのである。別に一緒に出かけたいなんて思ってないんだと、そういえば良いのだ。

しかしこれを言えないというこの心情もまた、レノにとっては悩みの一つだったのは言うまでもない。

「な、ストップ。ちょっと質問」

ちょっと考えたレノは、隣で色々提案しているルーファウスに待ったをかけるように、唐突にそんな言葉を切り出した。

ソレに対してルーファウスは、不思議そうな顔で「何だ?」なんて聞いてくる。それはいかにも、何を言われるか想像できないといった具合で、言い換えれば、悪い予想など微塵もないといった感じだ。

「あのさ、前から聞きたかったんだけど。俺のどこがそんなに好きなのかな、っと」

「え?」

やはりそれは予想外以上の予想外だったらしく、ルーファウスはいかにも不思議そうにそんなふうに声を上げる。レノとしては全くもって困った状態だ。

「あー…いや。ホラ、あるだろ。ここが好き、とか、こういう仕草が好き、とかさ。何かそういうの、気になるし」

「そうか?でも…別に好きなのに理由なんて無い」

「は?何も…無いのかな、っと…?」

「ああ、無い」

キッパリそう言い放ったルーファウスは、それより、などと言葉を継いでまたもや提案の続きをし始める。どうやらルーファウスの中ではそんなものは大した問題ではないらしい。

そんなルーファウスの隣でレノはやはり、うーん、と唸るしかなかった。

―――――――――そもそも。

そもそもの問題は、目前で「今度」の予定を嬉々として口にしているルーファウスではなくて―――――自分がどうしたいか、だ。

 

 

 

人と付き合ったこと?

――――そんなの、今迄だって腐るほど経験済。

でも、そうじゃない。

そういうことじゃなくて、その今迄の腐るほどの経験だって良く良く考えれば何を求めてたのか…そういう、事。

 

 

 

「なあ、人を好きになるって、どういうコトなんだろ?」

部屋の中で、唐突に響いたのはそんなレノの一言だった。

丁度任務が終わって帰り支度などをしていた時のことだったので、その部屋の中にいたツォンとルードは一瞬その言葉に時を止めたようになってしまったものである。

何しろ、この時間帯にはいかにも相応しくない話題だ。

「…どうした、レノ。今日は何か悪いものでも食べたのか」

時が戻ったらしいツォンが、上着を羽織ながらそんなことを口にする。どうやらツォンは、唐突に切り出されたその話題にかなりの疑問を持ったらしい。

帰り支度を進めていたルードとツォンの隣で未だに椅子に腰を下ろしていたレノは、デスクで片肘などを付きながら「そうじゃなくて」と反論する。

「俺としたことが何か良く分からなくなってきたんだぞ、っと。好きってのは一体何なんだろ」

「レノ…―――――医者を紹介しようか?」

「…あのな、ツォンさん。俺はこれでも真面目に言ってんだけどな」

むっとしてそう言ったレノにツォンは、少し笑って謝りの言葉を入れた。それからツォンはルードをチラと見遣ってから、もう既に帰り支度も済んでいるというのに再度椅子に腰などをかける。どうやらレノの悩みらしき言葉に乗ることを決めたらしい。

それは、ツォンからの目線を受けたルードも同じことだった。

結局三人共が元のように椅子に腰をかける状態になると、そこからレノの発信した言葉に関する話が始まる。

人を好きになることとは、一体どういうことか―――それについての。

「…で?何故そんなことを急に疑問視するんだ」

そう言ったツォンに、レノは少し考えてこう言う。まさかルーファウスの名前をズバリ出す訳にはいかないから。

「いや、何かまあ…ちょっと困ったことになってて。…例えば自分を好きだって言ってくれる奴がいたとして、俺はソイツが嫌いなわけじゃないけど、何ていうか…何だかんだと一緒にいるのはどうかなとか…まあ、そんな事を思うんだな」

「要するに、束縛されたくないという事か」

「いや、何かそれとも違う気がするぞ、っと。それ以前の問題っていうか…」

じゃあ一体どういう事だ、そう今度はルードに言われて、レノは更に訳が分からなくなった。悩んでいる事は確かなのに、一体それをどう説明すれば良いのかも良くわからない。というよりむしろ、どこが悩みどころなのかいまいちハッキリしていないのかもしれないが。

――――――束縛されたくない、確かにそれには一理ある。

ツォンの言ったその言葉を思い返しながらレノはそんなことを思った。

しかし束縛というのとはちょっと違う気がする。何しろルーファウスは、別に「ああしろ」「こうしろ」だとか「アレは駄目」「これはするな」だとかは言ってこない。電話をしろというわけでもないし、一緒にいてくれないと嫌だなどと言われた覚えもない。

ということは、それは束縛とは違うのだと思う。

ただルーファウスが当然のように「今度」を期待してそれを求めるのが、引っかかる。

しかしどうだろうか。

レノは別にルーファウスが嫌いな訳ではないし、むしろ好きな方だと思う。特別それを口に出しはしなかったけれど、それでも本心ではそんな感じだ。

が、もし好きだというのなら、そうしたルーファウスの提案や態度は嬉しいものに属するはずなのに、何故だかそれが気になるのだ。

それに――――曖昧すぎる、この関係は。

「何ていうのかな、こーいうの。こう…何ていうか…例えば恋人だとしても、ボーダーってあるだろ」

「ボーダー?」

レノが悩みに悩んだ末に放った言葉は、ツォンとルードの首を傾げさせる。

そのボーダーというのは、親しき仲にも礼儀ありという言葉に少し似ているボーダーで、要するにこういうことだった。

「つまり、踏み込んじゃいけない領域」

そのレノの結論を聞いて、隣にいた二人は少し納得をした様子だったが、それは完璧な納得というわけにはいかなかったらしい。それだからツォンなどはすぐさま、でも、などという言葉を繋げてくる。

「お前は、好きな人と一緒にいることが踏み込んではいけない領域なのか?」

「いや、そうじゃなくて」

「そうじゃない、って…お前、今そう言ったじゃないか」

「そうなんだけど、そうじゃないっていうか」

「はあ??」

まるで話が進展しない。

それはそうだろう、レノ自身が何を言いたいのかさっぱり分かっていない状態で話をしているのだから、それを聞いているツォンやルードにもそれは伝わるはずがない。

それはレノにとって、非常にもどかしい状態だった。

何か心に引っかかっているものがあるのに、それは言葉にして説明できない。しかし多分それは、整理がついていないということなのだろうとも思う。だからまずは自分が思っていることを分かりやすい言葉に変換して口に出そうと思うのだが、先ほどのボーダーという言葉もそうだったように、いざそこを付かれると「違う」という事になってしまう。

それはまるで要領が悪くて。

「あー駄目だ。もう訳わかんないって」

あまりにも面倒すぎる。

そう思ってギブアップを口にするレノに、二人の方が「どういう意味だ」とか「それでいいのか」とか前向きな言葉を発する始末だ。まあ二人にしてみれば、尻切れトンボの言葉を聞いて続きが気になるというのもあるのだろうが。

しかしそんな言葉をかけられてもレノは、自分から話題を振ったくせに、もう良いだとかそんな言葉を口にする。

だからその場は暫し、沈黙になってしまった。

どうせ話が進展しないのだから帰り支度も済んでいることだし帰るのが当然だろうと思われるツォンとルードだったが、二人は何故かそれを選択せずにその場に留まっている。どうやらこんな調子のレノを残して帰るのは気が引けるらしい。

そうして暫く続いた沈黙だが、それはあるツォンの一言によって、ようやく断ち切られた。

それは、こんな言葉で。

 

 

 

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