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俺がいなきゃ ----------------------------------------
俺が、いなきゃ。 アンタのその背は寂しすぎるから、だから、俺がいなきゃ。 ――――――――ずっと、そう思ってた。
「ザックス、アレを取ってくれ」 「はいよ」 セフィロスのワケのわからないジェスチャーに、ザックスが難なくある物体を手にする。そうしてそれを渡すとセフィロスは、それが当然かのように無言でそれを受け取った。 その一瞬のやりとりを端で見ていたクラウドは、ぽかんと口を開けて、言葉を失っている。 それは当然だろう。 何故ってクラウドには、セフィロスが言った「アレ」が何であるかなんてさっぱり検討も付かなかったのだから。 「あの…二人とも」 暫しの驚きから解けたクラウドは、やっとこさそう口にする。 それを受けた二人は、正に同時に「何だ?」と口にし、クラウドを振り返った。 「二人って…何でそんなに息がぴったりなの?」 そのクラウドの疑問は尤もである。けれど当の本人達には“尤もな疑問”ではなかったらしく、これまた同時に首を傾げたりした。 「は?」 「あ?」 これまた同時に上げられた声に、クラウドが閉口したのは言うまでもないことだった。
息がぴったり、そうクラウドの中で位置づけられた二人だったが、そうなったのにはやはり理由が存在している。まさか一朝一夕でそんな上手い具合に息など合うはずもない。 特にセフィロスなんかは人と合わせるなんていうことは死んでもしないタイプだから、それはどちらかというとザックスが合わせてそうなったというふうに考えても良いだろう。 しかしザックスとて、元々セフィロスと近しい資質の持ち主ではない。 だから、ザックスとセフィロスの息がぴったり合っているその裏には、過去、ザックスが並々ならぬ努力をしたという事実が隠されていたのである。 しかしそれは、ザックスの中では秘密に近いことだった。 だから例えクラウドに何かを問われようともそれは口にしない。 その努力を誰かに告げるなんて、ザックスには到底できないことだった。 だって、それは―――――――――。 「先日、あの一般兵は何か妙なことを言っていたな」 ふとそう話しかけられて、ザックスは「あ?」とセフィロスを振り返った。 ミッション明け、午後九時。セフィロスの自室である。 セフィロス自身が滅多に他人を寄せ付けないせいもあって、この自室という場所には限られた人間しか入ることができない。それは神羅幹部の幾人かと、それからザックス。たったそれだけの人間しか入ることの許されていないその空間は、あのクラウドでさえ未だに入ったことのない空間である。 その空間にザックスが難なく入れるようになったのは、いつのことだったろうか。 今ではもう遠い昔のことのように思われるが、とにかくそれはザックスの中ではとても重要な事実だった。 今でさえ、多分、重要で。 「確か…俺とお前の息がぴったりだとか何とか、そう言っていただろう」 「ああ。そうだな」 セフィロスはその話題を振りながらもしきりに首を傾げている。 どうやら先日クラウドが放ったその言葉は、今でもまだセフィロスにとっては謎であるらしい。まあそれも分からないでもないな、そう思いながらザックスはその人を見ていた。 実のところ二人は、先日クラウドにその言葉を投げられた時分、同じリアクションをしながらも全く違うことを考えていたのである。 だから、そういう意味では「息がぴったり」というのは違うのかもしれない。 セフィロスは今でも同じであるように、そのクラウドの言葉の意味自体が謎だったらしいが、しかしザックスの方は少し違っていた。 ザックスは思っていたのだ。 何で息がぴったりか?――――――それは愚問だろう、と。 だからザックスが「あ?」と言いながら首を傾げたのは、何でそんなことをわざわざ聞くんだ、という意味合いのものであった。 「息がぴったり、か…。俺達はそんなに息が合っているか?」 セフィロスはくどいくらいに首を傾げると、ザックスにそんなふうに聞く。 「さあな。まあクラウドがそう思うんだから、そうなんじゃないか?」 「そうか…それは知らなかった」 そんな事を言いながらセフィロスは、手にしたカップの中から黒いままの珈琲をすする。それを見ていたザックスは、セフィロスに悟られないくらいに小さな苦笑いを見せると、心とは裏腹に「俺も」などと口にする。 けれど実際、それはザックスの努力に他ならなかった。 「しかし、思えばお前とは随分長く共にいるような気がする。何なのだろうな、この感覚は?確かお前と出会ってから、それほど時間は経っていないはずだが」 「ああ…まあ」 嘘つけ、ザックスは心の中でそうなじる。 セフィロスにとっては“それほど経っていない時間”でも、ザックスにとってそれは、とても長い時間だった。実際その年月を数えれば多分、5年くらいは経っているだろうと思う。それを長いと感じるか短いと感じるかは人それぞれだが、少なくともザックスにとってそれらの時間は「長い」に属するものである。 長いに決まってる――――――――何しろ、そう…この部屋に難なく入れるようになるまで、どれほどの努力をしてきたと思ってるんだ。 セフィロスはそのザックスの努力など微塵も気づかなかっただろうが、ザックスにとってそれは、一日一日積み上げなければならない正に大偉業といえるものだった。 セフィロスに話しかける。 ―――――最初は答えもくれなかった。 それでもセフィロスに話しかける。 ―――――その内何とか反応が返るようになった。 まだまだ話しかける。 ―――――やっとのことでセフィロスが笑うようになった。 話題が尽きても捻り出して話しかける。 ―――――とうとうセフィロスは自分の言葉を口にするようになった。 そうして段階を踏んでやっと、セフィロスは人並の付き合いを許してくれたのである。しかしそれはまだ序の口で、そこから先が大変だった。 何せセフィロスは、そういうふうに話し合うようになっても尚、ザックスの名前すら呼ばなかったのだから。 だからザックスは、事ある毎に自分の名前を口にした。提出書類をわざわざセフィロスの前で書いてみせたことだってある。 それでもまだ名前を覚えてもくれなくて「お前」だとか「おい」だとかで呼ばれていたものだから、ザックスはとうとうセフィロスにこう言ったくらいだ。 俺には名前があるんだからな。ザックスっていう立派な名前がさ、―――――と。 そうしてやっとそのことに気づいたらしいセフィロスは、そこにきてようやくザックスの事をザックスと呼ぶようになった。正に長い道のりである。 しかしそれでもセフィロスの心の中に踏み込むことはできなかった。 セフィロスはただでさえ人を寄せ付けない威圧感を有していたし、そういう威圧感はセフィロスの心に膜を貼ったみたいに最後の壁を突きつけてくる。 その分厚い壁を何とか破ったからこそザックスは今この場所にいるわけだが、その壁を崩せたことは本当に頑張ったとしか言い様が無いことだった。 それでも…それでも今も尚、ザックスは努力を続けている。 その努力とは、クラウドやその他の人にさえ「何故息がぴったり合うのか」その理由を言わない事への答えでもあった。 言えるわけがない。 多分、一生言えないんだろうと思う。 クラウドにはおろか、目前の――――――――セフィロスにさえ。 「ザックス」 ふとそう呼ばれて、ザックスは我に返った。我に返って、「何だよ?」と慌てて切り返す。 セフィロスはそのザックスの慌てぶりに何も思っていないようで、淡々と話を始めた。 「話は代わるが、今度、あるミッションを一任したい」 「え?」 突然何かと思えば、今度は仕事の話である。 「その日、俺は用があってな。だからお前に頼みたい。大丈夫だ、他にもソルジャーを付けるし、必要とあらば一般をつけても良い」 「お…いおい!まだ俺、うんとも何とも言ってないって」 「いや、お前にしか頼めない」 「そりゃあ…そうかもしんないけど、さ」 セフィロスはすっかりザックスにある任務を任せるつもりで話を進めているが、ザックスはといえばそんなミッションは受けたくないというのが本音だった。 此処最近のミッションといえば大体セフィロスと同行していたザックスだったし、そう言うミッションの大体の責任者はセフィロスの方だった。 勿論そのミッションを受けたくないというのは、責任が嫌だとかそういう安易な理由ではない。そうではなくて、此処最近では当然だったミッションの形が変わることや、そうしてセフィロスが事もなげにそれを自分に任せようとしているのが何だか妙に嫌だったのである。 「それでミッションの内容だが…」 「ちょっと!待てって!」 「何だ?」 訝しげにそう聞いてくるセフィロスに、ザックスはグッと顔を引き締めて視線を投げつけると、 「俺。そのミッション、受けないぜ」 そう断言した。 まさかそう返ってくるなどと思ってもみなかったセフィロスは、その回答に相当驚いたような表情を見せた。その表情は語っている。何故、どうして、とそんなふうに。 今迄ザックスはセフィロスとの壁を埋める為に相当な努力をしてきたわけだが、それは大体セフィロスに対して肯定的な態度を取ることと一緒だった。つまり、セフィロスの思い通りにならないようなことは、未だかつて一度も無かったのである。ザックスはそういうふうにセフィロスとの関係を築き上げてきたし、それこそが「息がぴったり合う」為に必要なことだった。 しかしそれは今この瞬間には、どうしても選択できなかったのである。 折角今迄セフィロスとの関係の為に、努力に努力を重ねて肯定的な自分を打ち出してきたのに、もしかしたら此処でそれは駄目になってしまうかもしれない。 そういう懸念はあったが―――――――――それでも。 それでも、そのミッションには行きたくなかった。 「何故だ?どうしてそんな事を言うんだ、ザックス。お前らしくない」 セフィロスは表情に表われていたそれをそのまま口にするように、そんな言葉を漏らす。しかしその言葉がまたザックスの心を逆撫でした。 ザックスはセフィロスの言葉を受けて暫し押し黙ったが、数秒立った後、こう口にする。それはゆっくりとした調子だったが、しかし声音はあまりにも厳しいものだった。 「―――――――“俺らしくない”って…どういう意味だよ?」 こんな事を言って、どうこうなるものではないと分かっている。 分かっているのにそうせずにはいられなかった。 お前らしくない、そう言うセフィロスの目に自分はどういうふうに映っているのだろう。 そう思うとあまりにも悔しくて、思わずそう言わずにはいられなかったのである。 多分セフィロスの目に映っている自分は、さもセフィロスを理解しているかのような人間なのだろう。それは分かっている。何しろこの数年間ザックスはそういうふうに自分をセフィロスに合わせていたし、そういうふうに自分を見せてきたのだから。 はっきり言えばセフィロスがそんな言葉を漏らすのは当然だったろうと思う。 それでも、本音を分かってくれていないそんなセフィロスが、ザックスには何だかもどかしかった。 分かって欲しい。気づいて欲しい。 何事にもYESを答えるのは本音ではなく、好意であるということに。 そして、何故そんなふうにYESしか答えずにこの数年をやってきたかということに。 「俺は…セフィロスが思ってるような、そんな人間じゃねえよ…」 ――――――――気づいて、欲しい。 だけど。
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